辺野古への新基地建設反対は名護市民の総意

2013年8月27日 第11回全国地方議員交流会 全体会講演Ⅰ 於:川崎市・サンピアンかわさき

辺野古への新基地建設反対は名護市民の総意

                    名護市長 稲嶺 進 氏

 全国地方議員交流会にお招きくださり、ありがとうございます。先ほどの問題提起にもありましたが、国と地方、政府と国民のねじれは顕著になっています。沖縄の側からいえば、「無視されている」、「差別されている」と強く感じています。今日は北海道から沖縄まで、全国から地方議員の皆さんがお集まりです。この機会を利用して、沖縄そして名護市について、ご理解を深めていただければありがたいと思います。よろしくお願いします。
稲嶺進1.jpg

◎「抑止力」は県民をあざむく方便
 お手元の資料をご覧ください。「少女暴行事件および普天間返還合意以降の動きと米軍関連の事件.事故」、「普天間飛行場代替施設の実態」、「沖縄の米軍基地の現状―0.6%の国土に74%の基地」の資料です。
 1995年9月に米兵3人による少女暴行事件が発生し、沖縄の米軍基地に対する怒りが爆発しました。この事件を受けて、翌96年に橋本首相とモンデール駐日大使が「普天間飛行場の返還」を発表しました。街のど真ん中にある世界一危険な飛行場が返還される。沖縄県民はとても喜んだ。しかし、喜びはつかの間で、県内移設、県内たらい回しであることが明らかになり、失望そして怒りに変わりました。県内移設先が名護市辺野古だと分かると、97年12月に名護市で基地建設の是非を問う住民投票が行われ、54%が反対でした。ところが、当時の比嘉市長が「普天間受け入れ」を表明して辞職しました。ここから、名護市の混迷が始まりました。以降、県内各地で反対運動が行われ、米軍による事件.事故も発生しましたが、国は普天間の辺野古移設をどんどん進めていきました。
 2009年の総選挙で鳩山さんが「最低でも県外」と発言し、民主党が政権を取りました。首相発言ですから沖縄県民は喜びました。しかし、官僚や米国からの強い圧力を受け、鳩山首相は辺野古移設に戻ってしまった。「抑止力は方便」という鳩山さんの発言は、沖縄県民を怒らせました。政府はそれまで、抑止力を維持するため県内に移設しなければならないといってきました。それは方便で、県民をあざむいてきた。私たちは許せないと怒りました。しかし、別な視点から見ると、鳩山さんは本当のことを言ったわけです。森本防衛相は退任直前に、「辺野古移設は、抑止力でも地政学でもなく、政治的な理由」と発言し、方便だったことを証明した形になりました。アメリカの上院議員やシンクタンクからも「辺野古移設は現実的でない」「沖縄に海兵隊は必要ない」という意見が出ています。鳩山さんや森本さんは最後に本音を言ったと感じています。
 しかし、現職の政治家や政府関係者は抑止力と地政学をあげて、「海兵隊が沖縄に必要」「辺野古移設が最善の道」と言い続けています。日本の国はいったいどこを向いているのか。アメリカの言いなりといわざるを得ません。

◎移設反対は名護市民.沖縄県民の総意
 沖縄の政治状況はどんどん変わりました。私は2010年1月の名護市長選で、「辺野古の海にも陸にも新しい基地はつくらせない」という公約で勝ちました。それまで、3代にわたって辺野古移設容認の市長が続きましたが、この約17年間、普天間は1ミリも動きませんでした。私が名護市長になってから、沖縄の県民世論は一変し、辺野古移設反対が圧倒的多数になりました。
 2010年2月、県議会は普天間の国外.県外移設等を求める超党派の意見書を全会一致で可決しました。4月には普天間の県外移設等を求める県民大会が開催され、9万人が参加しました。9月の名護市議選では、私を支持する与党が27議席中16議席になりました。沖縄県下の全41市町村長が辺野古移設に反対し、すべての市町村議会が県内移設反対を決議しました。このように県内移設反対は、名護市民の総意であり県民の総意でもあります。
 沖縄や全国で動きが高まってきた時に、東日本大震災が起こりました。米軍はいち早く「トモダチ作戦」を展開し、空母、強襲揚力艦、2万人の米兵を動員しました。テレビや新聞は「ありがとう」「感謝」という言葉であふれました。しかし、「トモダチ作戦」は有事即応の軍事訓練で、民主党政権でギクシャクした日米関係を再構築するために行われたものです。
 沖縄の一部に、辺野古移設容認の立場で発言する個人や団体がいます。政府はそれを突破口に容認への流れをつくろうと動いています。国が埋め立て申請を出し、県知事や名護市長の意見を求める文書も届きました。しかし、沖縄の県民世論や県内の動き、さらにアメリカの動きなどを見れば、とても辺野古移設が実現する状況ではありません。日米両政府はありえない、非現実的なことを、私たち市民.県民の頭越しで進めようとしています。日本のあり方が問われていると思います。

◎日本は主権を回復していない
 今年1月に41市町村長、議会議長、県議会議員などが東京に集結し、日比谷で集会とデモを行いました。翌日、「オスプレイの配備撤回」と「普天間基地の閉鎖.撤去、県内移設断念」を求める建白書を首相に渡しました。しかし、沖縄の声は安倍首相や閣僚に届きません。二言目には「ていねいに説明しながら沖縄県民の負担軽減に努めていく」という空虚な言葉が繰り返されています。なぜだろうか。
 政府は1952年のサンフランシスコ講和条約で主権が回復したとして、記念式典を行いました。日本は本当に主権を回復したのでしょうか。私たちにはそうは思えません。サンフランシスコ講和条約で沖縄は本土から切り離され、米軍政下に放置されました。同時に日米安保条約と行政協定(現在の日米地位協定)が結ばれました。サンフランシスコ講和条約の本当の狙いは、日本の主権回復ではなかった。米軍がいつまでも日本に居すわり続けられるように、安保条約と地位協定を結ぶのが狙いでした。日本政府は国民のことを考えず、アメリカの言いなりにいろんな条約や約束事を進めてきました。米海兵隊、在日米軍がのさばっている状況は、日米安保条約と地位協定によって始まり、今なお続いているのです。それが顕著に表れているのが沖縄です。
 資料にあるように、国土の0.6%にすぎない沖縄に、74%の米軍基地が集中しています。そのうち約80%が海兵隊の基地です。74%も詰め込まれている沖縄で、米軍基地をさらに強化する国のやり方は絶対に許せません。政府は辺野古移設で嘉手納基地以南の基地が返還される、負担軽減になるといっていますが、面積でわずか0.7%です。73.9%が73.2%になるだけです。基地機能は強化されます。辺野古のそばの大浦湾はとても深く、軍港ができます。弾薬集積など4カ所の施設もつくられます。オスプレイ24機も配備されます。環境アセスでは、オスプレイについて県が指摘するまで一言も書かず、都合の悪いものは隠そうとしました。
 日本が主権を回復したとはいえない状況がいっぱいあります。首都圏の上空に民間機が入れない米軍専用の空域があり、羽田空港に着陸する民間機は遠回りせざるを得ない。沖縄県民がオスプレイ配備反対の声を上げた時、当時の野田首相は「日本がとやかく言える問題ではない」と発言しました。一国の首相が自国民の安全について発言できない。主権を回復したとはとてもいえません。アメリカの属国と言われても仕方がない状況が続いています。

◎一緒に声をあげ行動に移そう
 私ははじめに、沖縄は「差別されている」と申しました。沖縄では法律も含め、米軍による植民地時代の行動や思考が続いています。沖縄は米軍によって植民地支配され、国内でも植民地扱いをされている。そう思わざるを得ない県民の苦しみがあります。私たちは、普天間の県外移転、国外移転を主張していますが、県外ではどこも受け入れない。「米軍基地は産業廃棄物施設のように必要かもしれないが、自分のところに来てほしくない」。沖縄県民は60年以上もつらい思いをしてきたから、その気持ちはよく分かります。つらい思いを県外の皆さんにしてほしいとは思いません。ただし、日米安保が日本の国民、国土を守るために必要だと思うのなら、沖縄だけに負担を負わせず、全国民で考えてほしいと思います。
 アメリカの中に「辺野古移設は現実的でない」、「沖縄に海兵隊は必要ない」という議論があります。国内にも、元内閣官房副長官補の柳沢協二さんのように「エアシーバトル構想で海兵隊の出番はない」、「沖縄に新しい基地は必要ない」と主張する人がいます。それがすぐに通るとは思いませんが、米軍基地は産業廃棄物施設と違い、日本に必要なものではない。その声を大きくして行動に移し、訴え続けることが大切だと思っています。この4年間、名護市ががんばることによって沖縄は変わりました。この輪を沖縄県外にも広げ、本土の人と共有できる場ができたらいいなと思っています。

◎会場からの質問に答えて
【質問】
 意見書や決議について、ご意見をお聞かせください。

【稲嶺】
 沖縄の地方紙が大きく報道する記事も、全国紙では1段の小さな記事で、全国に伝わらない。議会が意見書や決議を採択すると、そこの地方紙が取り上げ、国民に知らせる機会になると思います。

【質問】
 辺野古埋め立て申請について、今秋に県知事が許認可権限の行使をするようですが、認めなかった場合、国はこの権限を没収する可能性はあるのか、どのような情勢なのか、お聞かせください。

【稲嶺】
 知事が許認可権限を行使する時、地元の意見を求めます。地元は議会の承認を得て知事に意見書を出します。名護市は8月1日~10月31日の間に市民の意見を集め、専門家の意見を聞き、意見書をまとめる作業を進めています。できるだけ多くの市民の意見が出ることを期待しており、それを受けて意見書を出します。
 知事は最近のインタビューで、「仮に私が埋め立てを許可しても、名護の市長や市民が抵抗したら工事はできない。できないことを行政府が決める意味が分からない」と答えています。知事も名護の市長や議会も、名護市民の住民投票の結果等を踏まえれば、埋め立て許可はできないと思います。その場合に、国が力で強行することは考えられないわけではありません。以前、軍用地の地主が米軍に貸すことを拒否し、当時の大田知事が代理署名を拒否した時、国は強制使用の特措法をつくりました。米軍が銃剣とブルトーザーで住民から土地を取り上げて米軍基地にした歴史があります。あの時は米軍の占領下でした。しかし、今の時代に、県民・市民の声を無視してやれば、日米両政府は世界を敵に回すことになります。日本は世界の笑い者になります。
 特措法をつくった時、自民党の野中広務(元内閣官房長官)さんが「大政翼賛政治を彷彿(ほうふつ)とさせる」と発言しました。当時はそういう方がいましたが、最近は戦争経験のない政治家が総理大臣や閣僚になっています。だからいろんな問題が出てくる。いずれにしても、今の状況は知事が埋め立てを許可する状況ではないと思います。許可しないよう知事を後押しします。皆さんのご協力をお願いします(文責・編集部)。

アーカイブ