食料自給議員連盟 地方から声を上げる

 鈴木宣弘顧問の問題提起

米国依存から脱却して、独立国として世界の中でどう生きていくのか

 食料自給の確立を求める自治体議員連盟は4月28日、オンラインでの学習検討会を開催した。約50人の自治体議員などの参加で、顧問を務める鈴木宣弘東京大学名誉教授から報告提起を受けて活発に質疑・討論が行われた。議員連盟としての取り組みで、①基本計画や米国の要求に対して、それぞれの6月議会で意見書採択など取り組みを進めること、②3月30日の「令和の百姓一揆」の成功を引き継ぎ各地で農民と消費者との連携促進を取り組むこと――などを確認した。以下、鈴木宣弘顧問の問題提起の概要を紹介する。

食料・農業・農村
基本計画の問題点

 基本計画は、食料自給率は重視しなくてよい、食料自給力が重要だというのが特徴だ。自給力とは潜在生産能力で、いざというときだけ生産を増やせればいいという考え方。
 しかし、農地や労働力などの生産要素が整えられて自給率が維持される関係にあり一体のもの。自給率はどうでもよくて、いろんな指標(自給力)さえ見ておけばいいという議論の典型が食料供給困難事態対策法に出てくる。罰金で脅して、そのときだけ作らせるというむちゃくちゃな有事立法。これでは国民の命である食料を安定的に確保することはできない。
 これは財務省の財政審の方針にある「自給率向上に予算を投入するのは非効率だ。できる限り輸入で賄えばいい」という考え方が色濃く反映したもの。120万人いる農業基幹的従事者が20年後には30万人以下に減るとの予測を前提に「大規模化、スマート農業、輸出拡大」を柱にしている。改定された食料・農業・農村基本法も今回の基本計画も、この考え方で統一されている。

国内のコメ不足を放置して輸出に力を入れる愚かさ

 コメ騒動の原因はコメの供給不足。政府や農水省は、いまだに認めていない。24年産米もひと月に60万トン消費するわけだから、早場米が出る夏までもたないのではないか。
 そうなると米の価格は簡単に下がらない。2025年も、政府は需要が減っているからコメの作付けを増やなすと指導している。農家の側も高値だからといってもそう簡単に増産できない。せいぜい1・8%程度増ではないか。よほど豊作にならない限り、簡単には解決しないと思う。
 これほどコメ不足が騒がれているのに基本計画では「輸出の拡大」、とくにコメ輸出を8倍にするという。輸出米の生産に対して10アール当たり4万円の補助金を出す。だったら、国内の主食を増やすのに10アール当たり4万円の補助を打ち出すべき。増産で米価が下がれば消費者は助かる。消費者も生産者も両方助かる。
 このための予算は、全体で5000億円ぐらい。そうすればコメ騒動を相当に改善できるが、それを許さない政治状況がある。

「盗人に追い銭」

 トランプ関税に対して他の国は、確固たる国家戦略、外交戦略を持っているから、米国に怯むことなく対応している。日本だけ浮足立っている。米国に出向いて、「何を譲ればいいのか」と聞き、絶対に切ってはならないコメのカードさえ最初から出すような議論になっている。結局、自動車関税を何とかという姿勢だが、これではすべてを失う。「鴨葱」外交、「盗人に追い銭」外交だ。
 第1次トランプ政権でも、25%の自動車関税で脅された。他の国は毅然と突っぱねたが、日本は「日本だけは許して。何でもしますから」と、中国との交渉で拒否され宙に浮いた300万トンのトウモロコシまで「尻拭い」で買わされた。それが繰り返されようとしている。
 結局、前回は牛肉と豚肉の関税の引き下げで一応止まり、コメと乳製品は先送りされた。
 前回の交渉責任者の茂木大臣は「自動車交渉のための農産物のカードはまだある」、つまり自動車のために農産物を差し出すリストがあると漏らしていた。その目玉は、前回先送りになったコメと乳製品だ。輸入枠の拡大だけでなく、関税削減にも踏み込んでくる可能性もある。
 関税削減には原則的には協定締結が必要だが、輸入枠の拡大はすでに77万トンのミニマムアクセス米(全量輸入義務ではなく輸入機会の提供)のうち米国との「密約」で毎年確保している36万トンの米国枠を拡大することも検討されているのではないか。77万トンの枠外に7万トンを設けるとなると影響は大きくなる。さらに、大豆やトウモロコシの輸入拡大も要求されているという。まさに、前回と同じだ。米中関係の悪化による「尻拭い」をまた受け入れるのか。

コメは「国防」の1丁目1番地

 この流れは、苦しむ日本の農家をさらに追い詰め、食料安全保障の崩壊を早める。とくに、コメの減反を押し付けられ、十分な所得が得られずに苦しんでいる稲作農家にとって、コメの輸入拡大はまさに追い打ちで、さらに稲作をやめる農家が激増しかねない。そうなったら、唯一自給率を100%近くに維持してきたコメが急速に輸入依存に陥ることになる。
 国民は、輸入米でコメが安くなったと思ったら、実は、飢餓の危機に近づいていることを認識する必要がある。国産農産物を守ることは、国民一人ひとりの命を守る安全保障のコストなのだという認識が必要である。コメ・農業を守るのは「国防」の1丁目1番地だ。
 わが国は長らく、米国の要請に対処することが「外交」という「思考停止」を続け、独自の国家戦略・外交戦略を持っていない。日本外交は限界に来ている。米国が関税を引き上げてでも米国産業を守るなら、日本も輸入依存度を減らして食料自給率を高め、食と農の独立をめざすべきだ。
 日本が米国依存から脱却し、独立国として世界の中でどう生きていくのか、それを早急に確立することが求められている。そうしないと自動車を守るためとコメなどを差し出しても、自動車すら守れないですべてを失うことになる。

多様な担い手が
食料と地域を守る

 大規模化でコメの生産コストを9500円(60キロ)に下げるというのは空論だ。北海道のように1区画6ヘクタールという所もあるが、中山間地の多い日本では1区画の規模拡大は容易ではない。しかも、規模拡大でコストが下がるのは15~20ヘクタールが限界。
 例えば、北海道でも集約化が進みさらに大規模化すれば、人口は減少し、コミュニティーは維持できなくなる。とくに稲作は水路やあぜ道の管理が必要だ。農業生産も維持できて、みんなの暮らしが守れることが地域社会の維持には必要だが、改正基本法や基本計画では、コミュニティーはまったく考慮されていない。大規模化できない条件不利地域は非効率だ、無理に維持する必要はないという暴論が強まっている。
 この方向は日本農業と地域の崩壊を加速する。参議院選挙ではかなり地殻変動も起きるかもしれない。
 現場の実態からかけ離れた「大規模化でコスト削減、スマート農業、輸出拡大」論がステレオタイプのように繰り返されている。議論を抜本的に変えるにはどうしたらいいか、規模に関係なく農業者を支援し、自給率を向上させ、国民の食料を確保するためにどうしたらよいか。地域の状況を知っている自治体議員連盟の皆さんに取り組んでいただきたいと思う。

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