経団連の要求どおり 菅政権の「新成長戦略」

経団連の要求どおり

菅政権の「新成長戦略」

月刊「日本の進路」編集部

 菅首相は所信表明演説で、新内閣の政策課題として、「戦後行政の大掃除の本格実施」、「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」、「責任感に立脚した外交・安全保障」の3つを掲げました。2つ目の「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」は、6月18日に閣議決定された「新成長戦略」を先取りして述べたものです。この「新成長戦略」がどのようにして作られたかを見ると、菅政権がいかなる政権か、見えてきます。
 経団連は昨年9月15日、鳩山政権の発足に際して「新内閣に望む」という要望書を発表し、「産業競争力維持・強化を軸とする成長戦略」を示すよう要求しました。そして、12月15日に「経済危機脱却後を見すえた新たな成長戦略」を発表しました。

 鳩山政権は12月30日、新成長戦略の「基本方針」を閣議決定しまし。経団連はこの「基本方針」について、「環境、健康、アジア、観光・地域活性化、科学・技術、雇用・人材の6分野に重点を置いたものであり、経団連が今月初めに提言した成長戦略と、目指す方向は一致している」と評価しました。「基本方針」は、経団連の「新たな成長戦略」で述べている5分野を6分野に組みかえたもので、基本的な観点は踏襲しています。
 経団連は4月13日、政府の「基本方針」の6分野をさらに分割し、各項目ごとに経団連の「具体的な提案」を示した「経団連成長戦略2010」を発表しました。これを盛り込んで、菅政権は6月に「新成長戦略」を閣議決定しました。
 「新成長戦略」は、経団連との共同作業の産物で、財界、多国籍大企業の要求にそったものです。「基本方針」→「経団連成長戦略2010」→「新成長戦略」と読み比べてみると、それがよくわかります。
─法人実効税率の引き下げ─
 例えば、「基本方針」には「法人税」「法人実効税率」という文字が1つもありません。ところが、「経団連成長戦略2010」には「法人税」「法人実効税率」という文字が22回も出てきて、「法人実効税率の引下げは、成長戦略の必須の柱の一つである」と主張しています。「法人実効税率の引き下げ」をちゃんと書き込めということです。そして「新成長戦略」には、「法人実効税率引き下げ」が国家戦略プロジェクトのひとつとして見出しにもなり、「法人実効税率を主要国並みに引き下げる」と明記されました。
─混合診療の解禁─
 もうひとつ例をあげると、「基本方針」は保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する混合診療にふれていません。ところが、「経団連成長戦略2010」は「医療分野を成長産業として育成する」観点から、「保険診療と保険外診療の併用制度や自由診療など、サービス提供者(製薬会社や病院)による価格決定が可能な診療領域を拡大する必要がある」と書かれています。これを受けて、「新成長戦略」には「国内未承認又は適応外の医薬品・医療機器を保険外併用にて提供する」と明記されました。
 現在、保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する混合診療は認められていません。併用すれば保険診療の部分も健康保険が適用されず、医療費の全額が患者の自己負担となります。この混合診療が解禁されると、とどうなるか。所得によって受けられる医療に格差が生じます。医薬品の承認を受けなくても自由診療で使えるので、製薬会社はコストのかかる臨床試験をしなくなり、価格も自分でつけられます。「効き目があって人気が高い薬は自由診療で価格が高く、保険診療で使えるのは時代遅れで効き目の悪い薬ばかり」になります。低所得の人は質の高い医療を受けられなくなります。
 財界、多国籍大企業の利益のために、多くの国民が犠牲にされる。そんな「新成長戦略」、菅政権の政治は許せません。

(資料)

 経団連の12月と4月の成長戦略は経団連のホームページで、政府の基本方針と新成長戦略は首相官邸のホームページで見られます。

アーカイブ