密かに進む空母艦載機部隊の移駐
前岩国市長 井原 勝介
沖縄の蔭に隠れてあまり知られていないが、岩国は、政権交代の効果が全くなく重大な局面を迎えている。最近の状況を報告する。
昨年12月25日閣議決定された来年度政府予算案に、空母艦載機部隊の岩国移駐に関連する経費約270億円が計上された。その中には、移駐に伴い必要となる米軍住宅建設用地として愛宕山を買い取る経費約199億円も含まれている。
「米軍再編を見直しの方向で検討する」ことをマニフェストに掲げた民主党を中心とする連立政権が成立し、流れが大きく変わったと期待した。
以後、地元選出の平岡衆議院議員などを通じて、防衛・外務両大臣、副大臣などに面会し、米軍再編の見直しを行うよう繰り返し要請してきた。普天間問題が焦点になっていたが、岩国の過去の経緯などについても一定の理解があり、地元住民の声にも耳を傾けていただけると感じていた。
しかし、ふたを開けてみると、新しい政府としての考え方が何も示されないままに、いきなり今回の予算計上となった。多くの市民が驚き、失望し、怒りを覚えた。「これでは、従来のやり方とまったく変わらないではないか。あの総選挙で投票した意味は何だったのか」。
考えられる要因としては、まず、米軍再編は全体が一つのパッケージであるとされる中、沖縄が完全に覆り、せめて岩国だけでも予定通り実施したいという役人の発想が色濃く反映されているのではなかろうか。もう一つは、やはり地元の市長や知事の姿勢である。住民の安全・安心を第一に考えれば、政権交代を契機に改めて米軍再編見直しの要請をすべきところ、地域振興策を期待する岩国市も山口県も全く動かず静観を決め込んでいる。お金と引き換えに基地の拡大を容認するこうした地元トップの存在が、国に足元を見られる大きな原因になっている。
さらに、山口県と岩国市は、用途を明らかにしないまま愛宕山開発跡地を防衛省に売却する計画であるが、先日岩国市により一部公開された資料により、民間空港と愛宕山米軍住宅化の裏取引の実態が明らかになった。愛宕山開発事業の廃止に向けた都市計画変更の際の住民説明会や都市計画審議会において、米軍住宅化という重要な事実が意図的に隠されていたのである。完全な違法行為であるとともに、住民に対する重大な背信行為である。
このままでは、市街地の真ん中、東京ドーム20個分にも相当する広大な土地に米軍住宅と関連施設が建設され、フェンスで囲まれた新たな米軍基地ができることは火を見るより明らか。市民をごまかして地域の未来を決めるなど絶対に許すことはできない。
市民の政治グループ「草の根ネットワーク岩国」が昨年10月外部委託により実施した市民アンケート調査でも、空母艦載機部隊移駐と愛宕山の米軍住宅化には、約7割の人が反対であるという圧倒的な結果が出ている。これまでの国の一方的なやり方、市民をだますという地元政治の姿勢に、誰も納得していないのである。
さらに、眼先の利ばかりを優先していたら、普天間基地などの新たな負担をも招き入れるのではないかという不安が、市民の間に急速に広がっている。
すでに、米軍再編をめぐって4つの裁判が提起されているが、こうした事態に直面して、さらに市民の危機感が高まり、多くの市民グループが結集した「愛宕山を守る市民連絡協議会」を中心にして、空母艦載機部隊の岩国移駐の見直しと愛宕山の国への売却の中止を求めて新たな闘いが始まろうとしている。ここ岩国からも、市民の力で政治・外交を動かす大きな風を起こしたい。
米軍再編をめぐる岩国の闘いをまとめた本「岩国に吹いた風」(高文研、1,890円)を出版しました。国や県との交渉の内幕などすべてを明らかにしています。ぜひご一読下さい。