G7サミット 世界の安定を促したか?

日本は自主的独自外交で
東アジアの平和と発展をめざすべき

『日本の進路』編集部

 岸田首相は、バイデン米大統領はじめ7カ国首脳とウクライナのゼレンスキー大統領などの参加も得て5月19日からG7サミットを開催し、「力による現状変更」を許さず、「法の支配」に基づく国際秩序の再構築なるものをめざした。マスコミも連日大きく報道し、政権支持率がマスコミ調査で9ポイントもアップするなど、岸田首相は「歴史的なサミット」と、世界を主導したとの高揚感に浸っている。
 だが、ウクライナ問題でも、中国敵視の「包囲網」形成でも、世界の分断と対立を煽って世界をいちだんと不安定化させただけだ。核廃絶も、アメリカは広島・長崎での使用をいまだに正当化している。「力による現状変更」も一昨年米軍が逃げ出したアフガニスタンや、その前のイラク等々、戦後何十回、何百回と世界に軍隊を派遣し「力による現状変更」を強行した国だ。


 しかし、このG7諸国の動きが世界の趨勢ではない。そもそもアメリカとG7諸国にはもはやそんな力はない。
 ウクライナ停戦、東アジアでの対中国戦争準備に反対し平和と協調を求める機運は内外で急速に発展している。サウジアラビア、イランなど中東では劇的な「和解」が進む。
 沖縄は「復帰」51年目、再び戦場にさせない平和のための闘いが進む。大衆集会が何度も開かれ、県議会なども意見書採択、知事は訪中など平和を求める自治体外交も始まっている。国会では二階俊博元自民党幹事長を会長とする日中議連が超党派の訪中団を派遣する。
 戦争反対、平和と発展をめざすこうした内外の動きを支持し促進して、アメリカの企む東アジアでの対中国代理戦争の策動を阻止しなくてはならない。

G7にはもはや世界を
動かす力はない

 ゼレンスキー大統領も対面参加したウクライナ問題では、ウクライナ国民もロシア国民も、全世界人民が求める即時停戦ではなく、劣化ウラン弾など核戦争を挑発する軍事支援が約束されただけだった。子細に読むとマスコミは、ゼレンスキー参加の狙いはF16戦闘機供与など軍事支援の獲得だったと露骨に伝えた。また、西欧で広がる「停戦」主張を抑え込む狙いもあったとも。
 広島で開催しながら、「核廃絶」すらも言わず、核問題も中ロへの対抗策以上ではなかった。ノーベル平和賞を受賞したNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の川崎哲氏は、首脳らが「被爆の実相」に(ほんとに申し訳程度だが!)触れたことは一定の評価をしつつ「失敗」と断定、「被爆地が踏みにじられた。深く失望し、憤りを感じる」と厳しく批判した。
 東アジアについても緊張緩和どころか、中国の内政問題である台湾問題にG7として初めて露骨に踏み込んで、中国の反発を挑発した。岸田首相の言う「次は東アジア」とばかり、緊張を激化させただけだった。

世界の本流は平和と発展を求めている

 しかし、G7とは裏腹にウクライナ停戦を求める国際的動きは発展している。中国は、習近平主席特使をウクライナに派遣するなど停戦への外交努力を強めている。ゼレンスキーが広島に来る前に顔を出したアラブ連盟首脳会議でもサウジアラビアが停戦を主張した。
 東アジアでの対中国戦争準備に反対する動きも急速に発展している。フランス・マクロン大統領は「欧州は台湾問題に関し米中対立に巻き込まれてはならず、戦略的自律性を維持しなければならない」と一線を画す。
 アメリカが絶えず戦争を画策してきた中東では、中国の仲介に始まったイラン・サウジアラビアの国交正常化からアラブ諸国の結束強化はシリアのアラブ連盟復帰でさらに安定と平和が促されている。
 バイデンのアメリカは、ウクライナに続いて東アジアで代理戦争を企んでいる。岸田首相をそそのかしてG7を反中国同盟に仕立て上げようと画策した。NATOの東京事務所も準備されている。
 1975年、「5大国」から始まったG7サミットは、確かに、西側が石油危機を乗り切り、社会主義国ソ連を瓦解に追い込んだ。だが今日、もはやそんな力はない。すでに、2008年の世界金融危機は、興隆する中国の協力を得ずして乗り切ることはできなかった。経済・金融ではここからG20が主役を果たしている。
 しかも、苦境に立ったアメリカ・トランプ大統領の露骨な「米国第一主義」で、G7の利害対立・分断は加速された。それでもロシアのウクライナ侵攻を捉えたバイデン政権の「民主主義と専制主義の戦い」などという巧みな誘導で、対ロシア制裁、軍事支援などの西側諸国の共同歩調が辛うじて実現された。
 だが、内部は同床異夢である。首脳宣言は中国と「建設的かつ安定的な関係を構築する」と記し、バイデンも「間もなく雪解けする」と述べた。中国を「デカップリング(分断)」する力などないのだから当然である。

アメリカの尻馬に乗ってはとんでもないことに

 経済の一体化が進む東アジアは不可分である。IMF予測では、今年の世界経済成長の70%がアジアというほど、この地域は世界の成長センターとなっている。中国は35%で成長センターの半分を担う。日本経済は、その中国と切り離せない。
 G7というが、経済の実質に近い数値を表す購買力平価GDPは、アメリカ21・1兆ドル、中国はすでに24・9兆ドル。G7の合計が40・9兆ドル、非G7上位7カ国(中国、インドなど)の合計は49・3兆ドル。
 アジアだけでなくドイツもフランスも、EU諸国も中国との関係なしに経済は成り立たない。ドイツのメルセデス・ベンツ社長は、「ドイツのほぼすべての産業にとって中国との『デカップリング』などというのは不可能であり、望ましくない」と語っている。どの国も同じだ。

時代錯誤の岸田首相の日本

 そもそもアメリカには世界を支配する、そんな力はない。国内の財政問題すら解決できず、バイデン米大統領はサミット参加すら危ぶまれた。辛うじて参加した初日夜、「安全保障」を話し合う時間に中座して問題処理に忙殺された。アメリカとG7が世界をリードするなど時代錯誤も甚だしい。
 ところが岸田首相は、アメリカ中心のG7サミットで中国包囲網形成の先頭に立って国際政治で「指導的役割」を発揮したと有頂天だ。
 だが、世界は旧大国が支配する時代ではない。中国やインドなど新興国、グローバルサウスと言われる世界の大多数の国々が発展している。岸田首相は、インドなどをサミットに招待し、「法の支配」を謳って「反中国戦線」に引き入れようとした。だがモディ首相はインドも参加し中国が主導する上海協力機構とも、「互いに排他的なものではない」と戦略的自律性を貫いた。招待されたインドやブラジルなど非G7諸国は国連のロシア批判には加わらない。
 歴史的に帝国主義大国に侵略・支配・抑圧されてきた国々が、現実の国際政治の大きな勢力として登場し主導的となっている。
 この国際社会で、中国敵視で米軍事力に依存し、しかも「軍事大国をめざす」(タイム誌インタビュー)岸田政権の外交安全保障は、バイデンのアメリカに輪をかけた時代錯誤で国の運命を誤らせるものである。アメリカの企む代理戦争に、沖縄をはじめ日本全土を、台湾や中国、東アジア全体を巻き込み、戦場にして犠牲にする道である。

中国・アジアとの連携
こそ平和と発展の道

 こうした中で沖縄県民は、戦場化の危険をいち早く察知し立ち上がっている。太平洋戦争で「本土防衛」の犠牲にされ、「ありったけの地獄を集めた」とまで言われた悲惨な戦争体験がその背景にある。ミサイル配備・軍事要塞化ではなく、外交と対話での平和を求めている。2月26日に「島々を戦場にするな!沖縄を平和発信の場に!」緊急集会を開いた若者たちは、サミット最終日の5月21日に北谷町で平和集会を開いた。秋には県民大会も展望する。県議会は「沖縄を再び戦場としないよう」、日本政府に「日中両国で確認された諸原則を遵守し外交努力」を求める意見書を採択した。都道府県議会では初めての画期的意見書採択である。
 玉城デニー知事は、「地域外交室」を設置し、県政の課題として地域の平和構築を定め、自身もすでに訪米し、さらに中国訪問を準備するなど、平和発展の外交努力を強めている。
 沖縄県民の闘いで注目すべきは、地方議会でも、大衆運動でも、若い世代が登場していることだ。戦争となれば戦場に行かされる若者たちが動き始めている。この声に全国は耳を傾けるべきだ。
 一方、国民の中では、支配層の誘導もあって「ウクライナのようになっては大変」「一定の自衛力強化は必要」との傾向もある。中国脅威論も広がっている。残念ながら「左」の野党はこの状況に十分に対処できていない。労働運動でもいまだ目立った動きは見えない。関係者に真剣な努力を求めたい。
 統一地方選で、自民党は支持を失っているにもかかわらず、共産党などの勢力が支持を失った大きな要因のひとつがこの外交安全保障の問題である。マスコミの世論調査でも、岸田政権は内政面では支持を受けないが、首相のウクライナ訪問、それに一定の軍事力強化すらも、政権支持の要因になったと分析される。サミット後の毎日新聞世論調査では前月比内閣支持率は9ポイント、自民党支持率は3ポイントアップした。
 野党は、「軍拡反対」と言うにとどまらず、わが国の安全と平和確保の確かな政策を示さなくてはならない。いつまでもアメリカと共にではなく、この世界の大きな潮流と共にある道を選ぶべきだ。とくに、隣国中国との外交関係だ。共産党が、従来の「反中国」攻撃を抑えて、「対話」を唱え始めたのは良い兆候だ。二階俊博日中議連会長を団長とする超党派の訪中団も良い流れを促進する。

沖縄の示す道こそ平和と発展の展望

 この沖縄県民の闘いは今、中国敵視、軍拡政策を進める岸田政権に対抗する大きな力である。多くの国民が、財界も、保守層も含めて、日中戦争に反対し自主的な平和外交を求めている。
 「沖縄を平和のハブとする東アジア対話交流」の運動も始まっている(5ページ参照)。経済交流の発展を基礎に文化や学術交流など対話と交流で民間からも平和の基礎を築くとともに、わが国政府には抑止力強化一辺倒ではなく、外交と対話で平和と安定を確保する自主的な道を求めている。
 この沖縄平和ハブの運動をはじめ県民の「再び戦場とさせない」との怒りと主張、行動に、学び、支持して、全国で呼応した闘いを発展させることは、中国敵視・軍事大国化の流れに抗して自主・平和、アジア共生への情勢を促進する上で最も重要な課題の一つである。
 「台湾有事」となれば戦場化が避けられない沖縄は動いている。外交、対話で日中関係を安定させ、アメリカの覇権維持のための反中国戦争挑発を拒否すること。当面してこれこそわが国が進むべき道、発展・繁栄の道である。衰退するアメリカの中国敵視戦略に組み込まれ、米核抑止力に依存するような道では、わが国は永遠に属国から逃れられない。
 岸田政権を打ち倒し、平和へ国の進路を切り替える時だ。