食料・農業・農民

農村を、食料を、環境を、誰が担うか

全日本農民組合連合会共同代表(農事組合法人八頭船岡農場組合長) 鎌谷 一也

初夢か、悪夢か

 新年を迎え、少し目を閉じて考えてみたい。
 2025年農業センサスによると、基幹的農業従事者は20年と比較し過去最大の25・1%減の102万人、平均年齢67・6歳。30年86万人、50年36万人になると言われている。現実的に、農山村では高齢化も進み、担い手不足や人口減少も目に見えて激しい。空き家や荒れた水田が目立つ。農業従事者の減少と農村社会の担い手の減少は、地域や社会に何をもたらすのか。「村じまい」をする集落も増えるではなかろうかと憂える。
 環境問題もより厳しさを増す。米、野菜や豆類の高温障害や不作など、近年の気象環境は食料生産にも大きな影響を与えている。むろん、国内だけでなく世界各地の問題ともなっている。生態系にも、狂いが生じ、生物多様性の保全も喫緊の課題となっている。
 片や日本の政治・経済の劣化の中で、円安は進み、輸入に依存する社会の不安定性は増加。特に食料の確保については、買い負けをするどころか、良質な食料は輸出に回り、国民は食べられなくなる時代が来るのではと心配される。一昨年来の「令和の米騒動」が良い例だ。生産が減退し、需給関係が崩れ、価格は一気に値上がりし、食べられなさを具現するものであった。
 これから、担い手・働き手の問題、気候等の環境問題、政治経済問題で、食料や暮らしはより混迷と緊張を強いられる時代となるのではなかろうか。米だけではない、肉、牛乳、野菜、果物、国産国消を唱えるも、食べ物自体が確保できなくなる。悪夢となる前に、目が醒めればよいが……。

米問題に焦点を当てて
考える

 21年の低米価は、水田農業に、また日本の農山村に決定打を与えかねないものであった。実際、わが集落法人でも、構成員である農家の収支は、所得どころか物財費も出なく、米代で精算できない農家が続出した。その後、米作中心の農業法人の倒産も増加。これ以上放置すれば、米がなくなる、作り手がいなくなるという状態で、24年の米価引き上げが検討され、また農家の怒りも百姓一揆の広がりとなって現れた。
 だが、あまりにも投機的な動きにより、24年生産者の概算金が1万7000円(わが鳥取県)であったものが、最終的な農業者の手取りは2万3000円前後となった。もちろん、消費者には、5キロ4200円前後で、卸小売りのマージンは前年の2倍以上の四十数%となっている。それに輪をかけたのが、25年米価である。
 25年7月段階では、生産者米価2万2000円~2万4000円を前提に、消費者米価5キロ3000円~3500円を想定していたところ、業者とJAの確保競争で、米価は吊り上がり、60キロ3万円以上の取引相場となっている。こうなると、まともな加工・流通マージンとしても5キロ4000円を下らなくなる。逆に消費量が落ち、在庫過多になる状態が続けば、価格下落となり、JAの概算金や業者の買い取り価格を割り込む懸念も出てくる。中小の小売業者、JAなど、生産者や消費者のみならず、米をめぐって社会的な混乱を生ずることも懸念される。
 環境問題や担い手問題がクローズアップされる中で、国土や日本社会の土台である水田や米、農村が、将来にわたってどうあるべきか。今こそ、整理されなければ、懸念する事態が顕在化してからでは、混乱を増すばかりではなかろうか。
 わが鳥取県では、全農が生産費支払いということで、25年は従来の概算金に代わって生産費をまず補償するという金額2万2000円を支払った。これは、1ヘクタール規模で時給1500円を前提とした生産コストをペイするものである。私としては、米の所得補償制度を要求しているが、どのような事態となっても、全農JAが制度的にこの水準を補償するならば、所得政策は不要となる。だが、消費者米価や将来的な生産者の経営安定を確保することを考えれば、やはり所得補償制度の確立は重要となる。
 自然災害や鳥インフルエンザなどの伝染病被害により需給バランスが崩れ、農畜産物が高騰するたびに、川下側のマージンが高くなる傾向がある。これは、今回の米騒動となった食用米のみならず、卵や牛乳などについても言える。

食料システム法を機に、
生消の主体的な取り組みを

 今回の米騒動を踏まえ、真に安定した流通と価格形成の上では、県別ぐらいでの自給圏形成も一考であり、鳥取では、全農鳥取と鳥取県生協との協定を提案している。顔が見え身近な関係で、相互の立場を理解しつつ、すべての生産加工流通小売りコストを明らかにしつつ、適正価格適正取引、そして地域の備蓄システムを確立し、自給圏を形成できればと思う。
 そして、もう一つは生産者と消費者の連携と併せ、両者の適正価格等への社会的なチェック能力と機能の向上である。消費者自体が、生産現場から自らの口に入るまでの経路とコストをチェックするともに、価格形成を社会システムとして広く共通認識にしていくことである。
 幸い25年6月に決定された食料システム法が26年4月から施行される。努力義務だけで、強制力はないものの、生産から、加工、流通、小売りコストが明らかにされる。そうなれば、生消双方が客観的な食べ物のバリューチェーンを認識することができる。生産の実態や役割等についても理解し、自らの課題として認識することもできるだろうと感じている。将来の酪農経営、特に都府県の酪農にとって、何としても、米を突破口に生乳、牛肉と、適正な価格形成、特に生産者の価格形成もしくは所得補償が確立されなければ、将来に大きな禍根を残すと考える。

環境問題と有機農業は

 昨年の10月、わが町でもオーガニックビレッジ宣言を実施した。国のみどり戦略にも位置づけられているが、有機の取り組みを面的に取り組んでいくためには、この宣言は有効だと考えている。有機農業の推進に当たって、3点を訴え実践している。第1は、環境問題、第2は食の安全、特に子供たちの食べ物、第3が資材の高騰対策、地域資源の活用と持続可能な農業である。
 EUでは、農薬や化学肥料などの化学物質の使用を制限した有機農業は、「最善の環境対策、高い生物多様性、天然資源の維持、高いアニマルウェルフェア(動物福祉)基準の適用を組み合わせた農場管理・食品生産」の方法と位置づけている。まさに、有機農業は、環境負荷を低減する持続可能な農業生産である。
 第2の食の安全は、ネオニコチノイドやグリホサートなど神経障害を引き起こす危険性を排除し、学校給食への提供、そして国民一般の食卓への波及の実現を図る。
 第3は耕畜連携や資源循環など、輸入資材に頼らず地域資源の活用によって持続可能な農業、食料生産を目指すものである。農業生産・地域の環境対策・生物の多様性の保護、ぜひこれからの柱としたいものだ。みどり戦略を地域でどう展開していくのか。国のみならず、各県、各市町村の本気度が求められている。

農村政策に直接支払制度の拡充を

 直接支払制度は、中山間地域直接支払い、多面的機能支払い、環境支払いの三つの柱で成り立っている。営農や環境整備の不利的条件へのデカプッリングとして中山間地域支払いの充実は、営農継続および中山間地域の環境保全の上で重要であるなど、それぞれ拡充を求める。
 ただ、現状の農村を考える場合、特に、今後制度の改変・充実すべきは、多面的機能支払制度である。文字通り水田・米を中心に農村社会は成り立ってきた。それが現在崩れようとしている。米の価格支持・所得補償はもちろんだが、村の存続、担い手の存在なくしては営農もあり得ない。米を作るための共同作業で人間関係を養い、集落内の組織をつくり維持してきた。また米代金で各集落の共同体的組織を運営してきた。
 それが今日では、米も作らず、資金負担に対しても懐疑的になり、共同体も崩壊する危機に瀕している。だとすれば、米代の拠出はなくとも、水田に付随する活動から、より積極的に「むら」を守り、「むら」を再生する機能への支払いとして位置づける制度設計が重要となる。従来の集落内組織、RMOや地域づくり事業協同組合など、非農家を含めた住人が、地域が、地域農業と環境を守るための、農村の再生や持続的な存続のための活動等を行う。その農村の自主的かつ主体的な活動を支える基礎的な財源として、使えるものにしたいものだ。
 以上が、対策までにはならないが、取り組むべき課題と考えて、2026年に立ち向かいたい。
RMO(地域運営組織)
 地域住民が主体となり地域の課題解決(農地保全、生活支援、資源活用など)を持続的に行う組織

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