北海道酪農・畜産危機突破緊急集会で発言

国を動かすことが一番大事な時期だ

JAしべちゃ代表監事・千葉 澄子さん

 私は現在、11人のスタッフと共に、年間3000トン程度の生乳生産を行っています。
 現在、酪農現場は、飼料・肥料の高騰に加え、子牛の価格の暴落、生乳の生産抑制が重くのしかかっています。
 飼料は1・8倍、うちの3000トン規模でコーンと牧草で大体1000万円だったのが今は1800万円です。雄子牛は値段がつかないほどで1000円とか300円にしかならない。1頭の子牛が産まれるのに大体2万円経費がかかるので全く経費倒れ。以前は4~5万円でした。結局現場では今、産まれたら注射を打って殺す、もうそこまでいっちゃっているんです。


 「生乳の生産抑制」も重くのしかかっています。私のところでピークで3300トンぐらいまで搾っていたのが去年あたりの割り当てが3100トン。ですから200トンぐらい減っている。雇っている方の給料を減らすわけにはいかないなかで牛乳は搾れない。しかも子牛が安い、ダブルパンチです。ところが経費は全て上がって、上がっていない経費はないんです。もう行き場がないというのがこういうことを言うのだなと思います。
 私も38年間、酪農していますけれども、初めての出来事。回避することが自分ではどうしてもできない。そんなに経費節減できるものではないし、まさか、人を切ったら経営をやっていけないし、そんなわけにもいかない。

急減する酪農家

 酪農家はどんどん減っています。3月の集会の時には、この釧路根室管内で「約30軒の離農で子牛の『離農セール』が予定されている極めて異常事態」と発言しましたが、今は30軒を超えて35軒~40軒と最終的にはなるのではないでしょうか。
 現状、1000トンの出荷で1000万円の赤字、うちは3000トンの出荷で3000万円の赤字になってしまいます。今はほとんどの酪農家がセーフティネット資金でどうにか経営を維持している常態です。
 しかし、セーフティネット資金というが、給付ではなく、その資金を借り入れて埋めているという形です。それを返さなければいけません。生産抑制が続いている上、去年借りたのを来年から返済していかなければいけないということで、かなり厳しい状況です。大体7年で回収ということになります。うちあたりで3000トンで3000万借りちゃって7年で返すとなると、年約430万円、結構の額になるのでやっぱり大変です。

水よりも安い乳価

 酪農家は365日ほとんど休みなく仕事しますけど、今はどこも赤字の状態。赤字のために仕事をしているような感じです。経費倒れしているわけです。そんななかでどれだけモチベーションを維持してやっていけるのか。こんなだったら酪農やらずに他のことをやろうと思うこともやっぱりあると思うんです。
 とにかく「水より安い乳価なんて信じられません!」。今やっとキログラム110円ぐらいになりましたけど、そう言っちゃなんですが、水と一緒にされたらたまりません。
 牛には餌を与え、お乳から搾った牛乳ですから、乳価にして110円というのは私からしたら信じられない。もっと高く買ってもらいたい。乳価を値上げすると牛乳が売れなくなるとか言われています。しかし、私たち農家側からすると消費者はさほどそんなふうに思っていなくて、やっぱり牛乳を飲みたければ買ってもらえるものだと信じています。今、全てのものが上がっているなかで牛乳だけがということはないかと思います。
 国と農業者が共に、消費拡大を進めていくことも大事です。全道の高校への牛乳の提供や、さらなる脱脂粉乳の置き換え活用など、あらゆる手法で前向きに取り組んでいかなければならないと考えております。
 厳しい農業経営となり、離農者が増えてきたなかで、私は担い手育成、若い農業者をしっかり育て未来の農業を担う農業者を育てる役割の指導農業士として20年間、全道の担い手育成の仕事に携わってきました。
 このままだと、酪農に希望を持てず、後継者も新規就農者も育たない。継承できる環境づくりが大切である。5年後、10年後のビジョンが持てるようにしてほしい。
 3月7日、道立農業大学校の卒業式に出席し、67人の卒業生中33人が春から酪農の世界へ飛び込んでいく姿を見ながら、やはり今の状況ではダメだと思いました。未来が見えない、私たち自身がどうやっていけばいいのかという状況のなかで、あの子たちが育っていけるのかと思ったら悲しくなり、やはり私たちが頑張らなければいけないと思いました。変えていかなければいけない、どうにかしていかなければいけないという思いで帰ってきました。

牛を殺して15万円補助
など政策ではない

 私は、「女性が元気なら農業が元気」という言葉が好きです。子牛を育てる哺育の仕事は8割の農家では女性が担当しています。最近の子牛価格の低迷で、酪農女性に元気がない。女性が元気でないと、家族も明るくならない。
 一番望むことは、一日も早く生産抑制が終わることです。今年の秋、長くとも来年春までに終わらせなければ、モチベーションはもちろん、経営自体がもちません。
 ところが国の対策というのは農家を減らそうとしている。リタイア対策、要は牛を1頭殺して減らしたら15万円とか、そんな対策です。私はそういうやり方は反対で、すべきではないと思っています。生き物である牛にそんなことをしてはいけないと思うんです。
 わがJAの範囲でも1年間で7000頭の牛を淘汰しています。これ以上続けば立ち直れなくなります。とにかく牛乳を搾れるような環境にしていただきたい。
 北海道は食料基地です。これからも、日本国民に安全安心な食料を保証する、牛乳製品を安定的にお届けする責務があります。酪農は、地域の雇用を創出し、輸送やさまざまな産業を巻き込む基幹産業であります。
 酪農が地域の経済を支えています。政府はしっかり地域の酪農を守ってほしい。
 まずはこの環境を乗り越えられる短期的な対策をしっかり措置していただきたいと思います。
 まずは1頭いくらというお金を出してもらって、経営が少しでも息をつなげるようにしてほしい。
 それをやった上で、やはり生産抑制をやめるということ。脱脂粉乳を国がお金を出して買い上げてでも農家に牛乳を搾らせる、そういうふうに向かう必要がある。牛を殺したらお金をあげるという方法は、考え方がずれている。
 これほど危機的になっても、国は乳製品の輸入をやめる気がない。そう言っちゃなんですけど、他の国にいい格好しいなのか。何で国がそこまでやって、私たちがこういう大きな影響を受けなければいけないのかと思います。
 政府が見直しを進めている食料・農業・農村基本法については、常に需給変動に左右されるのでなくて、酪農家が安心して搾ることができる、そういう制度でなければいけない。そういう制度でなければ担い手が5年後、10年後ビジョンを持って農業できるかと言ったら、そこを示せないとちゃんとできないでしょう。国に踊らされるようにクラスター事業とかで機械を入れて、どんどん搾れ搾れでやってきて、今になって搾るな牛殺せみたいな状況では、本当にそう思うんです。
 酪農家が安心して搾れる制度にするとともに、農業や食の価値を国民に理解してもらう農業政策の実現をお願いしたい。
 やっぱり最終的には国がしっかり農業を守るという視線で取り組んでもらわないとダメだと思います。

「かっこいい・稼げ・感動」の酪農をめざして

 最後に、私事ですが、自分は北海道酪農に夢を持ち38年前、埼玉県大宮市(現さいたま市)から北海道に嫁いだ人間です。今でも生まれ変わっても酪農家でありたいと思うほど、酪農が大好きです。
 嫁いだ時、酪農は「危険・きつい・汚い」の3K産業と言われていました。それを「新3K産業『かっこいい・稼げ・感動』の産業にしようよね」と仲間と共に頑張ってきました。機械化も急激に進み、またヘルパー事業も充実し、きついという言葉はなくなりつつあります。5年くらい前から新3K産業になったなと思っていましたが、残念ながら今は稼げると全く言えません。
 しかし、私は諦めたくないという強い気持ちで、少しでも仲間を減らさない、地域を衰退させないと、日々そう思いながら頑張っています。
 このトンネルを抜ければきっと明るい未来はあるはずです。乗り切れない困難はない! われわれ一人一人の努力は小さな力ですが、皆さんの努力が積み上がると、大きな力になります。国や政策、農政を動かしていくことが今一番大事な時期だと思います。この危機を乗り切るべく、皆さん!力を合わせて頑張りましょう。

 (本稿は、千葉さんが3月18日、北海道酪農・畜産危機突破緊急集会で行った意見表明に、インタビューで追加したもの。見出しを含めて文責編集部)