沖縄
沖縄の県立病院の存続を求め
地域医療を守るたたかい
沖縄県議会議員奥平 一夫
地域医療の崩壊を許すな
全国の地域で医療崩壊の危機が報じられている。相次ぐ公立病院の医師・看護師不足による病棟閉鎖、民間移譲、病院閉鎖それに伴う首長と住民の対立。当たり前のように安心していつでも、どこでも受診できていた医療が受けられなくなってしまう信じられない事態が全国で広がっている。救急車のたらい回しによって救える命が救えない異常な事態も起こっている。このような住民や医療現場、自治体の悲鳴がメディアを通して全国に発信される。まさに地域医療の崩壊が始まっている。
このように全国で起こっている公立病院をめぐる混乱の原因は、自民・公明政権が医療費抑制策をとり続けてきた結果である。1997年の閣議決定による医師数の抑制、アメリカからの対日要望書(社会保障分野の市場化)、新臨床研修制度や診療報酬のマイナス改定を求めた医療費適正化策などにより、公立病院は厳しい病院経営を余儀なくされてきた。経営悪化に伴い労働条件の低下、医師・看護師・医療スタッフの不足、病床の閉鎖など「負の連鎖」が地域の医療ネットワークや安心の医療体制にきしみを生じさせている。同時に地域の医療水準の低下と医療の格差が大きく広がっている。
民営化・独法化をねらう総務省の公立病院ガイドライン
総務省は2007年12月に自治体病院に対し「公立病院改革ガイドライン」を示し、経営指標に関する数値目標を設定した「改革プラン」を策定するよう促す事とした。このガイドラインの狙いは、「経営効率化」「再編ネットワーク」「経営形態の見直し」だが、自治体健全化法に基づき「連結決算赤字比率」や「将来負担率」、「公営企業による資金不足比率」の計算対象に病院企業会計が含まれた事で赤字続きの病院事業を自治体から切り離し、民営化や地方独立行政法人化させることが最大の狙いである。前節で指摘した「医療の市場化」を目論むアメリカの狙い通りといえまいか。
このような総務省のガイドラインに沿って、沖縄県でも県立病院のあり方検討部会を立ち上げ審議を委ねた。2008年8月から12月までの4カ月間(5回)の委員会審議を経て12月22日には当局の意向通り、2013年度までに県立6病院を地方独立行政法人へ移行することを知事への答申(3月末)に盛り込む方針を決めた。民間に移譲か地方独立行政法人にするのかという「議論」をして見せただけで、結論は最初から決まっていたのです。
「地方独立行政法人への移行」をシナリオどおりに早々と結論づけた県当局は県立病院のあり方に関する基本構想(案)として県立病院の所在する4つの地域住民や病院職員に対し説明会を持った。
しかし、各地域で住民や医療現場の不信や不安、怒りにも似た相次ぐ反対意見に見舞われる説明会となった。「採算重視の独法化で政策医療が確保できるのか」「結論を出すのが拙速すぎる」などの声が上がり「独法化移行」に異論が続出した。とくに県立病院が地域の中核病院として欠かすことのできない離島においては、県立中部病院や県立南部・子ども医療センターとの連携は欠かせない(この2つの病院によって医師派遣や救急患者のヘリ搬送受け入れ等、離島医療がしっかり補完されている。離島医療を守るうえで、そのことはしっかり認識すべきである)。県立八重山病院院長を務めたこともある大浜長照・石垣市長は「厳しい財政を理由に独立法人化しようという発想に慄然とする。それは市町村に財政負担を求める仕組みづくりで、県民の命を守るという責任を放棄しようとしている」と憤る(沖縄タイムス紙、2月15日掲載より)。
多くの離島を抱える島しょ県沖縄では、県立病院として公的医療が堅持されることで県立病院間ネットワークによって地域医療が守られている。独法化への動きはそのネットワークを分断し、離島の医療を崩壊させかねない危うさをはらんでいる。
一方で独法化への移行を進める中「経営再建計画」(案)を策定し県立としての生き残りをかける県立病院事業局の必死の取り組みがある。現在の不良債務や資金不足を解消した上で、2011年度末経常損益を黒字化することが必須となる。県立病院の再建に向けた病院現場と病院事業局『再建』に向けた取り組みも始まっている。知事は県議会2月定例会一般質問で、見直しが取りざたされている県立病院問題について「県立病院のあり方検討部会の答申を踏まえ独法化への準備を進めながらも、全適下での健全化計画も1年ごとにチェックしていき、独法化しなくてもやっていけるというのが分かれば『嫌だ』というのを無理強いはしない」と答弁。再建計画が達成されれば「県立」でいく考えを示した。
公立病院を守る県民運動
2007年の総務省の「公立病院ガイドライン」が出された後、沖縄県内では各地で医療崩壊に危機感を持った多くの市民や地域住民が学習会や勉強会、地域医療を考えるシンポジウムや公立病院の存続を求める集会を積極的に持っている。これまで沖縄県の地域医療を考える県民シンポジウム(2008年10月26日)、地域医療を考える北部住民シンポジウム(2009年2月11日)、県立中部病院の医療機能の継続を考えるシンポジウム(2009年2月20日)が多くの市民の参加を得て行われている。今後、離島の石垣市において八重山市町会主催による「独法化に反対する郡民総決起大会」、沖縄県議会議員有志の会(野党6会派)主催で「県立病院を考えるシンポジウム・公的医療を守る」がそれぞれ3月7日に予定されている。
開催中の県議会においても代表・一般質問等で県立病院のあり方をめぐって連日大激論が続いている。県民の関心も高く市民団体の「独法化反対署名」も始まった。県民医療の「最後の砦」県立病院を守るたたかいは今始まったばかりだ。
何よりも全国で起こっている医療をめぐる大混乱は、1980年代の「医療費亡国論」を背景にした自公政権がすすめる医療を含めた「社会保障費抑制策」にあり、国民がいつでも、どこでも、安心・安全で救える命をしっかり救える医療を取り戻すためには、「自公政権にピリオドを打つ国民の本気」が求められる。