あくまで独立自主で東アジアの平和確保に全力を注ぐべき
『日本の進路』編集部
菅義偉首相は4月8日訪米し、バイデン米大統領との首脳会談に臨む。大統領と最初に会談する外国首脳となるといって菅首相周辺ははしゃいでいるようだ。こうした政権では国の運命を誤る。
米国の衰退、中国の強国化で米中対立と東アジアの緊張激化は現実である。衰退の「帝国」アメリカは、日中両国を対立させ、中国を抑え込み、アジア支配、ドル覇権を維持しようと画策している。
米国は日本列島・琉球弧からフィリピンに至る島々に中距離ミサイルなどを配備し、中国海空軍の太平洋進出を阻止して軍事覇権維持を狙う。わが国には、新基地建設、「敵基地攻撃力」など自衛隊の強化、軍事費負担増を迫って、最前線として中国と対立させようとしている。日本列島は対中国の文字通りの不沈空母となる。焦点は、尖閣諸島であり、中国の一部・台湾である。このままいけば、沖縄など日本列島が戦場となりかねない。日米安全保障協議委員会(いわゆる2プラス2)合意では、米政府監査院も完成を疑う辺野古新基地建設をわざわざ再確認した。
わが国は、あくまで独立自主で、東アジアの平和確保に全力を注ぐべきである。
3月16日、日米の外交・防衛担当閣僚による2+2が開催された。政権発足から「史上最速」、かつ米国務長官と国防長官の初めての外国訪問で、バイデン政権の「日本重視」の表れと菅政権周辺は喜んだという。共同発表は「国際秩序に反する」と、初めて公然と中国を4回も名指しで非難した。外交文書としては異例である。米国側は、尖閣を含む日本防衛への「揺るぎないコミットメント(誓約)」を改めて約束、日本側は安堵したという。情けない限りだ。「日本政府は日米同盟をさらに強化するために能力を向上させることを決意した」と表明、対米公約した。
米国側は周到に準備した。
バイデン大統領は就任前の昨年11月、早くも「尖閣諸島が日米安保条約の適用対象」と、不安がっていた菅首相に伝えた。1月末の就任直後のオンライン首脳会談でも確認した。政府や自民党周辺はそのたびに喜んだという。何という対米依存の奴隷根性か。米側はそれを知っていて、同じ発言を繰り返し演出しているにすぎない。
さらにバイデン大統領は3月3日、「暫定国家安全保障戦略」を発表、経済や技術力などあらゆる面で中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」と位置づけ、「新しい国際規範や合意を形作るのは米国だ」と宣言した。世界覇権をめぐる対中国宣戦布告である。
12日には、バイデン政権がインド太平洋政策の「基礎」と位置づける米日豪印4カ国首脳のオンラインQuad(クアッド)会合を開催。さらに米国務省は14日、⽇⽶関係の現状に関する報告書を発表。「⽶国による⽇本防衛の誓約は絶対的だ」と強調するとともに、米国の覇権維持の手段として日米同盟を位置づけ、日本に役割拡大を迫った。あくまで日本を対中国の前面に立てようとしているのだ。
エリック・セイヤーズ元米太平洋軍司令官特別補佐官は「米軍は海や空、打撃力といったあらゆる領域で日本の地理的優位性を活用しなければならない」と語ったという(読売新聞)。3月9日、日米は「史上最大の降下訓練」を富士山すそ野で繰り広げ、「2+2」当日の16日には、東シナ海で共同防空戦闘訓練を行ったと発表。同じころ、韓国では米韓合同演習が強行された。年内にも日米合同で「尖閣奪還」共同演習を陸海空連携で行う。
こうした中での日米2+2であった。その後、米国の高官二人は韓国を訪問、「米日韓」連携で北への対処を確認したが、中国への名指しの非難はなかった。日米同盟の異様さが浮き彫りだ。3月18日には、アラスカで米中の外交トップの協議が行われた。その席でも米側は中国を口を極めて非難し、中国側も大反論。これまた外交上異例の展開だった。
バイデン政権の下で、トランプ政権を引き継ぎながら、新たな対中国戦略が進行している。そうした中での菅首相訪米、日米首脳会談である。
米中が激しく争い軍事衝突の可能性も高い東アジアの平和のためにわが国はどうするか。
日本政府内には「米国は『日本はいつまで曖昧な態度を取っているつもりだ』といらだちを募らせかねない」との動揺が出ているという。何という卑屈さか。だから「日米同盟で中国に向き合うためには、これまでにない覚悟が求められる」(読売新聞)と言う。
「経済は中国、安全保障は日米同盟」とでも言うべき菅首相の曖昧戦略は限界を超えたようだ。首相は、「日米同盟強化へ能力向上」の覚悟を決めて訪米するのであろうか。
わが国は、中国敵視の米国の策略を拒否すべきである。
菅首相は、米国に行くのではなく、アジアを向くべきである。そのためまず国内でしっかりと議論すべきである。
中国をはじめアジア諸国との長期の共存共栄だけがわが国の生きる道である。
中国の強国化に伴って、わが国では最近、「中国脅威」が盛んに言われる。しかし、脅威は、(軍事)能力と(国家)意思との積である。中国など近隣諸国の国家意思を、友好関係を維持し、わが国に敵対的にさせない近隣外交こそが重要である。
中国や韓国と胸襟を開いた話し合いを即刻進めるべきだ。延期になっている習近平国家主席の来日と、これまた延期となっている日中韓3国定期首脳会談をコロナ感染症を見ながらだができるだけ早期に実現すべきだ。また、自民党二階幹事長が提起しているように超党派の国会議員団で平壌を訪問し、朝鮮民主主義人民共和国と拉致問題を話し合うとともに国交正常化に道を開くべきだ。
「日米同盟」での対中国抑止力強化、軍事バランス論は、真逆で、中国の日本に対する敵対意思を強めさせるだけである。それは際限のない軍拡の道であり、日本と関係国国民が途方もない負担を背負わされる。
中国側も、米国の攻撃に対処する上で、日本との対立は望んでいない。日中両国の良好な経済関係も重要である。そもそも、食料自給もエネルギー自給も極めて危ういわが国が軍事バランスをとったとしてもどうにもならない。
今こそ、友好関係増進の外交や経済関係など総合安全保障政策が求められる。
国民の中はもちろん、自民党の中にも菅政権の踏み込んだ選択には異論が大いにあるはずだ。野党も野党らしくしなくてはならない。菅政権の中国敵視、日米同盟強化に、はっきりと異を唱えるべきだ。ところが野党の国会質問では「日本周辺の安全保障環境が厳しさを増していることを考慮すれば、米軍のプレゼンス確保は日本の防衛に欠かせない」などという卑屈な発言も出る。これでは平和も維持できず、対米従属政権とも闘えない。
わが国は、あくまで独立自主で、東アジアの平和確保に全力を注ぎ、自主・平和・民主の国をめざさなくてはならない。