泥舟・自民党は沈没寸前
「代わりの舟」の準備を急げ
『日本の進路』編集長 山本 正治
4月の統一地方選挙と衆参5補欠選挙の一連の選挙結果は一般に、自民党「辛勝」、日本維新の会や参政党の「躍進」と言われる。何ごとも物事は表面だけ見ていると本質的なこと、趨勢を見誤る。
一連の選挙での各党獲得議席の結果などで見ても、自民の大幅な後退、公明も後退、他方、自民党政権批判の先頭に立っている共産党も大幅な後退である。既成政党の限界が露呈したとの論評が多いが、間違いではない。維新や参政だけでなく、れいわ新選組も躍進と言えるか評価は分かれるが前進したからだ。国民のこうした投票行動から、政治意識も読み取ることがある程度可能である。最大の特徴はどの選挙でもほぼ、投票率は過去最低だったことである。ここにも国民の政治意識、あるいは既成政党への意識は明瞭に表れている。
自民党の政治、国民を急速に貧しくしている経済政策と軍拡一本槍で戦争を招きかねない安全保障政策への国民の拒否感だ。その政治意識を捉えた第一党は「棄権」であったと言える。そして不満を巧みに捉えた新興勢力がある程度引きつけた。
真に政治を変える展望を示す政治勢力が求められている。戦後の「対米従属、大企業中心の政治」を進めてきた自民党の歴史的限界は明らか。国民のいのちと生活の危機を打開し、歴史的転換期の動乱の世界で自主・平和の進路を切り開くチャンスに変えなくてはいけない。
結果の概要
さまざまな選挙があったが結果を概括しておきたい。4月23日投開票の衆参補欠選挙は、衆院で自民3議席、参院は自民1議席に維新が和歌山県で1議席を獲得、「自民辛勝」と言われる根拠となった。しかし、辛くもの実態が薄氷を踏む「勝利」であったことはすでに周知である。
4月9日投開票の統一地方選挙前半戦の知事選では、奈良県で自民党現職を破って維新候補が当選したが、自民分裂選挙に助けられたものだったことも周知である。
しかし、知事や市町村長などの首長選挙では政党の消長はほぼ読み取れない。一般市やましてや町村の議会でも、無所属が大半で同様である。
41道府県議選、17政令指定市議選、東京都21区議選はほぼ政党選挙で、無所属候補者もいるが少数で大半は各政党の公認候補同士の争いである。その結果は政党の消長を浮き彫りにする。
そこで見ると、どこから見ても議席数を減らしたのは、自民党と共産党である。公明党は道府県議選で辛うじてプラスだが一般市と東京の区議選で減らしており明らかに後退。立憲民主党は、前回比で議席勢力を伸ばしたが、この期間中に政党再編が進み、国民民主党と社民党の一部を引き入れたからでもある。支持が増えたかどうかの正確な前回比は言えない。
他方、日本維新の会は議席を大幅に伸ばした。参政党は4年前にはなかったので比較はできないが躍進と言ってよいだろう。れいわ新選組は、前半戦は振るわなかったが東京区議選で大きく前進、一般市でも一定の前進を見せた。
この政党消長状況を、統一地方選挙と離れた5月21日投開票の東京足立区の区議選の結果は劇的に示した。
マスコミは「自民に衝撃『前代未聞の出来事』」との見出しで伝えた。さらに「統一地方選でも自民は都内で議席減が相次いでおり、止まらない『敗北』に衝撃が走った」と。自民党は、19人擁立したが、会派幹事長ら現職5人と新顔2人が落選、議席を5つ減らし第一党の座を失った。「前代未聞の出来事」という会派副幹事長は選挙中に「国の安全保障や経済対策などの党の政策に対する風当たりの強さを感じた」という(以上、引用は「朝日新聞」)。自民が失った議席を奪う形で、日本維新の会やれいわ新選組、参政党の新顔が当選した。
自民党幹部が言う、「安全保障や経済対策などの党の政策に対する風当たりの強さ」。これこそこの結果をもたらした要因であろう。
国民の政治意識動向もうかがえる
自民は、道府県議選開票結果で見ると支持を約110万人、率で10・1%減らした。公明は、21万、9・4%減、共産は、51万、24・9%減で、この3党が支持を大幅に減らした。
国民民主、社民も減らしたが、4年前の立憲+国民+社民の3党を合わせるとマイナス0・4%の減にとどまる。旧民主党系支持勢力は微減傾向で踏みとどまっているといえるか。
足立区議選結果で見ると、今回、自民党は前回比でちょうど1万の支持を失ったが、4年前も前回比で約9700の支持を失っている。公明党は、今回3600減だが、前回は2300減。共産党は劇的で、今回5800近く減らしたが、前回は9000弱減らしている。これらの党は趨勢的にかつ劇的に支持を失っている。足立区など東京区議選は全国の先行指標ではないだろうか。
投票率はさらに下がって史上最低を更新した。どの選挙も、おおかた40%前後である。実に6割の有権者が、与党自民・公明は無論、野党候補者の中にも支持できる人を見つけきれず投票所に行かなかった。議会制民主主義の危機と言う人もいる。
また、無投票選挙区も多く、有権者には選択肢がなかった。有権者が自民党に代わる政策(の党、候補者)を見つけきれなかっただけでなく、政党側の「無気力」が目立った。
棄権者の増加は、投票率がほぼ毎回「過去最低」となっているように、傾向は趨勢的である。
こうしたなかで自民党政治に不満を持った有権者の一部は、既成政党批判を繰り返し「改革」を唱えた維新や参政に引きつけられた。野党では「れいわ」にある程度引きつけられた。
NHKも含めてマスコミも盛んに取り上げたが、若者たち、とくに若い女性たちの運動が目立ったことが一つの特徴で、結果としても女性議員は増加した。東京23区の女性区長は過去最多の6人となった。兵庫県宝塚市議選(定数26)では女性14人が当選し過半数に達した。同芦屋市では26歳の史上最年少市長が誕生した。
「代わりの舟」の準備を急ぐ
維新や参政が、既成政党を批判し「改革」を唱え一定の支持を集めたが、「改革」とはいっても自民党政治に代わる中身はないか、変わらないか、より右の「改革」に過ぎない。自民党政治の基盤が崩れているのだから、似たような政策で看板を掛け替えるに過ぎないような新しい政党が、自らの確固とした支持基盤を形成し、政治勢力として定着するかは見通せない。
さらに何よりもそれでも棄権者が増え続け6割にも。真の無関心層もいるだろうが、相当部分はかつて自民党支持層だったがその政治に怒り離れた人びとだ。しかし自民党から離れても、「左」の野党にはほとんど来ない。「右」の改革政党に一部が流れている。多くは、支持政党を持たない、いわゆる「無党派層」となっている。自民党政治の泥舟は沈む寸前だ。社会学者の大澤真幸さんはすでに2016年の参院選結果に触れて「どの野党も『代わる舟』を提起していない」と喝破した。
真に政治を変える展望を示すことが求められている。どうすれば世論を引きつけ政治を変えられるか。どのような政策軸かがまず重要だが、もう一つ、情勢と国民の要求に基づく大衆的運動構築も重要である。真剣な検討が求められている。われわれの課題である。