沖縄県議選の結果を受けて

「負けに不思議の負けなし」

沖縄県那覇市 安慶名 雅志(仮名)

 第14回沖縄県議会議員選挙(定数48)が6月16日、投開票された。玉城デニー県政与党は議席を後退させ、自民党など県政野党が過半数を獲得した。
 改選前は共産党や立憲民主党、社民党、沖縄社会大衆党など県政与党勢力が24議席、自公、維新など野党勢力が24議席(議長含む)と拮抗していたが、知事与党は20議席と改選前に比べて4議席も減らした。一方、自民党は公認候補20人を全員当選させ、公明党も議席を倍増させた。
 この間、本土を中心とした地方選では長引く諸物価高騰による住民生活の悪化とそれに相まって自民党の裏金問題が多くの国民の不信を買い、自公が推す候補者が敗退するケースが多く見られた、また4月の衆院3補選でも自公の推す候補が落選、あるいは不戦敗に追い込まれ、すべて立憲民主党が議席を制していた。
 それだけに、今回の県議選の結果は県内外で大きな驚きをもって受け止められた。

悪化する県民生活の
下での選挙戦

 今回の県議選は2期目を務めている玉城知事に対する「中間評価」と位置づけられていた。
 そして、物価高騰対策や名護市辺野古への新基地建設への姿勢、南西諸島における「中国脅威」を口実とした自衛隊の増強、本島における自衛隊および米軍基地機能の強化などが争点とされるべきであった。
 沖縄県が今年1月に発表した県内消費者物価指数(生鮮食品を除く)の平均は前年比3・6%増の106・1(20年=100)だった。第2次オイルショック末期の1981年の4・8%に次ぐ伸び幅で、42年ぶりの水準。上昇は2・5%だった2022年から2年連続だ。
 23年の全国平均は、前年比3・1%上昇の105・2であり、それを上回る数字だ。
 また、23年の県内の5人以上事業所における実質賃金指数(2020年=100)はデータのある05年以降、過去最低だった14年の94・1を下回る90・1。実質賃金は前年比5・5%減少し、1年間の下げ幅も過去最大となった。
 最低賃金は896円。全国平均は1004円だ。
 沖縄県は、先の大戦で地上戦が展開され、その復興なきまま、広大な土地が米軍によって占有された。その結果、在日米軍基地のおよそ70%以上が集中、製造業や農業の生産基盤が育つ土壌が失われ続けている。その上、島しょ県であるがゆえに生活物資、燃料などエネルギーも県外からの移入が多く、それが製品価格に反映、県民生活を直撃している。
 こうした傾向は復帰50年を経たなかでも何ら変わらないどころか、いっそう強まっていた。
 また「子どもの貧困」問題をめぐっては翁長前県政の下で、「子どもの貧困実態調査」が実施され、沖縄県の子どもの貧困率が全国の2倍という実態も明らかになっていた。有権者の「県政に最も期待する政策」でも一番目に「景気・雇用」が挙がり、「教育・子育て・子どもの貧困対策」と続いている(NHKによる出口調査)。
 いずれにせよ、県民生活の未曽有の危機が進行するなかでの県議選であった。

自民の「経済」前面が奏功

 県政野党である自民党は「物価高騰対策」「賃上げの促進」、そしてとりわけ「地域振興」を前面に掲げた選挙戦を展開した。そして、重点区を設定、従来の企業、団体挙げての組織選挙を県内外でいっそう強化、告示直前に沖縄入りした小渕優子選挙対策委員長が県内経済団体幹部と面談し、支援を呼びかけた。「これほど自民党が回ってきた選挙はない」(県内中小企業関係者)との声も聞く。また「自民増 県内外70社支援」「候補者が知らないところで票が動いた」(「沖縄タイムス」)と報じられたほどであった。総じて、県政野党勢力は「国との強いパイプ」を強調、「経済に強い自民党」のイメージづくりに成功した。一方で、辺野古新基地建設などについては一切口を閉ざし、「争点隠し」に終始した。
 組織戦という観点だけで見れば、県政与党は一部の選挙区で候補者調整が不調に終わり、共倒れとなった。その他の選挙区でも調整ないまま選挙戦に突入、議席を後退させるなど、弱点があらわとなった。またこの間の本土の地方選などにおける自公、岸田政権に対する国民の根強い反発がそのまま県議選に反映するとの「願望」が先行したきらいも指摘される。ある国政野党幹部が県議選の支援で演説したが、「裏金問題しか言わなかった」(県内労組関係者)と評されるほどである。
 その一方で、勝ち上がった県政与党候補者は自民党の攻勢に危機感をもちながら、楽観視せず、日常活動を積み重ね、自力で選挙戦を闘い抜いたように見えた。

過去最低の投票率

 また、今回の県議選で特徴的なのは歴史的な低投票率である。投票率は過去最低の45・26%であった。コロナ禍中であった前回さえをも1・7ポイント下回る結果となった。
 これは総じて県政与野党ともに、有権者を投票所へ足を運ばせることができなかったということだ(もっとも、自公などにはこの低投票率が有利に働いたわけだが)。
 争点がかみ合わぬ選挙戦、そして「裏金」問題などがここまで噴出すると、もはや与野党、保革超えた「政党不信」「政治不信」が渦巻いていると言えるのではないか。与野党問わず、このことに向かい合わなくてはいけないだろう。

県民生活に光当てる政策打ち出せ

 ある県内元政界関係者が今回の県議選を受けて、「県政与党は国政レベルでは野党的立場だが、県民からみれば10年県政を任せられている権力者側の立場。結果を求められるし、その結果をキチンと伝えなくてはならない」と指摘している。
 玉城デニー知事は県内中学校における給食費の無償化を打ち出すなど、困窮化する県民生活に対する施策を強力に推し進めようとしている。また、自己負担なし(現物給付)で医療サービスを受けることができる年齢を中学校卒業まで拡大するなど、困窮化する県民生活を支える施策を着実に実施してきた。
 だが、今年10月からの水道料金値上げや、補助金の申請漏れといった不適正な会計処理が相次ぐなど、県民生活重視の玉城県政の施策がかき消されてしまうような事態も起きていた。水道料金値上げについても値上げの48%が国の一括交付金の減額に起因するものであり、第一義的には国の責任である。
 今回の県議選の結果とは裏腹に、玉城県政そのものを評価する声はNHKなどの出口調査では7割に達するなど高い数字を保っている。辺野古新基地建設をめぐっても「反対」の声が多数だ。
 県政与党勢力はこのことに自信をもちながら、片やその一方で、県民生活、地域振興により光を当てた施策を打ち出すことができれば、活路を切り開けると思う。

見逃せぬ「中国脅威論」の影響

 また今回の選挙結果を見る上で注意しなければいけないと思うのは、この間進められてきた南西諸島における自衛隊増強、本島における基地機能強化の口実とされている「中国脅威論」に対する向き合い方である。
 岸田政権による安保3文書改定、防衛費増額、そして4月の日米首脳会談では「防衛力の抜本的強化」が謳われた。そして、「台湾有事」を想定した中国への軍事、経済両面での封じ込め策で合意に至った。
 それに伴い、県内でも「中国脅威論」が煽られ、それが一定浸透していることも指摘されている。
 昨年6月にはある研究グループの世論調査が発表された。それによると、「日米安保体制強化を望む」と回答した割合が18~34歳の49%、35~49歳で43%にまで及んだ。そして、「中国の軍事力増強は日本にとって安全保障上の脅威」は賛同81%、反対6%という数字だ。「朝日新聞」の調査でも自衛隊の「南西シフト」について一昨年の復帰50年に実施した調査では57%が「評価する」と回答している。こうした傾向は若い世代に顕著に表れている。
 とりわけ、尖閣諸島を抱え、そして台湾海峡を目の前にした沖縄県では「中国脅威論」の影響はより強い。
 中央政界における野党(県政与党)も「日米同盟重視」で岸田政権と歩調を合わせ、「中国脅威論」に唱和している状況である。その点で野党第1党である立憲民主党などの責任は大きいと指摘せざるを得ない。

「平和あっての経済」―「地域外交」の発展こそ活路

 こうした状況の下、玉城県政は「地域外交」を強化・発展させ、中国との交流を通じて、東アジア地域における緊張関係の解消と経済関係の強化による県経済の繁栄に踏み出そうとしている。
 かつて大田県政時代に「国際都市形成整備構想」が打ち出された。「平和」「共生」「自立」を基本理念とし、沖縄の地理的優位性、自然的特性、アジアとの交流など歴史的蓄積を生かし、アジア・太平洋諸国と提携・協力を強化することで自立的な発展を図るというものだ。この基本的精神は今こそ光り輝いている。
 まさに日米両政府が煽り立てる「台湾有事」策動への対抗軸として、今日版の「構想」が求められている。ぜひとも多くの識者、学者、政治家、行政関係者にその努力を求めたい。
 そして、この間、「沖縄を再び戦場にするな」「沖縄を東アジアの平和のハブに」「対話・交流を通じて平和発展を」と求める県民運動も大きく広がっている。また県議選でも、こうした県民運動の担い手や同じ思いをもつ女性たちが新たな県議となった。大いに期待したい。
 この県議選終了後には米兵による相次ぐ女性暴行事件が明るみとなった。昨年12月には米軍嘉手納基地所属の米兵が、16歳未満の少女をわいせつ目的で誘拐し、性的暴行を加え、今年5月には米海兵隊員が本島内の建物で女性に性的暴行を働いた。そして、岸田政権は報告を受けていたにもかかわらず、県へ伝えることなく隠蔽を図ってきたことが暴露された。このことが明るみとなっていれば、県議選の結果は違っていたであろう。
 米軍が決して、「中国の脅威から沖縄を守る『よき隣人』」などではなく、県民の尊厳、命や暮らしを脅かし、県経済の発展にも障害となっているのはもはや明らかだ。
 県議会は7月10日に「相次ぐ米軍構成員等による女性への性的暴行事件に関する」決議と意見書を採択した。超党派による「県民大会」の開催も追求されている。
 県議選の結果は県政与党に痛手となったが、日米両政府との闘いが余儀なくされている状況に変わりはない。困窮化する県民生活への対応も待ったなしである。
 「沖縄タイムス」で「負けに不思議の負けなし」との記者によるコラムがあったが、今回の県議選、今一度よく総括する必要があると思う。

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