緊張激化させる敵基地攻撃能力保有

沖縄県民は平和外交を強く求める

全国の自治体で呼応した努力が必要だ

 台湾有事が声高に叫ばれ、日米政府が中国敵視のミサイル軍拡と軍事演習を強める中で沖縄県民の「再び戦場か」との危機感は急速に高まっている。中国敵視でなく、平和友好の外交を求める動きが広がっている。玉城デニー知事も呼応している。戦争の危機は南西諸島だけでなく日本全国の課題である。この沖縄県民の危機感を共有し県民の闘いを支持し、全国で闘いを発展させることが求められている。

「敵基地攻撃能力保有は緊張を高める」と県民は認識

 昨年秋以来の日米軍事演習の激化や安保関連3文書の閣議決定、南西諸島へのミサイル配備などで、沖縄県民の危機認識に変化が進んでいる。
 昨年11月の軍事演習「キーン・ソード23」では、民間港である中城湾港に多くの自衛隊車両が陸揚げされ、与那国島では与那国空港から陸自与那国駐屯地までの公道を戦闘車両が走行した。沖縄県民の目に、「戦争前夜」(沖縄戦の継承に取り組む平和ガイド7団体のアピール)さながらに映るのは当然である。
 琉球新報社などが1月末に行った県民世論調査では、他国を攻撃する敵基地攻撃能力保有について過半数の55・6%が「反対」で、「賛成」はわずか25・1%だった。昨年12月に共同通信社が実施した全国調査では「賛成」が50・3%で反対を上回っていた。
 沖縄県民の61・0%は、敵基地攻撃能力保有で相手国となる周辺国との関係について「緊張は高まる」と判断している。保有しても「変わらない」は18・4%、「分からない、答えない」14・8%。「緊張は和らぐ」と答えた人はわずか5・8%に過ぎない。南西諸島への自衛隊配備強化では反対が54・2%と、賛成を25・5ポイント上回った。年代別では40~80代の年齢で「反対」意見が賛成を上回り、70代は実に7割が反対した。
 「日本に戦争をさせない」「沖縄を再び戦場にさせない」と、沖縄戦を体験した当事者たちを先頭に沖縄県民は動き始めている。

戦争経験者「戦争反対」の叫び、県民大会を求める

 沖縄県内21校の旧制師範学校・中等学校元生徒でつくる「元全学徒の会」は1月12日、「沖縄を戦場にすることに断固反対する声明」を発表した。ミサイル配備をはじめとする南西諸島の自衛隊増強と軍事要塞化に反対し、陸上自衛隊第15旅団の師団格上げや司令部の地下化について「県民の平和志向に反する。命を何よりも大切にする沖縄戦の教訓を守ってもらいたい」と訴えた。「再び戦争が迫りくる恐怖と強い危機感を覚え、むごい沖縄戦を思い出す。日本政府は『中国脅威論』を盾に、自衛隊と米軍の一体化で国民の緊迫の度を高め、自ら戦争を引き起こそうとしている状況が戦前と重なる」、さらに大勢の学友や家族を失った体験を踏まえ「美しい大義名分を掲げても、戦争には悪しかない。戦争は始まってしまったら手がつけられず、爆弾で人の命が奪われる。戦争はしてはならない」と訴え、日本政府に対し、「今すべきことは、いかに戦争をするかの準備ではなく、戦争を回避する方策を取ることだ」と外交努力を求めた。
 沖縄戦の継承に取り組む平和ガイド7団体なども1月26日、「日米両政府に戦争しない・させないためのアピール」を発表した。「台湾有事」について日米両政府が、「軍事力増強競争をエスカレートさせて力で抑え込もうとしている。このようなことで戦争を止めることはできない」と批判。「沖縄戦でも最初に狙われたのが軍事基地・軍隊だった。いかに軍備増強しても攻撃目標にされる」として、憲法9条の厳守と日米両政府が戦争に突入しないことを強く求めた。さらに県に対して県民大会を開き、戦争反対の声明を全国に発することを求めている。このアピールを取り上げた琉球新報社説も県民大会開催を提起している。
 「第32軍司令部壕の保存・公開を求める会」は2月6日、自衛隊駐屯地の地下化などについて「われわれが求める『平和への道』とは全く異なる」とし、「沖縄を再び戦場にすることに断固、反対する」声明を発表した。会見には戦争体験者の会長らが参加したが、瀬名波栄喜会長(94)は、沖縄戦の前年に満州から日本軍が移駐してきた体験を振り返り、「自衛隊がどんどん入り込む今の状況と全く同じだ」と危機感を示した。高山朝光副会長(87)は沖縄戦の教訓が語り継がれてきた沖縄と全国は異なる認識だと指摘。「『台湾有事』に県民はものすごく不安を持っているが、地上戦を体験していない沖縄以外では机上の空論になっている」と述べ、沖縄の声を全国に広げると同時に、政治家や経済界が米中を訪問し「台湾有事」の回避を交渉で止めるべきだと訴えた。

日中共同声明など4文書を基礎に外交解決を求める県民

 こうした中で台湾を目の前にする与那国町の山田和幸さん(「東アジアの緊張緩和を求めて」講演会実行委員会代表。20ページ参照)ほか8人が沖縄県議会に2月1日、陳情。「台湾や尖閣諸島に隣接する与那国町民は、偶発的な武力衝突から戦争へと拡大する恐怖を身近に感じている」との趣旨で、「日本政府に対し、日中政府間外交の成果に基づき、尖閣諸島や台湾有事など日中間の問題解決を要請する意見書の可決を求める陳情」を提出した。
 意見書では国会と政府に対して、「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」、「日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約」、「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」、「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」および「日中関係の改善に向けた話合い」等、日本国と中華人民共和国政府の間で取り交わされた文書の諸原則に沿って、両国間の問題解決を図ることを要請することを求めるものである。
 同様の陳情を沖縄県議会に、「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」、それに「ノーモア沖縄戦ぬちどぅ宝の会」がそれぞれ代表名で提出している。そこには戦争への恐怖と平和への切実な願いが浮き彫りになっている。そして、どの陳情も、日中国交正常化合意以来両国政府間で取り交わされた4文書と2014年、尖閣諸島問題を巡る緊張の緩和をもたらした「日中関係の改善に向けた話合い」合意文書の諸原則に沿って、両国間の問題解決を図ることを求めていることが特徴である。
 「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」共同代表清水早子さんほか1人の陳情は、「宮古島は台湾及び尖閣諸島に近接し、ミサイル基地が運用されており、我々住民は、偶発的な武力衝突から戦争へと拡大する恐怖を身近に感じている。(中略)両国間に考え方の相違があるとしても、これまで重ねてきた外交成果に基づき問題解決を図るべきであり、そのことが宮古島住民の安全の確保や安心につながると考える」、
 「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」共同代表上原秀政さんほか4人の陳情は、「台湾と中国に近く、自衛隊ミサイル部隊の配備が予定されている石垣市でも、戦争の不安を強く感じるが、島内にはその不安が現実になったときに逃げ込む場所も、島外に避難するすべも極めて限られており、住民に大きな犠牲が出ることは避けられない。そのような戦争は起こしてはならず、台湾有事も決して避けられないものではないはずである。石垣市は台湾の蘇澳鎮と、沖縄県は中国福建省と姉妹・友好都市であり、台湾も中国も私たちにとっては大切な隣人である。平和な善隣友好こそが私たちの願いである」、
 「ノーモア沖縄戦ぬちどぅ宝の会」共同代表石原昌家さんほか4人の陳情は、「中国は日本にとって今や最大の貿易相手国であり、最多の観光客も迎え、その友好的な関係は日本・沖縄の経済発展に大きく寄与する。特に本県は、平和外交を通し中国や韓国、東南アジア諸国と友好関係を保ち平和を享受してきたかつての琉球王国として、独自の歴史を誇る。『命どぅ宝』の言葉が示すように、命を貴び、何よりも平和を求めてきた。戦争を防ぎ共存共栄の平和を維持するため、日中間で結ばれてきた諸条約、宣言、声明等の遵守は必須であると考える」、とそれぞれ求めている。

沖縄はアジア太平洋地域のハブ(図hs沖縄コンベンションセンターHPから)

「平和構築」を自治体の課題に据えた玉城デニー知事

 沖縄県玉城デニー知事は、こうした県民の危機感を背景に、2月県議会での県政運営についての所信表明で、東アジアの厳しい安全保障環境と急激な軍備増強へ危機感を示した。
 安全3文書閣議決定に対しては、「国民的な議論や地元に対する説明がないまま、南西地域を『第一線』とする3文書が策定されたことは、熾烈な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせる」と危惧を表明した。
 その上で政府に、「平和的な外交、対話による緊張緩和と信頼醸成」を求めた。とくに尖閣諸島を巡る問題についても日本政府に対し、「周辺海域の安全確保、平成26年の『日中関係の改善に向けた話合い』の合意事項の意義を尊重し、冷静かつ平和的な外交・対話を通じて日中関係の改善を図る」よう求めた。
 さらに県独自でも自治体外交を進めるとし、「平和構築に貢献する独自の地域外交を展開するため、知事公室内に地域外交室を設置する」と述べた。「万国津梁」の歴史をもつ沖縄県政が、「平和構築への貢献」という目標を定めたことの意義は大きい。沖縄のアジア太平洋地域のハブとしてのパワーを生かし、自治体外交によって地域の緊張緩和に寄与する努力を支持する。これをサポートする県民の力、国民運動が求められる。
 全国でそれを支持し共に闘う、とくに全国知事会、都道府県議会議長会をはじめ全国の自治体で沖縄県に理解と共感を寄せ、自分ごととして「平和構築」への努力を始めることを求めたい。
 再び『戦前』にさせてはならない。   (『日本の進路』編集部)

沖縄はアジア太平洋地域のハブ

(図は沖縄コンベンションセンターHPから)


資料 日中関係の改善に向けた話合い

平成26(2014)年11月7日

 日中関係の改善に向け、これまで両国政府間で静かな話し合いを続けてきたが、今般、以下の諸点につき意見の一致をみた。
1 双方は、日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。
2 双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。
3 双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。
4 双方は、様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して、政治・外交・安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。

 (以上、外務省ホームページから全文)

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