安全な食・地元産学校給食の先駆け、喜多方市を訪ねて
広範な国民連合事務局 川崎 正
食料自給率37%、日本の農業・食料は危機的状況。会津地方の5市町村が合併した喜多方市は、学校給食の地元産化に取り組んでいる。30年前から「安全な地場産食材を活用した学校給食」に取り組んできた「熱塩加納型給食」。喜多方市を訪ね関係者にお話を伺った。
2006年に旧・喜多方市と熱塩加納村・塩川町・山都町・高郷村が合併した喜多方市。福島県の会津地方の北西部に位置し、山形県や新潟県とも接する人口約4万3千人のまち。
熱塩加納町(旧・熱塩加納村)は、1980年代になって有機農業をJA主体で開始。子どもたちに地元の安全な米・野菜を食べさせたいという願いから89年、PTA・栄養士・農協職員を中心に、米は特別栽培の「さゆり米」で週5日完全米飯給食、野菜は生産者団体「まごころ野菜の会」が供給する学校給食が始まった。当時は、政府米を使わなければ学校給食の補助は出なかったが、村・農協・保護者が補助額を分担し、村産の提供を貫いた。全国的な地産地消、有機農産物活用の先駆けとなった。
合併した2006年に市内小学校(3年生~6年生)に全国初の「農業科」を設置。年間70時間の「総合学習」の半分の35時間を農作業の実体験活動を重視した教育を展開している。
喜多方市の給食食材の市産率は5割近く、県内トップ(グラフ参照)。市産・県産は64%。市内には小学校17校・中学校7校。給食調理場は、自校方式が塩川地区の5施設、センター方式が熱塩加納地区、山都地区、高郷地区、喜多方の9施設。4つの生産者団体が各調理場に届けたり、JAが集荷搬送を担ったりしている。
各調理場施設によって市産率は幅があり、熱塩加納の8割近くもあれば3割未満もある。喜多方市全体を熱塩加納の水準に近づける努力が続けられている。
安全な地元産野菜の生産者
「学校給食生産者の会」の花見明会長と奥さんにお話を伺った。
花見さんは野菜作りの3代目。おばあさんの時代は作った野菜をリヤカーで街に売りに行く引き売り。買った人から、すぐに評価がはね返ってくる。おいしい野菜作りの工夫を重ねた。花見さんは朝市で30年、直売所ができて20年野菜作り。塩川地域の自校式の学校給食に野菜を納入していた。合併後に喜多方共同調理場ができ、そこに納入する生産者の会に加わった。市内4つの生産者団体のうち、花見さんが会長をする団体が一番大きい。花見さんは多品種の野菜作りの名人だ。「野菜作りは土作り、排水と灌水の水管理が大事だ」と力説。奥さんも長ネギ作りのベテラン。
月1回の月末に、翌月の野菜出荷を話し合う「出荷調整会議」を開く。野菜の収穫時期はだいたい重なるので、ジャガイモやタマネギなどはJAの予冷庫で保存して、安定的に給食食材を提供できるようにしているとのこと。
課題を聞くと「アスパラ、キュウリ、トマトなど基幹作物の後継者は結構いる。学校給食には多品種の野菜が必要なのに、なかなか一般野菜を作る人が増えない」と。「今不足しているのはニンジン。そのために各生産者の畑で種まき講習などをやってうまく育つようになった。ところがニンジンは収穫後に納入するとき一本ずつ水洗いが必要。大量注文だと、相当な手間がかかる。また納入時期に合わせると、太りすぎたり割れたりする。予冷庫の活用や、洗う機械の導入なども必要」と語る。
会員の大半が70代で、若手の育成が最大の課題。それでも「Iターンの30代の若手がニンジン作りを始めた。失敗しながらも非常に熱心に聞きに来て、最近、自信を持ち始めた」と。
生産者が呼びかけて栄養士・調理員、JAなどが、夏休みに生産者の「圃場視察研究会」が毎年開催されてきた。「地元産学校給食にとって重要な取り組みです。喜多方共同調理場の調理員さんもたくさん参加され、生産者と顔が見える関係でした。ところが民間委託で、調理員の参加が難しくなり、意思疎通が難しくなりました」と。
また「喜多方共同調理場は機械化されており、食材の規格が決められています。例えば大根は7センチ以内とか、ジャガイモは洗浄槽で攪拌して皮をむくのでデコボコのものはダメだとか。でも味は規格外でも変わりません」と。
生産者も参加する「給食会」に何度か参加してきた花見さん。「子どもたちが喜んでくれることはやりがいを感じます。ただ生産者も高齢化しています。規格品は作業の負担だし、規格外の野菜が無駄になる。学校給食の地元産をもっと増やそうとすれば、手間のかかる野菜作りなどに助成や補助が必要だ。このままだと学校給食の生産者がいなくなる」と危機感を語る。
さらに「基幹作物の奨励だけでなく、一般野菜の奨励、味は同じ規格外野菜の活用なども、JAや市がもっと考えてほしい」。
最後に「子どもたちが地元の農産物が本当においしいと実感するのは、喜多方を離れて都会で食べた時だと思う」と語った。
生産者と調理場を結ぶJA
生産者の品目ごとの数量や出荷時期を把握し、各調理場の栄養教諭らと調整を図るのが、JA会津よつば職員の立川久美子さんの役割。
食材の流れの手順は、①月一度生産者に集まってもらって翌月の「出荷調整会議」でどんな野菜が出せるか各生産者さんの計画を集める、②それをまとめて野菜の品目ごとに、上旬・中旬・下旬に分けて「出荷予定品目」を学校や共同調理場の栄養士さんに送る、③それぞれの栄養士さんから日付ごとの献立に合わせて品目と数量の入った注文書が来る、④注文書に沿って、各生産者に何月何日、どの品目をどれだけの数量を依頼するか割り振りをする、⑤JAの予冷庫の野菜ケースに何月何日用、生産者名、品目と量を書いたメモを張り付ける、⑥各生産者が野菜を運んでそのケースに入れる、⑦各調理場に運ばれる。
ただ天候不順など実際には計画通りいかず、農家や栄養教諭さんと毎日専用のスマホでやり取り、足りないときは直売場で調達することも。「毎日綱渡りだが、やりがいのある仕事。昼ごろにほっとする」と語る。
仕事場の壁には食材を納入する生産者の写真と名前が大きな紙に張り出してある。「生産者さんには年に一度、年間の作付け計画表も出してもらい、そのコピーを自宅に持ち帰り、年間目標の意識づけにしてもらっている」
給食の時間に「今日のホウレンソウは地産です」と生産者の名前が放送される。「僕のおじいちゃんだ」と子どもたちが喜び、家に帰っても伝える。「生産者にとって大きなやりがいになっている」と。
「ただ生産者の高齢化が進んでいて後継者が課題です。生産者同士が畑を見て回って野菜作りのノウハウを学ぶ『現地指導会』のあと、長ネギを作る生産者が増えました。生産者の皆さんには栽培日誌をつけてもらい、安全安心を確認しながら、できるだけ農薬や殺虫剤を使わないようにお話ししています」と。
喜多方市と友好姉妹都市である千葉県市川市とは年に2回食材のやり取りがある。「喜多方のお米を市川市の学校給食に、市川市からは市川産の梨が届き、裏磐梯と西会津でも食べてもらっています」と。
原発事故から11年、「今でも食材の放射能検査が行われている。JAの直売場でも検査されている。放射性物質は検出されないので、今年から緩和されて喜多方共同調理場だけとなった」と。
JA職員で学校給食に関わる仕事をやっているのは立川さん。さらに学校に出す請求書の計算、生産者への支払金を計算する事務を担当する職員がもう一人。JAとして二人の人件費を学校給食活動として負担している。
「きたかた学校給食を考える会」の試作・試食会:
小池ミチ会長や栄養士・阿部桂子さんのお話を伺った。熱塩加納型の学校給食を喜多方市全域に広めたいと活動している有志の会で、ママさん、栄養士、飲食店経営者、有機農家、研究者や議員さんが参加。Messengerを活用した情報共有。会の中に「みんなの畑部」を立ち上げ、畑を借りて有機野菜を作り始めた。畑で収穫した野菜を子ども食堂などに無料配布したり、調理実習や食育活動を展開したりしている。
公民館での「給食メニュー、試作&試食会」に立ち会い、調理中にお話を聞いた。「熱塩加納型の給食に触れる機会があり、感動したのがきっかけです。こんな給食を子どもたちに食べさせたいと。しかし一方、人口減少が続き、店もつぶれていく。子どもたちが残っていられるのか心配。喜多方市を盛り上げたい、農家の高齢化を何とかしたいと思っています」(小池さん)。阿部さんは「コロナ感染で学校での試食会ができないので、今日はジャガイモを使った給食メニューの試作&試食会で、材料費も計算し、小学校の給食メニューとして提案します」「フランスやイタリア、ブラジルなどオーガニック給食への転換が進んでいるなか、日本は立ち遅れている」と指摘。
自治体の役割
取材に協力・立ち会っていただいた喜多方市議の齋藤仁一さんのお話。「先進的な熱塩加納型の学校給食をどう全体に広めていくか。市議会でも議論され、全体の努力で市産率は向上してきた」と。
一番規模の大きい喜多方共同調理場の調理部門が、2016年度に民間委託された。一方、現市長の公約で18年度から市による給食費の半額補助が始まった(市の補助は年間8000万円程度)。
「給食費の半額補助は重要な事業。ただ今回生産者にお会いして、改めて学校給食に関わる関係者の意思疎通の大事さを実感しました。規格外野菜などの下処理が必要なため、熱塩加納では子どもの人数が同じ他の調理場と比べて調理員さんが一人多かった。喜多方調理場の調理部門の民間委託で、学校給食の重要な部分を担っている調理員さんとの意思疎通という点で課題が出てきている」と指摘。
また「短期間で市の給食担当者の異動がある。学校給食の発展を支えるためには一貫した体制が必要で議論を深めていきたい」と。
全国の地方の多くは、人口減少や農業衰退など共通の課題を抱えている。齋藤さんは「学校給食にとどまらず、地産地消、自給率向上、農業の再生、地域活性化も含めて地域循環型経済という視点が必要ではないかと思います。自分も農業をやっているが、花見さんのような安全な野菜作りのノウハウをもっている生産者は貴重な人材、子どもたちのためのやりがいだけでは続かない。生産者の経営が成り立ち、後継者が育つような支援策が国と自治体の役割ではないか」と語った。
いすみ市に続き学校給食と農業の展望と課題を感じた訪問だった。