市街地に敵基地攻撃用ミサイルを置くということは
大分県議会議員 守永 信幸
陸上自衛隊大分分屯地は、大分市鴛野という住宅密集地域にあり、数㎞も離れないところに大分大学の本校がある文教地域だ。人口減少の流れの中で、住宅の世代交代がうまくは進んでおらず、高齢者比率が高く、病院等医療・介護施設の増加も目立つ地域である。
大分分屯地には1955年の開設当初から、佐賀県にある目達原駐屯地を本部とする九州補給処の支処として九州補給処大分弾薬支処が分屯地内に設置され、火薬・弾薬類が保管されてきた。九州防衛局は、「地域の皆さまのご協力とご理解を賜り、開設からこれまでの間、大きな事故もなく安定的に運用されている」と語っている。分屯地が設置された当初は、みかん園などが広がる地域であったものが、現状は住宅地が大分分屯地の敷地に連なるようになっている。そのような状況下で現状でも輸送途中の事故被災などが懸念される。
しかも、2019年10月に航空自衛隊基地内の火薬庫で、火薬庫設置後に基地内外に建設された保安物件(建物等)との間に必要な保安距離が確保されていないことが見逃されていたことが把握され、防衛省の特別検査が行われている。20年8月の検査結果の報告で、大分分屯地内の5棟の火薬庫が法令違反として報告されている。事故がなかったというだけで、決して安定的な保管状態であったとは考えづらい。
防衛力整備計画による
保管火薬類の増大
今回の火薬庫の整備については、「防衛省の『防衛力整備計画』において、弾薬等を安全に保管するため、また部隊運用を継続的に実施するために、27年度までに保管に必要な火薬庫等の確保を目標として、大分分屯地に大型弾薬等を安全に保管するための火薬庫等を整備することとしており、23年度に、火薬庫2棟の新設及び構内道路の整備に着手するとしている」との説明がなされたのが、23年5月のこと。既存の火薬庫については、全く触れられておらず、大分分屯地の中にどれほどの火薬が保管されているのかも分からない。
今後どのような弾薬や火薬が保管されるのかも、「明らかにすることはできない」と言うばかりである。
住民による抗議の姿勢
これらの情勢を踏まえ、23年8月11日に「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」が結成され、学習の場を設けながら、住宅密集地への長射程ミサイル等の弾薬の保管の在り方に抗議する組織の結集に至った。
大分分屯地に保管される弾薬が、接近戦に使用されるものであればともかく、長射程ミサイルが保管されるとなると、有事となった際に真っ先に相手国から攻撃を受けることとなる。しかも、ミサイルを搬出できないように、周辺の交通インフラが破壊されることが想定されるため、近隣住民の生活を脅かす問題となる。
市民の会は、住民の安全を守るために、住民に詳細な説明をするよう九州防衛局などに要請することを県や大分市に申し入れをしたほか、分屯地の工事車両出入り口等において建設抗議行動を行っている。
立憲民主党大分県連合は防衛省に現地における説明を要請し、23年9月20日に大分分屯地で防衛省担当者による説明会が行われたものの、一般人に現地を見せることはできないとして、分屯地の会議室での質疑意見交換となった。
地対艦ミサイル部隊を
湯布院駐屯地に設置
防衛省が24年度末に、陸上自衛隊湯布院駐屯地に新たな地対艦ミサイル連隊を発足させる方針を決めたことが、23年9月1日付「朝日新聞」で報道された。政府が保有を決めた敵基地攻撃能力を担う長射程ミサイルを運用することを想定。ミサイル連隊は約290人で発足。敵艦艇を攻撃する陸自の国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」を運用する。防衛省が射程を200㎞から1000㎞に延ばした能力向上型を23年度から量産しており、26年度に各部隊に配備する予定との報道である。
「専守防衛」のなし崩しを許さない
防衛省は、例えば「防衛白書」(23年版)の中でも、次のように記述している。「わが国は、憲法のもと、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針として実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきている」
しかし、「敵基地攻撃」の長射程ミサイルはどう見ても専守防衛と矛盾する。専守防衛の基本的な理念と防衛方針が、国民的議論もなしに崩されてしまうことを危惧しなければならない。その先は、まさに戦争のできる国に至る道程である。