誰のための菅政権か 大企業法人税減税、消費税増税に反対する

誰のための菅政権か

大企業法人税減税、消費税増税に反対する

月刊『日本の進路』編集部

 自民党は参院選公約で「消費税は当面10%とし、全額を社会保障費に」をうたった。これに対して菅首相は「今年度中に消費税の改革案をまとめる。税率は(自民党の10%を)参考に」と述べ、消費税問題が参院選の争点の一つとなった。
 また自民党、民主党とも、「国際競争力の強化」を口実に大企業の法人税減税を打ち出している。

財政赤字の原因は何か

 なぜ財政赤字が拡大したのか、消費税増税を主張する政党もマスコミも触れません。そして「ギリシャのようになったら大変だ」「年々増える社会保障費が破たんする」「国民全体で負担を」という議論になっています。多くの国民はぼう大な財政赤字が国民のせいかのように思い込まされています。

 財政赤字の原因の一つは、税収の減少です。不況による減収もありますが、年間10兆円くらいはたび重なる法人税や高額所得者への減税で税収が減ったためです。
 所得税は、1987年まで税率は15段階、個人住民税は14段階ありました。最高税率は所得税70%、個人住民税18%も含めて88%でした。それが1987、88年、94年と次々と最高税率・最高課税所得額が下げられました。99年には所得税の最高税率は40%とかつての約半分に、税率も6段階にフラット化されました。個人住民税は一律10%になりました。
 法人税については「法人税が高いと国際競争力が弱くなる」「企業が海外に逃げて国内が空洞化する」等のキャンペーンが行われました。そして法人税率は1989年には42%から40%に、90年には37.5%に、98年には34.5%に、99年には30%まで相次いで引き下げられた。法人事業税も12%から9.6%に引き下げられた。
 しかも大企業にはそれ以外に研究開発費減税など様々な特別な優遇税制があり、実際の法人税率はすでにきわめて低いのが実態です。
 これだけ大企業や高額所得者に減税を繰り返せば税収が減少し、財政赤字が増えるのは当然です。
 財政赤字のもう一つの原因は歳出面、誰のために使われたかです。バブル崩壊後に何度も景気対策などが行われましたが、多くが大企業や米国政府の要求で行われました。最近の米国発経済危機では、エコカー、エコ家電減税と称して自動車や電機の大企業への支援が行われました。
 1985年、財政赤字と貿易収支赤字に苦しむアメリカはプラザ合意で大幅なドル切り下げ(円高)を日本にのませた。そして「日本市場は閉鎖的だ」と文句をつけ、日本の構造改革、市場開放を迫った。89年から日米構造協議が始まり、当時の海部内閣は米国の内政干渉に屈服し、関西新空港、東京湾横断道路、東京臨海部開発など10年間に430兆円の公共投資を約束。さらに90年には米国の要求で200兆円が上積みされ、合計630兆円の公共投資が決定されました。この630兆円の公共投資は、国家財政の赤字だけでなく、地方財政を急速に悪化させました(詳細は月刊『日本の進路』2008年8月号、「財政危機の原因は対米従属の政治、国民がそのつけをはらういわれはない」)。
 これらがぼう大な国家財政の赤字の原因です。したがって、生活危機にある国民大多数にその責任はないし、ツケを支払わされる理由はありません。

弱者いじめの消費税

消費税は低所得者や所得のない人ほど負担が重い逆進性の強い税金であり、弱者いじめの税金です。消費税が導入される前はぜいたく品には高い税金がかけられ、食料品や日用品は無税でした。消費税導入と共に税率は一律となり、低所得者ほど負担が重くなりました。
 また消費税は中小零細企業や農家にとっても負担が重い税金です。多くの中小零細企業は消費税を転嫁できない実態があり、しかも多くが赤字経営です。赤字でも払わざるを得ない消費税は深刻です。事実、税金滞納のトップが消費税です。
 一方、輸出企業には「輸出戻し税」があります。「外国の消費者から消費税が取れない」ので輸出売上げにかかる消費税はゼロです。仕入れにかかった消費税は輸出売上げに相当する5%分を引くことができる。輸出戻し税の総額は年間2兆円ともいわれ、トヨタだけで戻し税は7千億円です。輸出額が大きい多国籍企業は消費税が上がるほど輸出戻し税の額が多くなり、日本経団連が消費税の大幅増税を主張しているのです。

大企業法人税の減税

 「法人税が高いと企業が海外に逃げて国内が空洞化する」という見解がある。果たしてそうでしょうか。この間、法人税は相次いで引き下げられたが、逆に多国籍企業の海外進出と国内空洞化は進みました。多国籍大企業にとって海外進出するかどうかの主要な判断は低賃金の労働力追求によるコストダウンです。そうやって多国籍大企業はぼう大な利益をあげています。
 「国際競争力を強くするための法人税の減税」という見解はどうか。企業にとって税金はコストであり、法人税が低いことは有利です。バブル崩壊後も、米国発の経済危機後も、あらゆるコストを引き下げてきました。労働者はその度に首切りや低賃金に抑えられ、下請中小企業は単価切り下げなど犠牲を押し付けられました。そうやってトヨタなどは史上空前の利益を上げ、世界的な多国籍企業に成長しました。しかし、一握りの大銀行と多国籍企業が繁栄しても、労働者・中小零細企業・農漁民など国民大多数の豊かさにはつながっていません。それどころか、労働者・中小零細企業・農漁民などの大多数の国民の犠牲の上に、大銀行や多国籍企業は成長してきました。
 一人勝ちの大企業に対する法人税減税は許してはなりません。

菅政権の政策は誰のためか

 「国民の生活が第一」を掲げた鳩山政権ですが国民大多数の生活は改善せず、さらに「普天間問題」「政治とカネ」問題が追い討ちをかけて崩壊しました。
 代わって登場した菅政権は、内政面では「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げています。これは日本経団連の要求と瓜二つです。菅政権が誰のための政治を実行しようとしているのか見極める必要があります。
 「強い経済」とは「新成長戦略」のことで、法人税の引き下げや7つの戦略分野(環境・エネルギー、健康、アジア、観光、科学・技術、金融など)に国家財政をつぎこんで多国籍大企業を集中的に支援するというものです。そのため「選択と集中」政策で、重点分野や重点企業以外は切り捨てられる。すさまじい産業再編や規制緩和などでこれまで以上に中小企業は淘汰され、労働者は首を切られ、FTA・EPA推進で国内農業はますます破壊されます。
 「強い財政」とは何か。消費税の増税など国民犠牲の財政再建です。ぼう大な財政赤字は大企業や高額所得者への減税、大企業や米国支援に使われてきた結果です。にもかかわらず、財政赤字のツケを逆進性の強い、弱者いじめの消費税増税で国民に押し付けようとしています。
 また法人税減税は税収減、戦略分野への財政投入は新たな支出増です。さらなる社会保障費の削減など国民生活犠牲が予定されている。従って、消費税増税を許せば、税率は10%にとどまらず、日本経団連は当面15%をめざしている。
 法人税引き下げや消費税増税を主張する菅政権の誰のための政治か、「多国籍企業が第一」です。「国民生活が第一」というなら、生活と営業の危機に直面し、貧困化がすすむ国民大多数の深刻な現実に応えるべきです。消費税増税は撤回し、能力に応じて税を負担する「応能負担の原則」とすべきです。所得が高いほど税率が高いという累進課税を復活し、大企業法人税や高額所得者所得税は税率を上げるべきです。消費税の「輸出戻し税」や大企業への様々な優遇税制は撤廃すべきです。そうすれば社会保障費などの財源の確保は可能です。
 生活と営業の危機にある国民各層は力を合わせて、多国籍企業優先で対米従属の菅政権が掲げる大企業法人税減税や消費税増税に反対して闘おう。

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