応能負担原則に基づいて税制の再構築をすることにより財源は十分にある

応能負担原則に基づいて税制の再構築をすることにより財源は十分にある

―消費税引き上げは不要―

日本大学名誉教授  北野 弘久

 民主党のマニフェスト及び税制改正大綱などの最大の欠陥は、憲法の応能負担原則の趣旨に基づいて税制を再構築するという重大な改革点が欠落しているという事実である。もちろん税金のムダ使いの見直しをすることも大切であるが、それだけでは不十分である。応能負担原則の趣旨に基づいて税制を再構築することによって民主党が国民にやろうと約束した政策を実現することは財源面からも可能になることが指摘されねばならない。消費税の引き上げも不要である。

  1. 民主党は、相続税のあり方については現行の遺産取得税方式を「遺産税方式」へ転換しようとしている。筆者としては法定相続分で相続税の総額を計算する現行の遺産取得税方式(遺産税的要素を一部組み込む)が維持されるべきであると考える。ただ現行の画一的な相続税の「配偶者軽減措置」については相続人である配偶者の年齢、婚姻期間、相続財産の大きさなどを考慮して、適用要件をしぼるべきである。相続税・贈与税は実質財産税であるので、各最高税率を70%(現在50%)に戻すべきである。これらによって税収増が期待される。
  2. 消費税は竹下内閣自身が明言したように「日本型消費税」であるので、輸出企業の戻し税制度を廃止すべきである。現実の戻し税の実態は大企業への輸出補助金と化している。戻し税を廃止するだけで、年約3兆円強の財源が確保される。
  3. 地方税についても応能負担原則の趣旨が適用されねばならない。地方税における「負担分任」は応能負担に基づくそれでなければならない。2007年の「三位一体改革」で個人住民税の税率が10%の比例税率となった。筆者としてはさしあたり、これを5%、10%、13%、16%の累進税率に改めることにより、低所得者層への税負担の軽減をもたらし、同時に高額所得層からの税収増が期待される。
  4. 応能負担原則の趣旨に従ってさしあたり、租税特別措置の整理と消費税導入前1988年)の法人税(国税)の基本税率42%(現在30%)へ、同じく所得税(国税)の最高税率60%(現在40%)へ戻すだけで、年約22兆円の財源が得られる(北野弘久・谷山治雄編『日本税制の総点検』勁草書房、2008年10月)。
     2010年の不公平な税制をただす会の試算によれば、同様の不公平税制是正による財源試算で、年約32兆円の財源が得られるという(「公平税制」295号2010年3月15日)。

 なぜ、政権改革を主張する民主党ではこのような本質的な、本来的な税制改革を行おうとはしないのか。
 日本の法人実効税率(法人税・法人住民税・法人事業税)は40%であり、国際的に高いからこれを引き下げるべきであると公然と主張する者がある。これは税制上の表面税率に基づく数字である。大企業の租税特別措置を考慮した実質実効税率は30%にすぎない。国際的にも低い。具体的にいえば、三菱商事8.1%、三井物産9.3%、NTTドコモ14.6%、日本たばこ産業14.6%、新日本石油22.1%、本田技研工業23.3%、日産自動車28.7%、トヨタ自動車32.1%、キャノン33.4%など。法人税率などが高いと主張する者の議論はこのように虚構のものであってまさしく「学説」公害である。私たちは誤った議論にまどわされてはならない。

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