米国のベネズエラ侵攻

米「帝国主義」の最後のあがきか

全国農団労 大谷 篤史

 米国トランプ大統領は1月3日、ベネズエラの首都カラカスなどを地上攻撃し、ニコラス・マドゥロ大統領と彼の妻シリア・フローレス氏を拉致誘拐した。さらに麻薬テロ共謀等の容疑で起訴までしている。主権国家を一方的に攻撃し、その国家元首を拉致し、米国の裁判にかけるという暴挙は、明らかに国際法に違反するものであり、断じて許されるものではない。
 中国やロシアが抗議声明を出した他、ブラジルなど多くの中南米諸国も強く米国を批判している。また、米国内でも軍事介入反対の抗議活動が全米各地に起こり、さまざまな階層に批判が広がっている。
 だが、ヨーロッパ諸国政府などは曖昧な態度を取っている。
 日本政府は暴挙に対し沈黙している。断じて許されない。文字通りの「力による現状変更」を許さない姿勢を鮮明にするよう求める。

強引トランプはまたも
腰砕け

 トランプ大統領はニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、「自らの権限の制限は国際法や条約ではなく、自らが決定権を持つ」とまで明言した。イラク戦争の時でさえ、大量破壊兵器の存在というでっち上げの理由ではあったものの、国連決議という手続きを踏み、攻撃前には全面攻撃の最後通牒を行っていた。それでもこの一連の米国のやり方への批判は少なくなかったが、今回はそれすら踏み越えて、自らの権限で好きなようにやるとまで言っているのだ。
 昨年11月に公表された「国家安全保障戦略(NSS)」の中で、「モンロー主義を再び主張し、その実施を通じて、西半球における米国の卓越性を回復し、自国本土および地域内の重要地域へのアクセスを保護する」ことを明らかにした。国家の力こそが全てであるという姿勢を鮮明にしたものだ。
 実際に、ベネズエラにとどまらずキューバに対してもトランプ大統領はベネズエラからの石油を止めると脅すなど圧力を強めている。またグリーンランドに対しも、「彼ら(デンマークとグリーンランドの住民)が望むかどうかにかかわらず、何らかの行動を取る」と恫喝する。
 しかし、衰退する米国の力の限界は明らか。グリーンランドをめぐってダボス会議では「グリーンランドはわれわれの領土だ」などと滅茶苦茶な宣言をしていた。だが、直後に欧州8カ国への追加関税攻撃を撤回、欧州諸国との妥協に追い込まれた。当然だが、トランプは経済金融に屈服させられた。米欧対立激化で、米国は株式、国債、ドルのトリプル安に追い立てられたのだ。
 米国は薄氷を踏んでいる。今回もTACO(トランプはいつも腰砕け)に終わった。

ベネズエラ侵攻の背景

 ベネズエラでは1980年代にアメリカの指導による新自由主義経済政策が導入され、その諸施策の結果、貧富の格差は拡大し、貧困層の不満が蓄積していた。そのため89年には首都カラカスでペレス大統領と彼の新自由主義経済政策に反対する声を上げた大規模な都市大衆蜂起「エル・カラカッソ」が起こったが、多くの流血を伴い軍隊によって鎮圧された。
 99年に「貧者の救済」など社会主義的な公約を掲げたチャベスが、民衆の支持を得て圧勝した。そして、「民主的革命」の開始を宣言、石油の富を国民に平等に分配するために国家のしくみを変えることを打ち出した。
 それに対して米国を含む石油資本側は、チャベスを排除しようと画策し、2002年に軍によるクーデターが勃発し、チャベス大統領は軟禁された。しかし、市民による抗議行動が一斉に起こったことや、軍内部でも歩調がそろわなかったこともあり、チャベス大統領は無事に救出され、クーデターは成功しなかった。このクーデター騒ぎの背景には、米国CIAから資金提供と指導があったといわれている。
 06年にはチャベス政権は、石油品質が悪いと言われる超重質油の技術開発を行ってきた外資系企業に対し「開発に関わる全ての合弁企業においてPDVSA(ペトローレオス・デ・ベネスエラ)が60%以上のシェアを持つ」ことを要求した。これによってエクソンモービルなど複数の石油メジャーがベネズエラから撤退するという結果となった。
 米企業の撤退により産油量が激減し、経済に甚大な打撃を与えた。それでも自国で産出する原油の所有を主張することは主権国家として当たり前の権利である。
 13年にチャベス氏が死去したことで、チャベス氏の政策を引き継いで腹心のマドゥロ氏が大統領に就任した。このマドゥロ政権に対しても、政府関係者に対する経済制裁を科すなど政権に対する圧力を強めていた。
 2025年に再び就任したトランプ大統領は、以前よりも強引にアメリカ・ファーストの政策を推しすすめた結果として、ベネズエラに対する武力侵攻を強行したと捉えるべきだろう。そのために用意周到に武力侵攻をすすめてきた。

原油資源強奪こそ真の狙い

 これまでも米国はたびたびベネズエラの内政に干渉し政権転覆を図ろうとしたり、経済制裁などを行ったりしてきた。その狙いは原油利権強奪であった。それでは利権を取り戻せなかったから、国家の力によって奪い取るという今回のような強盗を行ったわけだ。絶対に許されることではない。
 しかも、米国のベネズエラ統治費用について、「地中から湧き出る金(石油)が非常に莫大だから、我々には何の費用もかからない」と述べ、侵略コストを被侵略国の資産で賄うとしている。NATOのロシア凍結資産をウクライナ軍事支援に使おうとしたことと同様の発想であり、国家による火事場泥棒だ。
 トランプ大統領自らモンロー主義の主張を「ドンロー主義」と呼んだが、この狙いは国家のむき出しの暴力による支配・統治をすすめるといった、まさに19世紀に時計の針を戻すものだと言える。

日本は米国の「力による一方的な現状変更」と手を切れ

 これに対して日本政府は「これまでも一刻も早くベネズエラにおける民主主義が回復されることの重要性を訴えてきている」との談話だけだ。ところがロシアのウクライナ侵攻に対しては「力による一方的な現状変更の試み」として国際法違反と厳しく非難している。ダブルスタンダードに他ならない。
 米国はNSSの中でアジアについて、「米軍が単独でこれを担うことはできず、また担うべきでもない」として「同盟・パートナー国による軍事投資の拡大」を求めている。アジアで「中国を抑え込む」役割を日本などに担わせる戦略を示している。
 だが、日本の経済的利益や安全保障の観点からは貿易総額第1位の中国との良好な関係が不可欠だ。国益の実現ということを鑑みると日本の採るべき方向は、中国との良好な関係を築くと同時に米国と対等な関係を築く以外にない。
 現在、高市首相の「存立危機事態」発言以来、敵対的な状況となっている対中国関係を改善していかなくてはならない。この発言を撤回させ、日中共同声明の合意を踏まえ、台湾は中国領土であり一つの中国を支持する立場を改めて明確にすることが強く求められている。