中国を訪問して

600年の歴史もつ沖縄の使命を実感

交流積み重ね戦争を避けよう

沖縄県副知事 照屋 義実

墓地遺跡で祈りを捧げる筆者(前列)

 玉城県政が6年目を迎え、今年度から平和・地域外交推進課を設置し、地域外交を本格的にスタートさせました。助走期間の昨年、知事はフィリピン、シンガポール、中国、ハワイ、台湾を訪問。私は韓国・済州の平和フォーラムに参加しました。
 今回の日本国際貿易促進協会(河野洋平会長)の7月訪中団に参加させていただき中国を訪問することができましたが、沖縄の地域的、歴史的な状況を踏まえて、平和のために果たす役割が大きいことを改めて実感しました。

いにしえに誇りとロマン

 沖縄の歴史的な特性としては中国との600年にわたる交流があります。
 今回中国に行って最初に、北京の琉球国墓地遺跡にも墓参しました。中国も保存に動いてくれており、亡くなった琉球人は17人であることが調査でわかってきています。歴史の掘り起こしが進められており、沖縄の人間からすると非常にありがたい。先人たちが福建を経由して、北京まで来たんだと。非常にロマンを感じましたね。
 北京の国士監に入って勉強した留学生もいました(中国における隋代以降の最高学府。北京のそれは明清朝時代のもの)。琉球国はおそらく特別な扱いを受けていたんでしょうね。北京故宮博物院には琉球国の記録が残されています。中国とこれだけの外交記録を残した琉球王国の知恵がすごい。いにしえの先人たちの思いをたどる貴重な記録です。歴史に誇りがもてることを改めて感じました。

中国のめざましい進化

 訪中団のメインは河野会長と何立峰副首相との会談でした。
 さらに中国商務部の凌激副部長との会談では、私は沖縄のことを発表し、福建省との経済交流の促進、ビザの緩和などを要望しました。凌副部長からは沖縄と地方政府との交流を推進していきたい、福建省の厦門で開かれる中国最大の投資商談会への参加を呼びかけられました。沖縄県では、平成24年からコロナ禍を除いて毎年出展しているところです。
 昨年、玉城知事が飛行機便の再開を要望し、1カ月ほどで実現しました。そのお礼に中国国際航空にも行きました。中国で活躍する県関係者との交流もできました。
 無人自動車の実験工場を参観し、実際に車に乗って20分くらい市街地を走りました。北京で800台以上、主要都市でも走っているそうです。街路に発信装置があって、車のセンサーでキャッチして制御していくシステム。人は後ろの席に乗って、タブレットのボタンを押したら走り出す。ブレーキも車線変更も自動です。すごいなと思いましたね。世界中でほかにあるでしょうか。
 科学力は中国が先ではないか。沖縄では車が渋滞しているが、中国では車は増えても車のスピードはむしろ速くなっている。信号も自動で調整されているので、車が増えても混雑しないようにコントロールできているということでしょうね。交通インフラの整備もきわめてスムーズに進んでいるということを感じました。
 5年後10年後、中国はさらに進化していくでしょうね。今回は、北京のみの滞在でした。街も非常にきれいで、公衆衛生道徳もめざましく進化していると感じました。
 習近平国家主席が言っている小康社会。豊かに強くなる。段階を踏んだ改革開放の路線で、建国100年に向かって着実に進んでいるように思いました。

中国との平和的な外交

 中国が大国になってきている一方で、いまアメリカの覇権は衰退しているという意見も聞こえてきます。このような状況で、近年、国力を増している中国とアメリカがぶつかり合うような争いに発展することも想定されています。だからそれをどう防ぐかというところに、日本の役割があるのではないでしょうか。
 ところが日本の新聞は、中国がフィリピン、ベトナム、台湾あたりで現状変更を迫るような行動をしており、その動きに対抗するため、最近の日比での自衛隊とフィリピン軍での「部隊間協力円滑化協定」のようなことになったと報じております。
 確かに、近年のアジア・太平洋地域の情勢は、軍事的な安全保障面での緊張関係と経済面での緊密な結びつきが併存するなど、戦後最も複雑な状況にあると認識しております。そのような状況にあって、アジアの平和を構築していくためには、平和的な外交・対話により、地域の緊張緩和と信頼醸成を図ることが重要ではないかと考えております。例えば、ASEANのような、争わない、戦争しないという関係づくりも参考になると思います。
 沖縄県には、琉球王国の時代から約600年にわたり中国や台湾、アジア諸国との友好的な関係を構築してきた歴史や、特色ある自然・文化などのソフトパワーがあります。それを、さまざまな分野における国際ネットワーク等も活用し、多様な主体において、各国・地域との国際交流・国際協力等の多様な活動を積極的に展開する「地域外交」を行うことで、いわゆる国家間外交とは異なる役目を果たすことができると考えております。
 外交は国の専管事項という方もいますが、地方自治体が自治事務として地域外交を行うことはあってもいいわけで、沖縄県は昨年、韓国済州特別自治道などの都市と、グローバル平和都市連帯というネットワークに入りました。いま北東アジアの自治体が加盟する「北東アジア地域自治体連合」へ入ることも検討しています。
 国や民族が違っても、顔を合わせて何度も会うことが大切と考えます。中国とも互いに交流を積み重ね、人を知り、お互いの歴史や国民性を知ること、そしてアジア各地が互恵関係で成り立っていることを確認し、だからこそ平和が大切だということを確認し合うことが可能ではないかと考えます。

4つの政治文書の尊重を

 日本と中国は、1972年の「日中共同声明」により国交が正常化され、同時に中華人民共和国が中国唯一の政府であることが確認されました。その後も、両国間では日中共同声明における立場が繰り返し確認され、関係のさらなる深化と諸問題の解決を進め平和共存の道を歩んできました。
 しかし、近年「台湾有事は日本有事」との言葉がマスコミ等で取り上げられるようになりました。かねてから沖縄の米軍基地の整理縮小、さらなる基地の返還を求めているところに自衛隊の配備増強が重なり、県民としては不安を抱かざるを得ません。
 宮古島市、多良間村、石垣市、竹富町および与那国町では、住民避難に係る国民保護図上訓練を行っておりますが、地元からは、6日間で先島諸島12万人の住民が避難できるのか、畜産が盛んな島では牛や馬はどうするのか、島から避難したくないなどの声が上がっております。
 県としては、これまでのように平和共存の道を歩み、建設的かつ安定的な日中関係を構築するためにも、それを支える県民・国民の理解と行動が、これまで以上に必要になると考えております。そして、とりわけ次代を担う若者の交流が大切だと考えております。
 沖縄県の役割は、これからますます重要になっていくと考えています。中国との歴史的なつながりを生かし、日本国民、そしてアジア・太平洋地域の役に立てるような形で沖縄が国際平和創造拠点になることが、沖縄県の地域外交の目指す姿だと考えております。

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