『雑感』■ コロナ禍における労働組合運動

私も、「未来は変えられる」を信じて

全農林労働組合顧問 柴山 好憲

工夫が求められるコロナ禍の運動

 新型コロナウイルス感染症は、1年を経過した現在も人々の暮らしや経済活動はもとより、労働組合の組織運営や活動にも大きな影響を与えている。OBとして当組合の活動を見たとき、「密の回避」と「非接触」を前提としたかつて経験したことのない組織運営に苦労しつつも、WEBによる協議や会議・打ち合わせ、さらにはユーチューブを活用した発信などを積極的に進めるなど、そのしなやかさに感心する日々である。しかしながら、集まりやオルグもままならず一方通行にならざるを得ない場面が多いなど、きめ細かな対応には一定の限界もあり、さらなる工夫が求められている。

 一方、私が事務局を担っている退職者組織では、その影響はより深刻である。
 平均が70歳台後半と、いわゆる後期高齢者が中心の年齢構成だけに、今次感染症への危機感と警戒感はより強く、極めて慎重な組織運営となっており、昨年春以降は、全国的に活動の停滞を余儀なくされている。もとより、主な連絡体系はアナログで、メール等でのやりとりは47都道府県の約4割にとどまっていることから、有効なツールとしてのWEB活用などほど遠い状況だ。だからと言って手をこまねいていては前に進めない。
 封書やはがき、電話やFAXなどを活用しながら、機関誌をはじめとした情報の受発信に努めているなか、「コロナ禍において外出する機会も少なく、親戚や友人にも会えない」「地域での集まりが激減し人間関係がより希薄になっている」などの声が寄せられ、組織会員には高齢や独居世帯を中心に、より孤立感が高まっている様子がうかがえる。幸いなことに会員の多くは「筆まめ」さんなことから、多少時間と労力はかかるもののアナログなツールを有効活用し今後の活動推進につなげていきたい。
 また、「密の回避」と「非接触」を前提とした行動抑制は、高齢者のみならず人と人の距離や間隔を広げており、現職の労働組合と退職者の組織強化と組織拡大には「繫ぐ、繫がる」ことを意識した取り組みを日々模索している。

「労働運動で未来を変える」に感銘

 このようななか、本誌新年号において前を向きポジティブな気持ちにさせられる文面を拝見した。私も産別の委員長時代にお付き合いさせていただいたが、柔軟性と機動性を兼ね備える優れたリーダーの一人であるJAMの安河内会長の「労働運動で未来を変えられると信じて」だ。
 コロナ禍という経験のない苦難とも言える環境下でのものづくり産業と労働組合の気概と心意気が感じられた寄稿であった。直面する危機を冷静に受け止めつつ経済活動の主人公である労働者の雇用と賃上げの流れを確保すると同時に、経営者には企業エゴを払拭し労働者に対する寛容さを求めており、全く私も同じ思いである。
 その意味でも今次2021春闘は今までになく重要な位置づけになるため、JAMはもとより連合には多くを期待したい。また、「変革・再生・創造」とのスローガンのもと、組織強化や拡大に向けたさまざまなチャレンジを行っていること、オルガナイザーの強化と人材の育成(人づくり)にも果敢に取り組まれていること、併せて、「労働運動で未来を変える」という言葉に強く感銘を受けた。
 私自身、40年余組合員として、その大半を占める役員生活のなかで常に「組織強化と拡大」がテーマであったし、さまざまな工夫と取り組みを行ってきた。今現在も当労働組合ではオープンショップという公務労働組合の難しさもあるが、現職役職員が中心となり、さまざまなツールを活用しながらユース層等を対象としたセミナーや対話活動、さらには、教宣活動の強化を図り徐々にではあるがその成果も発現し、OBとして心強く感じている。
 しかし決定的に不足しているのは、労働組合の基本的人権ともいえる労働基本権が担保されず、自主的・自律的な労使関係性が構築されていないこと、その結果として、働く一人一人にとって労働者としての自覚と実感が十分に持ちきれないところにある。自然災害や家畜への伝染病、さらには今次感染症などへの対応を通じて、安心・安全を確保する公務・公共サービスの重要性がかつてなく高まっている。そのことをより充実・強化する意味でも公務労働者への労働基本権回復という変革、そして、再生と創造のもと「未来を変える」労働運動となるべく、私の立場からも応援していきたい。

食料安全保障の確立と担うべき農山漁村の活性化が急務

 結びに、安河内会長の寄稿に「大きな塊」の話があったが、私自身も両党が農政問題での大きな違いがないだけに、一連の経緯において塊になりきれなかったことは残念な思いである。特に近年の農政改革は官邸主導による規制緩和一辺倒であっただけに、農村部における不満や懸念の受け皿となり、政権に対抗すべく政策の打ち出しを期待していた。
 先日、日本農業新聞に野党第一党の立憲民主党に対する「『ポスト戸別所得補償』を示せず」との記事が掲載されていたが、具体的な政策発信不足による農村部での支持が低迷しているとの指摘だ。民主党政権時の戸別所得補償制度、いわゆる直接払い制度は米農家を中心に評価されたが、政権担当期間の短さからか、予算編成と財源の確保に課題が残ったことも事実だ。
 TPPやEPA・FTAなどにより農畜産物の市場化・自由化は急激に加速する一方で、今次コロナ禍も相まって食料安全保障の確立と担うべき農山漁村の活性化が急務となっている。今年は衆議院選挙の年、直接払い制度を柱にしつつ「食」の安心・安全・安定を確保した政策の早期発信を期待したい。

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