コロナ後も続く困窮者支援の現場と生活保護

相談や食料を求める行列は増え続けている

コロナ災害対策自治体議員の会共同代表(足立区議会議員) 小椋 修平

 新型コロナウイルス感染症拡大から間もなく4年がたとうとしている。しかし、所持金数百円、家賃滞納でアパート退去を迫られている、すでにアパート退去となりホームレス状態だといった相談は絶えることがない。新宿や池袋などの食料配布にはコロナ前は100人~150人の行列だったのが、日に日に増え続け現在も600人を超える長蛇の列が続く。

コロナ後は物価高騰の影響が顕著

 コロナ前に食料配布に並んでいた人は、見た目でホームレス状態だとわかる中高年男性で占められていた。それが行列に並ぶ人の様相が多様化し、女性や子ども連れ、カップル、若者、外国人、スーツ姿の方など、見た目ではボランティアなのか食料を求めに来た人か全く判断がつかず、貧困は目に見えない、見えづらいことを痛感する。このような多様な人々が食料を求めている状況は過去に例がなく、困窮者支援団体の方々は「社会の底が抜けた」とその様子を表現している。
 また、コロナ後に食料配布に並ぶ方は、すでに生活保護を利用しているが物価高や光熱費の高騰で生活が苦しい、働いていて生活保護費以上の収入があるが生活がギリギリなど、物価高や光熱費の高騰による影響が現れている。
 現場の感覚としては、物価高や光熱費の高騰で働いていてもギリギリの収入で生活が厳しい方が増えていることや、生活保護受給者もより一層生活が厳しくなっていることを痛感する。

住まいの貧困と住宅政策

 困窮者支援の現場に携わってきて痛感したのが住まいの貧困である。アパート入居のための初期費用がないため、寮付きの仕事しか選択肢がなく、寮付き派遣で3カ月や半年などの短期雇用で契約更新されず、職と住まいを同時に失う人を数多く見てきた。
 また、一度住まいを失ってネットカフェ生活などになるとアパートを借りることができないことや、首都圏ではアパートを借りる際に連帯保証人でなく、家賃債務保証会社と契約することが一般的になっているが、その際に緊急連絡先に登録する家族・友人・知人が誰もいないため、私が何人もの緊急連絡先に登録してきた。
 職も住まいも失った状態で生活保護となった際に、寮付きの仕事を探そうとする人が多いことに驚いた。「生活保護費でアパートの初期費用も出るので、まずはアパートを確保すれば、万が一、また失業することがあっても寮から出されて住まいを失うことはない」と毎回必ず説明している。
 住まいの貧困の問題に対しては、住居確保給付金を恒久的な家賃補助制度にすることや、兵庫県伊丹市などで実施しているように自治体がアパートを借り上げてみなし公営住宅を整備すること、住まいを失った方が即日入居できる家具がそろったアパート、シェルターの整備や、公的緊急連絡先の制度を創設すること、家賃滞納や光熱費の滞納から速やかに福祉につなぐ仕組みづくりなどに取り組んでいる。

貧困問題=雇用といっても過言ではない

 貧困問題の根底にあるのは、生活が厳しい家庭の子どもは教育を受ける機会に恵まれないこと。一般世帯の大学・専門学校の進学率(浪人も含む)が8割を超えていることに対して、生活保護世帯の進学率は3割程度である。生活保護家庭の子弟の3分の1が生活保護になるという貧困の連鎖も生じる。
 住まいの貧困、住宅問題も雇用問題も、労働環境の影響が大きい。新型コロナ災害緊急アクションや私のもとに寄せられる相談のほぼ全員が非正規雇用で、その日に仕事があるかどうかわからない日雇い派遣、パート・アルバイト、派遣社員、デリバリーや宅配などの個人請負であった。
 非正規で働き始めると正規職に何十社応募しようとなかなか採用されない。その結果、5年10年20年と働いても収入が増えるわけでなく、単純労働の繰り返しでキャリアアップできない労働環境である。
 日雇い派遣は原則禁止されたが、実際には日雇い派遣で生計を立てている人が後を絶たない。
 雇用の調整弁という問題もある。必要な時に雇用され、不景気になると雇用は継続していてもシフトに入れず、収入がない。数万円の寮費を払えば手元には何も残らないという労働環境や、首都圏では急増している宅配やデリバリーの個人請負では、仕事中に事故やケガをしても一切保障されず、社会の歪みが弱い立場にある人に押し付けられている。

「扶養照会」の運用改善を実現

 所持金も資産もない、職も住まいもないという状況になると、最後のセーフティーネットである生活保護しか利用できる制度がないが、なかには生活保護を知らなかった若者がいるなど、制度そのものの周知の必要性も実感した。
 生活保護に対するネガティブなイメージで、「生活保護だけは受けたくありません」と言う若者や、中高年世代では「福祉の世話になるのは申し訳ない」と生活保護をためらう方を何度も目の当たりにしてきた。
 また、生活保護を申請した際に、福祉事務所から親族に「援助できませんか?」と通知する「扶養照会」の問題もある。
 そもそも親きょうだいと良好な関係にある方は、困窮した際に実家に戻ったり、仕送りを受けていたりする。親きょうだいに頼れないから生活保護を申請するのであって、誰もが親きょうだいに知られたくないと生活保護の申請を躊躇していた。

 そもそも生活保護を申請して親族から援助を受けた事例を聞いたことがない。そこで自分の議会で新規の生活保護世帯に対して、何件援助があったのか質問したところ、19年は2275件の新規の生活保護世帯に対して援助はわずか7件(それも毎月5千円、1万円の仕送り)で、20年、21年は親族からの援助実績はゼロであった。
 そこで、この制度は意味がないと、申請を妨げているだけで扶養照会を廃止するよう、厚労省や国会議員にも要望し、国会でも取り上げられた結果、厚労省から改善の通知が出され、実質的に扶養照会はしなくてもよいと運用改善された。それでも全国の福祉事務所の現場では扶養照会することが生活保護の要件だと、違法な運用をしている事例がまだまだ散見される実際である。

生活保障へ自立しやすい制度へ

 日本弁護士連合会が「生活保護法を生活保障法へ」と政策提言を行っており、私も同様に厚労省に対して改正を求めている。
 これは、韓国が生活保護制度から国民基礎生活保障制度に改正したように、預貯金や資産要件の緩和と住宅費、生活費、医療費などを切り分けて必要な部分を支給するという、使いやすい制度にする抜本的な改正である。
 生活保護を利用するには、預貯金も資産の保有も原則認められない。収入があるとその分、保護費を減額されるので利用しづらく自立しづらい制度である。また、生活保護を生活保障と名称を改めるだけでも随分と印象は変わる。
 本来、生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活をするために認められる権利(憲法25条)であり、日本国憲法に規定する基本的人権の一つである生存権を具体的に保障したものである。利用しやすく自立しやすい制度実現をめざしたい。