ミサイル配備に揺れる国境の島・与那国の声 崎元 俊男

台湾に110㎞、沖縄本島500㎞、東京へ1900㎞

与那国町議会議員・崎元酒造所代表 崎元 俊男

 2、3年前から町では、与那国島から台湾の花蓮市まで高速船を2時間で走らせる事業を補助をもらって試験事業でやっています。これがコロナでなかなかできなくなっていたのですが、今年の夏ぐらいに再チャレンジします。これがうまくいけば、あとは民間に委託して、できたら週に1回ぐらいは走らせていきたいんです。
 これに人だけでなく物資も載せれば経済交流までどんどん発展していきます。うちの酒も向こうに送れる。逆に、向こうから瓶とか段ボールとかいろんな資材を買えるということもあります。今は沖縄本島から仕入れていますけど(花蓮市は110キロメートル)。そういう経済交流を島の多くの人が望んでいます。


台湾との交流で栄えた与那国

 なぜ望んでいるかというと、この島がいちばん繁栄したのが戦後の昭和20年代前半なんです。ヤミ貿易、台湾との物々交換でいろいろやりとりして潤った。今も、こういうことを望み、夢を持っている人が結構多いですね。
 それが日中国交正常化で台湾と国交を謝絶したものですから止まってしまった。それまでは、本土復帰前でもありますが、台湾から援農隊といいますか農業の手伝いなどの方も受け入れていた。それが日中国交をやった途端にできなくなってしまった。その結果、厳しい状況が始まったわけです。
 今は、台湾に行くにも那覇経由でしか行けない。これを高速船を走らせることによって、直行で行くことがもう一回できたら島の位置は変わる。
 例えば、東京から沖縄に、さらに石垣、与那国に来てもそこで行き止まり、そこからまた戻るしかない。それが与那国から台湾にちょっと行って、台湾から帰ったほうが安いということになる。そういう観光ルート、そういう流れをつくることができれば、観光も増えていくのかなと思いますね。逆に台湾の方からも人が来て、観光や経済交流をする、これをやってくれるだけでもかなり違います。この花蓮市との高速船には皆が賭けてます。

米ペロシ議長訪台までは誰も危機感を持たなかった

 町議会議長となってこの半年はずっと苦悩続きですね。昨年8月、米下院議長のペロシさんが台湾を訪問する。あそこからすべてがおかしくなりましたね。あの人のわがままをアメリカ政府は止めていたのに強引に行った。本人が中国嫌いだから、「台湾寄り」を議員生活の最後にアピールしたいのはわかるんですけど、それをやったおかげで中国の軍事演習が始まって一気に緊張が高まった。
 2、3日前(本年1月中旬)、防衛局の説明があったときも、ミサイル部隊とは言わなかったが、対空部隊とか言っていたが、これはいつごろ決まったんだという話になった。そのとき彼らは、世界情勢がめまぐるしく変わる中で9月の予算編成から急に出てきた話ですと言っていた。それを真に受けたら、ペロシさんが台湾に行かなかったらこういうことにならなかっただろうと、怒りを持ちますね。
 私はもともと革新だったんですけど、4期続いた外間町政の方針がおかしいということで、そこから離れた保守の人たちと一緒になって一昨年の9月に今の町長を実現したんです。
 ところが、この半年の間でめまぐるしく自衛隊配備の動きが加速した。だからわれわれ与党、現町長をつくりあげた与党内でもちょっとしこりが出てきてしまった。
 オール与党ではないんですけど、もともとの保守の方とも話をしながら現町長のこの一年間はなんとかうまくやってきたんですけど、昨年の9月以降はいろいろと大変になってきましたね。

最前線のミサイル基地

 シェルターの問題は、今回発案者の嵩西議員は漁協の組合長もやっているんですけど、去年の12月ぐらいから提起していたんですよ。そのときは町長もシェルター自体は日本にはそんなにないし、ちょっと難しいんじゃないかという話をしていたんですよ。それよりも国民保護法に沿って、住民の避難誘導の計画を国と県に強く訴える。これを早くやってくれという話をしているということだった。
 ところが今年に入ってからシェルターの話が急に出てきました。そこから町長もちょっと変わって、予算が出るんだったらという話になって。中国の演習もあったもんだからそこから、特に県外から見たらほんとに危ないんだって感じになったのだと思う。
 だけど、ペロシさんが行く前も海外からいっぱい取材が来たんですよ、「台湾有事の可能性がある」と言ってですね。しかし僕らは全然そうは思わなかったんですよ。島の人は誰も思っていなかったんです。
 ところがこれが一変したのが昨年の8月以降ですね。実際に落ちたもんだから島の人も「ミサイルを落とされるんだ」「エーッ!」ってなったんですよね。
 「台湾有事」となって米軍が参戦したときには、自衛隊も一緒に参戦、戦いに加わることになる。そうすると中国からするとやっぱり敵国ということになりますので、敵国の、いちばん最前線にある基地だから狙われる可能性がある。
 自衛隊でも沿岸監視部隊のときは、狙われる可能性はあるかもしれんかなと思ったけどそこまでは危機感はなかった。ミサイル部隊になると、ほんとに攻撃目標になりますよね。中国軍が、自国を攻撃する相手の基地をつぶしに行くというのは当然なのかなと思う。そういう危機感を持つ人がだんだん増えてきましたね。
 だからミサイル基地は絶対に止めたい。台湾や近隣諸国との交流の中で平和な島の経済発展をめざしたい。