「アジアの平和のハブを」―私たちに出来ること

第19回全国地方議員交流研修会特別講演(要旨)

沖縄、長崎、そして地方から

青山学院大学名誉教授 羽場 久美子 さん

 最初に、いま起こっているパレスチナに対する攻撃とイスラエルの著しい人権侵害の爆撃の問題から話します。もう3週間になろうとしており、ガザで8千人超(当時、2023年12月25日現在は2万人以上)が死傷し、うち半分が子どもと赤ちゃんです。ガザ地域を絶滅させようとするほどの攻撃です。
 これに対しアメリカは国連での「停戦」決議に反対票を投じ続けています。爆撃を支持し、ウクライナでも武器を供給しているのはアメリカや欧州なのです。しかし12月に、国連総会でアメリカを支持したのはたった10カ国。殺戮を止め、停戦と平和を望んでいる国は153カ国にも及び、国連加盟国の79%、世界のほとんどの国々です。それを拒否しているのが米国です。

◆世界の人口とGDPの推移

 21世紀の20年を過ぎ深刻な戦争が起きています。世界は何が起こっているのか。
 まず最初は世界の人口の変化です。80年後アジアとアフリカで8割、米と日は1割を切ります。現在でもアジア・アフリカ・ラテンアメリカを合わせれば8割になります。アメリカ、欧州は1割余りにすぎません。
 西暦1年から2030年まで、実に2030年間の世界のGDPの推移を世界最速のメガコンピューターで分析し書かれた本があります(※注)。この本を読むと、私たちの発想の転換が必要になってきます。明らかなことは、西暦1年から1820年まで18世紀の間、頂点にあったのはインドと中国でした。1870年ごろから、つまり19世紀から現在にかけてのたった200年だけが欧米の時代なのです。2030年には中国がアメリカを抜く、というのが先のコンピューターの試算です。

(注 アンガス・マディソン著「世界経済史概観 紀元1年~2030年」 岩波書店発行)

 ミクロで見ても、2023年6月のGDPで、日本は「アベノミクス」で平均賃金、GDPは下がっています。それに対して中国は2010年に日本を抜いて4・9兆ドルだったのが、今やたった13年間で日本の4倍に成長しています。
 アメリカの金融最大手・ゴールドマンサックスによる将来のGDP予測です。2050年には、中国がアメリカを抜き、インドが日本を抜くだけでなく、日本はインドネシアやドイツにも抜かれ6位に落ち込む。あと25年後です。来年2024年には日本はドイツに抜かれて4位に転落します。
 2075年、いまから50年後、日本は12位まで転落している。中国やインドがアメリカを抜くだけでなく、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルという予想もしなかった国々が、私たちを追い抜いて世界のトップ8に入っているのです。
 PPP(購買力平価)によるGDPで見てみると、中国は2014年にアメリカを抜きました。なんとアメリカと日本を足したGDPが、中国のGDPとなるのです。

 20世紀のアジアは「貧困のアジア」でした。いま21世紀のアジアは経済発展をし、その経済の中心がIT、AIなどの先進技術によってどんどん成長している。中国、インド、インドネシア、ブラジル、トルコ、韓国、これらが急成長してアメリカや欧州を抜こうとしている。それが、アメリカ、欧州に対して非常に「脅威感」を与えています。だからこそ、かれらは脅威を感じて中国やアジアをたたき、戦争を起こそうとしているのです。私たちはそうではなくて、成長するこれらの国々と結んで平和と繁栄を作っていくべきではないでしょうか。
 日本の人口問題は、日本の最も深刻な課題の一つです。現在、人口の3割が65歳以上です。それがあと40年で4割を超える。労働力人口があと40年で半減するということです。2100年には人口が3分の1、2200年には1000万人になり、そのまま改革を怠ると2300年には日本は消滅する?予測です。こういうとき、しかも一千兆円以上の負債があるときに、43兆円も武器を買い込んで、戦争準備をしている場合でしょうか。

◆アメリカの時代錯誤

 この百年間は「アメリカの世紀」でした。この世界秩序をどうやって作ってきたか。アメリカは2つの世界大戦にほとんど参戦せず、大戦のほぼ最後に参戦して次の時代の国際秩序を作ってきました。
 ウイルソンとローズベルトはアメリカの2大巨頭ですが、ウイルソンは第1次世界大戦で1917年末、ロシア革命後に参戦し18年末に戦争は終わる。そして「新しい国際秩序」を掲げてリーダーになっていく。第2次世界大戦のときもローズベルトは、日本のパール・ハーバー攻撃に反撃する形で参戦し、勝利の側に付き戦後の秩序を作りました。
 バイデン大統領はこの20世紀の2大巨頭に学び「民主主義対専制主義」で新たな世界秩序を作ろうとしています。民主主義の国がアメリカ、ヨーロッパ、専制主義の国がロシアや中国など、アジアの専制諸国を封じ込め、軍備を拡大しているのです。アメリカの世界戦略の特徴は、自らは戦争に参加しない、戦争末期に参戦して次の国際秩序を作るということです。それを踏襲しようとしている。それがウクライナ戦争、パレスチナ戦争、台湾有事なのです。アメリカは戦争しません。

◆アメリカの東アジア同盟戦略

 アメリカの東アジアでの同盟戦略は4つあります。日米豪印4カ国の軍事同盟であるQUAD、第2は「QUADプラス」:韓国、ベトナム、ニュージーランドを加えて7カ国プラス台湾、という中国封じ込めの戦略です。中国の「一帯一路」にくさびを打ち込む。ただし、ロシアと連携するインドは必ずしもこれに積極的ではありません。
 だからこそアメリカは第3番目として、アメリカ、オーストラリア、イギリスによってAUKUSというがっちりしたアングロサクソンの軍事諜報同盟を作り上げています。21世紀初頭にはアメリカ1カ国で覇権を維持出来ていたのが、1国ではすでに世界を引っ張っていけないことを象徴しているといえます。
 さらに重要なの4番目の諜報網、スパイ網ですね。「5eyes(5つの目)」という枠組みにアメリカ、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、カナダが入っています。しかし、これにはヨーロッパ大陸が入っていません。米英はヨーロッパ(ドイツ、フランス)、もちろん日本も信用していないのです。

◆対米追随で軍備拡大

 日本はアメリカとの日米軍事同盟によって、中国や北朝鮮、ロシアに対抗するのではなく、周りの近隣国と共に平和と繁栄を作っていく必要があると思います。にもかかわらず、現状はどうでしょうか。
 いま議会にもかけず閣議決定で、地方自治体の反対も無視して、沖縄、九州、四国、新潟、青森までミサイルが着々と配備されています。地下司令塔を、2024年までに全国10カ所に作る計画が、政府から地方自治体に通達されています。
 いまほど自治体が重要になっているときはありません。市民の命の危機は自治体が一番感じられる。だからこそ、ここに集まられた方々が自治体から平和を作る、世界に向けて日本は「平和立国」、憲法9条がある国なのだということを伝えていっていただきたいと思います。

◆日本は盾から矛へ

 日本列島はアジア大陸の極東に散らばる幾千もの島々です。しかし、地図を90度西に倒すと明らかな様に、日本列島は大陸から太平洋に出ていくのを封じ込める「壁」となります。3千キロにわたる壁が、北はロシア極東地域、そして北朝鮮、北京、上海、福建省という中国最大の経済圏から太平洋に出ていくのを押しとどめる、自然の要塞になっています。
 日本の役割は中・ロ・北朝鮮からアメリカを守るための盾となっています。しかし全国各地に配備されつつある数百基のミサイルを一斉に大陸に向けて撃ち出したとしても、5倍返しどころか10倍返しの形でミサイルが日本列島に降ってくる。最初から負け戦です。
 ところが今年1月の2プラス2で、アメリカの矛、日本の盾という旧来の専守防衛から、矛と矛になった。岸田首相と林外相が自ら「日本は矛になる」と打ち出した。アメリカに飛んでいくミサイルを、日本のミサイルで撃ち壊す役目を負わされてしまったのです。

◆放射能汚染の深刻さ

 チェルノブイリから30年以上たったあとに、1200キロ離れたスウェーデンやノルウェーの野生のトナカイの肉から致死量の放射線が出たということが、問題となりました。もしこれを東アジアに当てはめるならば、例えば北朝鮮のニョンビョンの核施設が何らかの事故で爆発、チェルノブイリ級の爆発が起これば何十年間もの間、ほぼ1200キロの領域が汚染されてしまうことになります。網走、沖縄を除く日本列島のほとんどがその範囲に入り、北のウラジオストク、北朝鮮、韓国、北京、福建省つまり東アジア経済圏の豊かな領域が1発の核爆弾あるいは核事故で数十年にわたり汚染されてしまう可能性があるのです。
 地政学的に見ればこの地域の放射能汚染は、アメリカ、欧州にとって何の影響もありません。東アジア経済圏は崩壊しますが、欧州もアメリカも安泰です。戦争の危険、甚大な被害、東アジアの崩壊。私たちはそれでも中国や北朝鮮に対抗すべきでしょうか?

◆中国・インドの地域協力

 最後に中国やインドで何が起こっているかみてみたいと思います。中国では「一帯一路」で西安を起点に欧州に向けて地球を半周する100年経済開発計画を企画し、インフラ投資がこの10年間行われてきました。私が中国を訪問した10月がちょうど10周年で、それを祝って150カ国の加盟国中140か国、30関連団体が北京に集まりました。特にカンボジア、ラオス、スリランカ、ミャンマーなどの貧しい地域がこの「一帯一路」によって急速に発展したと各国代表が語っていました。「一帯一路」が重要なのは、中国が投資とインフラ整備で貧しい地域に道路、鉄道を作り、繁栄させたということです。

◆日中の交流と連携を

 私の訪中の直前に、東京でも「一帯一路」10周年の国際シンポジウムが中国大使館主催で開催されました。そこには経団連、中小企業、メディア、三菱UFJ銀行、建設業界など日本を代表する経済界の人たちも参加しており、口々に「われわれも『一帯一路』に入りたい。『一帯一路』の起点を日本にしよう」と言っていたのです。中国との連携は日本の経済も回復させるのです。
 自治体から考えたとき、貧しい国々にインフラを整備し豊かにする「一帯一路」との自治体交流を、皆さんも自分の地域として考えていただければと思います。今回の訪中において、中国側から「もし必要ならば中国、上海、北京、福建省から経済界の若い人たちを派遣しましょう。自治体と一緒になって日本と中国を平和に向けて再建しましょう」と言われました。また日中共に3千人の若者交流、民間交流を打ち出し、現在の厳しい日中関係を民間から転換させていこうと合意しました。
 インドも14億の民を抱えつつ、国の西側にあるアフガニスタン、パキスタン、そして東側のバングラデシュ、ブータンなど貧しい国が多いが、これらの国と共に地域協力し経済発展しようと、若者を南アジア大学に呼び無料で教育して帰すということもやっています。とても立派だと思います。ASEANも10か国で地域協力を進めているのはよく知られたところです。

◆沖縄を平和のハブに!

 東アジアの平和のネットワーク作りのために「沖縄を平和のハブに!」をめざす運動、これはこの2年間、大成功を収めてきました。この間、沖縄、日中韓の方々、福岡、九州の自治体の方々、日本全国の方々が加わって大きな動きに発展しました。
 戦争の危機の高まりに対し、いま沖縄の運動は若者や女性たちをはじめ、はるかに広く平和を望む動きが広がっています。「争うよりも愛しなさい」「沖縄を平和の起点の場にしよう」という動きがうねりのように広がり、これに全国の方々も合流し11月には1万人超の大集会が成功裏に開かれました。
 沖縄は、東アジア20億人の巨大な経済ネットワークの中心になります。東京よりも、むしろ東南アジア、台湾、中国、韓国との距離が近いのです。まさに東アジアを結ぶネットワークの中心になります。中国や東南アジアとも通じるような多彩で豊かな文化も持っています。その沖縄の美しい島々が、アメリカや自衛隊のミサイルや基地、地下施設で汚染されようとしています。これを何とか皆さんの力で押しとどめていただきたいと思います。

◆自治体から平和外交を

 長崎という今回の場は、まさに原爆が落とされ、この77年間平和を訴え続けてきた象徴的な場所です。広島、長崎では被爆2世、3世の方々と共に平和を維持し、日米同盟による軍事化は許さないという平和の運動が高まっています。こういう地域こそ平和のセンターになっていただきたい。
 沖縄の玉城知事、九州、全国の皆さん、自治体の皆さん、市民が自治体から平和を作る、命を守り繁栄を作るという動きが非常に高まっています。自治体外交、市民外交を沖縄は立ち上げています。皆さんの自治体でも自治体外交、市民外交をぜひ実現していただきたいと思います。
 まとめです。沖縄、広島、長崎、それぞれの皆さんの自治体から平和と繁栄を作っていきましょう。われわれが近隣諸国と結び、「東アジアでは絶対に戦争をしない」、広島や長崎から「非核地帯」の宣言をしていきましょう。
 グローバルサウス、成長するアジア、アフリカ、ラテンアメリカと結び、近隣諸国と市民とのホットラインをつなげましょう。自治体、学生さん、若い方々もぜひ積極的に中国、韓国、ASEAN、インドに出かけていただき共に平和を作りましょう。平和の輪を、皆様方、そして沖縄、長崎、福岡から北海道まで、市民から作っていっていただきたいと思います。

(講演録要旨 文責 編集部)