汚染米事件で問われているもの
MA米の撤廃と多国籍企業・米国追随の農政転換を
『日本の進路』編集部
三笠フーズ(大阪市北区)が汚染された輸入米(農薬のメタミドホスとアセタミプリドが残留している米や、発癌性のあるカビからできた毒のアフラトキシン B1を含んだ米、ベトナム産うるち米、中国産もち米など)を工業用(非食用)として仕入れておきながら、食用として不正に転売した。汚染米と知らずに購入した食品加工業者や酒造メーカー、流通先業者は26都府県の392社に上る。ただでさえ厳しい昨今の不況のなか、存亡の危機に直面している業者も多い。三笠フーズの不正と政府の検査体制は糾弾されて当然であるが、より根本的な問題について考える必要がある。
原因はミニマムアクセス米
1993年、戦後長い間続いた自民党政権に変わって細川非自民連立政権が発足した。WTO(世界貿易機関)の前身、GATT(関税貿易一般協定)のウルグアイ・ラウンドに際して、細川首相は93年12月ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米の受け入れに合意、「コメは一粒とも輸入しない」という再三の国会決議を踏みにじり、アメリカの部分市場開放圧力に屈した。その後羽田政権を経て、95年6月に発足した村山(自社さ連立)政権もとで、新食糧法が制定され戦後続いた食管制度は廃止された。政府はコメの備蓄・流通の管理責任を放棄した。03年小泉改革では、04年に規制を完全に撤廃、誰でもコメ売買に参入できるようになった。
MA米は国内コメ需要量の4%からスタートし、5年後には8%まで毎年0・8%づつ増やすというものであった。99年4月関税措置が行われそれ以降は0・4%に半減した。2000年度は国内消費量の7・2%(76・7万玄米トン)となった。日本政府はミニマムアクセス枠の全量輸入が義務であるかのような説明を続けているが、あくまで最低輸入機会であり、ミニマムアクセス枠の全量輸入を義務付けているわけではない。事実、07年度はコメの国際価格が急騰し、業者が希望する買い取り価格では入札が成立しない事態が生じ、政府は約7万トンを達成していない。輸入が義務でないことを証明している。
95年から07年度に輸入したMA米は865万トン(主食用91万トン、加工用115万トン、援助用222万トン、飼料用104万トン、在庫129万トン)とされる。主食用に輸入するSBS(売買同時入札)分を除き、MA米は主食用以外に利用されると生産者・農民は思っていたに違いない。しかし、流通業者が不正を行い食用・主食用に流通していたことが今回の事件で明らかになった。涙を飲んで生産調整を押しつけられた農民にしてみれば怒り心頭である。ちなみに、SBS有資格者名簿(米麦輸入業者)には豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事、住友商事など多国籍大企業がずらりと参入している。豊田通商などはカリフォルニア米の販売を手がけている。
また、MA米の輸入(95~06年)を国別に見ると、米国51%、タイ25%、オーストラリア13%、
ベトナム6%、中国5%。毎年半分は米国からの輸入であり、いかに対米追随であるかは明確である。
アメリカ追随の農政
第17回EPA・農業ワーキンググループ会議(主査=浦田秀次郎・早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)が今年3月に開催された。このワーキンググループの目的は経済財政諮問会議のもと「中長期的な我が国のEPA戦略と、国境措置に依存しない競争力のある農業を確立するための方策」の検討とされる。財界主導の農業に対する戦略計画を立案する会議とも言える。
この会議の議題は「日米の経済連携の現状と展望」で日米の財界を代表して本田敬吉・日経連アメリカ委員会企画部会長とチャールズ・レイク・在日米国商工会議所会長(アフラック日本社社長及び副会長)が出席し、「農業改革」への提言を行った。同ワーキンググループ副主査は本間正義・東京大学大学院農学生命科学研究科教授。本間氏は「日本農業が国際競争の中で生き残るためには、いまや一市町村の農地すべてを一経営体が担う程の構造改革が必要だ。そのために農業以外の資本と頭脳の導入を促すことが望ましい。自由な市場競争を通じて生産資源は効率のいい農家、農企業に早急に集中すべきである」と03年2月19日の読売新聞[論点]に寄稿しているがこの会議の性格を表している。
チャールズ・レイク氏は「日米財界人会議の共同声明が出され、米国側の米日経済協議会に日米EPAタスクフォースがつくられ、その座長に就任した。... 今、大統領選が行われて新政権が2009年1月にやってきたときには、重要なアジア経済政策上の課題として、日米FTAの提案を米国政府がするべきだという提案をしたい」「日本が米国をパートナーとして選ぶのかどうかについて、日本はパスしてくださいという回答がないように、日本政府と国会に対して、日米FTAは優先順位が高い提案であると考えていただけるような活動を建設的に、日本国内でもしていきたい」(経済財政諮問会議HPより・発言筆者要約)と発言。
こうした財界人と御用学者等による議論をまとめた「農政改革」では、日本は永遠に米国の属国から抜け出せない。
h4. MA米の撤廃、対米従属の農政の転換を
日本のコメ生産者は毎年水田面積の4割の生産調整(減反)を押しつけられている。にも関わらずこのようなMA米を絶対的な義務のごとく輸入し続けるいわれはない。日本の食糧自給率は39%という惨状であり、食糧安保の観点からは独立国とはとても言えない状況にある。
世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)をめぐる非公式閣僚会合は7月29日、日米欧など7か国・地域による少数国会合で、米国と、インド、中国が農業問題で合意に達することができず、交渉は決裂した。年内合意を目指して大詰めを迎えていたドーハ・ラウンドは、来年1月に米国の大統領・政権交代などを控え、長期凍結は避けられない情勢だ。2001年11月にスタートしたドーハ・ラウンドが決裂、中断するのは4回目である。03年9月のカンクン閣僚会議では、ブラジルなどの途上国グループが欧米主導の進行に強硬に反発し、まとまらなかった。
そして、今回の決裂で自由貿易体制を推進するWTOの求心力に打撃を及ぼすのは必至だ。度重なる決裂で証明されているように各国は自国の独立・主権を守る観点から欧米諸国と闘って自国の権利として食糧を守っている。それに比べて日本政府は先のWTO交渉でも、より徹底した農産物の自由化を飲むことを表明していた。日本の農業はインド、中国の反発に助けられた格好である。
今、サブプライムローン問題を発端にリーマン・ブラザーズ破綻そして75兆円という膨大な公費による金融機関の救済とアメリカのドルを基軸とした金融資本は大きく揺らいでいる。ドル札が紙屑同然になりかねない時代だ。日本がお金を支払っても農産物輸出国が食糧を輸出しない状況となる可能性は大いにあり得る。国会での論戦やマスコミ報道は、政・官・業癒着による輸入検疫体制云々に終始している。問題の本質はMA米に象徴されるアメリカ追随の農政の弊害にあることを明らかにして一刻も早く日本農業を立て直し自給率を高めることが今求められているのである。それは決して日米財界と御用学者が主張するように農地を集約した競争にうち勝った大規模農家によるものでなく中山間地の零細の農家まで含めて農業に生き甲斐を感じることができる農業の再生でなければならない。
いまわが国・政府を事実上無数の糸で支配している、「支配層」は何を要求しているのか見据えておくことは重要である。
今年は真夏日の炎天下に原油高騰に苦しみ怒り全国で農民が漁民がトラック業者が立ち上がった。今回の汚染米事件を契機にわが国の食糧をどうするのか、労働組合や中小企業、消費者団体、学識者など広範に連携して日本の農業を守れという一大国民運動を巻き起こす必要がある。