ミサイル基地ではなく民間外交で平和を模索する
石垣市議会議員 花谷史郎さん
台湾有事を想定した自衛隊ミサイル基地建設が進む石垣島で、農業を営み基地建設に反対し平和な島を守る先頭に立っている石垣市議会議員・花谷史郎さんに話を聞いた。(見出しとも文責編集部)
軍事施設はリスクでしかない
今のロシア、ウクライナの情勢は台湾有事の構図と似ているところがあると感じています。
今回のウクライナへの侵攻についてロシアは批判されるべきですが、そうせざるをえないような状況にあったことも確かだと思います。
台湾有事においても同様な状況になることを危惧しています。
僕の認識では、中国にはできるだけ軍事力を行使しないで優位性をとるという戦略があると思っています。古くから言われている「危うきに近寄らず」で、戦争しないで勝つということですね。
一帯一路を見ていても軍事力ではなくて闘わずして、今の中国の経済力を生かして優位性をとっていくというやり方が主です。中国は本来、台湾に対してもそういうやり方をしたいでしょう。ただ軍事的対応をせざるをえないような状況を第三者につくられてしまうことで台湾有事は起こりうるだろうと考えています。
台湾や中国に近い石垣島や宮古島をはじめとする私たち南西諸島の住民は、そのような状況にならないようアメリカや中国、そして日本政府を注視する必要があります。
また、違う点としては、ロシアと中国の歴史、国としての考え方などがあると思います。同じ独裁国家のように言われることもありますが、国家体制や経済規模も違う。おそらく中国に対しての経済制裁というのはロシア以上にやりにくいかもしれません。世界の生産基地になっているので、日本とか一帯一路を含めて経済的につながりがある国はやりにくい状況だろうと思います。
日本政府にはウクライナの現状や構図を踏まえ、台湾有事と同じところ、違うところを見極めた上での平和的外交を求めていきたいと思います。
いずれにしても中国は積極的に侵攻していくというのはないと思いながらも、そうせざるをえない状況をつくられるのをどうにか防がないといけないと思っています。
ウクライナのニュースを見て、多くの石垣市民は自衛隊などの軍事力の配備は必要という考え方に傾いたような印象を、正直受けています。今のニュースを見ていると市民の認識が基地容認に傾く部分もあるかと思いますが、冷静に現状を認識し、これまでの歴史と照らし合わせることでリスクの大きさを実感することができると思います。
ウクライナでは先制攻撃で軍事施設が最初に攻撃されて、その後に市街地戦になっています。万が一攻められたとしても軍事施設がなければ島が戦地になることは考えにくい。軍事施設というのは日本の国を守るという意味ではメリットがあるかもしれないですが、軍事施設がある地域にとってはリスクでしかない。
尖閣へ行った市長に抗議
中山義隆市長が2月初めに尖閣諸島の「調査」に行きました。この予算1100万円は昨年12月議会で通っているんです。ただしこの名目は「潮流と海洋漂着ゴミの調査」とされ、議会では大した議論もなく通してしまいました。その調査がまさか尖閣が対象だとは考えもしないわけです。それを東海大の山田吉彦教授は、あえて秘密裏にやったということを公言しています。5年くらい前からかなり綿密に計画されていたようです。
これが事実であれば、中山市長は日本の民主主義のルールというものを無視し、議会に黙ったまま尖閣に行くことに予算を使ったということになってしまいます。これは非常にまずいと思っています。また、本当に漂着ゴミの調査に行くのであれば研究者が行けばいいだけの話で、市長も含めた市議会議員複数名が行ったことは中国への挑発、政治的な主張と取られかねません。
これに対しては野党の議員が抗議文を出しましたが、僕のSNSには抗議文に対して多くの非難するコメントがつきました。「尖閣は国際法上日本の領海、領土でありなおかつ石垣市の行政区域だから首長が行くのは何も問題がないはずなのに、なぜ抗議するんだ」という理屈なんですよ。
この出来事もウクライナの話とすごく似ているなと感じました。確かに国際法上尖閣は日本の領土で市長が行くことも問題ないというのは、その通りかもしれません。しかし、外交問題においては「どちらが正しいか」ということより重要な場面もあると思います。ウクライナがNATOに加盟するのは自由でしょう。でも、加盟に向かうという判断の結果、国民の命が失われてしまっています。
ロシアの侵攻は間違いなく過ちです。しかし結果として自国民が死んでいるし、そのきっかけをつくったのはウクライナ自身にもあるといえます。
それを考えると、尖閣は日本の領土であるから市長が行っても問題ないという判断の結果、石垣市民の命が失われることがあってはなりません。他国が悪いで済まされる話ではありません。
自治体の首長としては石垣市民の命や財産をいかに守るかを念頭において行動すべきです。
最も重要な政治の役割とか行政の役割というのが見えなくなってしまっている気がします。
僕が思うのは今の日本人、とくにナショナリズムを語る方たちは自分のアイデンティティーというのが、あまりにも日本という国に固執しすぎているようにも感じます。アイデンティティーというのは最小単位の自分個人であったり、家族や地域だったりという人もいる。僕だったら最も強いのは石垣島、他にも沖縄県民、日本人、アジア人。いろんな考え方があると思うんですが、そこがなぜか日本人というアイデンティティーがいちばん強くなってしまっている。自分のアイデンティティーが日本という国にあるのか、石垣島や地域なのかで優先する順番が違ってきますよね。
地方議員というのは最も強いアイデンティティーを自らの自治体に持っていなくてはいけないと思っています。
市長選、市民が求めるものは何だったのか
2月末の市長選では現職が当選しました。市長選の取り組みに関してはいろいろ課題がありました。いずれにしても僕らは3期12年間の長期政権の弊害や、彼の失政というものを訴えつつ闘ったんですが、それでも彼は票を伸ばしました。
そこは相手の強さを認めながら、僕らのやってきたことを反省しないといけないなということだと思います。
ここから先は新しい選挙戦略などもそうですが、何より平和的なことが必要だろうなと思っています。近隣諸国に対しても、例えば中国という国は確かに完璧な国ではないとは思います。しかしそれは日本をはじめとする世界の多くの国に言えることでもあります。そのなかでそれぞれの国が、それぞれのやり方でいい方向に向かおうとしていると思うんですよ。これまで先進国といわれてきた欧米等の考え方とギャップがあるだけで、中国なりの考え方で動いているのだと思います。
他国の考え方、文化の違いを理解し、そこに共通点や妥協点を見いだす。当たり前の話なんですけれども、その当たり前の前提が忘れられたり、視野が狭くなったりしてはいないでしょうか。
これと同じで、現職の市長がめざそうとしている世界やそこに共鳴して投票された市民の方々は何がいいと思って彼に投票したのか。それを僕らが理解して批判だけではなくて、彼のいいところを認めながら理解し、次の戦略を立てる。議会と行政は両輪という言い方もされますけど、そこで4年間与野党一緒に取り組み、みんなが求めるところ、現職に希望を見いだしたところを理解することで、次の選挙の結果に近づくんじゃないかなと思います。
大きなダメージ受ける一次産業
石垣島の第一次産業は大部分が畜産業です。石垣牛というブランド牛があって、他に大きいところではサトウキビ、そしてパイナップル、マンゴー等の果樹、野菜などが続きます。僕はハウスで野菜を作っています。於茂登岳という沖縄県で一番高い山とバンナ岳との山間が、僕が住んでいる地域です。僕はバンナ岳側の斜面に畑をもっていまして、その場所から見える於茂登岳側の斜面には、ちょうど正面に自衛隊基地があります。
僕が東京農大を出て石垣に戻ってきて13年たつんですが、当時は大量にゴーヤを作っていて、東京の市場などに出していました。東京から見学に来たバイヤーの方たちがいつも言うのは「壮大な於茂登岳の麓から農村風景が広がっていて、のどかでいかにも南国の農村。ここで育ったというだけでブランド価値がありますね」ということでした。地域の風景自体がそのままブランドになりえるという、すごくうれしい言葉でした。
この風景に今は自衛隊基地があります。基地が完成するとさらにヘリコプターとかオスプレイの騒音が風景の中に入り込んでくることを考えると、この基地はやはり農業にとってもダメージです。僕たちがブランドだと思っていたものを破壊してしまったのかなという気がしています。近くに住んでいる方は工事音で体調が優れないという話をされたりしています。ほんとに静かな農村というのが、基地が完成する前からすでに壊されてしまっているということを感じます。
石垣島は沖縄の中で数少ない基地がないと言える場所だった。その数少ない場所がまた一つなくなってしまうのかとも思いますし、一次産業にとっても大きなダメージを与えるのではないかとも思います。
地方外交でアジアの結びつきを強める
欧州でEUがつくられた経緯として、EU経済圏をつくることで安定した平和をつくるという狙いがあったということを何かで見ました。アジア圏でも同様な取り組みを実現できないのでしょうか。
中国をはじめとするアジアの国々と人的な交流、経済的な結びつきを石垣、もしくは沖縄が人の交流と経済の交流、物流を確保することで、そのあたりのリスクというのは回避の方向に向かうんじゃないかなと思っています。
『日本の進路』1月号にも書かれていた泉川友樹さんたちがやられている、県議会に日中国交正常化50周年に際して政府へ外交成果の尊重を求める意見書採択を要請するというのは、沖縄と中国との経済的な関係を考えても、平和活動の一環としてもすごく意味があることだろうと思います。
政治的な中国嫌いとか、個人的な感情というものをすぐに変えることは難しいと思うんですが、そこは経済を先行させることで、いやが上にも交流が深まる。結局、戦争というのは利益の追求の先にあるものだと思うので、戦争と比べたときにそれ以上に失うものが大きい状況をつくってしまう。僕の立場からでは、いきなり国というレベルでは難しいかもしれませんが、自治体というレベルから、「中国と事を構えるとお互いにマイナスになるよね」という状況を、地方外交と民間外交でつくっていく。その中でお互いの理解が深まっていくのではないでしょうか。基地ができてしまう以上、そこを強く考えていきたいなと思っています。