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[沖縄 11・23県民平和大集会]基調報告

軍事に頼らない平和・安全保障を新しい時代を若い人がつくる

沖縄国際大学教授 前泊 博盛

 皆さん、こんにちは。
 昨日、中国の新華社通信の記者が取材に来ました。おそらく今日の皆さんの様子も含めて中国に発信をされると思います。その際に私から質問しました。
 「中国では台湾有事が議論になるのか」と。彼は、「そんなことはない。なぜ日本が騒いでいるのかよく分からない」と言いました。誰が台湾有事を仕掛け、そして今沖縄に、南西諸島にこれだけの軍備を強化しようとしているのか、ご存じの方がいるでしょうか。
 「台湾有事は日本有事」だという言葉を発した方がいました。総理をなさった方です。そして同時に軍拡がどんどん進められ始めました。そして沖縄が戦場として想定されるまでになってしまいました。
 なぜ沖縄が戦場になるのか。これについても新華社通信の記者に聞いてみました。「習近平氏に、あるいは政権にしっかりと伝えてほしい。沖縄に何があるからここが戦場になるのか。何がなければこの沖縄と南西諸島は戦場でなくなることができるのか」と。
 「もしも自衛隊基地、米軍基地があるから攻めるんだと、有事になればそこを攻めるんだということであれば、われわれはその基地の撤去に動く。それがわれわれ県民の命を守るすべだというのであれば、そういう行動をとる選択も避けられないかもしれない」と、そんな話をしました。

誰が沖縄を軍事要塞にしたか

 なぜこの沖縄が軍事要塞化されようとしているのか。これは沖縄戦のときにもそうでした。ジョージ・H・カーというアメリカの歴史・政治学者が書いた『琉球の歴史』という本の中に、「琉球は日本にとってエクスペンタブル」だと書いています。「消耗品」だそうです。「いざという時には日本は沖縄を消耗品として使う」んだと。しかし残念ながら「日本は琉球のために犠牲になることは好まない」と、これがアメリカの琉球、そして日本に対する認識というふうに書かれています。こういう分断をすることによって、日本の中で琉球が犠牲になり、そして日本が戦場となることを拒否する材料として使われていないだろうか。
 「台湾有事」については誰が言い始めたのか。さかのぼって知ってほしいと思います。アメリカの軍人(フィリップ・デービッドソン・前米インド太平洋司令官)が発言をしました。「6年以内に中国が台湾を軍事侵攻する可能性がある」と。その言葉を受けて、昨年、ペロシ米下院議長が台湾を訪問しました。何のために。こういう動きの中で、なぜか「台湾有事」が当たり前に行われるような、そんな印象を皆さん持たされてしまっていると思います。
 今メディアが一生懸命報道しているのは「台湾有事」であり、「沖縄有事」です。まるで「有事」を期待するかのような報道です。行政や政治を研究している同志社大学の山谷清志先生が、「前泊さん、平和も民主主義もメディアから腐るんです」と言われました。われわれはしっかりとしたメディアを持っているかどうか、検証する必要があります。いまテレビを見れば防衛研究所の人たちだけが出ます。「リベラルは有事に弱い」という厳しい言葉もあります。平和を語ったり、そのための外交を語ったりする人たちはメディアから皆駆逐されて、軍事を語る人たちがテレビの中心に座っています。日々それを聞かされるたびに戦争が近いかのような印象操作をされてしまっている、こうした圧力をはねのけねばならないと思っています。
 今日は沖縄でこういう集会が開かれています。まさにこれも沖縄が戦場になっている証拠です。全国の皆さんが声を上げて、今日は連携してくれているようです。

政治を変えること

 われわれにとって大事なのは何かということは、これまで発言の皆さんが語ってくれました。きちんとした政治家を選ぼう。(拍手)これが韓国や中国や台湾やフィリピンの代表たちと議論をしたときに出てきた解決策です。たった一つ、ちゃんとした政治家をお互いが選べばこんなことにはならなかったのに。(拍手)
 今年、岸田首相はG7サミットを、あの広島で開催した。しかし、核に対する発言が非常に弱い。そして反戦という言葉すら出てこない。一方で、岸田さんの時代になって何が起こったか。昨年12月16日、「安保関連3文書」の改定が閣議決定され、43兆円ものお金をこの5年間で使って軍備を増強するという。すでに本年度は6兆円は超したが、来年度は7兆円を超してきます。再来年以降は10兆円になる。この国の国家予算114兆円のうちの10%近くが防衛予算に投入されます。
 この2月に私は国会の衆議院予算委員会に参考人招致されました。そのときに一緒に与党から呼ばれた川上高司さんが、「前泊先生、今日は同じ主張になりますよ。この国は今見捨てられる恐怖、アメリカが有事になったら助けに来ないんじゃないかという見捨てられる恐怖から軍拡に走っています。そしてもう一つは軍拡を進めれば、間違いなく巻き込まれる恐怖におびえることになります」と言いました。
 その見捨てられる恐怖と、巻き込まれる恐怖。この二つの恐怖から逃れる方法は何か。政治を変えることです。(拍手)戦争を好む、軍拡を進める人たちを選んだのは誰か。第二次世界大戦、太平洋戦争で核兵器を使われ、たいへんな犠牲を強いられた広島が、なぜ軍拡を進める人を選んで、国会に送り込んでいるのか。広島の皆さんには耳の痛い話かもしれませんが、お伝えをしておきます。「平和は広島から崩れています」。しっかりとした代表を選んで平和を守るような人を広島こそ国会には送り込んでほしいと思います。(拍手)
 何よりも、岸田首相にはっきりと言います。「戦争をするなら沖縄でなく地元でやれ」。(拍手)これは国会でも言いました。なぜ沖縄が戦場にならなければいけないのか。台湾有事はなぜ日本有事、そしてなぜ沖縄有事にすり替えられるのか。

傍観者的好戦論から「当事者的非戦論」へ

 中国は「戦争になったら日本だって無傷ではすみませんよ」と言っている。ところが日本国民は、沖縄だけが戦場になるかのように受け止めている。このことについて私は国会でこう言いました、「傍観者的好戦論から国民は目を覚ましてほしい」と。
 いま沖縄は、「当事者的非戦論」で声を上げています。(拍手)その声をしっかりと受け止める力がこの国の国民にはないのかということをお伝えしておきたいと思います。(拍手)
 皆さんは今日、当事者的非戦論で集まっていると思います。私はトランプ大統領ではないんですが、「沖縄ファースト」です。(拍手)沖縄を守っていく、子どもたちを守っていく。いまイスラエルの動きを見て分かります。戦争で殺されている人の半分が子どもたちです。イスラエルはパレスチナ人を全滅させる。そういう政策すら考えていると聞いています。
 あるいはウクライナを見てください。ウクライナ東部のドンバスではシェルターの中でもう2年近くも暮らしているのに、首都キーウでは変わらない日常生活です。「あなたお弁当を持ったの?」「子どもたち、宿題は大丈夫?」こんな日常があるのに、一方ではミサイルを撃たれて毎日人が死ぬ。
 東京は無傷で、沖縄だけが戦場になっていることをイメージしてみてください。こんな不条理に耐えられる人がいますか。そしてそれを許すのですか?
 国会発言が終わった後で石破茂さんや岩屋毅さんという防衛大臣経験者とも議論をしました。彼らはこう言うのです、「われわれも知らないところでこの異次元の軍拡が進んでいる」と。じゃあ、誰が異次元の軍拡を決めたのか。この国の政治を誰が決めているのかということを考えるべきです。
 また、その際に言いました。「戦争するなら東京と北京でやれ」と。(拍手)アンチテーゼとして皮肉をこめてこう言いました。東京など4000万人の首都圏の人たちが住んでいる場所を戦場に考える。あるいは1億数千万人が住んでいるような北京が最初に戦場になるということになったとき、ミサイル防衛などというバカげた議論はしないはずです。それなのに、沖縄を戦場に想定したときには、なぜミサイル防衛などという議論になるのか。
 この事態を冷ややかに見ている首都圏の4000万人の主権者たちが「当事者意識」をもって政治にかかわっていく。そのためには自分たちのところが戦場になることを想定した上で安全保障を議論するべき時期に来ていると思います。

戦争は政治家が始めて兵士が死ぬ

 「中国脅威論」というのがあります。皆さん、中国に対してどんなイメージを持っているか。これも昨日中国の新華社通信の記者に質問されてやりとりになりました。「中国はそんなにイメージが悪いんですか」。こう答えました。「非常に悪いです。習近平体制になって残念ながら沖縄の人たちの中国に対するイメージは大きく変わっています」。政権を担う人たちは、「権不十年」という言葉があります。一人の人間が長期政権をとるのは非常に危険だと。プーチン大統領を見れば分かるでしょう。日本の安倍政権を見れば分かるでしょう。決めたルールを変えて、長期政権になれば横柄になります。
 米海兵隊の司令官たちとも議論しました。学生たちが司令官に聞きました。「戦争がしたくて軍隊に入ったんですか」と。兵士たちに聞きました。「戦争が好きですか」と。質問に対して司令官が言ったことは「戦争は政治家が始めて軍人が死ぬんです。最初に死ぬわれわれが戦争を求めるわけがないでしょう。死にたくありません」という返答でした。

老人が始めて若者が死ぬ

 同じようなことが学生との議論の中に出ました。「前泊先生、戦争は老人が始めて若者が死ぬんです」と。だから今日は若い人たちが動き出している。(拍手)
 この先が短い年寄りたちがいま反戦運動を一生懸命やっているのに、先の長い若者たちが動かないはずはない。「自分たちの未来は自分たちで奪い取る」。そんな時代に来ています。今日は若者代表として、神谷美由希さん、瑞慶覧長風さんが司会されています。沖縄県内ではいま若い市町村議員たちがチームをつくって動き出しています。
 全国の皆さんに呼びかけます。若い人たちが今こそ立ち上がってください。「将来を年寄りにまかせるな」。そう言う私も年寄りの一人です。新しい時代を若い人たちに託して育てて、そしてわれわれ年寄りもいっしょに立ち上がっていきましょう。(拍手)
 ファクトとエビデンスによって、フェイク(虚偽)に、政府にだまされないような行動をとっていきましょう。「人を殺すな」「人に殺されるな」「平和と民主主義は与えられるものではなく、奪い取るもの」です。(拍手)これが沖縄戦で学んだ沖縄の教訓です。
 沖縄戦で沖縄はもう十分に犠牲になりました。78年間、全国土の0・6%に過ぎない沖縄は70%以上の在日米軍基地を背負ってきた。日本が日米安保が必要と言うなら「沖縄に頼らず自分で立て」と。(拍手)軍事に頼らない平和を、安全保障をこの国の国民でつくっていってほしいと思います。