西田発言は戦争準備の一環
沖縄は島ぐるみで抵抗態勢の再構築を
仲里 利信 さん(元沖縄県議会議長・自民党、元衆議院議員)
に聞く
教科書検定と重なる
西田発言
西田昌司参議院議員は5月3日、沖縄で行われた改憲シンポジウムで「ひめゆりの塔の展示は歴史を書き換えている」と主張した。これは意識的な発言で、絶対に許せません。「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝が2007年の教科書検定のときにも同じようなことを言っていましたね。
当時を振り返ってみると、06年9月に第一次安倍内閣が発足し、歴史修正主義者と一緒に教科書内容に介入してきました。そして高校歴史教科書検定で沖縄戦の「集団自決」に関する記述に検定意見がつき、日本軍の「強制」や「関与」の表現が削除されたんです。ちょうど僕は、この年6月に沖縄県議会議長になっていますので、「これはただごとじゃない」と心配したわけです。
12年には第二次安倍内閣が発足し、13年に麻生太郎が「安倍君、ヒトラーに学べ」と言ったんですよ。これは間違いなく戦前回帰で、ヒトラーのやり方をやろうとしているなと感じましたね。ドイツもワイマール憲法という平和憲法があったが、閣議決定とかで全部変えていった。そのやり方とそっくりなんです。
そして再び今、西田発言が出てきた。国は住民を犠牲にしても国体護持が最優先なんです。そういう考えを今からでも徹底しようという、そういう流れだと思います。最近は宮古や八重山への自衛隊の増強が進んでおり、僕のところでも、ものすごい轟音を立てて戦闘機が飛んでいますよ。国が再び戦争の準備をしようとしていることに、強い危機感をもちます。
教科書検定で示した
県民の意思
僕は戦争体験者です。沖縄戦の時は8歳でした。父親の利吉は国民学校の教員でしたが、召集されて陸軍に従軍していました。その父親が1945年2月の夜、軍を抜け出して家族に「戦争で南部は全滅するから山原に逃げろ」と伝えてくれたんです。夜中に起こされた僕たちは、山原に向けて逃げました。
軍隊に戻った父親は33歳の若さで、与座のガマで自決しました。厳格な父親が軍規に背いてまで家族に伝えたのは、生き延びて、自分の分まで自由に生きてほしいという思いがあったからだと思うんです。父親を失ったことと戦後の苦しい生活を経験したことが、政治家としての僕の原点になっていると思っています。
実は当時自民党だった私がこの戦争体験を県議会で語ったことが、ひとつのきっかけになって、2007年の教科書検定意見撤回を求めた島ぐるみの県民大会が実現しています。
それをお話しすると、教科書検定問題で県議会の意見をまとめるための折衷案として、委員会で戦争体験者の聞き取りをしようということになったんです。自民党、当時の与党系は「戦争体験はグソー(あの世)にもっていく」と言うんで、聞き取りできなかったんです。そこで「5分でいいから僕にしゃべらせてくれんか」と言って、僕は戦争体験を話しました。それで共産党もたちどころに「わかった! いっしょにやろうじゃないか」となった。
しどろもどろだったのが自民党の連中です。本会議で検定意見撤回を求める意見書の採決になったとき、「反対する人は反対していいよ。退場してもいいが全会一致をやりたい」と申し入れたら、欠席・退場者が出たうえで全会一致になりました。それをもって「オール沖縄」という言葉を使ったんですけれども、実際はモーレツに反対した自民党県議が4人もいたんです。
僕は自民党仲間の反対を押し切って、県民大会の実行委員長を引き受けました。県民大会には予想を超える11万6000人もの県民が参加して沖縄県民の思いを伝えた。結果として国は検定意見は撤回しないものの、出版社の訂正申請を承認する形で「強制性」の記述が復活したんですね。
若い人のパワーに期待する
教科書で歴史の事実が削られただけで、あれだけ多くの人が必死になって集まった。今回の問題はこんなものじゃ済まないですよ。あの当時心配していた「戦争前夜」が現実になってきている中での西田発言ですから。ひめゆり学徒隊の悲惨な体験は消し去ることのできない事実なんですから、黙ってはいけない。自由がなかったあの「戦前」に戻ることはあってはならないんです。
西田発言への抗議をぜひやらんといかんが、どうやって進めたらいいのか。
オール沖縄はお山の大将がいつのまにかどんどんできてきた。今年が分岐点だと思う。2012年のオスプレイ配備反対の県民集会、翌13年の辺野古新基地建設の断念など3項目を求めた建白書など、故翁長雄志さんのリーダーシップでつくられたオール沖縄の流れは完全になくなりかけている。
玉城デニー知事与党の皆さんがどう結束できるだろうか、焦りながらずっと考えています。何かせないかんですよ。
大きな県民大会をもちましょうや。この問題は保守とか革新とか関係ない、沖縄の問題です。
国連人種差別撤廃委員会は日本政府に対して、「沖縄の人々は先住民」だとしてその権利を保護するように勧告しています。沖縄は蔑視されているんですよ。それを自覚、知らしめるためには若い人が立ち上がらないと。年寄りの皆さんは慣れっこになっていて、無理するよりも国とのパイプでお金をもらってぬくぬくとするほうがいいんじゃないかみたいになっている。
国のやっていることをまともに受けたらいかん。必ず何か裏がある。なんでそうなるのか調べると、本音はこれだということがわかるんです。
例えば米軍基地で迷惑をかけているから沖縄振興予算があるとみんな考えているんでしょうが、とんでもない。県民の意思に反して那覇空港第二滑走路を勝手につくってしまう。当時の仲井真知事に辺野古をつくってもらいたいというので予算をつけたんです。
アメリカも沖縄に基地を置くことで経済的利益を得ている。嘉手納基地の経済効果は原子力空母の4~5隻に匹敵するという話もある。沖縄振興予算ではなく、安保協力費で、それを堂々と請求してはどうか。今のトランプのやり方からいうと、日米安保解消が近々あるかもしれんですよ。
本当の
沖縄琉球の声を国政に!
この際、琉球党でもいいし、沖縄党でもいいし、つくってね、本当の沖縄、琉球の声を、国政に、あるいは世界に発信する。場合によっては独立を目指すということぐらい進まんといかんのじゃないの。そうするためには若いパワーが必要なんです。
沖縄の自民党は国に盾突くと良いことはないと思っているけれども、僕は違う。沖縄は属国扱いされている。自民党は僕を2013年に除名したが、彼らは安倍自民党、僕は琉球沖縄自民党なんです。
戦後ずっと地域政党で沖縄社会大衆党(社大党)があった。琉球沖縄の伝統をもつ社大党は改名して、みんなで力を合わせて琉球沖縄党というのをつくるなりして、参議院でも衆議院でも比例代表などを狙ってやれば通るんじゃないの。みんな支持するんじゃないか。沖縄にルーツをもつ人は全国に500万人いるそうだ。何党ということじゃなくて県民代表ということで堂々とものを言う勢力、政治家、政党が今こそ欲しい。
(文責編集部)