国際環境の激変と地方・地域、自治体の課題(中)

山本 正治(本誌編集長)

3 安倍政権の国内政治、地方政策のポイント、批判的検討

 2012年12月、政権に復帰した安倍晋三首相は翌年1月28日、政権復帰後最初の国会所信表明で「危機的な状況にあるわが国の現状を正していく」と大上段から振りかざした。具体的には、「日本経済の危機」「東日本大震災からの復興の危機」「外交・安全保障の危機」、それに「教育の危機」の4つの危機を正すとした。
 「最大かつ喫緊の課題は、経済の再生」と言って、アベノミクスと呼ばれた政策を実行し「強い経済」をめざすとした。そのために「規制緩和」を進め、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をつくることを表明した。
 外交・安全保障では日米同盟をいっそう強化するとともに、「地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して」戦略的な外交を進めるとした。教育では「国の歴史や伝統への誇りを失い、世界に伍していくべき学力の低下」を教育の危機として語った。
 要するに、第2次安倍政権の狙うところ、その特徴は、日米同盟強化の下でアメリカに縛られかつ依存しながら、飽くなき利潤追求をめざす一握りの多国籍化した大企業を内外で支援する政治であり、それに「美しい日本」に象徴される反動的復古主義のオブラートをかけたものとでも言えるものであった。
 それから5年半余。
 日本を取り巻く国際環境は激変した。安倍政権の下で対米追随の日本は外交や安全保障で大きく変化した。
 国内、とりわけ国民生活と地方・地域、自治体がどうだったか。
 経済は「緩やかな成長」と言われ、確かに企業利益は急増した。資産家たちの株や土地資産価値も大幅に増加した。
 他方、すでに紹介したように国民の貧困化と格差拡大が急速に進み、地方経済の衰退、地域の疲弊も一段と進んだ。
 「強い経済」とは、全国のことでもなく、国民全体のことでもない。
 アベノミクスの矛盾はすでに随所に噴出している。何よりも貧困と格差、国内の分断は限界点に近づいている。政治面でも、国家戦略特区がらみの加計学園問題に象徴されるように安倍政権、国家官僚の制度腐敗として露呈している。
 安倍政権の政策、とりわけ地方・地域、自治体政策を検証し、打開と闘いの方向を探らなくてはならない。

(1)安倍政権の5年半

アベノミクスでの「緩やかな経済成長」

 安倍政権の経済政策は、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、そして民間投資を喚起する成長戦略」という『三本の矢』と呼ばれるものだった。その結果について今年の骨太方針(「経済財政運営と改革の基本方針2018について」)は「5年半に及ぶアベノミクスの推進により、日本経済は大きく改善している」と評価するくだりで始まる。

 確かに、13年から17年の5年間の平均実質経済成長率は1・3%、その前のリーマン・ショック後の5年間はマイナス0・2%だから「成長」だったのは間違いない。だがその前、リーマン・ショック前の5年間の1・6%には届かず、したがって「緩やか」ということであろうか。
 一方、企業業績を直接に反映する(企業利益には名目も実質もない)と言われる名目成長率で見ると平均で実に2・1%の成長であり、リーマン・ショック前は0・6%だから成長の高さがわかる。企業家、資産家には素晴らしい政権ということだ。安倍政権が狙った「デフレ脱却」でインフレ傾向となり物価は上昇したが、その物価上昇分は自動的に企業利益増となり、他方、国民消費生活水準の切り下げだった。
 グラフ(実質GDP)でも明らかだが、この5年間に大幅に伸びたのは輸出と民間企業の設備投資である。この二つが「緩やかな成長」を支えている。内需とくに家計消費は、ほとんど増えていないかむしろ減っている。
 日銀がどんどん札を刷り銀行が持つ国債を買い取り市中にカネを増やす「大胆な金融政策」の結果、円安となり輸出は増え輸出企業の円換算の手取りは急増し、海外資産からの利益の円換算金額も増えた(だが、円安は輸入物価上昇であり輸入金額も増え、貿易収支は赤字傾向が進んだ)。極度の低金利下で大企業は社債を発行するなどして実質金利負担ゼロで設備投資ができた。国家財政からのさまざまな支援措置もあった。
 「緩やかな成長」とは大企業と金持ちだけが豊かになり、国民は貧困化、地方も貧困化。これがアベノミクスの5年間の結論である。
 この貧困と格差を、これ以上全国に広め深められてはたまらない。

②「世界で一番企業が活躍しやすい国」

 安倍首相は、13年の所信表明の直前に第1回規制改革会議を開催し「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすと打ち出した。そこでは、「規制改革は、安倍内閣の一丁目一番地である。目的は経済活性化のための規制改革である」「チャレンジを阻む岩盤のように固い規制や制度に真正面から挑戦し、スピード感を持って改革を進めていく」と確認した。とくに、医療、介護、保育、農業を成長の可能性に満ちた分野として、「当面、雇用関連、エネルギー・環境関連、健康・医療関連を重点分野」として規制改革が始まった。
 今国会では会期を延長して、「働き方改革」などという労働の規制撤廃法案が審議中である。本来、「過労死」頻発の中で規制強化こそ必要である。
 その先導政策が「国家戦略特区」であった。
 13年6月、「国の成長戦略を実現するため、大胆な規制改革等を実行するための突破口」という位置づけで『国家戦略特区』創設が閣議決定された。それは「世界で一番企業が活躍しやすい国」、とくに東京圏を国際金融都市に強化することが中心だった。東京などで土地利用規制などは事実上取り払われ大規模な開発プロジェクトが始まった。企業の競争力強化のためということで企業が申し出る規制が次々と取り払われ、今も続いている。中小企業や自営業者、農民の営業・営農を守ったり、労働者を守ったり、環境を守ったりする戦後の歴史の中で実現されてきたさまざまな規制は次々と取り払われた。
 日本、特に東京圏はまさに企業天国となった。かくして上場企業の純利益はここ数年、過去最高を続けている(下図)。

 「国家戦略特区」はさまざまな口実で全国に広げられ、規制が次々と外された。「サンドボックス」(現行法の規制を一定地域で一時的に止めて新技術を実証できる制度)での規制撤廃や法人税税率20%までの引き下げ優遇措置などを盛り込んだ「⽣産性向上特別措置法」も6月6日施行された。
 経済財政諮問会議や規制改革会議など政府諮問機関に入り込んだ一部の企業家、「政商」の類いや地域支配層のためのさまざまな事業が政治家の利権とも結び付けて強引に進められた。加計学園問題はまさにそれである。
 安倍政権もろともこの全体を吹き飛ばさなくてはわが国国民経済の再建はあり得ない。

(2)地方創生と行財政改革

 元総務大臣増田寛也氏は14年8月、発刊した新書『地方消滅』の中で「896市町村が消える」とセンセーショナルな問題提起をし衝撃を走らせた。同年9月に安倍政権は、「東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかける」との目標で「地方創生」を打ち出した。一極集中への地方の不満、批判をごまかす政治的狙いもあったのだろう。

①財界の求める「地方創生」

 日本経団連は15年2月、「活力溢れる地方経済の実現」と題した注文書を出した。地方自治体に「地方版総合戦略の策定にあたり十分に考慮する」ことを要求した。
 そのポイントは4点で――
・地方の中核企業の競争力強化。
・地方の経済・社会を支えるサービス産業の育成が重要。とくに高齢化が先行して進展する地方では、医療・介護に関連するサービス需要の拡大が見込まれており、公的保険サービス以外にも民間による新しいサービスの創出・提供が重要。
・農業と観光に関して、農業では経営感覚あふれる担い手の確保、農地集積による経営規模の拡大と農地の有効利用の促進、6次産業化・輸出の促進、観光については地方への訪日外国人旅行者の誘致強化、地域資源を活用した観光地域づくりなど、抜本的な改革を断行していく必要。
・さらに国家体制そのものの「規制改革」とでもいうべき安上がりの政府をめざして「(地方が)独自の成長戦略を実践できる体制へと変えていけるよう、将来的な道州制への移行、地方支分部局の縮小・廃止も視野に入れつつ、地方への権限・財源・人員の移譲を徹底するなど、地方分権改革を重点的に推進」。
 ――財界の狙いは明瞭であった。地方中核企業の強化への自治体支援、医療介護を中心に公的サービスの産業化・育成、農業と観光の産業化、それに道州制をにらんだ「地方分権改革」で、まさに大企業の論理そのものであった。

②中間評価の示す「結果」

 昨17年は「総合戦略」実施の中間年ということで、地方創生担当大臣の下に検証チームがつくられた。その評価と提言は、昨年末に「 まち・ひと・しごと創生総合戦略の変更について」に盛り込まれ、閣議決定された。
 それによると検証チームは「基本目標②『地方への新しいひとの流れをつくる』は、20年時点で地方と東京圏の転出入を均衡させるという目標に対して、16年時点で東京圏への転入超過数が約12万人規模に上るなど、現時点では各種施策の効果が十分に発現するに至っていないと評価するとともに、地方創生の根幹的な目標であることから、目標自体の見直しを行うべきではなく、いっそうの取り組み強化により目標の達成を目指すべき」と提言をした。「効果が十分でない」という評価で、「目標達成が無理だから見直そう」という意見まであったと告白するほどである。
 さらに、「出生率の相対的に低い東京圏への人口集中が続いた場合、推計以上に出生率が下がる可能性は否定できず、より事態は深刻化し、より少ない現役世代で高齢者を支えることとなりかねない。なにより、未来を担う子供たち、若者たち、そして高齢者が大幅に減る地域にあっては、消滅の危機に陥りかねない」と結論づけている。
 「地方創生」とは裏腹に、さらに急速に地方は衰退し、東京圏への人口集中が進んだのである。安倍内閣も、閣議決定「まち・ひと・しごと創生総合戦略の変更について」で、地方創生が成功していないことを認めざるを得なかった。
 東京圏はすでに深刻な問題に直面している。「総合戦略の変更について」も次のように指摘する。
 「東京圏においては、都心部を中心に子育て世代が特に集中する地域では、保育所等の整備が課題となる一方で、今後高齢化が急速に進展し、平成27年から平成37年までの10年間で75歳以上の高齢者が175万人増加すると見込まれている。これに伴い、医療・介護ニーズが増大し、医療・介護人材を中心に地方から東京圏への人口流出が一層進む可能性が指摘されている」と。
 しかし、「総合戦略の変更について」を踏まえてこの6月「骨太方針」と同時決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」では、昨年12月の「変更について」にはなかった次の文言が加わっている。「もとより、東京は引き続き我が国の成長エンジンとしての役割を果たすとともに、世界をリードする国際都市として発展していくことが重要である」という一文がそっと挿入されたのである。
 政府、支配層の中での対立が見て取れる。多国籍大企業のために国際(金融)都市東京をより効率化して国際競争に打ち勝とうとする勢力と、それでは地方を中心に国内政治がもたないとする勢力との相違、争いであろうか。
 いずれにしても安倍政権の地方政策、「地方創生」政策は破綻していると結論づけることができる。

③「地方創生」の当面の方向は実質なし

 「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」での18年度の基本方針は大きく3つの柱である。
・東京圏から地方への移住者の経済負担を一定の条件の下で軽減し、地方での起業や就業を後押し。6年間で6万人目標。
・2つ目は地方で暮らす女性や高齢者らの新規就業や起業を促す対策。中小企業の人手不足を軽減する狙いも。6年間で24万人目標。
・3つ目は、外国人材の活用。留学生がその後、日本で就労する際の在留資格の変更手続きなどを簡素化する。
 
 地域の若者が地方中枢大都市へ、さらに東京圏へと流失し、地方・地域では人手不足が深刻化している。その対策としてはなにがしかの効果をもつかもしれない。だが、若者が安定して暮らし、結婚し子育てできるような働く場、産業がその地域にない限り一時しのぎにすぎない。あるいは、女性や高齢者、それに外国人労働力(『新・日本の階級社会』の橋本健二氏が言う「アンダークラス」である!)を安く、無権利状態でこき使うような「働く場」を全国の地域に広げるだけであろう。
 深刻な地域の問題を解決に向かわせるにはあまりにも力不足である。
 そこで検討課題として、「地方中枢中核都市の機能強化策の検討」が挙がっていて、年内に具体策を決めるという。
 17年に東京圏への転出超過数が最も多かったのは仙台市で、大阪市、札幌市、名古屋市、神戸市と続く。各ブロック内では周囲から人を吸引する大都市が、東京に対しては人材の供給地になっている。この流れを変えなければ一極集中の壁は突き破れないという。
 そこで増田寛也氏は、「異次元の政策」だとして、本社機能を東京からこれら都市に移した企業(や外資企業)に「財政支援、税制優遇の抜本強化」を提言している。「地方創生は政府内で優先度が下がっている。改めて従来の枠を超えた政策を求めたかった」と仕切り直しを提言した。
 かつても?今も、地方自治体は企業(工場)誘致にさまざま優遇措置を行って自治体間で争ってきた。一工場に100億円近い補助金を出した自治体もいくつもあった。だが、結果はどうだったか。進出する企業にはメリットがあるかもしれないし、また、受け入れた地域でも地主とか一部企業にはメリットもあっただろう。だが経済状況が変わると多くの企業が後足で砂をかけて出て行ったではなかったか。今度は、工場ではなくて本社機能だという。うまくいくだろうか。
 よくて、中枢中核都市の周辺部からの人口集中を加速させるだけである。周辺地域の農村、小都市の疲弊に拍車をかけるだけだ。中枢都市の内部でも仙台市でも神戸市でも都心部だけに人口が集中し、市内周辺部は寂れていっている。増田提案でも、中心部はさらに集中的に発展するが、市の周辺部はいっそう寂れていくであろう。
 全国の地方・地域のどこにも人びとが暮らしている限り、産業があり仕事があり、中央大資本に搾り取られない地域経済循環をつくらないと暮らしは成り立たず、深刻な事態は打開できないのである。

④地方行財政

 すでに見たように、安倍政権の「地方創生」は国際競争力のために地方を切り捨て、東京圏一極集中を促すものだった。地方自治体にも激変が進んでいる。
 地方・地域の公共サービスは人口の減少を口実に当然のように切り捨てられ、さらに政府は地方自治体に期限を定めて公的施設の再編計画を出させている。もうかりそうな「公的サービス」は「産業化」で大資本が地方まで進出しあさっている。
 東京圏など大都市自治体では、国際競争力強化で大型開発など負担も強いられ、子育て問題など過密都市の問題が噴出している。
 「行政改革」が要請され、トップランナー方式などということで、本来「地方固有の」財源である地方交付税交付額を「行革」などの成果で自治体間を競わせる。地方交付税制度そのものの解体を狙っているのである。
 かつて地方自治体は、例えば美濃部東京都知事は「財政戦争」を発動して国と財源を巡って「戦争」をした。福祉や環境対策で、法律の対象を条例で広げる「横出し」、積み増す「上乗せ」等々で自治体は競って国と争った。住民のための地方政治を国と争った。今、再びそうした気概ある自治体(首長)が求められている。
 他方、財界は「道州制」を求め、安上がりで強力な国家体制を求めている。すでに自治体の再編がさまざまな形で進められようとしている。
 沖縄県が典型だが反抗するものは徹底的に抑えつける。地方自治、民主主義はますます破壊され、形骸化している。住民に犠牲が押し付けられている。
 昨年3月、地方6団体は国が進めている「地方分権改革と規制改革」について、「国の強力な監督や規制を前提とした考え方が根底にあるものであり、憲法第94条(条例制定権)の趣旨に反し」「時代に逆行する提案」と激しく反発した。闘いなしには地方自治、民主主義は機能しない事態となっている。知事、市町村長はじめ、地方議員など直接に地方自治体に関わる人びとの奮起が求められる。翁長雄志知事を孤立させてはならない。
 紙幅がないので1点だけ追加的に問題提起しておく。
 安倍政権は18年度予算案までの6年間でおよそ180兆円、国家財政の借金を増やしたが、同じ期間に地方自治体はおよそ9兆円も債務を減らした。扶助費や普通建設事業費が増えている中で人件費の削減の効果が大きい。
 しかし、公的サービスは増えはしても減ることはない。公務員数の削減、非正規化、臨時雇い化、指定管理者制度や完全な民営化、等々。いずれにしても低賃金労働に置き換えただけである。非正規低賃金労働の蔓延を自治体が率先して促進していてこの国はどうなるのか。地域経済も成り立たないのは当然である。地域の人びとを中央大資本が低賃金で雇って利益を域外に持ち出したら、地域経済循環が成り立つはずはないのである。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする