独立国日本として、今さら「生地」を米軍に差し出すわけにはいかない
八板俊輔 市長に聞く(聞き手、山本正治編集長)
◆2期目当選おめでとうございます。選挙結果をどう受け止めておられますか――
過半数の支持を受けて当選させていただきました。前回は、候補者が乱立したこともありましたが、今回は5103票で前回を大きく上回る支持をいただくことができました。大変心強く思っています。
同時に、島の経済基盤の確立や人口減少などに対する市民の皆さま方の心配なども、選挙を通じて実感しているところです。そうした課題に市を挙げて、団結して取り組んでいこうと考えています。
日本は植民地と同様の状況だ、真の独立国と言えるか
◆馬毛島への米軍と自衛隊合同の基地建設問題が最大の課題でした。この点で市民がどのような判断を示すか全国でも注目されたわけです。市長はこの問題をどうとらえておられるか改めてお伺いします――
この問題について私は反対の立場ですが、市民の中には基地の設置に賛成の方、反対の方、両方がいらっしゃいます。その両方の市民の立場を考えた上で、市長としては、失うものの方が大きいという考えから、「同意できない」と言っています。
ただ私は、日本の国はこれでよいのかという思いがあります。個人的な経験ですが、市長に就く前の新聞社に勤めていた時代に沖縄にいて、嘉手納基地を取材したことがあります。その時の体験を今、思い起こして話したい。嘉手納基地は極東最大の米空軍基地ですが、それだけでない違和感がありました。普通の旅客機も飛んで来て、親子連れとか軍人の家族らが嘉手納基地に降り立つわけです。しかし、この人たちは日本国の入国審査も税関も検疫も通らない。そういう人たちが嘉手納基地に入って、そこから基地ゲートを通じて日本国内に入ってくる。要するに彼らにとって、日本はアメリカ国内と同じわけです。つまり、別の言い方をすると日本は独立国ではなくて、植民地と同様の状況にあることを意味しています。占領時代の日米行政協定が日米地位協定になったが、米軍の特権は温存され、実質的に変わっていない。
それと同じ趣旨のものが、馬毛島につくられる。しかも、日本で、戦後初めて、以前に米軍施設でも自衛隊施設でもなかったところに新たに米軍のための施設がつくられる。真っさらな土地、自衛隊の用語では「生地」と言うそうです。それを許してよいのかという思いです。
馬毛島への基地建設は、日本が独立国でない、今も植民地なのだということを意味しているのではないか。そういう意味合いがあると最近感じているわけです。
それが、本州、四国、九州、日本の主な島々の人たちからは見えにくい南西諸島の端でつくられようとしている。
これはやはり日本が独立国としての生き方、国の独立を論じる上で重要な問題だと感じているところです。
島嶼奪還でそこに住んでいる住民はどうなるのか
◆「尖閣諸島」の危機が盛んに言われて、日米による軍事力増強が進められ、人によっては「琉球弧の軍事要塞化」などという見方もあるほどですが、市長はどうお考えですか――
昨今の国際情勢の中で、日本の独立を守る、防衛の問題は非常に大事なことだと思います。その認識については何も異論はないわけです。
しかし、そうした国際環境を前提に、馬毛島の軍事基地計画の中で言われるのが「島嶼防衛」です。島嶼防衛とは何かと聞くと、「敵」に占領された島を取り返す、「奪還作戦」だと言う。それで日米共同訓練もやっている。
だが、「奪還」ということは、前提として「占領された」ということですね。そうするとその時、そこの島民はどうなっているのか。さらに、そこを攻めて「奪還」戦をやる。その間、島民はどうなっているのか、という大きな疑問があります。
つまり島を守るというのであれば、占領される前に、されないためにどう手立てするか、住民をどう守るかの方策がなくてはならない。それを飛び越えていきなり奪還作戦という論理が平気で展開されている。それはおかしいのではないかと思います。
馬毛島の基地建設は、もともとはアメリカ軍の空母艦載機の離発着訓練を今の硫黄島からもっと近いところでやりたいということで浮上したわけです。ところが、「島嶼防衛」という、聞いてもよく分からないことに変わってしまっています。
「島嶼防衛」という前に、この国際環境で日本の国をどうやって守るのかを、政府や防衛省は、外交も含めてもっときちんと国民に説明するべきだと思います。
農林漁業を中心に経済を繁栄させ「子育ての島」を実現する
◆冒頭に、市長は、島の経済基盤の確立や人口対策に市を挙げて団結して取り組んでいくとおっしゃられましたが、具体的にはどんなことをお考えですか――
農は国の基と古くから言われています。この島にとっても、農業、それから漁業、林業という第一次産業が経済の基本になっています。それをもとに商工業が発展し、観光もついてくると思います。そうした方向を具体化したい。
島の食料自給率は高く、農産物は何でもできるし、魚も取れ、食べ物に困らない。木材もあります。越してきた人たちも、まだ仕事がないという時に、島の人たちが野菜や魚をあげたりと、移住者を温かく迎える風土もあります。
食べ物もそうですが、自然も含めて、とにかくこの島は子育てに適していると言われています。実際に数値でも合計特殊出生率、女性が一生のうちに何人の子どもを産むか、離島はとくに高くて、徳之島は3近い数字で、西之表市は1・94という数字(2013年度)です。
人口減少の問題もありますが、もともとこの種子島は移住の島です。古くから移住してきた人たちが、産業の振興を図り、定住して盛り上げてきた島です。
最近のコロナ禍で鹿児島市に移住する人が倍増したと、先ほどニュースでやっていました。この傾向は種子島にはもっと強い形で出てきています。つまりこの島は住みやすさ、暮らしやすさで人が集まる力を持っているわけです。島には人を集める力がありますから、それをしっかりと育てていく考え方でいいと思います。
逆に基地ができることで移住の動きが損なわれる可能性があります。実際に基地ができたら、移住してきたが自分たちは出て行くとおっしゃる方もいます。
基地によって自衛隊員やその家族が住むということは、ありがたいことだと思います。しかし、200人か300人が増えても、それは今の人口減少の2年分ほどだと思います。
しかもそれによって、本来の力である普通の人びとの移住、定住が損なわれることになれば、長い目で見るとどっちがいいのか。これが「失うものの方が大きい」と私が申し上げている理由の一つでもあります。
私は1期目の就任直後から、西之表港の発展計画を重視してきました。西之表市は古くから港を中心、そこを起点に栄えてきた街です。そこで西之表港の整備についてずっと要請してきましたが、今月の県の港湾審議会で計画として正式に決定しましたし、国でも3月には決まる運びです。地震に強い岸壁と広い埠頭をつくり、そこが物流の拠点、重要な空間になるわけです。
ここが農業、漁業、林業の産物の積み出しの基地になる。さらに物流だけでなく観光も人の流れもさらに増えていく。まず港づくりから経済の基盤づくりを進めたい。
「静かな島」を守り、「豊かな島」へ
◆最後に、これからの市政運営の基本姿勢をお伺いします――
「静かな島を守る」ということを掲げて支持をいただきました。それと同時に、「豊かな島」ということを望む市民の方も多かったと思います。経済的な困難、仕事がない、職場がないという不安ですね。そういう方々の思いは切実なものがあります。その打開を基地に求めようとした人たちの気持ちを私はしっかりと受け止めなければと思います。
基地以外の経済的な基盤づくり、先ほど申し上げた西之表港の整備であり、一次産業の発展だと思います。そういう内容を、市の行く末を心配し、打開を基地に求めようとする市民の思いにも寄り添うまちづくりを提案して、一致団結してやっていきたいと思っています。
(文責、見出しとも編集部)