「ヘイトスピーチを許さない」かわさき市民ネットワーク事務局 三浦知人
国民連合・神奈川の第19回総会で、「ヘイトスピーチを許さない」かわさき市民ネットワーク事務局の三浦知人さんが闘争報告をされた。地域から民族差別と闘い、国会で「ヘイトスピーチ解消法」を成立させ、現在は川崎市での条例づくりに取り組んでいる。
報告要旨にその後の動きなどを加筆してもらった。【編集部】
民族差別をなくすという地域活動に関わる立場から報告します。川崎市南部の桜本地区を中心として、在日2世の人たちが40数年前から差別に向き合いながら、共に生きる地域社会を築いていこうという地域活動・市民運動で活動をしてきました。
関東の中でも在日コリアンの集住率が高い桜本を中心とした街に、2015年11月に突然ヘイトデモが襲撃してきました。それに対する闘いが、私たちがヘイトスピーチと向き合う始まりでした。
「二度と戦争はごめんだ」との地域デモ
2015年夏、安保法制で国会に多くの人たちが抗議に駆けつける、そういう社会状況でした。その時期、国会の画像を示しながら、在日1世のおばあちゃんたちに、「今、国会ではこういうことを行っているんだよ。社会はこういうことになっているんだよ」と、ちょっと話したのです。そしたら、本当におとなしいおばあちゃんが画像を見ながら絞り出すような声で、「もう戦争だけは二度としないでほしい」と私たちに訴えました。差別と戦争の時代を生きた在日高齢者と共に平和の課題を考えていかなくっちゃと気づかされ、小さな勉強会をしました。在日1世の人たちは、「私を国会に連れて行け」と、大変な盛り上がりをみせました。そうはいっても足も腰も痛い、いつもそんなことを言っているのに国会は無理だよと。
「国会に行けないなら、私たちの地域で戦争反対のデモをしようじゃないか」と、トントンと決まって15年の9月、桜本の商店街でわずか300メートルのデモが彼女らの呼びかけで行われました。地域の人たちがエプロン姿で駆けつけてくれたり、いつもは国会に通う若い人たちが「面白そうだ」と参加してくれたりして、在日1世の人たちがはりきって民族衣装を着て先頭に立って、本当にすてきな手作り戦争反対のデモをすることができました。私たちとしては本当に涙が出るほどうれしい出来事です。
朝鮮人が「平和」を叫んだだけで攻撃の対象に
そのデモのことが伝わると「ここは日本だ。イヤなら出て行け」というヘイトスピーチの攻撃の的になります。こういうきっかけだった。日本人が地域社会の中で平和が一番と言ったって、そんなことは大した話題にはならない。朝鮮人が地域社会の中で平和を叫んだら、なんで「出て行け」と言われなければならないのか。これが、私たちのヘイトスピーチへの最初の怒りです。
それが路上に出てくるのが11月のヘイトデモの、僕らの街に対する攻撃ということになります。
彼らの論理としては、在日のおばあちゃんたちが通ったデモの通りを日本人が浄化してやる、川崎を浄化するというふうに告知をして「川崎浄化デモ」として、11月に突然やってきました。3日前に私の携帯に「来るかもしれない」とかかってきて、「何を! ふざけんじゃねえ」という話で、多くの人たちとそれを止める作業をしました。実際に私たちの街には入れさせなかったんです。彼らも悔しかったのか、今度は1月の末にやろうということで、そこから私たちがオール川崎のネットワークを結び、ヘイトスピーチと向き合うことになります。
地域からヘイトスピーチの根絶をめざそうと、今までその闘いの最前線にいた人たちと、私たちが民族差別をなくす活動の中で培ってきたネットワークをつなげながら、「地域社会の中で民族差別をなくすという地域での活動が扇のカナメの役割をして、当事者の思いが接着剤となって、オール川崎でこのヘイトスピーチに向き合わなければならない」という考え方を提示して、ネットワークが設立されました。結成してまだ1年チョットくらいですけれども、当事者の発信力は高いです。
ヘイトスピーチについては表現の自由だとか、いろんなことが国会でも議論されていました。そこに、当事者は「私はこんなふうに心が殺された。私を一体だれが救ってくれるのか」と迫っていきました。この発信はやはり、一定の良識ある人たちの心を大きく動かし国会を動かして、私たちの会を結成して半年もたたないうちに不十分ながら国会で「ヘイトスピーチ解消法」を成立させるという具体的な契機になっていきました。そこまでは非常にスピーディーにきただろうと思っています。
とはいえ、その過程の中でやはり白昼堂々「朝鮮人殺せ。死ね」を大の大人がするというのは、在日社会の中で本当に大きな人権被害がもたらされ、今も癒やされていないことをキチンと報告しなければいけない。韓国・朝鮮の人たちは日本の社会と離れて生きているわけではない。100年に及ぶ地域社会での生活を積み重ねながら生きている。今や自分の子や孫の多くが日本人との結婚によって日本国籍を持っている。こんなことが実態として当たり前の状態になっている。地域社会の中で今まで一生懸命溶け込んで生きてきたのに、今さらなんで帰れというのか、どこへ帰れというのか。そんな思いを強くしました。
「私はもう死んでいく身だからいいけれど、子や孫が生きていく日本の社会が『殺せ、死ね』の社会になっていく。私とのつながりがあるこの日本籍の孫は、私が韓国人であるがゆえに、将来つらい思いをするんじゃないか」。こんな不安を訴えるおばあちゃんたちです。
川崎市は去る11月9日、条例に先立ち、公園や市民館などの公的施設でのヘイトスピーチを行わせないための利用制限を行うガイドラインを策定し、公表しました。全国に先駆けての制度的規制として、新聞紙上で紹介されました。公的施設でヘイトスピーチが行われる恐れがあると認められる場合は、警告、条件付き許可、不許可、許可の取り消しができるというものです。国のヘイトスピーチ解消法の成立後、1年半をかけて、やっとここまできたというのが正直な感想です。私たちは、川崎市はヘイトによる人権被害からコリアン市民を守ろうという気持ちがあるのかを問うてきましたから、施策として打ち出したことには、大きな喜びを感じます。
しかし一方で、路上でのヘイトデモは根絶されていません。インターネット上のヘイトスピーチも、目を覆いたくなるものばかりで、青少年への影響は計り知れません。
川崎から全国の範となるようなヘイトスピーチを禁止する条例を制定して、「殺せ、死ね」と言って平気で人を傷つけたら、その人が断罪されるという当たり前の社会を築いていかなければならないと思っています。