沖縄の先島諸島からの避難計画

 避難計画   私たちの島
〝だれもいない場所〟になってしまうのか

石垣市議会議員 花谷 史郎

 今年3月27日、政府は沖縄の先島諸島からの避難計画をまとめ、公表しました。約12万人を6日程度で九州と山口県の32自治体へ避難させるものです。民間フェリー、海上保安庁や自衛隊が確保した船、航空機などを使って、1日およそ2万人を輸送する計画となっています。
 避難の対象となる「約12万人」は石垣市、宮古島市、竹富町、与那国町、多良間村など先島諸島の全住民が含まれる、いわゆる「全島避難」を目的としています。計画が完遂されれば、私たちのふるさとは住民が一人もいない島になってしまうことになります。
 政府は、この避難計画について「特定の事態を想定していない」としていますが、中国が台湾へ武力侵攻するという「台湾有事」を想定していることは明らかです。
 中国と台湾を舞台にした国外の問題に備え、私たちが、故郷やこれまでの生活を捨てて避難しなければならない理由は何なのでしょうか? 政府の発表する避難計画のニュースを見ながら改めて疑問を抱きました。

避難計画は現実的か

 石垣市議会では、令和4(2022)年12月に「石垣市国民保護計画等有事に関する調査特別委員会」が設置され、住民避難について約1年の期間をかけ議論してきました。石垣市の防災危機管理を担当する職員からの聞き取りや、石垣市や政府が公表する国民保護計画を読み込みながら、感じたのは「避難する際の状況が明確ではなく、避難後の住民の生活や補償等も不明である」ということです。
 国民保護法によると、有事の際に避難が開始されるのは、実際に攻撃を受けているか攻撃を受けることが予測される事態とされています。今にもミサイルが飛んでくるかもしれない、そのような状況で主な避難手段とされる民間の航空会社が協力してくれるのでしょうか。
 同様に、空港や港まで避難誘導してくれるはずの市役所職員は、ミサイル等の攻撃がされている(または攻撃されそうな)状況で最後まで島に残り業務に徹してくれるのか。地方公務員にどこまでその義務を求めることができるのでしょうか。
 また、避難時に携帯できる荷物は、リュックサック一つ程度とされ、放棄した財産は補償されるのか不明です。住民が避難をためらう要因となることも考えられます。
 これらの状況が解消されない限り、避難計画は絵に描いた餅に終わるでしょう。
 先日、伊波洋一参議院議員の国政報告会で、避難計画について「昨年の地方自治法改正による避難指示が適用されるのではないか」という意見を聞き、ハッとさせられました。私自身、地方自治法の改正は、日本における民主主義の逆行であるように感じていましたが、「戦争準備と結びついているのかもしれない」と考えたときには背筋が凍る思いでした。
 いずれにしても、海を隔てた離島からの避難は容易ではありません。

いつ避難が終わるのか

 これまで避難期間は1カ月程度と想定されていましたが、その根拠が示されておらず、なぜ「1カ月」と限定するのか疑問でした。
 それが今回、林官房長官がメディアに出したコメントによって、避難生活が「1カ月」で終わることはないのだと痛感させられました。
 林官房長官コメントは、「今後は避難期間が1カ月を超える場合の就学の再開や就労支援、中長期の宿泊施設の提供や、要配慮者の受け入れ調整などについて検討を進め、令和8年度までの基本要領の策定に向け、より包括的で実効的な内容となるよう努めたい」。
 このように長期にわたる避難がすでに想定され、避難先での就学や就労も考えられており、どうやら一時的な避難では済みそうもないことがうかがえます。仮に、事前の避難計画がうまくいったとして、避難が解除される時期はいつになるのか見当もつきません。
 戦争が始まったら、いつ終わるのか誰にもわかりません。現在も続く「ロシア・ウクライナ戦争」が、ここまで長期化することをほとんどの人が予想できなかったように、戦争は誰かが終結時期を容易に予想したり、コントロールできたりするものでないことは明白です。
 また、戦争が始まらなかったとしても、避難解除の時期を誰がいつ判断するのでしょうか。
 全住民が避難しなければならなかったような島に、観光客はまた来てくれるでしょうか。
 遠く離れた場所で新たな学校に通い、これまでと違う仕事に就き、長期の避難生活を強いられた私たちは、いつの日か、今と変わらない姿のふるさとを取り戻すことができるでしょうか?
 日本が戦争に参加するということは、すべての日本人に深く関係することであり、全国民が自分ごととして真剣に考えなければならないことです。戦争に巻き込まれなかったとしても、全島避難によって私たち先島諸島の住民はすべてを失うかもしれません。

「台湾有事」を
回避できるか?

 石垣島に自衛隊駐屯地が開設されて以降、私は相手国とされる中国を知るために自分なりに行動してきました。その結果、現在まで、プライベートも含めて4回の中国訪問を実現することができました。
 本稿の最後に、日中両国の有識者、中国の一般市民との交流の中で得られた感触の一部を共有したいと思います。
 「台湾有事」は、現時点でアメリカと中国による経済戦争の行きつく先ともいえます。台湾を中国の一部とするかどうかは、中国の内政問題であるという論調がある一方で、アメリカがそこに介入するそぶりを見せつつ外交カードとして利用しているのが大きな構図であるといえます。
 このような大国の勢力同士の争いに、憲法の解釈を変えてまで日本が加わる必要があるのか、多くの人に考えてほしいと思います。

中国訪問を通して考える

 日本国内では尖閣諸島の問題に加え、中国が沖縄に侵攻してくる等の陰謀レベルの言説まで混同されています。しかし、多く中国人の反応はおおむね以下の2点で共通しています。
 ①尖閣諸島の問題は確かにあるが、戦争になるようなものではない
 ②沖縄を侵攻、侵略することなどあり得ない、そもそも中国にメリットがない
 尖閣諸島については、問題を認識しつつも台湾問題のように中国にとって軍事的手段をとるほどの死活問題として捉えられていません。
 また、「沖縄侵攻」については一笑に付されるレベルです。合理主義の中国人にとっては「侵攻する理由もメリットも思いつかない」といった反応です。
 近いようで、遠い存在となってしまった中国という隣国。
 膨大な情報があふれる現代社会の中で台湾有事を回避するためにも、自分自身が陰謀論などに惑わされずに現状を見極める力を持っていたいと思います。
 多くの人が近隣諸国の実態を学び、できればその国を訪れて友好を深めてほしいです。そういった草の根的な行動が、求められている時代ではないでしょうか。
 そして、何より自分の住む日本という国の政治がどういう状況で、今後どうしていくべきかを真剣に考えていきませんか? それが民主主義を謳う国に生きる者のすべきことだから。