今こそ対話――日中関係〝再〟構築をめざして
第10回日中時事交流フォーラム(広範な国民連合と中国華語シンクタンクの共催)が4月12日、オンラインで開催された。高市首相による「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」との発言を契機に極度に悪化した日中関係を踏まえ、「対話によって関係再構築をめざす」をテーマにした。100人余が参加し、司会は上海在住の中原萌さんが務めた。前半では沖縄県の高良沙哉参議院議員、福井県立大学名誉教授の凌星光氏、中国国際問題研究院の項昊宇氏がそれぞれ問題提起を行い、後半では参加者も交えた意見交換が行われた。
「日本政府は誤った『台湾有事』発言を明確に撤回すべき」(沖縄県の高良沙哉参議院議員)
高良氏は、高市首相の「台湾有事=存立危機事態」発言は極めて重大で、本来なら辞任に値すると指摘。しかし政府はその後も「状況を注視する」といった曖昧な姿勢に終始し、問題を引き起こした側としての積極的な外交努力が見られないと批判した。
その結果、日中関係は急速に悪化し、観光・ビジネス往来の停滞、研究者交流の中断、中国による水産物やレアアースなど軍民両用品の輸出規制、また中国人観光客の減少など、具体的な悪影響が広がっていると述べた。
高良議員は、これは日本社会に根深い問題があるためだと指摘した。日本は戦後「戦争責任」を語ってきたが、植民地主義の責任については十分に向き合ってこなかった。その結果、日本は中国と真に対等な関係を築けず、政府の対中姿勢を社会が批判的に検証する力も弱いままだという。
また、日本社会は現代中国の政治姿勢を正しく理解しておらず、「中国は好戦的」「何をするか分からない」といった偏見が広がっていると指摘。一方で中国側は、日本の平和憲法を高く評価し、日本が軍拡しない限り信頼できるという立場を持っていることを紹介した。
昨年末に訪中した際に中国社会科学院の研究者らと交流した経験にも触れ、中国は武力強化ではなく、2035年までに「社会主義現代化の基本的実現」に向けて経済発展を優先している。国際法は順守する立場を保ち、核政策も抑制的などと受け止めたと紹介。また、「台湾は中国の一部であり、中国人は中国人を攻撃しない」、外部勢力が台湾独立を煽らない限り武力行使はないという説明を受けたと述べた。これは日本のメディアなどが作る「台湾を守るべき」という旧宗主国的発想とは大きく異なると指摘。
さらに、中国社会は高市発言に怒ってはいるが、日本国民そのものを憎んではいないと強調。国交正常化以来の長年の民間交流により、今の中国人は日本国民を冷静に見ていると説明した。一方で、日本社会は急速に変化発展する中国を正しく理解できていない。もっと努力して現代中国を知る必要があると発言を結んだ。
「中国は覇権国家ではない。台湾統一はアジアの安全保障環境に好影響」(福井県立大学名誉教授の凌星光氏)
凌氏はまず、覇権主義という概念を国際政治史の流れの中で整理した。
覇権とは、軍事力の優位性を背景に政治・経済・技術・文化など多領域で強圧的な態度を取ること。近代以降、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、そしてアメリカが順に覇権を握り、冷戦期には米ソが二大覇権として世界を二分、ソ連崩壊後は米国の一極支配が続いてきたと説明した。その上で、中国は軍事的行動がすべて防御的であったことから、この覇権国家の系譜には属さないと強調した。
争点となっている台湾について、歴史的には原住民と福建省からの移民によって社会形成された中国の一部であり、国際文書の観点から見ても、ヤルタ協定やポツダム宣言、日本の降伏文書、1971年の国連決議などで明確に示されていると説明した。
次に戦後の歴史について述べた。冷戦期には国共双方が「外部勢力による二国化」に反対していた。改革開放後、中国の対台政策は「武力解放」から「平和統一」へと転換し、1992年の「九二コンセンサス」を経て、両岸関係は安定的に発展した。しかし21世紀に入ってからは米日が対中敵視政策へ転換し、台湾に対して「曖昧政策」を取りながら実質的に独立勢力を支援したことで台湾政治を複雑化させた。民進党が3期連続で政権を維持する構造の中で、最近の鄭麗文国民党主席の訪中は、台湾の内部政治や両岸関係、米中関係に重要な影響を与える出来事だと凌氏は説明した。
凌氏は、台湾社会には平和を望む世論が存在し、これが選挙結果を動かし、平和統一につながる可能性があると述べた。ただし、米日が台湾問題に過度に介入する場合、武力攻撃ではなく、包囲などの非攻撃的圧力による「強制統一」の可能性も排除できないとした。
米中の力の差は大きく縮まり、米国が中国を軍事力で抑え込むことは不可能になったと指摘。台湾問題が平和的に解決されれば、沖縄の軍事的役割の変化や日本の自主外交の可能性及び東アジアの安全保障環境の再編などが進むと述べ、これらの重要性を強調した。
「四つの政治文書から見た高市発言の問題点」(中国国際問題研究院の項昊宇氏)
項氏は、戦後の日中関係の歩みを振り返りつつ、両国関係の基礎を成す四つの政治文書の重要性を強調し、この重要な政治文書に照らして高市発言はどこが問題だったかを分析した。
1972年《日中共同声明》 中国側は四つの政治文書を一体として重視しており、とりわけ72年声明の台湾関連部分を核心とみなしている。声明には、台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部であり、日本政府はこの立場を理解し尊重すると明記されている。さらに、この声明には《ポツダム宣言》第8条の立場を堅持すると記しており、これは《カイロ宣言》(台湾返還)を受け継ぐことを意味する。したがって中国は、日本政府が実質的に「台湾は中国の一部」であることを認めているにもかかわらず、高市発言は内政不干渉原則に反すると判断している。
78年《日中平和友好条約》 これは四文書の中で唯一、条約として法的拘束力を持つ文書である。この条約は「相互主権と領土保全の尊重、相互不侵攻、内政不干渉、平等互恵、平和共存の五原則に基づき、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させる」としており、高市首相の発言は条約違反だとはっきりしている。
98年《日中共同宣言》 江沢民国家主席と小渕恵三首相が署名した宣言では、台湾問題についても、日本は72年声明の立場を「引き続き遵守する」と明記されている。中国側は、高市発言はこの宣言の精神にも反するとみている。
2008年《日中関係包括的推進に関する共同声明》 胡錦濤国家主席と福田康夫首相が発表したこの声明には、日中は互いに協力パートナーであり、互いに脅威とならない。双方の平和的発展を支持すると明記されている。しかし日本政府は近年中国を「最大の戦略的挑戦」と位置づけたため、中国はこれがこの声明の精神に反すると考えている。
さらに項氏は、関係悪化の背景にあるより大きな構造的要因として、「日中の国力逆転による心理的衝撃」「日米同盟の強化と日本の西南諸島の軍事要塞化」「民間レベルの認知ギャップ」の3点を指摘した。
最後に、関係改善のために必要な条件を挙げた。日本側が四つの政治文書の精神に立ち返り、高市首相の「台湾有事=存立危機事態」発言について説明・修正を行うこと。そして共通認識を再確認し、対話の前提を整えること。これらを通じて、日中関係を平和と協力の正常な軌道に戻すことができると結んだ。
戦争反対の声を民間から
後半の意見交流では、まず青山学院大学名誉教授で広範な国民連合代表世話人の羽場久美子氏が発言した。日本では近年歴史教育が歪められ、多くの人が侵略戦争の歴史を学ぶ機会がないまま、政府やマスコミによる根拠のない「中国脅威」論に影響されていると批判。一方で、4月8日には全国160余カ所で若者や女性が中心となって約5万人が反戦・反改憲のデモを行ったなど、戦争反対の気持ちは今も高いことも指摘した。
華語シンクタンクの張可喜研究員は、日本は明治維新以降、富国強兵で侵略と戦争に突き進み、最終的に1945年に壊滅的敗北を迎えた一方で、戦後は平和憲法の下で経済優先路線で高度経済成長を実現し、世界第2位の経済大国となったと振り返った。この経験は、「戦争と拡張は破滅を招き、平和こそ発展と繁栄をもたらす」という歴史の教訓を示していると指摘。「しかし今、日本社会にはこの教訓を忘れ、再び軍備拡張へ向かう動きがある」と警告した。
中国の大学生からは、日本の若者が保守政治家やメディアの影響で中国への偏見を強めている現状を踏まえ、日本の平和市民や平和運動団体は、どのような具体的行動を取って社会の空気を変え、中日交流を促進できるのかという質問が寄せられた。
これに対して、横浜国立大学名誉教授の山本泰生氏は、高市首相の昨年11月の発言をきっかけに行動を始め、3月1日に鎌倉市で小規模集会を開催したところ、50人が参加したと紹介。政府が強硬姿勢を崩さない中、民間が声を上げることが重要だと述べた。今後も5月17日に横浜で集会を予定しており、「一夜で世論は変わらないが、各地で継続的に発信すれば社会は変わり得る」と呼びかけた。
西安外語大学講師の陳圭旭氏は、日本外務省が最近の『外交青書』で中日関係を「最重要な二国間関係の一つ」から「重要な隣国」へと表現を変更したことに驚きを示した。
最後に沖縄の伊波洋一参議院議員が発言した。高市首相が中東への自衛隊派遣を検討した際、政府内から強い反対があり、最終的に憲法9条を理由に断念した。このことからも見られるように高市政権の政策運営については内閣内部でも意見が一致していないと指摘した。また沖縄からみると、対米依存の日米安保基軸で軍事優先の取り組みがずっと行われており、全国的にも戦争準備が進んでいると指摘。米国は日本の自衛隊に役割を負わせようとしており、今のままの日本では、沖縄は戦場になると警告を鳴らした。
時間の都合で発言できなかった参加者からもチャット欄で多くの意見が寄せられた。そこでは、――
「アメリカの中の日本ではなく、アジアの中の日本だという認識が大事」
「日本政府の中国敵視の背景には、漁夫の利を得ようとするアメリカの戦略がある」
「日本は対中貿易依存度も非常に高く、平和共存こそ大事という世論が必要」
「政府間対立の今こそ民間交流が重要」
「日本社会に根強く存在する戦争反対・平和憲法支持の声に着目すべき」
「南京大虐殺や731部隊など侵略戦争の事実を日本の共通認識となるよう推し進めていく」
――などが強調されていた。
最後に司会者が、こうした民間の平和・互信の取り組みをさらに広げ、多くの人に呼びかけ運動を広げることで、中日関係をより良い方向へ導けると結んで閉会した。
