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中国共産党第20回全国代表大会 ■ これからの日本と中国

「台湾統一急がず」に変化なし
中国党大会の意義と台湾政策

ジャーナリスト(元共同通信客員論説委員) 岡田 充

 5年に一度の中国共産党大会(第20回)が2022年10月16~22日に開かれ、中国式現代化政策を進め今世紀半ばに「社会主義現代化国家」と「中華民族の偉大な復興」を実現する中長期戦略を打ち出した。習近平総書記の3期目入りも承認し、習の「党の核心」地位と「党中央の権威」を守る「二つの擁護」を党規約に明記し習3期がスタートした。台湾政策では、統一を急ぐ記述や武力行使の容認は党規約には入らず、統一を急がない従来方針に変化はなかった。「ゼロコロナ政策」に反発するデモが11月末、北京、上海など全土に広がり、習と共産党退陣の声が上がったが、習指導部は規制を緩和する方針に大転換し、デモ拡大を抑え込んだ。

鄧小平を越えられず

 党大会で最も注目されたのは、胡錦濤前総書記が途中退場したシーンだった。胡を無理やり退場させたように見えたことから、胡の出身母体「共産主義青年団」出身幹部への冷遇人事に不満を抱き、「習近平独裁への抗議の意思表示」「習氏が反対派への見せしめとして退場させた」などの臆測が続いた。しかし胡は、退場前に中央委員名簿を見た上で投票を済ませていることが確認されている。胡はパーキンソン病と認知症が進行しているとされ、胡の表情や挙動からみると「病状悪化説」に説得力がある。
 20回党大会で何が変化したか、「党規約」の変化から探ろう。現党規約は1982年の第12回党大会で採択され、文化大革命の否定と鄧小平の改革開放政策の正統性が基調。文革後の中国は、胡耀邦時代を経て趙紫陽(社会主義初級段階)、江沢民(社会主義市場経済)、胡錦濤(科学的発展観、和諧社会)と、各時代のリーダーの政策の特徴が盛り込まれた。
 大会前メディアは、「主席制復活」「個人崇拝の禁止の削除」、さらに「習近平思想」「人民領袖」などが盛り込まれ「習独裁」が強化されると報じた。しかしこれらの予測は外れ、集団指導制は維持された。
 建国以来の潮流変化を「大づかみ」にすれば、新党規約は中国式現代化政策の下で、分配に重点を置く社会主義建設を強調すると同時に、グローバルに市場経済を展開する改革開放政策の継続もうたった。習はまだ鄧小平を越えていないことになる。

「不均衡発展」が矛盾

 大会初日、習が党活動報告で強調した「中国式現代化」について、日本メディアは「欧米の経済発展方式を否定する異質な路線」と対立面を指摘した。しかし習の世界秩序観は、中国式を強調しながらも「多様な価値観に基づく多極秩序」にあり、さまざまな発展方式を認める内容。
 米一極支配秩序が崩れる中、地球温暖化やパンデミックなど世界的課題を前に『人類運命共同体』の理念の下、グローバル協力の提唱は時宜にかなっている。世界的課題に取り組むには、体制の違いを超えた多国間協力が欠かせない。
 改定された党規約には、歴史的3大任務として「現代化達成、祖国統一、平和的国際環境」が改定前と同様に掲げられた。平和的な環境の下で現代化を実現することが、依然として共産党の優先課題であることを示している。
 最も注目されるのは、「主要矛盾」として「人民の日増しに増大する物質・文化面の必要と立ち遅れた社会的生産との間の矛盾」という従来の記述が、「より良い生活要求の高まりと不均衡な発展の矛盾」に改められた点。貧困から脱皮し「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)が実現しつつある中、「より良い生活への要求」と「不均衡な発展」との矛盾解消という高い目標が設定されたのだ。

「統制」と「利便」の均衡崩れる

 「共同富裕」政策の推進、分配制度の改善、機会の公平性促進も提起された。これらは、「不均衡発展」の歪みを正し、国民生活の質的向上を目指す政策。経済発展方式では、国内循環と国際循環をリンクさせる「双循環」が書き込まれた。米中対立が長期化しグローバル経済の切り離しに対応する新発展方式である。
 さらに「一帯一路」「人類運命共同体」「強力な軍隊建設」も明記された。あらゆる領域で「安全」が強調され、安定を揺るがす内外環境への危機感を反映した。ただ、「言うは易く行うは難し」だ。中国は、加速度的に進む少子高齢化と、米国の経済デカップリングなど成長制約要因に直面しており、新発展方式が、「より良い生活」という高い要求に応えられるかどうかは試練にさらされる。
 その意味で「ゼロコロナ政策」に抗議するデモ発生は示唆的だった。中国の民衆が、一党支配下の「統制」や「監視」を受け入れてきたのは、豊かさや利便性と統制・監視のバーター取引があるからだとの見方がある。習の統制強化は、この両者の微妙なバランス(均衡)の上に成立していたが、厳格な封鎖やPCR検査の強制は市民に「窒息感」をもたらし、危ういバランス崩壊を思わせる。
 3期目スタート直後に、デモの一部から「習退陣」「共産党退陣」要求が出たのは衝撃だった。規制の大幅緩和という予想を超える素早い対応で危機は回避されたが、第3の習体制の多難さを象徴している。
 人事の特徴は、▼有力後継者は不在、▼側近中心の集団指導制は形式上維持、▼68歳定年を意味する「七上八下」の慣行は破られたが、人事基準として残る――など。習が4期目を目指すかどうかは、健康と高齢との闘いになるだろう。
 権力は必ず腐敗する。「中国民主白書」は「国家指導者は正しく交代」と終身制を否定している。

「武力統一」容認という誤読

 メディアが最も注目したのが、台湾問題だった。習の活動報告の台湾関係部分を再現する。
 「台湾問題の解決は中国人自身のことであり中国人自身が決めるべき。最大の誠意をもって最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す。その対象は外部勢力の干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力と分裂活動であり、広範な台湾同胞に向けたものでは決してない。祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」
 NHKはこの演説を「統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示した」と報じた。しかし中国の台湾政策は1979年以来「平和統一」にあり、「武力統一」を認めたとするなら歴史的な政策転換になる。
 よく読めば武力行使の対象を、「外部勢力の干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力と分裂活動」と付け加えている。「武力統一」を容認したのではなく、米国や台湾独立派に向け「武力行使」を否定しない従来方針の再確認と考えるべきだ。

緊張激化煽るメディア

 習の台湾政策は2019年1月発表の「習5点(5項目)」に集約されている。それは、「民族の復興を図り、平和統一の目標を実現」を強調し、「武力使用の放棄」は約束しないが、その対象は外部勢力の干渉と「台湾独立」分子―などとしている。
 習報告の「武力行使」発言と、習5点の記述が同趣旨であることが分かろう。中国は05年の「反国家分裂法」で武力行使の条件を規定して以来、事あるごとに武力行使を辞さないと言及しており、習報告もその一例と読み込むべきだ。
 党規約は台湾政策で変化したか。従来は「『一国二制度』の方針に基づいて、祖国統一の大業を達成」としていた部分が、「『一国二制度』の原則を全面的かつ正確かつ断固として実施し(中略)台湾独立に断固として反対し抑え込む」に変わった。米中対立激化の中で、重心が「独立阻止」に置かれた。統一を急ぎ武力行使を容認する、などの表現はない。
 要は中国が統一を急ぐ主体的・客観的条件はそろっていない。統一を急いではいないし急げない。「習5点」が「民族の復興を図り、平和統一の目標を実現」とする意味は、「民族復興」と「統一」をリンクさせ、統一を近代化建設と平和的環境の「大局」に従属させることにある。
 さらに台湾人の意思を無視した統一には果実はない。武力行使は西側の経済制裁を招き、経済発展を犠牲にして一党支配を動揺させかねない。とりわけ「武力統一」は下策中の下策だ。にもかかわらず、多くのメディアは「武力放棄せず」をデフォルメして「台湾有事」切迫の傍証に利用している。統一そのものを否定したいのだろう。

有事抑止どころか緊張激化

 岸田政権は22年12月半ば、専守防衛政策を骨抜きにする敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、軍事予算を5年でGNP比倍増にし、日米統合抑止力を強化――を柱とする「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を閣議決定した。
 戦略改定はバイデン政権が中国との争いを有利に展開するため、「台湾有事」を煽って日本を台湾問題で主体的に関与させる米グランドデザインの「中間決算」である。バイデン政権が、台湾問題を対中対立の核心に据えたのは、22年2月に発表した「インド太平洋戦略」に鮮明だ。
 米一国ではもはや中国に対抗できないという認識の下で、台湾問題を対中抑止の前面に据え、台湾有事を想定した日米共同作戦の共有など米軍と自衛隊の「相互運用性」の向上を強調する内容だ。
 この戦略に基づきバイデンは、①金額、量ともに史上最大規模の台湾へ武器売却、②閣僚・高官を繰り返し台湾に派遣、③軍用機を台湾の空港に離発着、④米軍艦の台湾海峡の頻繁な航行、⑤米軍顧問団が台湾入りし台湾軍を訓練―などの挑発を仕掛けてきた。その狙いは「グローバルリーダー」としての米一極覇権の回復にある。
 安保関連3文書はその模範的回答だ。それは「台湾有事」を抑止するどころか、台湾海峡の緊張を高め、有事を招く危険を増幅する。バイデンの対中挑発の性格を挙げれば、①中国を挑発し中国に競争するよう仕向ける、②中国に軍事的、政治的に「過剰対応」を引き出させる、③国内外で中国の威信や影響力を喪失させる―という「行動パターン」が浮かぶ。
 こうした挑発行動がなければ、「台湾有事の切迫」は生まれなかったはずだ。台湾有事を「つくられた危機」とみるのはそのためである。米国にとり、台湾と日本は対中抑止カードに過ぎない。日本と台湾の軍事力を強化して対中挑発を続け、その過程で不測の事態が起きる恐れは否定できない。
 その場合、米国は中国との正面衝突を避けウクライナ同様の「代理戦争」を想定しているはずだ。台湾有事でも米軍を戦場に送らず台湾に軍事支援する。中国と台湾と日本のアジア人同士を戦わせ、米国は自分の手を汚さずに済ませるのを狙っている。それこそがバイデン政権の「グランドデザイン」だと思う。
 岸田は22年11月、習との初の対面会談にこぎつけたが、台湾など安全保障問題での対立の溝は埋まらなかった。萩生田光一自民党政調会長は昨年末に台湾を訪問し、安倍晋三氏の遺言である「台湾有事は日本有事」を再確認し、日台安保協力を蔡英文総統と再確認した。
 今進めるべきなのは、中国脅威を煽り対中軍事力強化の弁解にすることではない。中国敵視をやめて、停止状態にある日中首脳交流を再開し信頼醸成を図るのが急務だ。