戦争を回避し、「対話」の流れをつくろう

朝鮮の「今」を理解し、市民への情報還元も

北原 守(福岡県日朝友好協会会長、元福岡県議会副議長)

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の平昌五輪への参加などもあって、米朝関係は一時的には緊張緩和の状態にあるが、本質は変わらないと考えている。朝鮮側は、圧力には絶対に屈せず、米国が核保有国と認め、平和協定を結ぶまでは核・ミサイル開発はやめないとしており、一方で日米は、北朝鮮が核政策を放棄(非核化)するまでは圧力を最大化するとし、制裁をさらに強化しようとしている。このまま真逆の対立が続けば、米朝間のチキンレース(ののしり合い)はさらに激化し、戦争の危機が実際化すると見ているのは私だけではあるまい。
 こうした対立の危機を乗り越えるには、関係当事者の腹を据えた「対話」が肝要であり、そうした考えから、今こそ戦争を回避し、「対話」の流れをつくろう、と今回の「全国地方議員訪朝団」派遣の訴えとなった。そして、地域で根を張って活動している地方議員であればこそ、地域からの世論の盛り上げに誰よりも力を発揮してくれるに違いない、と信じている。そのためにはまずは自らが訪朝し、彼の国の人たちと語り合い、朝鮮の「今」を理解し、知り得たものを市民に還元する。併せて、日朝両国の政府関係にも「対話」を求める働きかけを行う。その地道な活動が繰り返されるとき、必ずや世論は変わっていくだろうし、私の20数年にわたる朝鮮との交流からもそれを確信している。
 今回は、朝鮮の「今」を理解する一助となればと考え、朝鮮を取り巻く国際情勢や、核・ミサイル問題、さらには、私ども「福岡県日朝友好協会」の活動の一端などを紹介したいと思う。

1、「核武力」の完成と国連の制裁強化

 朝鮮によって、昨年11月29日に打ち上げられたICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星15型」は、射程距離1万3000キロメートル、全米を完全に覆い尽くす新型ミサイルで、世界の耳目を集めるものとなった。これに対し朝鮮の金正恩委員長は、「国家核武力完成の歴史的な偉業を成し遂げた」と語り、核戦略の成功と核の実践配備にも自信を見せた。一方、米国と日本などは「北朝鮮の核・ミサイルは世界の脅威になった」として対立をあおり、経済的、軍事的圧力をいっそう強化していく方向を打ち出した。

最大の経済制裁と軍事的圧力も

 これを受ける形で国連安保理は12月23日、米国主導で朝鮮に対する新たな制裁決議を中ロも含めた全会一致で採択した。内容は過去最強とされる経済制裁。石油精製品等の輸出入制限、海外派遣労働者の本国への送還、朝鮮関係者の資産凍結などで、中でも経済活動の生命線ともされる石油精製品(ガソリンや軽油等)の朝鮮への輸出は90%近く削減することにし、この1月から実施している。また、派遣労働者は中国、ロシアなどを中心に10万人強ともいわれ、本国への送還は原則、全ての労働者を対象に2年以内に行うものとしていて、稼いだ外貨が核・ミサイル開発等に使われることを防ぐためだとしている。ただ、中国からの原油の供給については、年間400万バレル以下(ほぼ現状)と初めて数量を明記するとともに、朝鮮が新たな核実験やミサイル発射を行った場合は原油の供給をさらに制限するとしている。
 年明けとともにこれらの経済制裁は徐々に効いているともいわれる。最近の報道は中朝貿易最大の物流拠点・中国遼寧省の丹東では、中国からの石油関連品の輸出が減少しており、寒さが一段と厳しい季節だけに朝鮮人民の生活に支障をきたしているのではないか、としている。
 一方、米軍を主体とした軍事的な圧力も強化されている。例年の米韓合同軍事演習をはじめ、昨年は異例の原子力空母2隻による日本海沖での演習や最新鋭のステルス戦闘機F35の派遣訓練も行った。さらには韓国南部の星州に迎撃ミサイルシステム「THAAD」を配置したほか、B1爆撃機やF15戦闘機による朝鮮東方沖での飛行を行って朝鮮に圧力をかけた。
 さらには、「圧力強化によって北朝鮮の核政策を変えさせる」としているトランプ米大統領や日本の安倍首相らは、今回の制裁決議を国際社会の一致した考えにするとして、世界各国を積極的に行脚し、首脳の説得にあたっている。特に安倍首相はその先導役を自負するかのごとく、河野外務大臣と手分けして中国や韓国などアジア諸国をはじめ、日本の歴代の首相がめったに訪れたことがない、東欧のバルト3国なども訪問し、朝鮮包囲網づくりに躍起となっている。

朝鮮指導部――圧力には屈せず

 これらに対し朝鮮指導部は、不条理な圧力には絶対に屈することなく、米国が朝鮮を核保有国と認め、平和協定を締結するまでは核・ミサイル開発はやめないとしている。昨年10月、朝鮮労働党本部で行われた朝日友好親善協会と私ども「九州地区訪朝団」との懇談の場でも、同協会の柳明善会長(労働党国際部副部長)は、米国等の圧力には屈しないとした上で、「朝鮮の核は米国からわが国を守るためのものであって、その他の国に向け行使することはない」と断言した。

2、朝鮮――オリンピック参加など南北関係改善へ

 今年の1月1日、金正恩委員長は「新年の辞」で「核のボタンは私の机の上にいつも置かれている」と述べるとともに、核の実践配備に拍車をかけるため核弾頭と弾道ミサイルの量産に力を注ぐよう指示した。一方で、平昌五輪についても触れ、大会の成功と朝鮮選手団の派遣など、参加に向けて前向きな姿勢を見せた。
 その上で、今年は朝鮮建国70周年の記念すべき年であり、韓国でもオリンピックが開催される意義深い年だとして、南北関係を改善し、米韓合同軍事演習をやめるべきだと主張した。その後、米韓両軍の話し合いが行われ、予定されていた合同軍事演習がオリンピック・パラリンピック終了(3月16日)まで延期されることになったことから、1月9日、南北閣僚級会談が2年ぶりに板門店で開催された。
会談の結果、①北朝鮮は平昌五輪に選手団、代表団、芸術団などを派遣、②南北は朝鮮半島の緊張緩和のため軍当局者の会談を開催、③南北間の諸課題を一つの民族として対話を通じて解決、の3項目が合意され、具体的な実行についてはその後の南北実務者協議や国際オリンピック委員会(IOC)等で協議されたが、これまでに朝鮮からの参加選手は3競技22人とし、開会式の入場は南北合同で朝鮮半島を描いた「統一旗」を掲げて行う、アイスホッケー女子は初の南北合同チームとすることなどが決まった。特に、統一旗を掲げての入場行進は南北の融和を象徴するものでもあり、南北の関係者の喜びは大きい。IOCのバッハ会長は、「オリンピックの平和の精神が南北を一緒にさせた。すばらしい。南北朝鮮の政府に感謝したい」と祝福していた。
 また、選手団と一緒に韓国入りする「芸術団」への関心も高まっている。今のところ、大会期間中に首都・ソウルや開催地・江陵市での公演が予定されているが、出演メンバーの大半は「三池淵管弦楽団」員で、その一流の演奏は国際的にも定評があり、しかも同じ朝鮮民族ということで、韓国のメディアもにぎわい立っている。
 ところで、今回の朝鮮選手の平昌五輪参加に対し、韓国、日本、米国はどう見ているのか。南北の融和を掲げる文在寅政権下の韓国では、この五輪をきっかけに南北が融和し、統合から統一へ向かってほしいとの期待が大きいようだが、同時に文政権野党の関係者などには「北は制裁逃れの時間稼ぎ、五輪後には再び核・ミサイルを始動させる」といった強い批判も見られる。最近の韓国の世論調査では、朝鮮のオリンピック参加によって文政権への支持率は低下し、批判的な若者も増えているという。
 一方で、日米は「オリンピックは平和の祭典」として、一応は北朝鮮の参加を歓迎しつつも、南北融和に向けた韓国・文政権の突っ走りには警戒感を持っているともいわれる。安倍首相は「今後も朝鮮が非核化へ核政策を変えるまでは圧力を最大化し、変えた後、対話のテーブルに乗れば話し合いには応じる」とし、トランプ大統領も同趣旨の言動をとっていることから、日米の圧力一辺倒の朝鮮政策に変化はないようだ。
 こうした観点から、米韓合同軍事演習もオリンピック・パラリンピック終了後の早い時期に再開するとしており、これには朝鮮が猛反発するのは明らかで、その後、南北関係や米朝関係がどう進展するのか見通しは立たない。

3、日本――朝鮮の脅威をあおり、防衛力強化へ

 日本の通常国会が1月22日、召集された。憲法改正や働き方改革、さらには朝鮮情勢をにらんだ防衛力強化などが論議の焦点となりそうだが、ここでは防衛力の強化についてまとめることにした。
 2018年度の政府予算案によると、防衛費は核・ミサイル開発を進める朝鮮や海洋進出を強める中国の動向に対処するため、防衛力を質的にも量的にも拡充する必要があるとして、過去最大の約5兆2000億を計上している。
 具体的には、朝鮮の核・ミサイル開発が重大かつ差し迫った脅威になっているとして、地上配備型の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」2基の導入を決定、設置費用は1基あたり1000億円といわれ、設置場所として日本海側東西の秋田と山口・萩の自衛隊基地が候補地に挙がっている。今年度予算では基本設計費7億円を計上し、運用開始は5年後の2023年度を予定している。
 また、日本周辺の海や空の安全を確保するためとして、最新鋭ステルス戦闘機F35、6機、無人偵察機グローバルホーク1機、新型オスプレイ4機の取得を計画、総予算は1325億円となっている。
 今回の予算で注目しなければならないのが戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルで(巡航ミサイルは自らを攻撃目標に誘導するミサイル)、射程距離によっては敵基地も攻撃が可能(敵基地攻撃能力)となることから、使い方によっては、国防の基本である専守防衛と矛盾するとの意見も出ている。今年度予算の900キロの射程距離を持つアメリカ製巡航ミサイルなどがそうで、日本の領域から撃てば、能力上は朝鮮の大部分を射程距離内に入れることができる。
 こうした防衛力の強化に対し、国民の中には「国民の命と暮らし守るため」と評価する向きもあるが、「政府は必要以上に北朝鮮脅威をあおることで、防衛力強化に利用している」と否定的な意見を述べている人も少なくない。現に、朝鮮のミサイル発射に対し、Jアラートを使って飛来情報を不適切に流すことや、必要性を感じない市民に向け避難訓練を促すことなどは、理解はおろか、反発を買う恐れさえもある。
 加えて、防衛装備品の調達のあり方についても改善を求める意見は多い。特に米国から調達する場合は、FMS(Flexible Manufacturing System)と呼ばれる契約方法が用いられることが多く、内容が①価格は米国が主導で決定し、②代金は日本政府が前払い、③装備品の納入時期など契約内容の変更もあり得るなどとなっていることから、日本にとって不利との指摘もある。ちなみに2018年度予算では、先に記したイージス・アショア、ステルス戦闘機F35、グローバルホーク、新型オスプレイなどは全てFMSによる米国からの調達となっており、トランプ大統領と安倍首相との取引で「アメリカ第一主義」が貫かれた結果だとの見方もある。

4、福岡県日朝友好協会の取り組みから

 福岡県日朝友好協会は、ちょうど10年前の2008(平成20)年5月に発足した。交流の原則として以下の3項目を掲げている。
① 超党派/思想信条は問わず、日朝友好の志を有する個人及び団体
② 県民目線/県民感覚で交流し、訪朝などで知り得た情報は帰国報告会等で県民に還元。そのために報道関係者の同行取材を要請
③ 在日朝鮮人の権益擁護/高校無償化など在日朝鮮人の権益を擁護し、友好を促進
 その上で、以下の事項を申し合わせ、活動の糧にしている。
イ、拉致問題――国家的犯罪として解決を求めているが、解決のための交渉は、信頼関係の醸成を重んじ、日朝国交正常化交渉と並行、もしくは正常化後に行うことを求めている。
ロ、訪朝――原則、毎年実施することとし、受け入れ機関は朝鮮労働党の対日組織「朝日友好親善協会」を要望。これまでの10回の訪朝では、同協会の会長(労働党国際部副部長)ら幹部との懇談を真摯に行い、両者の信頼関係の醸成につなげている。
ハ、役員会――活動の原動力となる役員会(拡大)を毎月定例化し、活発な意見交換を行っている。
ニ、朝鮮総聯、朝鮮歌舞団等――協会の役員会には毎回、総聯県本部の委員長らが出席、連携を密にしている。また、高校授業料無償化闘争など総聯の主な活動には協会として参加するとともに総聯の支部も訪問し、懇談している。最近は歌舞団と「協働」で本格的な朝鮮歌舞のディナーショーを開催し、市民からも好評を得た。
  その上で、訪朝の際には、可能な限り朝鮮の「今」を理解し、市民との交流を深めるため、市民生活をはじめ、教育、就労、農工業、交通、観光、娯楽などの現場を訪問するとともに、南北境界線の板門店などはよく訪れる。このうち、教育制度とその現場からは、朝鮮がいかに人づくりに力を入れているかを理解できるし、板門店では国防の使命に燃える人民軍兵士たちの熱い志を感じ取ることができる。
 以下、活動のトピックスを紹介したい。

平壌外大や障害者保護連盟等と交流

 平壌外大とは訪朝の際に訪問し、大学関係者や学生らと交流してきた。特に学生は将来の日朝友好交流を背負っていく〝人材〟との思いから、将来の活躍の場などで懇談し、励ますとともに、日本語辞書など教材の贈呈を行ってきた。
 また、朝鮮障害者保護連盟は2010年から毎年、訪朝の際に訪問し、連盟本部内で歌舞などの訓練に励んでいる視覚障害や聴覚障害の青年たちと交流している。近い将来、現存の日中韓障害者交流組織に朝鮮も加わり、北東アジア4カ国の交流組織をつくっていこうというわれわれの提案には前向きに対応している。

第9次訪朝では日朝国交担当の宋日昊大使と懇談

 2016年の第9次訪朝では、朝鮮外務省の日朝国交正常化交渉担当の宋日昊大使と夕食を挟んで3時間、懇談することができた。日本からの同行取材陣は懇談の内容を早速、日本に送稿し、翌日の紙面を飾った。

親善交流を記念し、聖地に朝鮮松を植樹

 福岡県日朝友好協会では、朝鮮との交流を記念し、平壌の故金日成主席の生家近くの聖地に朝鮮松を植樹した。毎年、訪朝の際には現地を訪れ、成長を観察しているが、生命力の強い樹木だけに、50年、100年先が楽しみだ。後世の人たちが、この記念樹を見て私たちの活動を偲んでくれるきっかけになればとひそかに期待している。

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