2013年8月27日 第11回全国地方議員交流会 全体会特別報告 於:川崎市・サンピアンかわさき
原発事故状況下における本県漁業の現状
福島県漁業協同組合連合会会長 野﨑 哲 氏
本日は当議員交流会にお招きいただきありがとうございます。この機会を利用させていただき、原子力災害の状況下における福島県の漁業の現状、再開の歩み等についてご報告させていただきます。
福島県は去る平成23年3月11日の東日本大震災で海岸域全て津波の被害を受けるという事態に陥りました。3月12日に1号機、それから3月14日の3号機の水素爆発等によって原子力災害という状況下に陥りました。私ども1500名の組合員のを抱えるなか3月15日に福島県農水部の水産課と協議し、福島県のすべての漁業を停止するという決定を行い、福島県の漁業は停止状態に入りました。
その後4月2日に、2号機原子炉のトレンチサイドから高濃度の汚染水が漏れるという事態になりました。この高濃度汚染水を貯めておく場所を確保するため、廃棄物置き場の低レベルの放射能汚染水1万5千トンが意図的に海洋放出されました。その後5月にもう一度、3号機付近からトレンチの高濃度汚染水の流出がありました。汚染水の海洋流出は、危機回避のための意図的な放出も含めて3度ありました。
汚染された海水を福島県水産試験場と共にモニタリング等を行って、漁業の再開をめざして参りました。平成23年7月から本格的に福島県水産試験場が週1回の約50種類のモニタリング調査から始まって、現在週1回で150種類の検体を行うまでに充実して参りました。平成23年7月から現在に至るまで約2万弱を検体しました。平成23年当時は500ベクレルが基準値でしたが、その基準値500ベクレル超えが約2割、100ベクレル超えが5割強という状況でした。平成25年4月には100ベクレル超えの出現が、537検体中、25検体(4%)、7月は769検体、12検体(1.6%)と低減してきました。
福島水産試験場の科学的データーをもとに、「この魚は大丈夫だ」という安全宣言を出された中で、我々は漁業を再開したいとお願いをしてきました。しかし、出荷制限等については厚労省の管轄、私ども福島県の漁業については農水省水産庁管轄という形で縦割りの問題があります。
そこで水産庁と協議の上、水産業の復興と漁業の再開をめざし「福島県地域漁業復興協議会」を立ち上げました。その協議会には、私ども福島県漁連、水産庁と福島県水産課、県水産試験場、学識経験者として東京大学の八木信行准教授、東京海洋大学の濱田武士准教授、福島大学の小山良太准教授や井上健准教授、流通団体の代表として福島県生活協同組合の専務理事等が入っています。
まず各漁業団体が各漁業者と協議して試験操業計画をつくります。県水産試験場が出したデーターをもとに、獲る魚種、場所、漁法、漁獲物の検査体制、流通業者への出荷方法等の操業計画を復興協議会に提出。「復興協議会」の各先生方のチェックや助言等をいただき、試験操業案としてまとめます。その後の「福島県漁業協同組合長会」で了承して試験操業が決定されます。
平成24年3月の第一回復興協議会の開催をへて、試験漁業開始は平成24年6月でした。相馬双葉地区の水深150メートルよりも深い沖合底曳漁網漁法に限定、タコ、イカ、ツブガイの3魚種、19隻が参加しました。県水産試験場の検査によって放射性物質の影響低下を確認しながら、少しずつ試験操業の海域や、魚種を拡大してまいりました。
限られた海域、限られた漁法、限られた時間、限られた魚種という試験操業の段階ですから、水揚げは震災以前の10%未満です。それでも我々は漁業者ですから、船舶を動かして試験操業は続けていきたいと思っております。
ところが今年5月、福島第一原発電所のタービン建屋東側の観測井戸3本から異常なトリチウムとセシウムが観測され、海への漏出の危険性が指摘されました。その後、7月22日に、干満の動きと観測井戸の動きと連動しており、タービン建家側の汚染地下水が海洋流出していることが判明しました。
この事態を受け、全漁連を通じて、東京電力には抗議、経産省には「事故当事者任せではなく国が前面に出るべき」という要望等を行いました。その後、地上貯蔵タンクからの汚染水300トンの漏れ等が判明しました。海洋への流出は不明です。
東京電力には、基本的に様々な過失があり、我々の気持ちを砕くような結果が続いています。東京電力は信用できないと一刀両断するのは簡単ですが、事故の現場で生きている私たちの思いは複雑です。漁業者に責任がないので当然怒りはあります。私たち漁業者は船舶を利用して海に出て、漁業で生計を立てていますので、漁業再開をめざしています。そのためには、東電を批判するだけでなく、海洋汚染を止めるためにも東電との交渉が必要です。
具体的には、タービン建屋の汚染水の海洋流出を止めてほしい。もう一つは地下水のコントロールです。昨年8月、東京電力から山側地下水(一日1000トン)を汲み上げ、原発建屋を通さず海洋に流したいという提案がありました。なお、経産省及び原子力規制庁の方から漁業者の同意をという調停があり、漁業団体として反対するのか、容認するのか、漁業者のなかで協議している段階です。
私は、原子炉建屋を通った水はどんな処理しても放射能の除去が不可能なので海洋には放出させない。それ以前の地下水のコントロールに役立つなら協力して参りたいと基本的に思っています。
東京電力福島原発では毎日2000人から3000人の方々が事故対策などを行っています。その70%が福島県民です。我々組合員の子息や親戚の方もおられます。皆さんにお願いしたいのは自分の現場であるという認識、さらに7月22日の海洋流出以降かなり危機的な状況という危機意識、そういう認識を共有していただきたい。さまざまな批判等はあると思いますが、事故収束のために毎日現場で頑張っておられる方々に心を寄せていただければ思っております。
原発事故の「収束宣言」はうそっぱちで、当面は福島原発の危機的な状況は続くと思っております。汚染水対策以外でも問題があります。津波であれだけ危機的状況になったのに、いまだに津波対策はとられていません。再び津波が来れば、冷却等に危機的な状況になります。原発事故を収束させる対策は喫緊の重要課題であり、東電だけでなく、国をあげヒト、モノ、カネを使った対策が必要です。人や財源も必要です。危機を放置すればなお、深刻な放射能災害を引き起こす可能性が残っていることをご理解をお願いします。
具体的な福島原発の事故対策と、エネルギー対策の議論は区別してほしい。事故対策の議論の時は、事故を収束させるには何が必要なのか、お金がどれだけかかるのか等、具体的な議論をしていただきたいと思います。エネルギー政策、原子力政策等の議論のときには、福島の現状をご利用いただいて、まさに大きな議論をお願いします。
現在の試験操業は、復興協議会等で選択した漁法による場所の選択、それから万全な検査体制等で行っています。試験操業で流通したものを食していただければ、福島県の漁業再開の力になると思いますので、今後ともご理解とご協力をお願い致します。本当に今日はありがとうございました(文責編集部)。
(7月の汚染水流出の事態を受け、9月は試験操業を一時停止、操業海域の放射能検査で変化なしであったので、10月から再開予定)