第6回日中時事交流フォーラム

日中間の政治文書の重要さを再認識
台湾海峡の平和および東アジアの平和と発展をめざす

 日中平和友好条約45周年を記念し、日中関係における重要な政治文書を再認識するため、日本の「自主・平和・民主のための広範な国民連合」と中国のシンクタンク「華語智庫」は、4月28日の夜、第6回オンライン日中時事交流フォーラムを開催した。国際環境の激変する中、日中関係の問題点を認識し、双方の見方を出し合い、意見交換し、国交正常化以来の4つの政治文書を礎に、今後の日中関係を展望した。


 日本側からは、東アジア共同体研究所所長で元外務省情報局長の孫崎享氏が「米中対立激化の中、日中関係をどう制御するか――日中関係の基本構図」をテーマに講演した。(内容別掲)
 中国側からは、元新華社通信科学技術部長で現在「華語智庫」上級顧問の張可喜氏が「歴史を鑑みに約束を守る――中日関係維持・発展の鍵」と題して講演した。(内容別掲)
 二人の問題提起を受け、日本側からは青山学院大学名誉教授の羽場久美子氏が、中国側からは華語智庫の執行理事長(元新華社『参考消息』編集部副部長)の徐長銀氏がコメントするなど、双方から有意義な意見交流が行われた。
 双方は、4つの政治文書が日中関係の政治的基礎であり、引き続き順守し、地域の平和を大切に維持することで改めて意見一致した。台湾は中国の領土の不可分の一部であり、台湾海峡の平和ならびに東アジアと世界の平和を維持する努力が大変重要な課題であると確認した。そのためにより多くの日中民間交流を実施・参加し、双方の国民が理解を深め、両国関係をしっかり守るよう、いっそう努力することを決意した。
(通訳・文章整理 王景賢)

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■ 日本側 孫崎享氏の問題提起

米中対立激化の中、日中関係をどう制御するか
――日中関係の基本構図

 孫崎氏はまず、近年の日本外交は自国の利益を追求するものでなく、米国の安全保障や米国との外交の枠組みに従うものであったことを強調し、その上、日中関係は、米中関係の動きによって大きく左右され、日中関係を考える上では、米中関係の理解が不可欠であり、そして、米中関係は今極めて高い緊張の下で推移しているとの見解を述べた。
 その中で、購買力平価ベースのGDPや科学技術論文の量と質などを例に挙げ、中国はすでに一部の分野では世界一となっているため米中の緊張が高まっていると指摘した上で、米国のハーバード大教授グレアム・アリソンの以下の論点を引用した。
 ①中国は明確な目標を設定し、着実に成長し、近い将来明確に米国を抜くとみられる。
 ②ナンバー1の国がナンバー2に抜かれそうな事態では、情勢は極めて不安定になる。過去500年では、ナンバー1がその座を脅かされた例が16回あり、うち12回も戦争になった。
 ③米国は長期にわたって世界のナンバー1であり、世界はアメリカそのものである。したがってその座を脅かされることは米国への攻撃とみなされている。
 ④米中衝突の危険は世界の多くのところで感じられているが、今日合理的な解決策は提示されていない。
 さらに、孫崎氏はギャラップ社の「世界における米国の位置」という報告のデータを引用。2023年はまだウクライナでロシアが戦争を行っている時にもかかわらず、中国が米国の最大の脅威だと思う人は50%を占めている。過去に数字が高かったロシア、北朝鮮、イラン、アフガニスタンおよびイラクなどよりも大きかったとのデータを示した。

米国の代理戦争策略

 その上で孫崎氏は、米国はNATO諸国やG7への締め付けを強化し、「ウクライナ」「台湾」という対立軸を巧妙に埋め込んだと指摘し、このような背景の下で、日中関係、その争点とされつつある台湾問題を考える上で、ウクライナ戦争の教訓に言及した。
 孫崎氏は、ウクライナ戦争では、NATOを東方拡大しないというロシアとの合意をホゴにした背景があると分析し、以下のように続けた。これと同じように米中間の合意として、第一次米中共同宣言(上海コミュニケ)で「米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない」とされていたことを指摘した。また『周恩来とキッシンジャーの機密会談録』には、「周恩来は、台湾は中国の一省、中国の内政問題であると述べ、これに対してキッシンジャーは、我々は『二つの中国』や『一つの中国、一つの台湾』といった解決を擁護しないと明言し、米国は中国が唯一の合法政府と承認した。この範囲内で、米国の人民は、台湾の人民と文化、商業その他の非公式な関係を維持する」とあった。
 また、日中間でも1972年の共同声明には、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とある。
 今の世界情勢では、米軍は直接関与せず、中国と台湾、日本との武力衝突を待っているという。そのような事実をつくり出すことで、米国は中国の世界との経済的結びつきを断ち切ろうとするだろうと述べた。
 また、孫崎氏はウクライナ戦争前に、米国はウクライナとの間で「NATOへの加盟と東方拡大」の協議を進め、ロシアを軍事行動に誘導したように、米国は今、中国を挑発して軍事行動を起こさせる方法を探っているのだと述べた。

日本の国益にはならず害に

 一方、日本は、米国の国益にはなるが、日本には害になる政策を、安全保障面、経済面で出していると指摘する。2022年12月、日本政府は安保関連3文書の閣議決定をし、その中で、国家安全保障戦略と国家防衛戦略は、敵のミサイル発射基地などを攻撃する「反撃能力」を保有することを明記している。「反撃能力」は従来「敵基地攻撃能力」と呼ばれていた。
 安保関連3文書の改定を受け、日経新聞が行った世論調査では5年間で防衛力を強化する計画を支持するとの回答が55%で、支持しないが36%で、つまり、多くの人はこれで日本の安全が高まったと思っているようだが、全く逆だと氏は指摘した。
 敵基地攻撃が戦術的に最も成功したものとして、真珠湾攻撃の例を挙げた。米国の戦艦、爆撃機等に多大な損傷を与え、米側戦死者は2334人にも上り、「成功」したといえる。だが、最終的に日本は軍人212万人、民間人は50万人から100万人の死者を出し降伏したように、「敵基地攻撃の大成功は日本国民の破滅につながった」と結論づけた。
 敵基地攻撃だけでは優位に立てない。
 そもそも仮想敵国は日本を攻撃するミサイルを何発保有しているか、そのうち何発が実戦配備されているか、その何発の配置場所を正確に把握しているか、「敵基地攻撃」で何発を破壊できるかなどの問いを出せば、いかに日本の国益に反するかが分かる。
 しかし、このように日本の安全保障には害になるが、米国の視点で見れば、米国本土への反撃の危険性はないし、攻撃の選択肢が増えることになり、米国国益にプラスであることに注目すべきだと述べた。
 さらに経済面では、日本政府が3月31日、軍事転用の防止を目的として高性能な半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加したこと、主たる対象は中国であると指摘した。氏によると、NHKの資料では2022年、中国は日本の半導体製造装置輸出先の31%で、この中国市場への輸出減は他の市場では埋められず、明らかにこの輸出管理は愚策だと批判した。

台湾、尖閣で「日中合意」を順守する

 最後に、孫崎氏は、「ではわれわれは何をなすべきか」と提起し、「国民の皆さんはいかに日本、台湾が米国に利用されて武力衝突に行かないようにするか」だと明確に述べ、「台湾問題とは何か、米中、日中合意で明らか。まずこの合意を少なくとも日本国民に理解してもらう必要がある」と指摘した。
 日本国内には、「台湾有事は日本存立の危機」なる論立てが間違っていることを説明する必要があり、同時に、中国側が「台湾問題は中国の内政問題。沖縄は日本の一部である。両者は根本的に異なる問題」ということを説明してもらうのは有効であろうと主張した。
 さらに、中国の経済発展を見るとき、誰が見ても中国との強固な経済的関係はそれぞれの国に有利である。台湾の発展にとってもそうである。
 時間軸を考えれば、時間が経過するだけ中国と台湾の関係は強固になると考え、中国がこの時間軸の優位さを生かす政策を望みたいと考えを述べた。
 尖閣諸島(中国名は釣魚島及び周辺島嶼)について、「一番重要なことは、田中角栄・周恩来会談における棚上げである」と述べた。その前提で、米国が日中間の軍事紛争を望んでいる当面、中国がこの周辺で軍事行動のレベルを低めにすることが、日本・中国双方の利益になると述べた。
 孫崎氏は「尖閣諸島周辺を自然保護区にし、漁業を行わない、人々がクジラの浮遊を見に来るような場所にする」のはどうかと個人的な提案を述べた。
 最後に、日本では今急速に中国を敵視する枠組みづくりが進んでいるが、そうではなくいかに中国との対立を避けるか、避けさせることができるか、それが日本の利益になることを説得していく必要があると主張した。また、「沖縄に対して、恒常的に安全保障対話の場をつくるよう呼び掛けている」と締めくくった。

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■ 中国側 張可喜氏の問題提起

歴史を鑑に約束を守る ― 中日関係維持・発展の鍵

 張可喜氏はまず、日中関係を巡る4つの重要な政治文書と、両国首脳の3つの重要な合意事項について振り返った。日中関係の4つの重要な政治文書とは、①1972年9月29日に発表された日中国交樹立のための「日中共同声明」、②78年8月12日に北京で中国の黄華外相と日本の園田直外相が署名した「日中平和友好条約」、③98年11月25日に発表された「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」、④2008年5月7日に中国の胡錦濤国家主席と日本の福田康夫首相が、東京で署名した「日中戦略的互恵関係の包括的促進に関する日中共同声明」である。
 さらに、4つの政治文書の中で最も重要なのは「日中平和友好条約」だとして、その第一条には、「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする」、また、「両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」と明記されていると語り、張可喜氏は両国の間で法律化された文書は最も重要だと述べ、しっかり順守する必要があると指摘した。
 また、張可喜氏は両国の「日中共同宣言」と「日中平和友好条約」には、以下の5つの意義があると指摘した。
 第1、当時の米ソ中による3国対立を変え、その後の世界情勢と流れに大きな影響を与えた
 第2、両国は史上初めて「平等と互恵」を実現し、「平和友好」のパートナーとなった
 第3、両国に50年にわたる平和的発展の好機を与え、互いに膨大な利益をもたらした
 第4、政治、経済、科学技術、文化など、両国の包括的かつ互恵的な協力に強い推進力を与えてきたこと。特に経済面では、日本は1300億ドル以上の対中直接投資残高と3万社以上の在中国企業を有し、中国への主要な投資国となった
 第5、東アジアの平和と安定の維持に大きな貢献をしてきたこと
 ――などを挙げた。

4つの基本文書をホゴにする日本の動き

 一方、張可喜氏は最近の日中関係に問題が生じており、その主な原因は日本側にあると指摘した。理由としては――①日本の国会は、2022年2月1日という中国の旧正月の日を選び、非友好的な「中国関連決議」を可決したことは中国国民の感情を厳しく刺激した、②日本側は米国の先兵となって中国に対抗し、米国の「インド太平洋戦略」に協力している、③日本はいわゆる同盟国と「中国包囲網」を組み、中国を孤立させている、④日本側はいわゆる「台湾有事は日本有事」などと喧伝し、南西諸島への軍事配備を強化し、沖縄にミサイル基地を建設し、台湾問題に手を出そうとしている、⑤日本政府は昨年末、新たな「安全保障3文書」を採択し、「反撃能力」、すなわち先制攻撃能力の獲得を目指し、中国を敵国とみなし、「かつてない最大の戦略的挑戦」と位置づけた。
 このように、日本は外交的に「日中平和友好条約」に違反し、中国に「背信」しつつ、内政的には軍備拡張を行い、戦争準備をすることは、日本の「平和憲法」に違反していると言わざるを得ないと述べた。

日本はどこへ向かおうとしているのか

 さらに張可喜氏は、平和友好であるべき日中関係は、日本の政治情勢などに大きく影響されつつあると指摘した上で、「日本はいったいどこへ向かおうとしているのだろうか?」と厳しく問いかけ、「日本は国運の面で第2次世界大戦の失敗教訓と、戦後の平和的発展の成功体験の両方を持っている」とし、今の岸田政権は、過去の歴史の教訓を踏まえ、日本の向かう方向は戦争か平和か、慎重に選ぶべきだと指摘した。米国に追随して、中国と戦うということは、あまりにも戦略的視野を欠いた過ちであり、目先の損得だけにとらわれていると厳しく批判もした。今の日本当局は、キッシンジャーなどに指摘されているように「戦略的思考の欠如と視野の狭さ」という弱点を反省し、遠視的に未来を見据えるべきだと主張した上で、日本社会には、過去の失敗教訓を認識している有識者もいる一方、為政者はこの問題を深く理解していないと批判的な意見を述べた。
 最後に、張可喜氏は、目下両国民の相互理解と信頼を強化することが、双方にとって最重要課題であると強調し、日本政府は初心に返り、歴史の失敗から学び、日中関係の政治的基盤である重要な4つの政治文書を忠実に守った上で、台湾海峡ならびに東アジアの地域平和を守るよう提言したいと締めくくった。