労働組合として関心を払い、雇用維持へ発信強める
JAM北関東書記長 小嶋 正弘 さんに聞く
心配な海外でのロックダウンの影響
実は9月からトヨタが大減産をするという話があったので、「これは大変なことになるぞ」と思って、8月下旬くらいから構成組合にいろいろと状況の確認を進めてきました。ところが、ちょっと肩透かしと言っては変ですけども、9月にカーメーカーが操業を停止した関係での一時帰休は意外に少なかったんですよ。
もちろん、一部には操業停止をモロに受け、あるところでは9日間の一時帰休というところもありました。しかし、それ以外のところはほとんど影響がないという情報でした。
なぜだろうと調べたところ、実は受注する側にバックオーダー(納品できていない受注残)を抱えている会社が結構ありました。結局、われわれサプライヤーの中でも、半導体を直接組み込むような製品を扱っている会社の方が9月にモロに影響を受けだしました。半導体を使わない金属関係の加工をしているところについては、今までのバックオーダーを解消するようなタイミングだったのです。
メーカーの一時帰休の影響は、金属加工のところについては起きなかったというのが実態でした。今10月以降の状況を調べているんですが、一時帰休の影響が徐々に出てきています。バックオーダーもそんなにたくさんあるわけではありませんし、いよいよ中小のところに一時帰休の話がチラホラ出てきています。具体的にはこれから10月の生産動向の提案が会社から出てくるのではということで、構成組合の担当者(オルガナイザー)がいろいろと情報を集めている最中です。現在、数社の中小のところで、10月2~3日、カーメーカーの減産に伴う一時帰休に入らざるを得ないというような情報が入ってきています。
結論から言うと、現段階ではカーメーカーであれだけ大減産を行っていますが、まだわれわれ中小のところには直接影響は出てきていないというのが実態です。
ただこの後は、かなり心配せざるを得ない状況が予想されるというのが現状です。
今回のこの自動車関係の工場停止というのは半導体の供給不足という要因もありますが、タイなどの国におけるロックダウンで、特にカーメーカーの労組役員からいろいろと話を聞くと、例えばワイヤーハーネスという半導体以外の部品も工場が動いてない関係で入ってこないと聞いています。こうして半導体以外の部品も入ってこない影響が出始めていることを心配しているところです。
マスコミではどうしても半導体が中心的に論じられていますけども、実は半導体以外でもコロナによるロックダウンの影響が大きく出始めています。タイでは10月も「緊急事態宣言」が全土に発せられると報じられていました。ということは11月も国内企業の多くの工場が止まるということだと思いますので、年内いっぱい、かなり厳しくなるのではと心配しています。
あとはそれに関連して、構成組合では雇用調整助成金制度が延長されていますので、企業側からするとまだ安心している状態ですかね。会社側が費用関係で全てマイナスに転じるということではなく、雇用調整助成金の申請をしながら、何とかしのげているというのが実態ですね。
地域との関係でいけば、そこで働く人の収入が減れば地域の経済活動も下火になってくるのは当然なので、いろいろと心配な面があります。今の雇用調整助成金などが機能している間は、何とか食いつなげているというのが実態でしょうか。
企業の存続に関わるカーボンニュートラル
そして、今回のコロナによるロックダウンの影響も深刻ですが、何といってもカーボンニュートラルの関係が今後の大きな課題になるのではと思っています。
トヨタの社長が経営の立場から、EV化だけでなく、水素内燃機関の関係についても積極的に議論を展開したり対応したりしていかないといけない、それがないと日本の自動車産業の雇用が確保できないというようなことを社会や政府に強く発信しています。まさにそういう状況だと思います。
JAM北関東では現在約190組合ありますが、約6割が自動車関係の部品に多かれ少なかれ携わっています。なかにはもう100%近く自動車関連部品しか製造していないところもあります。
内燃機関関係の部品を製造しているところは、これから次のビジネスをどういうふうにしていくかってことについて、かなり検討を進めているようです。過去、今回のようなカーボンニュートラルは全く別の次元で多角経営について検討して、そのときに失敗した案件などもあり、もう一度見直したりするところもあります。もちろん時代が変わっていますからその当時と今とは環境もいろいろ変化しているので、全く同じではありませんが、前回何が悪くてその多角経営に失敗したのかとかいうことが中小でも少し議論され始めているようです。
繰り返しになりますけども、コロナの影響が長期化することもさることながら、どちらかというとものづくりの関係から見ると、今後のカーボンニュートラルの進展によって既存の事業縮小に伴う企業の存続という面が課題としては大きいと感じているところです。
部品企業と地域経済に多大な影響が
ただ、まだ差し迫って何か起きるっていう感じではなくて、会社の方も、動きを静観しているという感じです。組合として積極的に労使会議なども開いてそうした課題を表に出していきながら議論しなければいけないと思っていますが、力不足もあって、現実にはまだ少し様子見という感じです。
実際にそれが自分たちの企業にどういう影響を及ぼすかというところまでは、まだ計り知れないというのが正直なところです。
また、ホンダの栃木県にあるエンジン工場と取引しているところはJAM北関東の中でもそれほど多くありません(ホンダは栃木県にある四輪車のエンジン部品工場を2025年に閉鎖すると発表)。ですので、まだ実感がわいていないというのが正直なところです。
ただ、地域経済にとって今後大きな課題になることは間違いありません。
ですから、先ほどお話ししたように数は少ないものの例えばホンダのエンジン関係の部品を作っているところについては、どこに仕事を求めていくかということや、カーボンニュートラルへの対応とも関係しますが、自動車以外の製品に何か活路を見いださなければならないという課題があるのは間違いありません。経営側、そしてわれわれも心配しているところです。
JAMは本当に中小労組が多いので、経営に対して影響を与えられる組合は少ない現状です。ですからどちらかというと、産別の立場からの発信が必要だと思っています。具体的なものはこれからになると思うのですが、内燃機関などの製造が縮小していく中で、経営側に対して、今後についてどう考えているかということを労使会議などを通じて、われわれから経営側の方に投げかける、そして今後どうしていくかということを各社の労使で話し合いを進めていくという流れになると思っています。
今はコロナ禍ですので、通常行っている労使会議なんかも開催できていません。北関東では労使会議を県単位で開催してきましたが、ほとんどが現在休止状態です。具体的にテーマを持ち寄りながら、どのように課題を解決したり、消化したりするかということがなかなかできていません。ようやくコロナもやや落ち着いてきたので、早速この仕組みを再開しなければいけないと思っているところです。
それぞれの企業の強み・弱みというのがあって、その強みをどう生かしていくのかということや、企業のものづくりでこれまでと違う分野に手を出すと、大体失敗している事例が多いんですよ。
やはり、これまでのものづくりの得意なところを生かした産業へシフトすることがいいと思っています。
これまで中小は自社の得意な品物をその地域の中心的な存在であるような大きな企業に売り込んだりするということができましたが、今はどちらかというとその中小の企業が商社を通じて部品販売を展開していくというやり方に変わってきています。自社が次の取引先を探す手立てがインターネットなどでいろいろ調べることができるからだと思うのですが、中間に商社を入れて事業を展開するやり方を選択しつつある傾向が中小企業でも多くなっている感じがします。
アジアに広がるサプライチェーン
サプライチェーンはアジアに広がっていますが、今問題になっていることは二通りあると思います。一つは、先ほどお話ししましたように、半導体そのものを使って部品を作って、カーメーカーに納めているところ、これは半導体そのものが入ってこないことによって完全にラインが止まりました。
一方で半導体を使わないんだけれども、カーメーカーのラインが止まって、その関係で納品がストップされ、工場の操業が止まる、この二通りのパターンです。
半導体自体をタイなど東南アジアで作っていて、その工場がロックダウンで止まって、それで日本に入ってこないとしたら、半導体自体が組み込めなくて、ラインが止まるっていうのが半導体のケースです。理由は同じですが、半導体でない部品も先ほどお話ししたように、タイなどで作っている部品が、ロックダウンで出社できない状況で工場が止まり、そこから部品の納入がなくて、メーカーのラインが止まる。
あとは今言われているコンテナ不足で部品が入ってこないケースも心配しています。半導体など軽いものはおそらく飛行機で輸送しても経営上問題ないと思いますが、中国などで製造している重い部品となるとコンテナ不足で日本向けに十分に確保して納めるということがなかなかうまく回らなくなるという心配の声も聞こえています。
少し話は変わるかもしれませんが、特にJAMが関係するサプライヤーの特徴というのは、部品メーカーでいえば一社だけとの取引というのはごく少数です。例えばトヨタであれば、トヨタ系列のデンソー、アイシンなど直系の部品会社がトヨタに部品を作っていますが、JAMを構成する組合の企業というのは、一社だけでなく例えば、ホンダにも、スバルにも納めるということで多角的に取引しないと十分な仕事を確保できないことにその特徴があります。
一社だけに頼っていると当然、その一社の販売が芳しくなければ、サプライヤーとしても経営が厳しくなってしまいます。だから、何社とも取引していることで、ある程度平均的に一定の売り上げ、利益を確保することができるわけです。これはメリットとして考えられる部分です。
デメリットの面をいえば、例えばトヨタ一社のみとの取引の場合は、そのトヨタが休みにすれば、それに合わせて休むことができます。ところが何社とも取引していると、トヨタは休むけれどもホンダやスバルは操業しているとなると、工場は止められませんから、非常に効率が悪いわけです。
(次号に続く)