普天間基地は即時閉鎖 県内移設反対

強制代執行を許さない――

住民自治と団体自治の実現に向けて

辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議事務局長 福元 勇司

 沖縄は、戦後79年間ずっと、基地の過重負担を担わされてきました。国土面積のわずか0・6%の沖縄県に70%を超える米軍専用施設が今も存在します。
 1972年に本土復帰し沖縄県となり日本国憲法が適用されてからもなお、他都道府県と異なり、現在も基地の過重負担から解放されず、平時においても基地に起因する事件・事故に悩まされています。それは、日米安保体制に偏重して成り立ってきた戦後の日本の安全保障体制の不条理の現れでもあり、日本の安全が沖縄の犠牲の上に成り立ってきたことを表しています。


 沖縄県民は、辺野古新基地に反対する思いを何度も示してきました。しかし、辺野古新基地建設を巡る沖縄県と国との裁判では、民意も地方自治も尊重されていません。沖縄では、基本的人権の保障も地方自治も平和主義も、超法規的に憲法の適用外に今でも置かれ続けているとしか言えません。
 95年の米兵による少女暴行事件に端を発し、宜野湾市の市街地の中心に位置する米軍普天間基地が世界一危険だからと、その危険性除去のために、名護市辺野古の海を埋めて県内に移設することを日米の政府同士が決めましたが、これは名護市民の合意でもなく県民の合意でもありません。
 まずは、そこに住む当事者の意見を聞くこと、丁寧な対話を重ねることこそが優先されるべき民主社会のルールではないでしょうか。
 憲法が保障する自己決定権をないがしろに、政府が沖縄の歴史観に基づく民意や地方自治を抑えて、沖縄の自然や文化、価値観を壊す権利が許されるわけがありません。

県民負託の知事権限を
奪うことは許されない

 沖縄防衛局(国)の埋立変更承認申請を知事に承認せよとの判決を求めて、昨年10月5日に国交大臣(国)が「代執行訴訟」を提起しました。そして、12月20日福岡高裁那覇支部が、沖縄県に承認するよう命じました。
 判決を受け玉城デニー知事は、「憲法が定める地方自治の本旨や民主主義の理念、さらに沖縄県民の苦難の歴史とその民意を踏まえれば、沖縄県の処分権限を奪い、その自主性・自立性を侵害する国の代執行は、多くの沖縄県民の負託を受けた知事として到底容認できるものではない」と最高裁に上告しました。
 全国で初めての知事権限を奪う代執行命令です。裁判所には地方自治を保障するために3つの厳格な要件を満たすことが求められています。しかし、結論ありきの判決でした。
 第1に高裁は、県が出した「不承認」を違法だとしなければなりませんが、その根拠を昨年9月の最高裁判決に求め、「県の敗訴が確定したので、県は法令に違反している」と断じました。
 その最高裁判決は、「沖縄県の不承認を、沖縄防衛局(国)が取消しを求めて国交大臣(国)が裁決で取消した。よって、国交大臣(国)が是正の指示をしたのは適法である」と形式的に適用し、「県は法令違反」としたものです。県の「不承認」や国交大臣の「裁決」、「是正の指示」が、その判断の基となる公有水面埋立法に照らして正しいか否かの実体審理をしたものではありません。最高裁は自らの役割(実体審理)を放棄し、国の機関同士で行われた不公正なやり方で導かれた結果を追認しました。
 第2の要件として高裁は、国の是正の指示を受け入れない県に対して、代執行の他に手立てはないとしました。県は対話による解決を求めてきましたが、高裁は対話による解決を否定する判決を出しました。しかしその後の付言では、沖縄の「歴史的経緯などを背景とした本件埋立事業に対する沖縄県民の心情も十分理解できる」、「国と沖縄県とが相互理解に向けて対話を重ねることを通じて抜本的解決の図られることが強く望まれている」と真逆のことを述べています。
 県と国が対立している今こそ対話が必要であると、沖縄の歴史や民意を反映した見識ある判決を出すべきが裁判所の役目ではないでしょうか。

真の公益は危険性除去・普天間基地即時閉鎖

 第3に、「不承認で新基地建設が進まないと米軍普天間基地の危険性除去が遅れ、公益を害する」と、県の「不承認」は著しく公益を害するとしました。
 しかし、国の試算でも完成まで最短で今後12年かかるとされています。これまで28年間、普天間基地周辺に住む住民の危険性は放置されてきました。
 普天間基地の危険性除去が喫緊の公益と言うのであれば、普天間基地の即時閉鎖を米軍と交渉することが国の責務だと、裁判所が進言すべきではないでしょうか。
 辺野古新基地を巡る県と国との裁判は係争中も含めて14件です。県民は、県民投票や知事選挙など辺野古新基地建設を争点とする民主的な手続きで埋め立て反対の民意を示し続けてきました。また、抗議行動や土砂の搬出・搬入が続く現場での座り込みなどで抗議の声を上げ続けています。辺野古側の埋め立てがほぼ完了したとされていますが、土砂投入の割合は全体の16%弱です。
 12月28日、軟弱地盤のある大浦湾側の設計変更の承認を国交大臣が知事に代わって行いました。代執行という国家権力によって、県民が選んだ知事の権限が奪われ、民意が踏みにじられ、地方自治の本旨がないがしろにされました。
 代執行後の国は、工事着工前に県と事前協議を行うとした留意事項もほごにして、着工予定日も県民を出し抜き、2日前の今年1月10日から、大浦湾側への石材投入を始めました。
 これは沖縄県にとどまらず、今後すべての都道府県で起こり得る大問題であり、2000年の地方分権改革で示された国と地方の「対等・協力」の関係は壊れました。

「いのちの地域思想」を貫く

 しかし、代執行が実施され工事が進んでも、私たち県民が諦めずそれぞれの立場で知恵を出し合っていくことが、健全な社会につながっていくと思います。
 最後に、行政法研究者の徳田博人さんらによる著作『辺野古裁判と沖縄の誇りある自治』の「おわりに」から一部を紹介します。
 沖縄には「命どぅ宝」、「沖縄を再び戦場にしない」、「軍隊は住民を守らない」といった「いのちの地域思想」があり、地域や自治の基盤になっている。その思想の背景には、沖縄戦や米軍施政下の沖縄の歴史がある。人々は、民主主義を武器に連帯して、軍政権力から住民のいのちや生活を守るための住民による自治権(「主席公選」など)を獲得してきた。この経験や精神は、辺野古の闘いにも受け継がれている。
 本土復帰の際に作成された「復帰措置に関する建議書」(1971年11月)には、何よりも、県民の福祉(いのち)を優先すること、地域住民に根差した地方自治の確立と、反戦平和の理念を貫き、基本的人権を保障し、県民本位の経済開発を目指すことが宣言されている。そして、これらを実現することが、健全な国家を作り出す原動力になる、と言い切っている。
 いのちの地域思想を基盤として、住民の、住民による、住民のための自治を実践すること、これを「誇りある自治」と呼びたい―と述べています。
 全国の皆さん、住民の意思に基づく民主的な住民自治と団体自らの意思と責任で行われる団体自治の実現は、憲法が求める「政府による戦争を止めること」にもつながるでしょう。共に頑張っていきましょう。

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