シンポジウムを終えて 羽場 久美子

沖縄と世界を、未来に向けて対話と交流でつなごう!

青山学院大学名誉教授 羽場 久美子

 今回「沖縄を平和のハブに!」シンポジウムを2023年6月24日、「沖縄慰霊の日」の翌日に、昨年22年8月に続いて行うことができました。日にちもとても良かった。ぜひ来年からもこの日につないでいきたいと思います。皆さま、ありがとうござました。
 まず、今回の成果と課題を、3点簡潔に述べたいと思います。


 ひとつは「境界線」とは、分断するものではなく、つなぐものであるという認識です。沖縄の美しい島々から海を越えて、また、日本全国から、そして中国や台湾から人々がやってくるなかで、それを痛感しました。
 二つ目は、「ダイバーシティー(多様性)」ということです。エイサーやカチャーシー、それから沖縄しまことばを聞くなかで、「標準化」でなく、豊かな文化の多様性を開きつなぐことがこんなに素晴らしいことなのかと、感動をもって実感しました。
 三つ目は、若者たちのエネルギーと、未来につなぐ平和と希望ということです。若者のパネルで宮古島の高校生や石垣の方などが、素晴らしい社会意識、政治感覚、政治意識をもって参加し発言してくれました。
 沖縄を平和のハブ!は実現できる、ここにこそ、東アジアの国連を持ってくることができる、と痛感しました。
 もう少し述べて来年に向けての指針としたいと思います。
 第1は、「境界線(ボーダー)」は、「分断するもの」ではなく、「つなぐもの」である、ということ。
 これは欧州の地中海と同様、沖縄という美しく、豊かで、かつおおらかな地で、国境も、1300㎞という海も、人々を分断するのではない。琉球・沖縄は、歴史的にも文化的にも、そして社会的にも、大陸と東南アジアの島々、そして日本列島や朝鮮半島とを昔も今も、つないできた、という事実を認識できたということです。
 欧州古代史では、海は、分断するものではなく、つなぐもの、という言い方をします。
 とりわけローマ帝国の時代、むしろアフリカ大陸のエジプトの方がより豊かな文明をもっている時代に、ヨーロッパは南に憧れと尊敬をもって、地中海を行き来してきました。
 欧州建国神話で「ヨーロッパ(エウロペ)」という言葉が、フェニキア(今のレバノン)の美しい王女を指し、それを白い牡牛に姿を変えたゼウスが背中に乗せて欧州に連れて帰ったように、海は分断ではなく憧れと希望をもってつなぐものだった。それを今回、沖縄に見るような気がしました。
 境界線にミサイルを配備して隣国を敵視したり、フェンスや壁を築いて人の移動を分断したりするという、現代米欧の軍事的な思考がいかに歴史にも学ばず未来にも希望をもたせない行為であるか。それを、沖縄に強いることが、いかに歴史と時代に反しているか、決して許してはならないということをまざまざと感じました。
 二つ目は、その結果としての、ダイバーシティー、多文化共生、多民族共存共栄ということです。ダイバーシティーとは、別の言葉で言えば、「寛容」とか「和解」ということでしょう。
 沖縄の美しさ、おおらかさは、大陸の文化も思想も、遠い東南アジアの(と言っても沖縄にとっては、東京より近いということに愕然としましたが)習慣や音楽も、日本とも明らかに異なり、すべての違いを飲み込み、悲惨な歴史も乗り越えて「和解」でつなぐという素晴らしさを痛感しました。やはり沖縄という地においてこそ、上海、北京や台湾、韓国や時に北朝鮮、東南アジアの国々、そして日本を結ぶことができると確信しました。
 ここでこそ、大変難しいことではあるけれども、安保3文書や防衛費の倍増という日本の危険な選択を超えて、長期的な視点で、かつ展望をもって、多様な思想を容認し共存する「東の国連」をつくることができるのではないか、と強く感じました。
 3番目は、若者たちの参加と未来に向けての希望と確信です。
 運動は「老若男女」であるべきで、高齢者を排すべきとは思いません。しかし現実に、ウクライナに武器を送ることを積極的に支持し、停戦を訴える人たちを「お花畑」と言って叩くのが今や若者・中堅の人々です。平和と未来のために、若者たちとどう積極的に共同していくか、考えなければならない最重要課題だと考えます。
 そうしたなかで、今回若者たちのコーナーが設けられ、高校生から20代、30代の方々が、現状を憂い、人権と平和と、安定した社会発展やおいしいモノづくり、環境の維持や近隣国とのネットワークに心を砕いているのを見ることは、言葉に表せないほどの感動を生むものでしたし、これは続けていける、5年から10年後には生活・文化・社会・安全保障を含む、体制も思想も異なる国々や地域との対話を構築し東アジアの国際機関を持ってくることが必ずできる、と確信しました。
 日本は若者を育てる、ということを大変軽視しています。また企業が、大学の学問は何の役にも立たないと今や大学1年から就職活動ができるようになり青田買いを繰り返しているのにも危機感を覚えます。今日本の若者に必要なのは、社会参加と哲学、人とつながっているという実感だと思います。

今後に向けての課題

 最後に、来年とその後に向けての課題と目標を明確にしておきたいと思います。
 アメリカが「6年以内に中国は台湾に戦争を仕掛ける」と言い続けているということは、アメリカ自身が本当にそうしようと思っているからでしょう。6年というのは中国がアメリカのGDPを抜くと言われる年でもあります。ウクライナもそうでしたが、アメリカが「戦争が起こる」と言ったら起こる可能性が高いということを本気で考えて対応する必要があります。
 戦争をさせないために、沖縄に続き全国の自治体でアジア近隣諸国との自治体外交をそれぞれ活発化させること、また、ミサイル配備や戦争準備の自衛隊地下司令部建設などをさせないことが重要です。
 もう一つは、若者を運動の中心にすることを本気で真剣にかつ短期間でやらないといけないということ。これが極めて大切なのだと思います。
 沖縄では若者たちが、議会で、平和運動で、環境問題で、平和のハブづくりに、力を注いでいます。この影響を本土にも広げていくのは私たちの仕事です。そのために沖縄の若者たちも積極的に本土に来てもらって発信してもらいたいと思います。
 また、ヨーロッパには「欧州文化都市」という都市交流があり、毎年、選ばれた都市で若者や文化を中心として大々的なイベントを繰り広げます。実は東アジアでも「東アジア文化都市」が鳩山政権の時に日中韓で構想され、チェジュ島や横浜などで行われました。ぜひ「東アジア文化都市」を再建し、沖縄で、台湾で、朝鮮半島でも行われていけば、境界線をつなぐもの、としての文化、音楽、芸術、若者の交流が活発化していくでしょう。
 「沖縄を平和のハブに!」を、まずは5年、そして10年続け、その間に首里城に東アジアの国連を、ミサイルでなくて対話と交流を、を目標に、ぜひ頑張っていきましょう!
 沖縄と、日本全国、また中国、朝鮮半島、ASEAN、そしてインドとの共同をめざし、若者を先頭に、未来に向かって、これからも力の限り羽ばたいていきましょう!