TPPは第三の不平等条約

第11回全国地方議員交流会 全体会講演Ⅱ 於:川崎市・サンピアンかわさき

TPPは第三の不平等条約

           TPPを考える国民会議代表世話人・日本医師会前会長 原中勝征 氏

 お集まりの皆さんはTPPについてご存じなので、今日は日本の歩みをふりかえりながら、TPPが今後の日本にどんな影響を及ぼすのか、お話します。
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◎日本の弱体化を考えたアメリカ
 不幸なことに、日本のマスコミは国民にとって大事なことを伝えないマスコミになってしまった。どうしてこうなったのでしょう。日本がジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた時期に、アメリカはいかにして日本を弱くするか考えました。その時代のことが少しずつ公表されて、私たちも知ることができるようになりました。
 アメリカが考えた3つの柱の1つは教育です。教育で日本を強くさせてはいけないと考えたのです。これは後に「ゆとりのある教育」ということで、土曜日が休みになりました。それまで、日本は先進12カ国の学力テストで全科目が第1位でしたが、5年目には1位の科目はほとんどなくなりました。
 もう1つは終身雇用制度です。会社に勤めると、一生涯安心して働けるから、産業がどんどん進歩する。これを阻止しようと考えたわけです。労働者派遣法がつくられました。小泉さんがこれを製造業に拡大したので、労働分配率がどんどん下がりました。若い人の給料は減り、結婚できない人が増えました。人口と国土は国の基本なのに、若い人口ほど減ってしまう状態がつくられました。65歳以上の人の医療費は働いている人の5.5倍かかるのに、高齢者を支える人たち、働いている人たちの割合が減り続けています。しかも、働いている人たちの中で、年金の保険料を払っていない非正規雇用の人が多くなっています。そういう中で、人を雇用する会社はベトナムなど東南アジアに移っています。ベトナムの時給は80円、日本の10分の1だからです。このような国がどうやって国際社会で闘っていくのでしょうか。
 日本の国を弱くしようとする3本目の柱は、マスコミ対策です。ゴールデンタイムは芸能番組、娯楽番組にして、世界の歴史や国のあり方、政治の問題を取り上げないようにする。それにはマスコミやスポンサーを懐柔して、これを押さえることだということで、あるスポンサー会社を大きな会社にして、今、報道関係の8割とスポンサー契約を結んでいます。
 一例をあげると、韓国でTPPに反対する3万人の集会が開かれ、そこで農協のある女性が自分の首を切って自殺しました。それをきっかけに、反対運動がものすごい勢いで広がりました。だから、韓国はTPPに入らず、2国間協定で終わりました。しかし、日本の私たちは知らなかった。マスコミが報道しなかったからです。
 ブームはマスコミがつくります。あの小泉ブームによって、アメリカの要望書にそった郵政民営化、不良債権処理、労働者派遣法の拡大などが実行されました。郵政民営化は郵貯・簡保のお金でアメリカの国債を買わせるためです。外資の対日投資も促進しました。その結果どうですか。キヤノンの株主の6割がアメリカです。そのキヤノンの社長をしていたのが、経団連会長になった御手洗さんです。
 私たち国民会議は、アメリカに行って農業団体、労働界、自動車業界、上院下院の人たち、アメリカ合衆国通商代表部(USTR)の代表にも会って自民党や知事会の反対決議を渡しました。こんなに反対があるのかと驚いていました。コメの文化について話し、コメの関税を守りたい日本人の気持ちを伝えました。ワシントンポストは4段抜きで私たちの意見を載せました。そこに日本人の記者が60人いましたが、日本国内では1行も書かれていません。

◎問題だらけのTPP
 ガン保険は1970年代からアメリカのアフラックとアリコの2社だけに認め、国内の保険会社は2001年まで扱うことができませんでした。アメリカの2社が独占し、今でも日本市場の8割を支配しています。TPP交渉でもアメリカは、簡保がガン保険など新しい保険をつくってはいけない、もしつくるなら郵貯・簡保を一般の銀行や保険会社と同じようにしなさいと要求しました。安倍政権はつくりませんと答えた上、2万の郵便局をアフラックのガン保険販売窓口として差し出しました。私は日本人の魂がここまでないがしろにされるのかと残念に思い、TPP反対運動の責任者を引き受けました。
 TPPに投資家対国家の紛争解決(ISD)条項というのがあり、民間会社が国を訴えることができます。今までは世界貿易機関の中で公平な処理をしていましたが、TPPでは米国が自由にしている世界銀行の内部機関にまかせます。一審制でその決定は国内法に優先します。今まで60数件の訴訟があり、すべてアメリカが勝っています。米韓FTAにもISD条項があり、韓国は63の法律を変えざるを得ませんでした。
 TPPでは食の安全はひどくなります。例えば「この牛肉には遺伝子組み換えの大豆を使っていません」と書くことはできません。アメリカでは使っていい農薬が日本の約2倍あります。日本で禁止されている農薬が使われている農産物が入ってくるのを止められません。
 TPP交渉は秘密保持契約に署名しなければ参加できません。交渉内容はブラックボックスで、国民に明らかにされません。例えば住宅を借りる時、皆さんは家賃もわからずに契約書にサインしますか。1万円かと思っていたら100万円と書いてあった。サインしてしまえばその通りやらなきゃいけない。そんなTPPになぜ日本が入らなきゃいけないんですか。国民がキチンとした意見を持たなきゃいけないと思います。

◎日本はどこへ行くのか
 ねじれ国会という話がありましたが、二院制は衆議院と参議院が異なった意見を出すことに大きな意義があります。憲法は国民が政治を監視するための重要な取り決めですから、簡単に変えられないように、改正提案は3分の2以上となっています。それが過半数に変えられ、参議院もなくなれば、時の政権は必ず過半数ですから、再軍備、海外派兵、徴兵制度、何だってできます。3分の2はあくまでも堅持し、最終的には国民の意見を聞かなきゃいけない。
 日本の国家予算の半分は国債でやってますから、あと数年経てば国の借金は1200兆円を超えてしまう。日本は家計資産が1200兆円、国の借金が1000兆円だから余裕があるので日本の国債は信用されていました。でも、国の借金が1200兆円を超えてしまったら国債の信用はなくなります。貸してくれるところがなくなるのに、借金を返さなきゃいけない。家計は家族を養って老人の社会保障のお金を払わなきゃいけない。日本はやっていけますか。
 食料はどうなりますか。今まで自給率40%で、主食は何とか自分の国でつくっていた。しかし、地球上では今でも食料が足りないのに、人口は増え続けています。TPPに入れば食料自給率がさらに減ります。高齢者が増え、働く人が減っていきますからお金がない。どうやって日本人の食料を確保するのですか。
 アメリカの力は弱まり、あと20年で世界一の大国という地位は終ります。だから、力のあるうちにお金がアメリカに集まるようにする。TPPがそうです。知的財産の保護、特に医療がそうです。薬品の特許期間は20年です。20年経つとジェネリック薬品が出てきて儲からなくなる。これを阻止しようと、特許に物質の特許と効用の特許があることに目をつけています。心臓の薬として発売していたのを、20年が来た時に高血圧に効くといえば20年伸びる。さらに20年が来ると、今度は不整脈に効くということで、永遠に特許が続くようにするわけです。
 1錠が10万円する制ガン剤も健康保険の対象になると安くなります。日本では中央社会保険医療協議会(中医協)が値段を決めるからです。だから、アメリカは健康保険から外そうとします。韓国では、薬価を決める審議会に米製薬会社ファイザーの社員を委員として入れ、健康保険から外させました。そして、制ガン剤治療に使える新しいガン保険をつくっています。掛け金がとても高く、お金のない人は入れない保険です。日本もそうなると思います。
 こんなことを許すような政治は国民を幸せにする政治といえるでしょうか。日本の国会議員選挙では、芸能関係だとかスポーツ関係だとかいうことで当選します。上のいうことを聞いて動くことしかできない議員です。汗水流してお金を稼いだこともない2世、3世の人がお父さんの秘書になり、そのあとを継いで国会議員になり、順番に偉くなって総理大臣になる。そんな政治家に、どうして国民の痛みが分かりますか。国民がみんなで考えて、この国を立て直さなくちゃいけないと思います。

◎大切なのは日本人の魂/独立国としての誇り
 TPPに入ったら再び出ることはできないといわれています。しかし、いまブルネイは反対し、シンガポールが出たいといっています。何のメリットもない。4カ国でTPPが始まった時は違っていた。石油がいっぱい出る国、肉などをつくる国、そういう条件が異なる国が連携して関税ゼロで補い合うのが最初のTPPだった。そこに米国が入ってきて、米国にお金が流れるようなシステムに変えてしまった。そういっています。
 私はどの政党にも属していません。米国にも住んでいましたから米国は好きです。でも、日本に帰ってきて考えました。こんな国でいいのか。地方の方がよっぽどキチンとしています。中央の新聞は大事なことを書いていないけれど、地方紙はいろんなことを書いています。国民に大事なことを伝えないマスコミの改革、内閣や自民党の改革が必要です。特に小泉さんの内閣、自民党は許せませんでした。国民に痛みを押しつけるひどい政治をやり、自民党の中で小泉さんは間違っていると言う人はいなかった。こんな政治家が集まっている政党に、私たちの将来を任せられないと思いました。
 この国の分かれ目がTPPだと感じたものですから、TPPを反対する会のリーダーになりました。この会にはいろんな人がいます。元農水大臣、東大の先生、弁護士の先生をはじめ、いろんな方が参加しています。以前は、当時野党だった自民党、公明党も入っていいましたが、全部抜けてしまいました。今も現職の国会議員が入っていますが、非常に少なくなりまして、力が弱まっていることを非常に心配しています。
 それでも、私はアメリカやTPP交渉が開かれたマレーシアにも行きました。日本人は中に入れないので、米国の団体にお願いして、一緒に中に入れてもらいました。その時に、アメリカのある人が日本の特許について「日本は泥棒国だ。アメリカが作った薬にナトリウムなどをくっつけて、新しい物質だと認めている。こんな泥棒国を入れていいのか」と言いました。私は「進化させるたびに特許をとっているだけで、基本的な特許料はきちんと払っている」と反論しました。
 本当に必要なのは日本人の魂、独立国としての誇りだと思います。私は福島県の浪江の生まれで双葉高校の出身です。今は私の親戚も、子どもの頃に一緒に遊んだ友だちも、誰も住めない町になっています。役場と学校は除染したからいいだろう。そんな国民をバカにすることを政府がやっている。地震がほとんどないドイツでさえ原発をやめました。地震がなくても危ないことがわかっているからです。ところが、日本は火山の上にあるのです。2、3カ所で大地震が起こり、原発が爆発すれば、私たちは住む所がなくなり、放浪の民族になってしまいます。たとえ貧乏でも私は日本人としてこの国に住みたい。原発は100%事故がないということが完全に確証されるまでは再開すべきではない。私はそう思います。ここに漁業組合の組合長さんがおられますが、政府が収束宣言したのに、放射汚染水の垂れ流しが続いており、漁師の皆さんが今も苦しんでいます。こんな国はおかしいと思います。
 日本人はデモもしない、おとなしい国民になりました。しかし、自分たちの子孫を守るために、今ここに来ている人たちが行動を起こさないといけないと感じ、こんなお話をさせていただきました。ありがとうございました。

◎会場からの質問に答えて
【質問】
 先ほど、議員や首相を選んだ国民が悪いとおっしゃいました。しかし、マスコミが押さえられていて、国民は大事な情報をもらえずにいます。情報すら与えられないのに、どうしたらいいのかというのが私の悩みです。

【原中】
 その通りだと思います。情報がなければ判断できません。しかし、そこでちょっと考えてほしいことがあります。「景気が良くなったといわれているのに、自分の給料は下がっている。おかしいな」と。
 小泉さんの6年間に、国内総生産(GDP)が上がりましたが、国民の給料は下がりました。「アベノミクス」も、円安にすることによって大会社が儲かり、景気が良くなったように見えますが、国民の給料は下がりっぱなしです。やがてそのお金が国民全体にまわってくると思うのが大きな間違いです。「あれだけ景気がいいといっているのに、おかしいな」と考える国民になってほしい、というのが私の願いです。
 マスコミがまともにならない限り、この状況を変えるのは容易でありません。私自身も含めてインターネットなどで調べないとわからない。調べてもなかなかわからない。自分の子供や孫の時代に日本がどうなっているか、少しは考えられるような知識を広めなければいけないと思っています。
 国民を批判するのが真意ではありません。そのように受け止められる発言だったのなら訂正します。

【質問】
 日本は貿易によって立国してきました。貿易の障害をなくし、互いに協力して貿易を促進し、それぞれの国を富ましていく。農業について多少我慢しなければならないことがあるにしても、それは克服していかなければない。私はそういう考えで、農協や医師会の方からも意見を聞いたりしてきました。そのあたりをどういうふうに考えたらいいのでしょうか。

【原中】
 日本が今の状態でずっと進んでいくなら、いいのかもしれませんが、こういうことがあります。
 私の町にNECの工場があり、アメリカがそこの株を買って、コンピュータの設計図を全部持って行きました。アメリカはドルが刷り放題です。技術がほしいと思えば、ドルでその会社の株を買えばよい。昔は金との交換比率を決め、アメリカがドルと金を交換すると約束していました。ドゴール大統領がアメリカにドルと金の交換を頻繁に求めたので金が足りなくなり、金との交換を停止しました。アメリカの経済が弱くなった結果です。しかし、ドルが刷り放題となり、それでも通用するので、それがアメリカの力になったのですが、今はこれも先が見えてきています。
 アメリカのコメの生産費用は日本の30%です。米国の安いコメが入ってきたら、コメの専業農家は食べていけず、農業をやめます。回りの工場もなくなる。一時は安くていいと思っても、日本人の収入がどこから入るのですか。工業からも入ってこない。TPPはそれぞれの国を富ましていくことにはなりません。貧富の格差が拡大し、1%の人が富のほとんどを握るアメリカのような国になります。医療制度も米国のようになります。アメリカでは4500万人の人が死ぬまで一度も医者にかかったことがない。みんながなんとか安心して生活できる国づくりをしなくちゃいけないと思います。

【質問】
 6月下旬に宮城県大崎地方で集会を開き、TPPについて意見を集約して、7月5日に要望書を首相官邸に持っていきましたが、受け取ってもらえませんでした。お聞きしたいことはTPPから離脱させる方法がないのか、私たちにできることは何かということで、ご教授願いたいと思います。

【原中】
 1つは、TPPに入る時に国会決議が必要なのかどうかが問題になっています。閣議決定でいいと言う人もいます。国会決議に持っていくよう、国会議員に対する働きかけが必要だと思います。自民党といえども農村から出ている議員が多いわけですから、農村が一生懸命がんばれば、なんとかなるかもという一筋の希望があります。
 もう1つは、国民にTPPについてもっと知ってもらい、TPPに入れば大変なことになると、反対の世論を促進することです。韓国、カナダ、メキシコなど、いろんなところで実例が出ていますので、そういうものを新聞が取り上げるようにすることも必要です。
 陳情やいろいろ決議文を書いても、それを見る気は今の政府に全然ありません。
 農協、医師会、郵政関係の組織など、国民に影響を及ぼすいろんな組織が1つになってがんばれば、国民の中にTPP反対の気運が広がると思います。いいなと思っています。私たち「TPPを考える国民会議」は、中心になっていろんな組織と同じ行動を起こそうと決めました。名前も「TPP阻止国民会議」と変えて、がんばりますので、よろしくお願いします。(文責・編集部)

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