日本は対米自立を遂げ「アジアの一員」として生きるチャンスだ
『日本の進路』編集長 山本 正治
1、はじめに
米国は無謀なイラン戦争で敗退した。いまだ戦争終結に紆余曲折はあろうが趨勢は変わらない。しかも、「終結」を仲介したのはパキスタンであり、背後で支援したのはトランプもお礼を言うように中国だった。いわゆる「主要先進国」は出る幕がなかった。これが世界の現実である。
それを織り込み済みだった5月の米中首脳会談では中国の対米優位が目立ったとの評価が世界の大方だ。象徴的なのはフランスでの6月のG7サミット・「主要先進国」首脳会談である。G7各国は、世界全体のことは自分たちの課題ではないとばかりに、もっぱら欧米関係の調整に終始した。しかもそれすらも、日本・高市首相は傍観者だった。こうしたG7諸国の背景にはそれぞれの著しい経済困難と国内対立激化、政権の不安定化がある。
このように今年前半、文字通り世界の構造変化が急テンポで進んだ。経済力・国力の変化を背景に、国際政治も中国を先頭にアジアがリードする時代へと急速に移った。
世界史的な構造変化と、その中でとりわけ前面に登場した中国とアジアにどう向き合うか。日本が問われている。時あたかも朝鮮、中国などアジアへの植民地支配と侵略戦争の敗戦81年の8月だ。
ところが高市首相は衰退した米国の東アジア地域での悪代官となって、軍事力強化で「アジアの大国」として振る舞おうとしている。昨年11月の「台湾有事介入発言」で断絶した日中関係も放置したままである。対中国戦争準備が日米共同で九州沖縄を中心に全国で進む。
明治以来の侵略植民地支配の歴史反省と平和への決意を迫られる8・6、8・9、そして15日を迎える。来月9月18日は中国大陸への本格的侵略開始の柳条湖事件から95年である。
日本はアジアと世界のこの変化に対応できるか。アジアでの立ち位置、国の進路が問われる。
2、東アジアが「世界の中心」で輝き始めた
イラン戦争の戦闘終結覚書を受けて「米国とイラン、勝者はどちらか」と日経新聞ワシントン支局長が米国防総省関係者に聞いた。「勝者は中国」と即答があったという。支局長は「米イランの100日戦争の敗者は誰か。それは米軍という抑止力に依存してきた民主主義陣営と、石油という安価なエネルギーに頼ってきた自由経済体制だろう」と結論する。タイトルは、「西側を敗者にしたトランプ氏の戦争」だった(7月1日付)。
これがイラン戦争後の、国際政治の現実である。
各国政治指導者は先を読み行動に出ていた。相次ぐ北京詣でである。いちばん先見の明があったかは分らないが、昨年12月のマクロン仏大統領に始まり、今年1月にはカーニー・カナダ首相に続いてスターマー英首相(当時。どちらもそれぞれ首脳は8年ぶり)、2月にはメルツ独首相、さらにトランプが5月に。直後にプーチン・ロシア大統領。休戦を仲介したシャリフ・パキスタン首相は5月25日に習近平主席と首脳会談。
北京中心に国際政治が動き始めていることは否定しようがない現実だ。
高市首相の日本は世界に完全に取り残されている。北京に行かぬだけではない。5月にベトナムに出かけ「包括的・戦略的パートナーシップ」の強化を確認したと悦に入る。だがベトナム共産党書記長・国家主席はそれに先立って4月に訪中、習近平主席と「中越戦略的運命共同体」の構築加速を確認したばかりだ。インドも同様。先日、高市首相が訪れ『反中国包囲』を謳った。だがモディ首相は昨年9月、7年ぶりに訪中し協力関係発展を確認していた。
インドは、独立100周年となる2047年までに経済で先進国入りを目標としていて中国との経済協力関係が不可欠である。
次に見るように中国経済は技術、さらには研究分野も含めて世界を導いており、どの国にも密接な関係構築が不可欠なのだ。トランプの米国もそうだった。これが世界の現実である。
日本はどうする。
3、資本主義への疑問広がる衰退の米国
この国際政治の背景は発展する中国などアジア各国の経済力、国力増強だ。他方での米国の衰退だ。
確かに名目GDPで米国は約31兆ドル、中国は20兆ドルだ。だが、より実態を表すという購買力平価GDPでは完全に逆転で中国が約41兆ドル、米国は約31兆ドルである(数値はいずれも2025年、IMF)。
米国の国力衰退は明らかだ。GDPの数値は数値だが、内容はもっと厳しい。金融・不動産やIT・ソフトウエアなどを中心にサービス業が名目GDPの約80%で、製造業はわずかに19%。中国はじめ他国の製品に頼らないと生きていけない国なのだ。
それでも軍事費は約9540億ドルと、中国の実に3倍近く。だが、実際はほとんど借金だ。しかも、製造業の衰退で武器を自国だけでは満足に造れない。米国防総省もそれを公式に認め2024年に同盟国や友好国と防衛産業協力を進める「国家防衛産業戦略」を打ち出した。
本当は戦争もできない国なのである。
真の富の生産はわずかだが、金融を中心に世界中から搾り上げ、しかもそれをごく一握りの人びとが独占して、国民大多数の貧困化が著しい。その結果、国内は『南北戦争』の再来と言われるほどの分断と対立だ。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは最近、米国内で資本主義への不満が高まったと報道。世論調査で、「資本主義がうまく」機能していないとの回答が計51%と過半数を占めたのである。これが資本主義の本山みたいに言われる「建国250年」の米国の真実の姿だ。
4、アジア台頭は現代を象徴する偉業
世界の製造業(付加価値額)ではアジア地域のシェアが中国を中心に約48%を占める。
しかも、経済力を根本的に規定する技術力でも中国、インド、日本、韓国、さらにイランとアジアが世界をリードしている。特筆すべきは中国の技術的台頭であり、完全に米中逆転だ。
オーストラリア戦略政策研究所によると2000年代初頭には多くの技術分野で米国が世界のリーダーであった。だがこの20年で完全に逆転した。その報告書25年版では、高度なコンピューティングおよび通信、人工知能、および人間と機械の統合に関連する新しい神経技術などの10の新技術が追加され、全74技術分野が検討されている。そのうち68分野で中国が米国を凌駕している。
さらに将来の技術力となる基礎研究でも中国を先頭にアジアが指導性を発揮している。文科省の科学技術・学術政策研究所の報告で各国の研究活動の注目度の高い論文数で見ると、1980年代には米国が他国を大きく引き離していた。その後日本、さらに90年代後半に入ると中国、韓国がシェアを伸ばしている。
特に中国の伸びは大きく、2018年から米国を抜いて世界第1位となっている。とくに最も引用された研究論文の10%(トップ10%)で中国は19年にトップに(21年から23年の3年平均でシェア42%、米国は25%)、同様のトップ1%では2021年にトップに立った(シェア47%、米国33%)。なお、トップ10%の世界25位までには中国のほかに、インド、韓国、日本、イラン、パキスタン、シンガポールなどが並ぶ。
わが国は、この中国をはじめとするアジアにどう向き合うか問われている。明治維新以来の、しかもすでに大失敗の『脱亜入欧』でアジアに敵対する道を続けるのか。
発展する近隣アジア諸国と共に、これがわが国の平和と発展の道であることは言うまでもない。
5、誰が「力による現状変更」を進めているのか
ところが高市首相は6月のG7サミットで、ロシア、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、中国を名指し「力による一方的な現状変更の試みを容認すべきではない」と批判したという。
確かに、ロシアのウクライナでの戦争はNATOの東方拡大への抗議など理由はあっても、国際法上も許されない「力による現状変更」だ。
しかし、米国の1月のベネズエラ、さらに2月末からのイランへの侵略戦争は弁解の余地なき明白な「力による現状変更」だ。イスラエルも同様だ。
一方、朝鮮は何かしたか。歴史を踏まえて、ただ身構えただけではないか。軍備を強化し攻撃から自国を守ろうとしているのは誰が見ても明らか。ましてやかつて朝鮮半島を植民地支配し、暴虐の限りを尽くし、いまだ、その処理も終わっていない日本があれこれ言えるか。
中国は7月6日、原子力潜水艦から太平洋に向け弾道ミサイルを発射する実験を行った。政府与党などは「力による現状変更」だと騒ぎ立てた。
しかし中国は核兵器の先制不使用を宣言している。しかもミサイル発射実験などは日本も米国もどの国もやっていることではないか。
いま、「新たな戦前」との不安が沖縄県民の中に広がっている。そうしたなかで地元紙・沖縄タイムスは翌日の社説で「日米中は『ミサイル軍拡』の兆しを強めている」と指摘して、「日中関係改善に努めよ」と打ち出した。正論だ。
日中関係改善こそ、歴史的にもアジアの平和と安定のカギであり、今ほど重要な時はない。そのためにも冷静に歴史を踏まえることが重要だ。
台湾、尖閣、そして
南シナ海
日本の政府も政治家の多くもマスコミも、中国が「東シナ海と南シナ海で力による現状変更を試みている」と脅威を煽る。
東シナ海は台湾問題と尖閣問題である。しかし台湾はもともと中国の一部である。だから中国による「台湾の統一」は、「現状変更」ではなく「原状回復」とでも言うべき民族的悲願である。誰が止められようか。
そもそもわが国の明治政府が軍隊を派遣し、台湾を占領して「植民地支配」した歴史をもつ。今日の「台湾問題」をつくり出したと批判されることはあっても、中国政府によるその「回復」を攻撃する筋合いなどない。
しかも中国は平和統一を明言している。台湾住民の意思が尊重されるべきは当然としても、それはあくまでも中国の内政問題である。
尖閣諸島は、やや複雑だ。無人島だが周辺は優良な漁場であり、かつ日中双方が「領有」を主張しているからだ。そこで田中角栄総理や周恩来総理など両国の先人たちは「棚上げ」で事実上合意した。そして国交を正常化し急速に友好交流を発展させ、両国の経済発展を導いた。これがいちばん賢いやり方だ。今もこの両国「合意」は変わっていない。
ところが最近、日本の一部政治家やマスコミはこの島の周辺での中国海警局官船の動きを騒ぎ立てる。だが、それには根拠がない。
2000年発効の日中漁業協定は当然にも島の帰属問題を事実上棚上げした両国政府の立場に則っている。すなわち、それぞれ「自国の漁船を取締り、相手国漁船の問題は外交ルートでの注意喚起を行う」という合意である。だから、中国の官船がいくらこの海域にいても不思議ではない。
マスコミが報じる「騒ぎ」は、ごく一握りの日本の反中国活動家が「漁業」と称してこの海域に挑発行動に出かけ、「衝突」を演出しているからに過ぎない。
政府もマスコミも、両国合意を重々承知しながら、こうした挑発を黙認している。先の沖縄タイムス社説は「今後日中の国民感情がさらに悪化すれば、偶発的な衝突ですら悲劇的な結果を招きかねない」と警鐘を鳴らす。政治の責任は重大である。
南シナ海も同様
南シナ海も同様である。わが国はかつてこの地域を軍事支配した。このことを忘れてはならない。ところが最近日本は、米欧諸国とフィリピンなど14カ国で「南シナ海共同声明」を取りまとめた。この地域に介入するなどは絶対に許されることではない。
今日、中国とASEAN諸国とは海をめぐって対立もするが基本は友好協力関係を発展させている。
ASEAN諸国の中で中国との対立激化が言われるフィリピンですらも同様だ。その外務大臣は東京で6月10日、「領有権問題を抱える中国とも2国間で対話を続けており、進展もある。長時間かけた対話で相違点を理解していくことは非常に重要なことだ。一方で中国との関係は貿易面では良好で、領有権問題での対立が両国関係の全てではない」とわざわざ発言した。これが現実だ。
「力による現状変更」と中国を攻撃し、脅威を煽り騒ぎ立てる人びとには邪な狙いがあるからだ。
5、日本は歴史を総括し平和国家への道を踏み外してはならない
「強国化した中国」と「衰退の米国」は、世界政治の重大な局面変化をもたらした。
だが今日、進む激変はそれだけではない。全体的構造的な世界の変化である。欧米諸国およびそれに遅れて加わった日本などの帝国主義(北側)と、その帝国主義に200年近くにわたり虐げられ搾取抑圧に晒されてきたアジア・アフリカ・ラテンアメリカ(グローバルサウス)との歴史的な関係逆転が進んでいる。
とくに戦後世界を支配した米国の衰退は決定的である。図らずもイランでの敗退はいわばそれを実証した。
高市の選択は
米国と共に滅ぶ道
しかし米国は決して世界覇権を放棄したわけではない。強国化する社会主義中国を恐れる覇権維持戦略に変わりはない。より巧妙に、あるいは伝統的策略といってもよいが、「地域ごとにその諸国を対立させて世界を支配する」戦略を徹底させようとしている。
そのためにアジアでは日中対立の激化を画策している。高市ら日本の「対米従属の反動的支配層」はこの米国の策略戦略に呼応している。
わが国反動的支配層は、明治以来のアジア侵略の歴史を反省総括していない。それどころか、むしろ「栄光」の歴史として引き継ぎたいのだ。
高市首相の一連の発言の最大の問題は、侵略の歴史を総括し反省した上に成立した1972年の日中共同声明の根本を覆していることだ。昨年11月の発言には「台湾独立」支持で軍事行動を取る可能性すら含まれている。北京までをも射程に入れたミサイルの全国の自衛隊基地への配備など軍拡が進む。
中国側が激怒するのも当然だ。断じて許してはならない。
アジアと共に
平和繁栄の道へ
わが国は経済、例えば貿易ひとつをとっても中国、アジアと深く結びついている。
昨年も日本の総貿易の約20%は中国とであり、最大だ。アジア全体では55%以上を占める。日中両国関係が極度に悪化した今年1―3月期でも前年同期と比べ輸出は+11・5%、輸入も+12・6%の大幅な増加傾向である。レアアースは減少だが貿易関係は切っても切れずむしろ相互依存が進んでいる。
こうしたなかで経済界は関係改善を追求している。日本経団連副会長が最近も訪中したし、関西経済連合会は10月に訪中団派遣を検討している。河野洋平会長が亡くなった日本国際貿易促進協会(国貿促)は前外務大臣の岩屋毅衆議院議員を会長に迎えて9月訪中団派遣を準備中という。
沖縄県をはじめ国民も平和で発展する日中関係、アジアを望んでいる。
明治以来の歴史をしっかりと総括し反省して受け継ぎ、自立した平和国家として「アジアに生きる」道に踏みだすときだ!
