JR北海道の経営危機と鉄道網維持のあり方
北海道議会議員 梶谷 大志
1 はじめに
JR北海道の経営危機の発端は、2011年5月に札幌市と帯広市を結ぶ、道内幹線である石勝線での特急列車脱線炎上事故であった。
この列車はトンネル内で脱線し、煙で顔を真っ黒にし避難した乗客が、その恐ろしさも入り交じったコメントがニュースで放映された。
あまりにも身近な出来事として、道民全体にとても大きな衝撃を与えた。しかも、当時の北海道議会議長までもが乗り合わせていたので、余計驚きを与えたのである。
その後も一気に噴出するように、車両整備面でエンジンや配電盤出火のトラブルが続発し、列車の遅延、運休も拡大し、ダイヤが大きく乱れた。
さらに13年9月には、函館市近郊の大沼駅構内での貨物列車脱線事故で、JR北海道の保線でのレールデータ改ざんが発覚し、本社による予算削減が、支社の安全へのモラルの欠如等構造的問題へと波及していった。
これらによって減速、減便の実施という異常事態となり、この影響で年末年始の混乱や函館・札幌間では平日でも乗客が混雑し、3時間半もの間、立ちっぱなしという事態まで報告された。
2 北海道における鉄道
そもそも広大な北海道の鉄路は、1964年には道内隅々まで約4000㎞張り巡らされ、北海道開拓の歴史そのもであり、道内の主要な交通網の役割を果たしていた。
大きな転換点となったのは87年4月、国鉄の旅客部門を6社に分割し、民営化する国鉄改革が講じられた。
この改革で全国の赤字ローカル線廃止がいや応なく進み、道内でも約900㎞、その後JR北海道発足後500㎞以上の路線が廃止され、運行在来線約2420㎞(12路線25線区)まで鉄路は減線されていた。
詳しくは後述するが、この間、JR北海道の経営スキームは徐々に崩れはじめ、赤字を発生させる鉄道事業を、不動産や小売業等関連事業でそれを補う経営にシフトしていった。
しかし追い打ちをかけるように、鉄道は、空路や高速道路網の発達で競争が激化、さらにスピード化が求められた。
本来、高速列車は電車が主流だが、広大な土地にコスト面から電化は困難であり、JR北海道は車体を自動的に傾斜させてカーブを高速で通過できる、振り子特急などディーゼル車を独自に改造した。しかし予算の削減が、厳寒期の過酷な環境を乗り越えるだけのコストまでも削減することとなり、一気に課題が噴出したように思える。
これらの一連の経過から、2016年3月26日の北海道新幹線の開業と表裏一体で、会社の存続を第一に同年11月、JR北海道から「JR北海道単独で維持困難な路線」が発表された。
まさに鉄路の大合理化であり、対象線区は計約1237㎞(10路線13線区)にも及び、道内鉄路の約5割に上るものである。対象13線区の沿線自治体は、道内179市町村のうち約3割に当たる56市町村となる。
JR北海道経営陣からは、「見直し」以外は選択の余地はないという姿勢とともに道民・沿線自治体、運輸関係者、観光関係者に大きな反発と衝撃を与えた。
3 北海道新幹線の開業
北海道新幹線は本州から北海道へ抜ける、青函トンネルからの玄関口である函館市内に乗り入れていない。その是非、新駅の位置、新函館北斗駅と決まるまでの駅名問題、青函トンネル内の貨物併用に伴う減速走行等、国策の整備新幹線であるにもかかわらず、政治的な対立が如実になったり、さまざまな確執、課題が山積し、政府の責任が問われるものである。
また新幹線開業は、並行在来線の経営分離が着工の条件のように求められ、北海道をはじめ地方自治体の出資によって、第三セクター「道南いさりび鉄道」が設立された。自治体の税金を投入してもなお脆弱な経営基盤の事業体に、地域の足、貨物輸送の鉄路維持など含め、その重たい役割が背負わされている。
北海道新幹線の開業は道民の夢、悲願であったが、同時に並行在来線の経営分離、非常に惜しまれたが夜行列車の廃止を正当化し、道民にとっては想定外である普通列車の減便、駅の廃止・無人化を招いた。
道内では、かねてから新幹線開業に経済効果がさほど期待できない、道北・道東地方から冷ややかな態度が示されていたが、開業一年を迎えそれが現実となった。課題の把握、分析とともに全道への波及効果を広げる対策が急務である。
4 国の責任
JR北海道の経営難はここ近年の出来事ではあるが、発端は国鉄改革が検討された1980年代初頭までさかのぼるはずだ。すでに沿線に人口の少ない北海道での鉄道事業は難しく、国鉄改革が講じられた制度発足当初より、JR三島会社(北海道、九州、四国)には赤字の発生が見込まれた。
JR北海道には、6822億円の経営安定基金が設置され、運用益で赤字を補填するスキームが講じられた。これは営業収入の1%の経常利益を計上できるよう措置されるものだったが、経営方針は90年代後半に行き詰まりを見せた。民営化当時、長期国債の平均年利を参考に、年間7・3%の利回りを想定して設計された。しかしながら、バブルの崩壊によって長期国債の金利は下落、運用益の利回りも97年以降引き下げられ、現在は3%台にまで低下してしまったからだ。
この間、鉄道・運輸機構により、経営安定基金の一部を一定の優遇金利で借り入れを行うことによる運用益の確保、経営安定基金の上積み、租税特別措置などが図られたが、改善は見られず、JR北海道は営業費用を削減し、冒頭で述べた、経営悪化への悪循環に突入することとなった。
反面、JR東日本は国鉄から譲り受けた優良な営業基盤と前述した低金利への環境の変化は、劇的に財務体質を好転させ完全民営化へと追い風となった。その後JR西日本、JR東海と続き、昨年はJR九州も完全民営化となった。
一方で、JR北海道および四国は赤字が常態化し、特に北海道においては、厳しい経営状況の下、利用者へのサービスが次々と切り捨てられ、施設の安全投資、老朽更新もままならない状況で、鉄路の維持には道民の負担が必要との議論が現在行われている。
リニア新幹線に着手しているJR東海などと比べると、JR三島会社(北海道、九州、四国)とはこの32年で「巨大格差」が生じ、住民が受けるサービスの「地域間格差」があまりにも大きく、経営支援スキームはもとより、分割民営化そのもののあり方が間違った国策であったことは明白である。
国は鉄路の維持、そしてJR北海道の支援について、当初から「鉄道による大量輸送という時代は終えた」「地域協議に参画して対応を検討」、国会議員の一部からは「道の対応が決まらなければ、国が支援することはできない」と責任を曖昧にし、冷ややかな対応となっている。
加えて小泉政権以降、グローバル化に拍車をかけるかのように、経済も社会も市場が調整する新自由主義、行き過ぎた規制緩和等は都市と地方の格差を広げ、全国に先駆けて人口減少、過疎化・高齢化が急速に進んだ要因も根底にあることは忘れてはならない。 この分割民営化からの構造的な要因、政府・国会の理不尽な対応に、多くの道民は不安・戸惑いを感じている。
また、JR北海道における本社・経営陣の無策、現場の無力感は、国の監督責任、鉄道財源の不足ととらえるべきだ。
1キロ当たりの1日平均輸送人員に当たる「輸送密度」と、100円の収益を得るための費用に当たる「営業係数」を主な判断基準とする。
(1)輸送密度200人未満で営業係数1,000円超の4線区は廃止し、バス転換する。
(2)輸送密度200人以上2,000人未満で営業係数300~1,000円程度の9線区は地元自治体と費用負担を協議する。
自治体の費用負担については、鉄道施設を自治体などが保有する「上下分離」方式や運賃値上げなどを検討する。
4線区のうち石勝線夕張支線(新夕張-夕張)は夕張市がすでに廃止に合意しており、それ以外は2019年3月にも廃止する。
2017年3月期決算で、単体の経常損失が過去最大の235億円を見込み、何もしなければ、2019年度中に厳しい経営状態になり、安全運行の資金が確保できなくなる。
2019年度内の合意形成を目指し、民間企業として維持できるレベルを超える路線は赤字削減や路線のあり方を相談させてほしいと各自治体に理解を求める。