日米地位協定 ■ 末松義規衆議院議員×屋良朝博衆議院議員

日米地位協定への関心高まる

対談  アメリカの植民地を脱するために

 立憲民主党および会派所属議員による日米地位協定研究会が6月3日、「日米地位協定について議論を深め、論点を整理する目的で」立ち上げられた。非常に注目すべき動きと考え、会長となった末松義規衆議院議員と会の中心を担う屋良朝博衆議院議員に対談いただいた。お二人をはじめ研究会の皆さんの奮闘に大いに期待したい。以下、編集部の責任でまとめた。

研究会立ち上げに手応え

末松義規(以下、末松) 私は、外務省ではアラビストで1991年の湾岸危機のときには外務本省で担当課の課長代理をやっていたんです。そのときに、言葉は丁寧ですけどアメリカが日本に命令するんですよね。結局は外務省幹部も大臣も含めて、アメリカに頭が上がらないんですよ。それで「この国はアメリカの植民地じゃないか」と思ったんですね。そんなことは受け入れられないし、外務省にいるのは潔くないと思い、湾岸危機が一段落したら1年後に辞めると宣言して、外務省を辞めたんですよ。
 要するに根本が何かというと日米安保条約で、日米地位協定がいちばん大きな問題であるわけですよ。だからそのときに「日本が植民地を脱するようなデシジョンメーカー(意思決定者)になろう」と政治の世界に飛び込みました。
 その後2021年に立憲民主党の外交安保調査会長になったとき、どういうふうに外交を進めるのかという方針をまとめた。その一環で22年に日米地位協定の改定案をつくりました。
 今回、屋良先生から「新しいビジョンでやりませんか」という話だったんで、「これはいいな」ということでやってきたというのが私の経緯です。要するにアメリカの植民地である日本を脱しなければいけないというのが、この研究会に込めた私のテーマです。
屋良朝博(以下、屋良) 私は沖縄生まれですので、地位協定問題は当然、生まれ育った環境にあります。地元紙の新聞記者になって、ドイツとかイタリアの地位協定とかと比較しながら考えたのは、日本は主権を「ただ売り」しているという問題です。主権という言葉の意味にすら無頓着だということを痛感しました。地位協定は必ずいつかどこかで問題提起したいとずっと思っていて、新聞記者のときにも関連記事をいくつも書いてきたんですけども、広まらず忸怩たる思いを持ってきたんです。
 国会議員になって5年たちまして、ようやく国会の中でも知り合いがある程度できました。末松先生という大先輩ともアクセスすることができたことをきっかけに、これは党内で議論だけでもやってみたいなという気がしたんですね。
 始めてみると日米同盟、地位協定の議論というのは、なかなか難しいところがあるんです。それがトランプの出現で日米同盟のコストを考える素地が少し出てきている。それで末松先生に相談したところ、二つ返事で「やろうじゃないか」と言っていただいたことが、研究会を立ち上げる大きな原動力になったわけです。
 この研究会の立ち上げは、タイミング的には良かったと思っています。研究会の立ち上げに国会議員の賛同者が衆参46人、初回の勉強会に国会議員60人と秘書の代理出席20人、トータル80人が参加してくれました。立憲民主党の国会議員の半分近くが来てくれた。地位協定への関心が高いという手応えを感じました。
 私たちはこれから政権を目指して準備するためにも、地位協定の問題を考えないといけない。この議論を待っていてくれた人たちが結構いるんだなという手応えを感じています。

日本の防衛を根本から
考えるチャンス

末松 ただし日米地位協定というアメリカの特権に対して、真正面からチャレンジしたら、アメリカが交渉に乗ってこないだろう。だから今はある程度アメリカも乗らざるを得ないところからやっていこうということです。
屋良 そうですね。ファイティングポーズでやっても物事は変わらない。自民党も石破総理の号令で地位協定の論点整理が始まってはいますが、論点を定めるのは難しいと思う。米政府相手に主権交渉する胆力が試される問題だからです。だからうちはそれを先んじてやるということです。保守的な人も「これだったらいい」と思うような、共通認識を形成していきたい。
末松 日本人も「米軍の存在とは何か、日本人はどこまで自国の防衛にコストをかける覚悟があるのか、安全保障をどうすべきか」ということも決めないといけない。「長年こうやっているから」というのは、防衛そのものを結局考えてないということと同じです。
 だからトランプが「日本はもっとカネを出せ」と言ったのを奇貨として考える。ここで、「われわれとして本来どうあるべきなのか」というのを考える、いいチャンスじゃないでしょうか。例えば日本がアメリカから購入した武器の総額がどのくらいで、どのくらいアメリカに貢献してきたのか。横田基地や沖縄でアメリカが享受している価値はどのくらいなのか。アメリカにとって日本は対中国、あるいは対ロシアのための前衛基地で、不沈空母と言われているわけですからね。
 日本から見れば、「憲法9条のの存在の下で、どこまでアメリカと一緒に防衛していくのか」ということを考えなきゃいけない。その中でどのくらいのおカネをかけるかを含めて考え、日米地位協定がどうあるべきなのかという議論をしないといけない。
屋良 地位協定はご承知の通り、除外規定の羅列ですよね。航空法の一部適用除外だとか出入国管理法の一部除外だとか、さまざまなものの除外規定で、一つ一つ日本の主権を削っていることになる。地位協定は本来、主権対主権のぶつかり合いという面があるんだけれども、日本は削ってるばかりなんで、ぶつかってもないですね。

新しいアプローチで
考える

屋良 駐留軍隊が動くためにどういった国内法の規定を削るかというのは、NATOにしても韓国にしても日本にしても同じなんです。軍隊が動けるような形にするというテクニカルな話になる。その中でコスト論を計量的に分析する議論は、日本ではこれまでほとんどありませんでした。
 これまでは人権や騒音の問題とか、社会運動的なアプローチで地位協定は見られていたことがメインだったと思います。それとは少し違う、政策立案する立場としてクールな目線でこの問題を見てみようということを心がけてやっていきたいと思っています。まさに外務省出身の末松先生が会長になってくれて、そういったことができる環境になってきています。
末松 アメリカから「日本は全然世界の防衛戦略考えてないんじゃないか」とか言われる。結局ローカルな議論だけに終始して「日本だけ負担を減らしてよ」という話では通りません。日本だけで反対してもアメリカはすぐに議論を封じ込めますから、いろんな国と一緒に連携しながら、やっていかないといけないと思っています。
屋良 アジアの中で同じような問題を抱える国々と連携して、具体的に何かを動かす形をつくることができるのではないでしょうか。
末松 韓国とかがどう思っているのか。これについて韓国と話したことないんですね。これ面白いですよね。「これはおかしいんだ」という合意が出てくるとかなり違ってくる話です。フィリピンもそうでしょう。だからそういうのをアジアでやる。バイ(二国間で)でやると駄目なんですよね、ヨーロッパも含めてマルチでやらないと。だからそういうアプローチ、おそらく新しい試みになると思うんですよ。

本丸は基地管理権

屋良 日本は提供施設に対する管理権をすべて米軍に委ねています。そういう国はあまりないんですね。イタリアもイギリスもドイツもやってないです。だから私は、本丸は管理権だと思っています。日本は米軍基地の管理権を完全放棄している状態で、その論点にストレートに行けるかどうかはこれからの議論によりますけれども、そこに到達点を見極めながら議論ができればと思っています。できれば年内か次の通常国会ぐらいにはまとめたい。
末松 補足ですけど、野党として出していくんじゃなくて、われわれももしかしたら与党となっているかもしれない。ですから、意識として与党のときにどういう形の案を出していくかという視点ですね。ある程度用心深くやっていくということも含めて、与党のときにこういう形でやろうじゃないかというのを根っこに持ってやっていきたいと思っています。ある程度実際的じゃないと、米軍として「話にならん」ということにならないように、気をつけながらやっていくということですね。
屋良 イタリアで1998年に米軍機がロープウエーのケーブルを切ってゴンドラが落ちて20人が死んだ事故がありました。その当時の外務大臣ランベルト・ディーニ氏にインタビューしたことがあるんです。彼はアメリカの当時のオルブライト国務長官に電話して、「あれはアメリカのいかれたパイロットの殺人事件だからイタリアが第一次裁判する」と言ってバンと電話を切って、外務省の職員にこの裁判をイタリアができるようにしろと発破をかけたそうです。結局は公務中の事故なのでNATO地位協定に従い、第一次裁判権はアメリカに行ったわけですけどね。
 ディーニ氏に「地位協定改定を求めないんですか?」と聞いたら、アメリカは米兵の法的地位を確保する協定については頑なに交渉拒否するので「改定は求めない」と。そして「うちは米軍基地問題というのはないよ」って言われたんですね。
 イタリアでは基地はイタリア軍が管理権を持っているからです。例えば管制塔の管制官は米兵なんですが、その中に必ずイタリア兵がいるんですよ。そうすると空で何が起きているか、イタリア軍も関知できるんですね。日本では何があっても米側から報告を受け取るだけ。イタリアはそこでちゃんとグリップを握っています。
末松 いや、そこね。私も2022年の改定案に入れたんですよ。つまり、自衛官も在日米軍基地の中に入れる。要するに地域コーディネーター・オフィサーとして置く。
屋良 やっぱり運用に関するコミットメントは主権を獲得する上では重要です。戦後80年もたったんだから管理権ぐらい日本が取り戻したいんだという考えを出すべきです。それにアメリカが何か言ったら、イタリアやドイツでやっているじゃないか、なぜ日本でできないんだと言えるでしょう。
末松 それを韓国とか、フィリピンなんかと一緒に声を出し始めたら、面白いと思いますね。韓国ではこれまで野党だった人が大統領になったわけですからね。
米国内並みの権利を求める
屋良 日本が管理権を取ろうとした場合にアメリカがどう出るかというと、自由使用がなくなるから非常に堅いとは思います。それをどう突破していくか、あるいは突破できなくてもその前提となるような議論はできるんですね。
末松 イギリスは米軍基地にオフィサー(管理人)を入れていますね。日本も管理権に挑戦しているわけじゃなくて、地域との交渉役ということで入れればいいわけですよ。
 それから平時と有事の場合の基地のありようもあるでしょう。米軍は訓練で来ていますから、常に緊急事態を想定した訓練なんですが、平時は訓練のレベルを規制できるのかもしれない。要は基地周辺の住民にどれだけ迷惑をかけないかということでしょう。
 結論的には、アメリカ軍の「在米」の基地周辺の住民と同等の権利を渡してくれということです。騒音や環境問題も、在米基地の周辺住民と同じことが享受できるようにしようということであれば、アメリカは反対できないはずなんですよ。これは管理権じゃないからね。防衛と全然関係ない。だからそういうところから、一歩一歩切り崩していかなきゃいけないなと思っているんだよね。
屋良 管理権というのは、多分ハードルが高いと思うんですよ。だからそれを目指す上でも、どういうプロセスがあるのか考えれば、いろいろ手はあると思うんです。その議論すらやらずに、カネは出します、基地維持の労働力も出します、電気代、土地代も全部持ちますからどうぞ使ってくださいとやっているわけですよ。
末松 指標として考えているのは、さっき言った基地周辺の住民の健康ですね。不健康のままでいいとは誰も思っていないですから。在米国の軍事基地の周辺の住民の健康がどう守られているのか、あるいは守られてないのか。これを詰めていくべきです。日本の現状はもう植民地みたいな感じですから。だからとても重要だと思いますね。
 例えばアメリカ国内はPFAS対策もそれなりにしっかりしているし、騒音レベルが一定の基準を超えると「基地はどっかに行け」ということになる。
屋良 ハワイのカメハメハ大王の遺跡の近くでオスプレイの飛行訓練をやろうとしたら、低周波と強力な下降気流で貴重な遺跡が壊れるかもしれないと反対運動が起きて、それで訓練ができなくなった。これが普通の話なんです。

アメリカと
どう交渉するのか

屋良 米軍側のコスト負担を日本はこれまであまりにも交渉してないですよね。これを指摘すると日米同盟の片務性が言われるわけですよ。しかし日本が払っているコストは諸外国と比べたら断トツなのにコストの議論をやってないんですね。
 「米兵が命を懸けて日本を守る」とトランプは言ってますが、いつまでトランプのようなキャラクターのアメリカと付き合っていけばいいのか、という議論がにわかに出てきます。だからいろんな事態に備えて、とりあえずシミュレーションなり、頭の体操なりは当然やっておかないといけない状況だなという気がしています。
末松 これはアメリカと交渉できる土台をつくっていくことの難しさをわかった上で作る案だということです。トランプのおかげで、日本としてもトランプ提案への対抗上、何かやらなければいけないという機運が出てきています。トランプが言っていることはとんでもないことですが、私たちは「何もしなくていいんですか、あなた」と国民に問われているわけですよ。もちろん憲法の範囲内で。
屋良 いずれにせよ地位協定はずっと問題だと言われているんだけども、ちゃんと議論したことはあったのかなということですよね。「抜本的な改定を求める」とみんな言うじゃないですか。何をもって抜本的だということが議論されていないですよね。だからそこからまず手をつけたいなという、そもそも論を今やっているところですね。
末松 戦後80年を一つの大きな節目にしないとね。要するにこれまでの政治家は全部真実に蓋をして、臭いものに蓋をしてきた臆病者だったということなんですよ。それがわれわれ政治家に突きつけられているんだよ。
屋良 その汚名を晴らしたい。政権をめざし、主権を取り戻す議論をいま始めたと私は認識しています。

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