統一自治体選挙闘争をいかに闘うか?

新しい怪しいながれに抗して

横須賀市議会議員  原田あきひろ

 2011年3月から6月までのいわゆる統一自治体選挙は全国1797団体中、1042団体で闘われるそうだ。ここ数年、新しい、怪しい動きが鹿児島から始まり、関西、東海と広がってきている。こういう情勢下で、この統一自治体選挙を、市民の側からどう捉え、どう闘うかを分析してみたい。

1 はじめに

 統一自治体選挙の前哨戦として、2月に愛知県知事選、名古屋市長選、そして同市議会解散を求める住民投票が行われた。その結果は、前市長の河村たかしと連携した大村秀章が知事選に勝利し、市議会解散を主導した河村が市長選を制し、さらに住民投票も賛成票が過半数を超えて市議会解散となった。
 この闘いで政権与党の民主党は、また野党の自民党も市長選で民主党候補に相乗りしたあげくに、敗北を喫した。衆院選で圧勝した愛知県での惨敗は、民主党にとって大きなショックだっただろう。
 河村は、前回市長選で市民税10%の「恒久減税」を公約に掲げて当選し、財源や議員報酬削減などで議会側と激しく対立。「それを受け入れない議会は悪だ」と、議会解散のリコールを自ら主導した。
 市長選では「税金で食っとるほうが楽して、払っとるほうが苦労する政治を変える」と主張し、市民の歓心を買うことに成功し、今回のトリプル選に勝利したのだ。
 河村は現在、名古屋市議選をめぐって新党「減税日本」を立ち上げ、市議会の過半数を狙って候補者擁立を準備している。
 「大阪維新の会」を立ち上げ、大阪府議会、大阪市議会での過半数を狙っている大阪府の橋下徹知事は、「既成政党をひねりつぶす!」と、大挙して河村の選挙応援に駆けつけた。河村も静岡市長選で海野徹の応援に出かけている。
 「市民税恒久減税」や「それを受け入れない議会は悪だ」というような主張や手法は、鹿児島県阿久根市の竹原信一前市長とも共通する。竹原は市職員・市労組を攻撃し、「職員給与を削減して、給食費の無料化、保育料の半減をやる」と市民の歓心を買おうとした。。竹原に地域新党はないが、竹原支持の議員グループを形成している。
 名古屋、大阪、阿久根に見られるこうした手法に「ポピュリズム」との批判や異論があるが、市民の切実な生活実態の深刻さの前では打ち消されてしまう。
   
2 なぜ、有権者からこれほどの支持が得られるのか?

 阿久根や名古屋の市民意識、これを受け止める首長や地域政党の動きをどのように見るのか? また、どのように対処していくのかが、今次統一自治体選挙の闘いで問われている。
 阿久根市を見てみよう。昔からの漁業の町として有名な阿久根市は、不漁や魚価の低下で漁業が没落し、ミカン中心の農業も輸入自由化以降成り立たなくなった。市内の産業は奮わず、過疎の町になりつつあった。旧来の市政はこれに何の対策もとらず、むしろ地主や地域ボスと開発業者が結託した公共事業を乱発し、市の財政を食い物にしてきた。その上、国から「三位一体改革」で地方交付税をカットされ、市の財政が逼迫。そして「行政改革」や「集中改革プラン」が押しつけられ、合理化や民間委託で市民サービスは低下。市民の行政に対する不満は拡大していた。
 市民は、隣町に進出してきた電機大手の工場などに職を求めた。鹿児島県が企業誘致政策で招いた工場である。しかし、リーマン・ショックで、誘致された大企業は身勝手に工場を閉鎖し、海外展開へ。労働者は解雇され、町は失業者であふれ、子どもの給食費にも事欠き、保育料も支払えない世帯が急増した。
 そこへ竹原が登場し、「職員給与削減で給食費をタダにする」「保育料を半減する」と公約。熱狂的な支持層が広がった。だが、建設会社の社長でもあった竹原は、公約に旧来の箱物公共事業推進を掲げ続けている。
 愛知県と名古屋市はトヨタをはじめとする自動車大企業の城下町である。この多国籍大企業のための拠点都市づくり、情報、交通などのインフラ整備、さまざまな大企業支援策に市財政が投入されてきた。リーマン・ショックで、トヨタは多くの労働者を解雇し、下請け中小企業への仕事を減らした。市民の窮状が深刻になった。
 そこに河村が登場し、「市民税減税」だと呼号し、支持層が広がった。だが、河村の予算では大企業のための優遇政策はそのまま継続。他方で、市民のための福祉施設は閉鎖され、保育施策や私学への就学支援などは削減された。わずかの「減税」で巧みに市民の歓心を引いたのだ。
 輸出大企業は経営判断で、自由に合理化を進めたり海外進出で地元を離れる。その結果、失業者が溢れ、下請けの倒産・廃業が続出する。内需型の中小・零細や一次産業には行政からの満足な支援もなく急速に衰退し、新たな雇用創出はできない。市民の深刻な窮状は、輸出大企業を優遇する、偏った産業政策の結果である。
 自治体は何よりも市民の生活や営業にこそ支援策を講じるべきである。失業者急増に対し、たとえ数万人でも直接雇用すべきであり、中小零細の地場産業を救うために、行政による大胆で、直接の「資金繰り」支援を行うべきだろう。
 自治体や議会・議員に求められるのは、大企業を優遇・誘致する政治から地域住民多数のための政治への転換だ。

3 住民の真の敵は誰なのかを見破る

 阿久根、名古屋、大阪の実例を見てきたが、名古屋市では、「『減税』のための財源がない」という議会側の主張に対し、河村は「行財政改革で財源を捻出する」と応えている。似たような議論が多くの自治体や議会でやられている。だが、財政逼迫の原因が何かということが語られていない。なぜ、逼迫しているのかを問題にし、本当の原因は何なのかを明らかにすべきだ。
 まず、国の政治が自治体財政を悪化させたという認識について明らかにすべきだろう。90年代以降、国は地方財政を無軌道に公共投資に動員した。この直接の契機は90年の日米構造協議だったのだが、対日貿易赤字に悩む米国の不当な圧力、内政干渉の要求で630兆円の支出が対米公約とされた。こうして国の財政赤字がつくられ、ここに「交付税で借金の手当をする」という約束の下に、自治体財政が投入されたのだ。地方債が膨らみ、自治体は借金漬けになっていった。
 さらに拍車をかけたのが、小泉「三位一体改革」だ。「地方分権」を口実に、国から地方への権限、財源移譲の名目で、地方に仕事を押しつける一方、国の財政再建、負担軽減のため地方交付税を大幅削減するものだった。
 自治体財政は「予算も組めない」とまで言われたのである。
 当時の日本経団連会長はトヨタの奥田で、その狙いは海外展開を進め、多国籍大企業の利益に沿った政治・軍事大国化を進めることであり、国内的には大企業の負担軽減のための国の財政再建、すなわち「小さな政府」の実現だった。
 総人件費抑制という名の下に、この10年余で、現業を中心とする公務員労働者の3分の1が、退職者不補充という形で削減された。さらに「公務員の賃金が高い」として給与も削減してきた。そしてさらに民間の賃金も下げる。
 それでも成り立たない自治体は合併しろと「平成の大合併」を押しつけた。北海道夕張市の「自治体破産」が演出され、「第二の夕張になっていいのか」と叫ばれ、中央統制による自治体合理化、行政サービス削減が進められた。真に闘わなければならない相手は自治体財政を悪化させた張本人の国であり、さらにその自治体財政から支援を受けて優遇された輸出大企業とその経営者たちであり、その手先となって甘い汁を吸った地域ボス、地方政治家たちである。

4** 住民多数のための自治体実現に向けて**

 地方自治体は輸出大企業優遇支援策をやめ、窮状にあえいでいる地域の住民、労働者、農林漁民、中小零細企業にこそ援助の手を差し伸べるべきである。地域の産業、農林漁業を重視する、バランスのとれた産業政策を推進すべきである。そのために今次統一自治体選挙は闘われるべきであり、多くの地域住民の期待はそこにあるのだろう。
 深刻な生活と営業の危機の中で、地域住民、その貧困層の政治意識は急速に高まり、変化を遂げている。地方議員はこれを見失うことなく、この人びとに足を運び、この人びとの声を聞き、この人びとといっしょに、その要求実現を自治体に迫らなければならない。
 そのために地方議員は連携して、事態を切り開こう。
 財政危機を押しつけた上に、地方財政を支援すべき責任を放棄した無責任な国の政策や地方行革攻撃と闘おう。
 地方議員は住民の行政への要求や闘いの先頭に立ち、闘いの武器になろう。
 政治への閉塞感を強める地域住民から、その支持をかすめ取ろうとしている怪しげな「新党」を許さず、あくまで地域住民とともにあり、地方における敵を明らかにし、住民大多数のための政策を提起し、地域住民とともに闘おう。

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