年金で生きながらえるコメ作農業は限界

若者が農業を発展させる日本へ

農地を守る営農体に国費投入

宍粟市議会議員(兵庫県) 今井 和夫

 特に中山間地域における農地・農村の現状・原因と、当面なすべきことについて書かせてもらいます。

1 中山間地における農地担い手の変遷

 まず、中山間地における、戦後の農家の変遷を簡単にまとめてみます。(戦前までは、地主と小作人でした。そして、農地解放で自作農になりました)
① 農業機械が入ってくるまで【自給農家】(1955年ごろまで?)
 食料、家、橋、公民館……みな自給、自給経済。三反百姓。平野部も中山間部も牛で鋤いて手作業なので、生産性にそれほど差はなかった。
② 高度成長期【兼業農家】
 機械化になり労働力が余る。それを求めて町工場が来る。生活費は兼業で賄いコメ価格は下がる。(平野部は大規模化、生産性に格差)
③ 現在に至る【年金農家】
 町工場、土建業等の兼業がなくなる。あっても今の若者は安い給料では働かない。コメ作でも暮らしていけないので若者は村を出る。後継者なし。兼業農家がそのまま年金農家に。

2 今の農政が続けば中山間地は一気に耕作放棄となり集落は崩壊する

 だいたい上記が、中山間地における戦後の大まかな流れでしょう。その結果、下記表のように、今、農地を守っている者はほとんどが年金生活者ということです。それは、数年後にはほとんどの農地が放棄されるとほぼ同義であり、それは、集落としても事実上崩壊していくということです。「今の農政が続くと5~15年後には中山間地域は事実上崩壊する」この認識をまず持っていただきたい。

基幹的農業従事者数の年齢構成 (2022年)

  実数(万人) 割合(%)
29歳以下 1.4 1
30〜39  4.7 4
40〜49 7.9 6
50〜59 11.2 9
60〜69 27.9 23
70歳以上 69.5 57
合計 122.6 100

 出典:農林水産省「農業構造動態調査」

 よく、「コメ農家の年収は1万円。だから続くわけがない」と言われたりします。厳密には、「年金農家だから年収1万円でも続いてきた。しかし、その後がない。一気に終わる」ということです。

3 生産現場からの情報発信がなかったのでは

 では、どうするか。それは、所得補償・価格補償等で小規模のコメ農家でも専業で暮らしていける仕組みを作るしかない。そして、野党はおおむね、与党でも人によってはそれを主張してくれています。しかし、どうもその金額が実態とかけ離れている。だから、農業者にも響かない。「そんな金額では息子に帰って来いとは言えない……」
 そうなのですが、では今まで、生産現場の方から、「所得補償は○○円は必要だ」「コメ60‌kg○○円でないと生活できない」といった発信があったでしょうか。実は、ほとんどなかったのではないでしょうか。なぜなら、兼業・年金農家には必要がなかったからです。
 国も、兼業農家や年金農家に聞いて必要な生産費を出しています。だから、人件費は非常に少額で計算されています。そもそも、小規模で専業農家は今の農政では成り立たないので、聞く相手がいないのです。

4 現場の状況、正確な必要価格等を提示するのは現場の責任

 地方・田舎・農村は、自分たちだけでは生きていけません。都会とつながり都会の人の食料を作り、お互いの信頼関係の中でしか地方は続かない。
 ならば、生産現場の状況を国民にしっかり発信することは、現場自治体、JA、生産者の責任ではないでしょうか。
 マスコミも「日本農業の問題点は生産者の高齢化」とはよく言いますが、なぜ高齢化になるのか?は追求されません。ともすれば、若者は農業をするのがイヤだ、とでも思っているような報道もあります。機械化、スマート化すれば解決するかのような……。
 だから、現場の実情をしっかり伝えること。どうして耕作放棄するのか、どうして後継者がいないのか、まず、それをしっかり伝えることが、現場の、地方自治体、JAの一番の仕事ではないかと思います。
 それを伝えずして、黙って耕作放棄していくのは、ある意味、無責任ではないでしょうか。農地は個人のものですが広く先祖からの預かり物なのです。

5 あとは国民の判断

 逆に言えば、それさえきちんと提示することができれば、おのずとあとどれくらいの補塡が必要なのかが誰の目にも分かります。あとは、国民が考えるしかないです。
 それは、①足らずは税金で補塡する、②消費者が個別に負担する、③そのような高い地域は捨ててカリフォルニア米を輸入する。およそ、この三択でしょう。論ずるまでもないと普通は思いますが、現状は確実に③カリフォルニア米への道を進んでいます。国土の7割を占める中山間地を捨てる方向です。
 ちなみにカリフォルニア米が安いのは、大規模だからではなくアメリカ政府がしっかり農家に所得を補塡しているから安く出せるのです。つまり、アメリカ人の税金でわれわれは安く食べさせてもらうということなのです。
 だから、このような間違った判断に至らないためにも、現場の正しい情報をしっかり発信することが、今、何より大事なのではと思います。
 私は、この9月議会でこのことを提案し、市は今年度中をメドにわが市の生産現場においての本来の適正な生産原価を出して広報する方針を出してくれました。
 これはぜひ、皆さんの市町でも取り組んでもらいたいです。普通に考えると、このデータが出てきて、それ以下の値段で流通していれば後継者ができないのは明白で、誰の目にも原因が明らかになると思います。

6 所得補償ではなく雇用保障

 さて、いよいよ総選挙となりました。相変わらず自民党は「農地の大区画化で生産費を削減し輸出拡大」等を言っています。石破さん、話が違うじゃないですか?!
 一方、野党(一部の与党も)はおおむね戸別所得補償の導入は言われています。それは一定の前進かと思いますが、今の日本の農家の大半は年金農家です。そこに所得補償をすれば、コメ価格は暴落してしまいます。所得補償が必要なのは、年金をもらうまでの農業者です。そこに言及する党はないのではないでしょうか。
 そういう意味で、私は、今、日本に必要な農政は、農地を守るコメ・麦・大豆作りを担う営農体を作り、そこに若者を雇用し、その雇用を保障するための補助金を国が出すというシステムではないかと思います。戸別所得補償で年金受給者は除外するというやり方は現実には難しいですし、また、ほとんどの若者は農業をしたことがなく、安定した雇用を保障しなければなかなか就農しないのではと思います。
 その意味で、究極、公務員として雇い農業に従事するという方法が出てくるわけです。
 以上、現状と当面なすべきことを書かせていただきました。ぜひ、皆さんのところでも取り組んでみていただければと思います。

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