経済安保の肝は中小零細企業を守ること

飢饉にコメを与える国になれ

株式会社リード技研代表 小川 登

AIでも職人技は存続

 リード技研は金型の部品加工をしており、多品種少量部品を生産しています。自動機やCNC(コンピューター数値制御)の機械を使っていますが、最後の仕上げの15%~20%は手動の機械を使います。自動機やCNCは精度保持が難しく、やはり公差の厳しいところは手動の機械でないと対応できません。その手動機械を使いこなすには、感覚とか創造力とか経験を絡み合わせて、製品にぶつけていく職人の集中力が必要です。


 もちろん自動機やCNCは一人で複数の機械を使うときや夜無人運転をするのには欠かせませんが、その場合もプログラムの入力や最初の運転時には職人のチェックが必要となるわけです。
 AI(人工知能)は人間が経験したことを入力して、その中からいちばん適している事柄を選んで、それを教えてくれるというものです。人間が経験してきた技術、技能をたくさん学ばせ、そこに創造力や感覚も覚えさせる。CNCとは違った視点に立って人間のために役立つツールになってくれるのではないかと期待はしています。
 間違った情報を入れないことや間違った選択をすることが少なくなれば、人間の労働は楽になることができるとは思います。それでも職人技というのは、AIやCNCではできなかったり時間がかかったりすることを高度に素早く処理しますから、これからも必要で存在し続けると思います。

中国に技術指導に行く

 私は知り合いの日本企業に頼まれて2007年、中国広州に2カ月に一度、技術指導に行きました。もちろん私も会社の中国進出を模索しながら通いました。自動車部品の会社でしたが、中国人技術者や労働者のやる気や目の輝きに気持ちを持っていかれましたね。
 この人たちを日本に呼んで技術を教えたいという話を従業員にすると、「日本から仕事を取っていった中国に技術は教えたくない」と最初は否定的でした。しかし中国に行くたびに撮ったビデオで彼らの様子を伝えるうちに、「そんなに教えてもらいたいなら教えてもいい」と言うようになりました。
 本当は、後輩や習いたいという人には、自分の仕事を教えたいと思っているということです。国は違っても生きてきた環境は違っても、信頼関係が構築できれば技術、技能の伝承はできると思いますし、喜んで教えようという意識は芽生えてきます。
 技術指導から10カ月ほどして中国に行ったところ、人望もあり人一倍やる気があり、日本で教育したらすごく伸びるだろうと思っていた人が4~5人のスタッフを連れて他の会社に移ったとのことでした。その頃、中国では少しでも給料の多いところに移っていくのは普通でした。給料だけではなく環境や厚生とか、いろいろな理由で転職は多くあります。私たちのような零細企業が中国に会社をつくっても従業員に辞められたらそこで運営できなくなると思い、中国進出は諦めました。メディアは取り上げませんが、ベトナムでも同じようなことは起きています。
 日本国内からの技術の流出はどうしても起きてしまいます。半導体のシェアが60%~80%のバブル期を経て半導体技術は世界に流出してしまいましたが、また日本でつくろうと思えば政府の援助があればできることです。国や地域が要になって道筋をつけて、それを国民みんなで協力して進むことが重要だと思います。

ベトナムから技能実習生

 日本の職人技が失われつつある原因として、後継者難があります。後継ぎの子どもが、家業よりも他の仕事、職種に魅力を感じ、親の家業が選択肢から外れてしまったということでしょうか。
 言い換えれば自国の文化や職人技に、魅力ややりがいや生きがいを感じられないということではないでしょうか。世界のどの国でも、少子高齢化という問題を抱えている国では普通に起きている問題だと思います。
 私は、われわれの技術に興味をもつ人が現れたら、伝承すること自体にはあまり危機感はもっていません。世界の長く続いている企業10傑の中に日本は7社くらい入っており、200年以上続いている企業も世界で断トツに多いし、それらはほとんどが中小零細企業です。事業承継、技能承継がうまくできてきたからではないでしょうか。私も今後をよく考え、現状をどのようにしたらもっと効率よく楽しく、苦労が少なく仕事ができるかを考えて、技術を伝承していきたいと思っています。
 私の工場に09年、ベトナムの日本語学校長の紹介で横浜国大大学院に留学していたレーさんが入社してくれました。このことが転機になり、2名の技能実習生を採用しました。技能実習生は日本人より経費はかかります。でも夢に向かって日本人、ベトナム人が一緒に働くことができました。3年の実習終了後ベトナムに会社をつくって一緒に働くという夢です。合弁会社探しと実習生の教育や生活に一生懸命取り組みました。
 それから2年して毎年1名ずつ現地で面接し、現在も常に2名~4名の実習生(今は特定技能になっていますが)が働いています。ベトナムの日本語学校で日本の風習やマナー、あいさつなどを教えてくれるので、大きな声できちんとあいさつしてくれます。若い彼らのおかげで会社は明るくなりました。

今も大企業の買いたたき

 日本の国の未来を考えなければならない立場にいる大企業が、少しでも安価な製品を求め、自社の利益のみに重点を置いており、自国の下請けを守るとか、自国の未来を考えてはいません。大企業の社会的役割と責任の意識が欠けていると思います。
 職人を育てることは利益率が低いので中小零細に移管し、さらに加工単価の安さを求め中国に依存するようになりました。そうした中で日本の中小零細製造業は苦境に立っています。特にリーマン・ショックの時はひどかったです。雇用調整助成金の申請のために作成しなければならない書類の量が半端でなく多く、途中で断念せざるを得ませんでした。
 銀行は「付き合いだからもう少し借りてください」と言っておいて、私が「返済をもう少し待ってください」と言ったら、「あなたが借りている全部の銀行が延ばすと言ったら待ちます」と言って返済を迫ってきました。資金繰りのために個人的な預金や、生命保険、退職準備金、資産などつぎ込めるものは全部つぎ込みました。家族には迷惑をかけて本当に申し訳ないと思っています。
 コロナ後の今も大企業は仕事が薄いのを逆手に取って、われわれ下請けに相見積もり(複数の業者から見積もりを取り、価格や条件を比較すること)を流して、1円でも安いところに仕事を流すということをしています。早く言えば買いたたきです。
 災害が降りかかり飢饉になっているときでも、お上が年貢を取り立てるようなものです。飢饉で飢えているときは、年貢の取り立てよりもコメを与えるような政策は考えられないのかと単純に思います。どのようにしたら皆が一緒になって幸せになっていけるかを考える当たり前の世の中になれば理想的だと思います。難しくても常に考えなくてはならないことではないでしょうか。

2003年3月4日、川崎市内の町工場の製造業を中心とした中小・零細企業経営者や失業者ら約100人は、JR川崎駅前で集会「地域経済危機突破・川崎行動」を開き、「中小・零細企業を見殺しにするな」と訴え、集会後、川崎市役所まで市内繁華街をデモ行進した。

お粗末で無知な日本政治

 今の日本は製造業をはじめ農業、漁業、酪農など国の根幹となる産業を自国で賄うことができなくなってしまいました。反対に、中国は製造技術を高めて世界の工場として発展し、今では国内でほとんどのものがつくれるようになっています。これは中国が国の政策として未来を見越して取り組んできた結果です。
 政府は自国の製造業が消滅していくことを予測することができなかったわけです。これは大企業を優遇するお粗末で無知な日本の政治や官僚の大失敗でしょう。このような政策を続けてきたことが「弱い日本」にした大きな要因だと思います。
 われわれ中小製造業をゾンビ企業だと批判する人がいますが、中小製造業に限ってゾンビ企業というものはありませんし、失礼すぎる言い方です。
 ゾンビは補助金や多くの恩恵を受けている大企業ではありませんか。どんな大企業であっても元は中小零細企業です。守っていくべき中小零細企業を本気で現場目線で支援するようでなければ、国の発展、国民の幸せは来ないのではないでしょうか。
 私事ですが、日本メーカーの給湯器が壊れたとき「コロナでベトナム工場が閉鎖され、そこで作っているネジが足りないから修理は半年待ってくれ」と言われました。半導体は海外に持っていかれ、今頃になってあわてて作り始めていますが、きちんとした政策をとった国とは大きな差が出たままです。これを取り返す政策は非常に難しく時間がかかると思います。
 大企業しか眼中にない政治はもはや時代遅れです。行政をしている人たちには本気で国民や、世界、地球環境を考えてやってもらいたいです。国を発展させて国民の幸せを願うなら、農業への援助はどのようにするのが最良なのか。漁業への援助は、工業への援助は、中小零細への援助は、子育てにはどのような援助が必要か、若い人たちへの援助は何をすればいいのか。現場に行って現場の人たちの意見を聞いてください。

現場に行って声を聞け

 現場のことを知らないで「中小零細企業は国の生産性を落としている元凶だ」と数字だけを並べて話している学者や評論家がいますが、ちゃんちゃらおかしいし、頭に来ます。中小零細企業を残さないと自国の生産の基盤がなくなります。部品を輸入できなくなったときには生産も止まり、国の存続さえ危うくなるということは常に考えなければならない国の重要事項です。ものづくりと中小零細企業を守ることが日本の経済安全保障の肝であり、子どもたちを守ることです。
 懸念は、現場を知らない人たちが決定権をもっていることです。今回の技能実習制度や特定技能制度の改正にしても、現場を知らない、もしくは少ししか知らない、正確に知らない人たちが制度改正している。来日実習生や働いてもらう企業は諦めており、人間が来ることを想定していないような、それこそ非人道的な制度になっていることに腹立たしさを感じます。
 私たち川崎Kネットは川崎市内の中小零細業者が集まった組織ですが、03年には「中小企業を見殺しにするな!地域経済危機突破行動」で市に現状を訴える要請デモを行ったこともあります。
 いちばん大切なのは、何回も言いますが、机上の空論に振り回されず、現場の人たちと向き合って意見を聞いてコミュニケーションをとって問題解決することです。それによって人手不足、少子化問題、職人技が失われる問題も何とか解決していくのではないかと思います。それができる政治が求められています。

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