対抗軸を明確に 安倍政権打倒の国民的戦線の発展を

参議院議員選挙の結果について

『日本の進路』編集部

 第25回参院選が終わり、闘いの秋を迎える。安倍政権は難問山積である。財界・大企業のための対米従属政治はいっそう国を危うくし、国民大多数にさらなる苦難を押し付けて乗り切ろうとする。
 まずは参院選で安倍政権を追い詰めるため奮闘されたすべての皆さんにエールを送りたい。結果には悲喜こもごもでしょうが、選挙戦の中で安倍政治に対する有権者の激しい不満と怒りを実感されたことだけは確かであろう。その不満と怒りに直接に依拠することだけが前進の手掛かりである。
 安倍首相は参院選結果について、「国民からの力強い信任を得た。憲法改正も大きな争点となり、少なくとも議論は行うべき、これが国民の審判」と強弁している。「与党勝利」はまるでウソではないが、安倍政権とマスコミによってつくられた評価でもある。
 選挙戦の経過と結果もできるだけ深く分析・検討し、展望を描く必要がある。これは安倍政権打倒のために共通の課題である。国民運動の構築が軸になるべきで、総選挙に備えるというだけの「野党連携」論では展望は開けない。

獲得議席数ですらさまざまな評価が可能

 自民党57議席、公明党14議席で、連立与党は改選過半数63を上回る71議席を獲得した。非改選を合わせて自公与党は参院定数245の過半数(123)を上回る141議席。
 だが自民党は、改選66議席から9減らして単独過半数を失い、参院で過半数を上回るには公明党の議席が必要となった。自民党の「敗北」である。自民党「公明派」と揶揄されるほど一体化が進んでおり、多くを期待するのは幻想だがそれでも安倍政権は何かと縛られることになる。
 自民党の内部矛盾激化も避けられない。広島選挙区など自民党同士の激しい選挙戦となったところなど修復は容易でなく、統一地方選に続いて保守分裂・自民分裂に拍車がかかる。
 「改憲勢力」である日本維新の会は10議席を得た。
 だが、「改憲勢力」は非改選と合わせ国会発議に必要な参院の3分の2(164議席)を失った。改憲を「使命」とする安倍首相にとっては大敗北であろう。
 だからか、「結果できわめて重要なのは、改憲勢力が発議に必要な3分の2を割ったこと」との評価もある。改憲策動がさらに難しくなったのは間違いなく、最大かどうかは別にして全体の奮闘の結果として評価したい。だが、それだけに改憲のためのさまざまな画策もすでに強まっている。これまで以上に警戒が必要である。
 野党では、立憲民主党は17議席で大幅増となったが予想されたほどではなかった。国民民主党は6議席で改選8議席を下回った。共産党も1議席減らして7議席だった。
 社民党は比例で1議席を得て吉田忠智前党首が復帰を果たし、得票率も2%を超え公職選挙法上の政党要件を維持した。
 「れいわ新選組」が期待を集め2議席獲得した。
 その他、「NHKから国民を守る党」が1議席。
 全国32の1人区が野党統一候補と自民候補との一騎打ちとなり与野党攻防の焦点となった。野党が10勝で前回の11勝には及ばなかったが、沖縄をはじめイージス・アショア問題の秋田など、青森、福島を除く東北4県と信越の2県、それに滋賀、愛媛、大分で無所属候補が自民党に打ち勝った。さらなる前進のための重要な手がかりとなる経験である。

有権者の投票行動に見る結果

 有権者の政党支持の動向、すなわち与野党各党の得票数(比例区)で見ると獲得議席数での政党の消長、力関係と異なった状況が浮き彫りになる。
 自民党は、前回2011万票だったが今回は1771万票で実に約240万票、約12%も支持を減らした。それでも獲得議席数は前回と変わらなかった。絶対得票率(全有権者に占める投票者数)はわずか16・7%であり、有権者100人中自民党支持者は17人弱しかいない。これで「安倍一強」とは!
 選挙制度、議会政治がいかに民意を反映しなくなっているか。  公明党は653万票で、前回の757万票から103万票も減らした。得票数が600万票台となるのは1992年以来27年ぶりである。それでもここは獲得議席を増やした。
 議席で前進した日本維新の会だが490万票、おおさか維新の会だった前回515万票より25万票弱減らした。それでも獲得議席は4から5に増えた。
 共産党は、前回参院選で610
万票だったが今回は448万票にとどまり153万票減、目標の850万票には遠く及ばず、獲得議席も1つ減らした。どこから見ても後退である。
 立憲民主党は791万票、国民民主党は348万票で、両党合計は1139万票あり、民進党として戦った2016年参院選の1175万票に迫った(なお、16年総選挙で立民は1108万票だったので300万票余減)。得票率合計は民進党時の前回20・98%から22・76%に上昇。
 れいわは、228万票で2議席、NHKから国民を守る党は98万票で1議席。社民党は104万票で前回比49万票減だが1議席を守った。
 自公与党は議席数の変動よりも有権者の支持を大きく減らし、趨勢的な勢力後退である。そこには有権者、国民各層の自民党政治への不満の高まり、批判が出ている。有権者の支持率で見る各党の力関係と議席数で見る議会内力関係とでは大きな差がある。議席数の変化は有権者の意識変化をほとんど正確に反映していない。議席変化は一時的で、有権者の動向こそ決定的に重要である。

低投票率が教える野党の問題点

 有権者の意識状況は集中的に低投票率に表れていた。投票率は過去2番目に低く48・80%、棄権者は実に5422万人にもなる。前回からの3年間でも350万近くの有権者が自公与党から離れたのである。だがその票は、野党の中に投票先を見つけきれず棄権に回らざるを得なかった。共産党や社民党からの票はれいわに流れたか。
 「日経新聞」は7月23日、「投票率最低」について読みようでは面白い記事を掲載した。
 投票率は21県で過去最低となった。最低を更新したのは中部や中国、九州に多い。全体の投票率が50%を割り込むのは1995年以来だが、当時が関東など都市部を中心に下がったのに比べ、今回は地方で低投票率が目立つ。95年の低投票率は、自民党と社会党が連立政権を組んだことや新党が相次いで発足したり消滅したりなどで、無党派層の政治不信が高まったことが理由とされた。
 今回は地方の人口減少という構造的な問題が絡んでいるとみられる(前回と比べ、投票所が858カ所減った。隣県と1つの選挙区になる合区は投票率低下に拍車をかける要因に)。それに特殊要因で投票日の21日、九州の幅広い地域で大雨に見舞われ、一部で避難指示も出たなど。
 地方で投票率が比較的高かった県は東北に多かった。全国で最も高い山形県は60・74%と全国で唯一の60%台だった。自民党の現職と野党統一候補が接戦を繰り広げ、選挙自体への関心が高まったとみられる。接戦区が多かった東北では、6県中、青森を除く5県で全国平均を上回った――といった趣旨だった。
 選挙は、自分の足で投票所に行く「有権者側」と、投票してくれと頼む「政党・候補者側」と、この両側面の相互関係の全体である。しかし「日経新聞」は環境としての外部要因しか見なかった。
 実際は、記事が図らずも語っているように、95年(の都市部)は「無党派層の政治不信の高まり」で投票率ダウンであり、今回(の山形県など東北の多く)は「自民党現職と野党統一候補の接戦」による有権者の関心の高まりで投票率アップ。要するに、投票率が上がるも下がるも有権者に働きかける政党・候補者の側の要因が主であり、局面変化を生み出す力は働きかける側、候補者や政党にある。
 野党は1人区で、いずれも「農村地帯を抱える地方」(「日本農業新聞」)で自民党に打ち勝った。この結果は、今後の政治情勢への影響では与野党それぞれの獲得議席数以上に重要な意味を持つであろう。問題は、野党の共通政策に、農林漁業や中小商工業者の課題など「地方」の切実な要求が弱かったこと。野党はこの地方の期待に十分に応えられなかった。

米中対立など対米従属の日本が直面する難問山積

 選挙中も後も国際情勢は急速に動きわが国の対応を迫っている。
 アメリカはホルムズ海峡の「有志連合軍」を提起し日本などに参加を迫り、対応が待ったなしとなった。アメリカの対中国圧力は貿易問題にとどまらず、香港情勢を利用し台湾「独立」の勢力を激励し、さらにウイグル族問題などにも広げられて、台湾海峡と南シナ海では軍事緊張を激化させている。安倍政権は中国包囲網形成に軍事面も含めて前のめりである。これに対して中ロ両国は軍事的連携も強めて日米に対抗を示し、ロシア軍機は竹島付近を威圧した。米中対立の狭間で、アメリカに縛られたわが国安全保障環境は劇的に厳しくなっている。
 トランプ大統領はわが国に農畜産物輸入や自動車問題でもいっそうの譲歩を迫っている。
 安倍政権は、北方領土での対ロ外交も進まず、「無条件の」などといった日朝関係打開も進まず、イラン外交では赤っ恥をかいた。「力強い外交で国益を守る」と選挙戦をにらんで突如7月1日、「韓国への輸出規制」を打ち出した。一方的な措置は両国関係にさらに困難を持ち込んだ。わが国経済への打撃は大きいし、国民感情を悪化させるだけで打開の展望はない。
 こうした選挙戦さなかの18日、経団連の夏季フォーラムが開かれた。そこで財界トップたちは⽶中貿易摩擦や中東情勢、日韓関係などの緊張の高まりに懸念を表明。とくに⾃国第一主義を掲げるトランプ米政権と独⾃の「国家資本主義」を進める中国との間で日本の立ち位置が難しい、「複数のマーケットを相手にしていると選択を迫られることがある」「中国の消費は今後も伸びるため市場としては欠かせない」などと嘆いたという。日本が大きく立ち遅れた技術革新=第4次産業革命への対処も含めて大企業、財界、支配層の中にも危機感が渦巻いている。支配勢力が動揺し乱れているわけで、本来、政権と闘うチャンスである。
 だが、対米従属の国のありよう、日本の進路が選挙戦で問われることはなかった。
 安倍政権は「強い日本」を掲げてごまかした。野党の側も日米同盟強化論の枠を出ることはなかった。辺野古問題を「共通政策」に掲げた野党各党だったが、米軍基地問題を全国で真剣に争うこともなかった。
 真に自主・平和の国の進路、対抗軸が問われている。沖縄の基地問題も、これからが正念場である。
 世界経済は下降傾向が顕著となって輸出に急ブレーキがかかり、金融危機の爆発もいつかといった状況である。そうした中での消費税増税強行である。政府は追加経済対策を準備しているが、金融政策は縛られ財政赤字も限界の中で乗り切るのは容易でない。
 何よりも負担を強いられる国民大多数にとっては文字通り限界である。山本太郎氏のれいわが掲げた「消費税廃止」の主張が拍手喝采を浴びたのは当然である。敗北の野党各党は真剣に考えるべきである。総選挙に備えると浮足立って対抗軸抜きの2大政党的体制を夢想しても仕方があるまい。
 安倍政権が「与党勝利」と強弁してもわが国の直面した諸難問には何の変化もない。むしろますます深刻さが増している。
 選挙戦の経験も生かして、安倍政権打倒の国民運動構築を進める時である。