コロナ禍の労働者 ■ 生活と権利のための中小労組の闘い

団結し闘えば要求は実現する

国一般労働組合福岡地方本部北九州支部
執行委員長 山岡 直明

ストライキで春闘を闘う

 全国一般北九州支部の2020春闘要求は、春闘アンケートに基づき月額賃上げ3万円をはじめとする統一要求を決定し、3月3日、北九州労働会館において、組合加盟企業経営者を一堂に集め、統一要求団交を開催した。統一団交では、支部から統一要求額の説明、働き方改革関連法による労働法規の改正の説明を行い、各分会長からは、分会独自の要求の説明と闘う決意を表明する。この取り組みは、1996年から毎年続けている。
 そして、支部はストライキ批准投票を行い、今年は98%でスト権を確立し、支部執行委員会で闘争指令を決定し全組合員に指令した。
 北九州支部は、51分会が統一賃上げ要求額3万円の統一要求書を提出した。
 そして、今春闘ではNHK委託分会、アイ企画分会、紫水環境分会でストライキを通告し、NHK委託分会は委託労働者の首切りにつながる特別指導廃止、所得の大幅な減収の補塡を求め6月10日、7月15日に2時間ストライキをそれぞれ決行した。
 支部春闘は、6月段階では18分会で回答を引き出し、K生コン分会22000円、S自動車分会28000円、玄洋分会10000円など1万円を上回る回答や決算賞与を引き出した分会がある。一方、コロナ禍で1000円と低額な回答や具体的回答を提示していない会社が約3分の1ある。6月末時点の支部春闘回答妥結平均は6440円となった。
 コロナ禍を理由として一時帰休を行う企業が多くあり、休業100%補償に関する交渉も春闘時に行われた。
 特徴的な闘いとしては、定年後の賃金、一時金の引き下げを撤回させ現行通りを回答させた三原物流分会、5月末解雇を撤回させ職場復帰を勝ち取ったマキシン分会、3年間の休業期間を確保し職場復帰を実現した旭堂ベーカリー分会、長期の精神障害の休業を克服し職場復帰を果たした上村紙工分会、その他11職場で残業未払いや、賃金不払いについて勝利解決した。
 支部は、1年を通じてJR小倉駅前でブラック企業撲滅と労働組合加盟、最賃引き上げの教宣行動とビラ配布の取り組みや、毎月、争議分会支援連帯行動を社前で取り組んでいる。

反合理化・組織破壊攻撃と闘い、組織も拡大

 組合は、8月10日に、新型コロナで困窮する労働者に弁当を提供したり、法律・生活・労働相談に応じる「労働者支援村」を地域の真鶴会館で開設したりした。当日は、10時の開場前から来場する労働者もあり、開場時には40名が集まり、子供を連れて参加した親子もいた。組合役員、弁護士、市議会議員などで休憩室1室と相談室5部屋で対応した。マスコミからも取材があって新聞に取り組みが掲載された。
 こうした活動も通じて、今春闘期中、アイ企画分会、社会福祉法人正勇会北九州ソレイユ保育園分会、西部機材分会、ICSE・豊田合成九州分会など、58分会が新たに組合結成し107名の組合員の組織加入があるなど、組織拡大が大きく前進した。
 争議分会の闘いのいくつかを紹介したい。

ICSE・豊田合成九州分会の闘い
 5月26日、「休業補償が低い」との要求を中心に17名で組合を結成した。すると、6月2日、会社は豊田合成九州㈱に派遣する労働者50名全員を6月末に「雇い止め」の解雇を通告してきた。
 組合の呼びかけに、25名が加盟して雇い止め解雇撤回を要求し、6月22日にストライキを通告し、団体交渉を重ねた。
 18日の団体交渉で、①会社は組合員26名については6月末の雇い止めを取り消し、引き続き2カ月の契約更新を行う、②契約解除された派遣先の豊田合成九州㈱に引き続き雇用を希望する組合員は他の派遣会社経由で全員継続雇用する、③会社はその他の派遣先を志望する組合員には誠意をもって対応し休業期間は雇用調整助成金を受け賃金は100%を補償する、④会社は過去の残業未払い賃金などについては支払うこととする、⑤組合はストライキを解除する――という内容で労使合意した。
 ところが、新たに雇用した会社側の弁護士は、組合員を突如8月末で解雇し、残業手当を支払わない、休業手当は労基法の最低基準しか支払わないという不誠実極まりない不当な攻撃を行ってきた。分会は、抗議行動と裁判闘争で闘いを進めていくこととしている。
マキシン分会の闘い
 コロナ禍、デパートの撤退等を理由に4月末で雇い止めされた女性有期契約社員が支部に加盟し雇い止め解雇を撤回させた。
 雇い止め解雇を行ったのは、神戸市に本社を置き、高級婦人・紳士帽子の製作・販売を業とする株式会社マキシン。解雇されたのは4年間有期雇用で働いてきた女性販売員。彼女が会社の雇い止めを許せなかったのは、雇用契約書には契約を更新しない場合は「30日前に通知し面談により話し合って決める」となっているのに、20日前に営業担当者が電話一本で雇い止めを通知してきて退職届を提出するように発言したことだ。
 彼女は、自宅に投函されていた全国一般の労働相談チラシを見て労働相談に来て組合加盟し立ち上がった。
 労使合意内容は、①会社は4月末の解雇を撤回し社会保険などを継続する、②働いていない5月分の賃金は支払う、③職場復帰は6月1日から行う――だった。
べっぷ歯科医院分会の闘い
 正社員の歯科助手がこのコロナ禍の中で、院長から退職するかパートになるかという退職勧奨をされ、5月11日、全国一般べっぷ歯科医院分会を2名で結成し、撤回を要求した。院長は、団体交渉で「その時はコロナの関係でどうかしていました」と退職勧奨の撤回と、残業代の未払いも入社時に遡及して3年間についてタイムカードにより全額支払うと回答した。
 そして、今後も組合員が良好な職場環境の中で働き続けられるよう配慮することも確認した。
八坂神社分会の闘い
 北九州市にある宗教法人八坂神社は、休日は月5日のみ、年休はなし、残業代なし、深夜手当なし、休日出勤手当もなしと、労働基準法が守られておらず、雇用契約書も就業規則もない。さらに代表役員でもない者が、気にくわない職員を勝手に解雇するなど、前近代的な労務管理をしている。一昨年5月、不当に解雇された神職の波多野組合員が分会を結成し、毎日の就労闘争、昨年7月の地位保全仮処分申立など、職場闘争と併せて法廷闘争も闘ってきた。
 昨年2月、福岡地裁は波多野さんの申立を認める仮処分決定を行った。内容は、①宮司である波多野さんは、八坂神社とは雇用関係にある労働者の地位であること、②八坂神社が新規則によって選任したという代表役員の林については、新規則自体が所轄庁である福岡県知事の認証を受けていないことから無効であること、③林を代表役員に選任した八坂神社の議決は無効であること、④八坂神社が行った波多野さんの解雇は合理性を欠くものであって無効であること、⑤八坂神社は一審判決まで毎月仮処分の金員を波多野さんに支払うこと――全面勝利の内容だ。一日も早い完全勝利に向け闘いを強化している。
九水運輸商事分会パート労働者の闘い
 最高裁は、昨年3月6日、全国一般九水運輸商事分会パート組合員4名に対する通勤手当、皆勤手当不払い事件の上告審判決で、申立人、相手方双方の申立、上告を不受理、ないし棄却した。これにより、福岡高裁が会社に対して、全国一般九水運輸商事分会パート組合員4名に正社員と同じ通勤手当、皆勤手当の支払いを命じた控訴審判決が確定した。
 今、パート、非正規労働者は、正社員と労働の量と質がほぼ変わらない中で、賃金、賞与、退職金など差別的待遇を受けている。
 この最高裁勝利判決は、格差、差別を訴えにくい非正規労働者に勇気と自信を与え、違法企業には猛省と格差是正を促す社会的意義のある内容だ。
ベストフーズ分会の闘い
 昨年7月、ベストフーズ・パート分会(パート組合員6名)は、賃金を支払わないというベストフーズ株式会社に対して福岡地方裁判所小倉支部に未払い賃金支払い訴訟を提起した。パート6名の未払い賃金は531万円を超える。
 会社は、新日鉄住金株式会社小倉工場の食堂を委託されてきたが、2年前からパート労働者に賃金を支払っていない。労基署も是正指導をしているが一向に改善しない。
 パート組合員は、昨年3月、やむにやまれず、10日間のストライキを行った。すると、社長は、組合員に電話をかけまくり、「損害を請求するぞ」などと恫喝してきた。
 しかし、ストライキで新たに2名のパート社員が闘う全国一般北九州支部の戦列に加わった。
 支部、分会は、毎月、社前での抗議行動を継続してきた。
 今年、福岡地裁で組合員の請求を全額支払うという勝利和解を勝ち取った。

今後の中小労組運動について

 戦後日本の労働運動の中核を担ってきた総評および産別は、1989年に連合加盟をめぐり連合、全労連、全労協と分裂の道を選んだ。
 その後を見れば、その分裂は各ナショナルセンターにとっても日本の労働運動にとっても大きなマイナスとなったことは間違いない。
 ナショナルセンターの組織人員ひとつ見ても、雇用者数は増加する一方の中、連合は発足時78産別800万人だったのが1割以上の100万人の組合員が減少して現在約700万人を切っている。全労連も結成時の140万人が現在は80万人、全労協は発足時50万人が10万を切るなどいずれも激減している。
 春闘についても、連合発足当初にはストを行ったものの、現在では大半の産別がストなし、加えて定期昇給・賃上げの非開示など、自らの労組、企業のことしか考えていない労組が広がり、もはや地域ではナショナルセンターの機能を全く有さなくなくなっている。
 労働運動の分裂は組織と運動の縮小を招き、非正規雇用の拡大、企業の内部留保増、労働者の賃金の減少など、いずれを見ても資本経営者に極めて有利に働いている。
 とりわけ、総評時代に活発であった地域の中小労働運動は、総評、地区労の解体と全国一般労組の分裂に伴い中小労組は弱小化し、ほんの一部の労組を除き闘いは皆無に等しい状況だ。
 このような労働運動の危機的状況は、労働組合が憲法で保障された同盟罷業権を組合自らの投票も行わず、確立もせず、ストを背景とした闘いを自ら放棄していることにその第一の原因がある。
 今まさに労働者の生活と労働運動は崖っぷちにある。労働運動にかかわる全ての活動家が本当に危機感を共有し、ナショナルセンターや産別の垣根を越えて、地域において総結集し地域労働運動を再構築しなければ働く者の未来はない。

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