統一地方選を前に 地方自治体の現場から 花谷 史郎

石垣市議会からの報告 長射程ミサイル配備に関する意見書可決

石垣市議会議員 花谷 史郎

 昨年、石垣市議会12月定例会で「陸上自衛隊石垣駐屯地(仮称)への長射程ミサイル配備に関する意見書」を提出、可決することができました。
 「台湾有事」のワードが独り歩きし、軍拡をミスリードするような状況の中、その最前線ともいえる石垣島からこの意見書を提案した意図と、可決に至るまでの経緯、そしてこれまでの市民活動の一端を報告させていただきます。


 昨年12月16日に戦後わが国防衛政策の大転換と言われる安保関連3文書が閣議決定されました。それに先だって12日には「石垣島や宮古島、沖縄本島などに長射程12式地対艦ミサイル配備する方向で検討」といった報道がされました。併せて考えると「反撃能力」は私たちの住む石垣島や南西諸島に配備されるのだ、と理解せざるを得ませんでした。
 12月定例会開会中に報道されたこれらの一連の流れに緊急性を感じ、自衛隊配備に懸念を示す石垣市議会議員の連名で意見書を提出することにしました。
 その後、議会の中で意見書の文言の調整を経て、これまで自衛隊配備に理解を示してきた一部保守系の方々の賛同を得られたことで可決することができました。
 意見書は「安保関連3文書が憲法違反との指摘があること」「市民から不安の声があり長射程ミサイルの配備は認められないこと」といった前段を踏まえ、これらのことについて説明を求める内容となっています(末尾に全文別掲)。

話が違う、「迎え撃つ」ではなかった

 現在いわれている軍拡の中心に南西諸島への陸上自衛隊配備があります。これらの計画は2010年前後から報道等により住民が知ることとなり、各島々では反対運動が起こりました。私も15年に石垣島の駐屯地が平得大俣地区と発表されてから、近隣住民として本格的に反対運動に参加し、それが市議会議員選挙に出るきっかけとなりました。
 石垣島では自衛隊配備についての住民投票を求める運動などが行われ、有権者の4割近い法定署名が集まりました。しかし、投票は実施されず行政裁判にまで発展しました(現在は当事者訴訟の最中で、1月17日に結審される予定で、判決に注目していただきたいと思います)。
 さまざまな運動が展開されましたが、16年には与那国島、19年に奄美大島、宮古島に駐屯地が相次いで開設されました。そして残念ながら今年23年3月には石垣島でも駐屯地開設が予定されています。
 防衛省はこれまで「ミサイルは射程200㎞程度のもの」という説明をしてきており、その説明内容を受け、市議会でも「他国が攻めてきたときに迎え撃つため」という前提のもとで議論がされてきました。
 ところが20年に12式地対艦ミサイルの射程延長の報道があり、国会では敵基地攻撃能力(反撃能力)の話が出てきた頃から様子が変わってきました。そして昨年、安保関連3文書への「反撃能力」明記が突如閣議決定されたことによってその前提は大きく覆されました。
 自衛隊賛成派の方々も疑問を呈さざるを得ないほど、「反撃能力」と「ミサイルの射程延長」が石垣島住民に与えた衝撃が大きかったのだと思います。
 私たち自衛隊配備予定地の地域住民はこれまで「カヤの外」だったのです。長射程ミサイルの配備は市民にも十分な説明がされず、いまだに不透明な部分も多い。賛成派であった方たちも含め、石垣市民すべてが「カヤの外」にされてしまっています。
 反撃能力など安保3文書は憲法の趣旨を変えるようなものでありながら、国会での審議も経ずに進められていることに大きな疑問と不安を抱かざるを得ません。憲法というルールを課せられているはずの権力者が、勝手にそのルールを書き換えてしまっているといえます。もはや護憲派だとか改憲派だとかそういった問題ではありません。憲法逸脱の専守防衛放棄や防衛費倍増、それに伴う増税など、日本にとって重要なことを国民が「カヤの外」にされたまま進められてはいないでしょうか。
 これまで南の小さな島の課題であったものが、日本の将来を左右する大きな問題に発展し浮上してきました。この問題を自分ごととして認識し、国民的議論をすべき時です。

最前線の島で始まった
中国理解と交流の努力

 昨年5月、石垣島の市民団体の主催で日中経済交流の仕事をされてきた泉川友樹さんの講演会が開かれました。
 日中間の貿易額は年々大きくなり2021年には30兆円を大きく超えており、日本企業の進出拠点も3万カ所を数えます。課題とされている尖閣についても14年に日中で結ばれた「4項目合意」後、さまざまな協議が行われており、両国間ではホットラインの開設が進められるなど危機管理メカニズムの構築に向け不測の事態を回避するための努力が続けられています。危機が煽られている一方で、平和に向けた政策も進められているのです。
 中国とはどのような国なのか、日中間ではどのような外交政策が行われているのかを知ることで、私たちがこれから何をすべきかのヒントを得ることができました。その後、10月には宮古島、今年1月には与那国島でも泉川さんの講演会が開かれ、中国という国を知ろうとする動きは自衛隊配備の現場から広がりを見せています。
 軍拡の波を越えるため私たちにできることはあります。コロナ禍で希薄になっていたアジア諸国との交流を再開し、相互理解を深め、経済や文化、スポーツなどで人と人のつながりを創ることで戦争を回避し、平和を創ることにつながるのではないでしょうか。
 最前線の南西諸島では、その試みが始まっています。

陸上自衛隊石垣駐屯地(仮称)への長射程ミサイル配備に関する意見書

 12月12日、防衛省が長射程化を進めていた地上発射型の12式地対艦ミサイル(SSM)について、陸上自衛隊石垣駐屯地(仮称)を含む先島諸島や沖縄本島の駐屯地へ配備する方向で検討していることが報道された。
 その後、16日には安保関連3文書を閣議決定され、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有の明記がなされた。
 これらの装備や法整備が進むことで、他国の領土を直接攻撃することが可能となり、近隣諸外国を必要以上に刺激するおそれがあり、有識者からも慎重な議論を求める声があがり、憲法違反の可能性も指摘されている。
 国境の島ともいわれる、石垣島の現場で日々生活するなかで自衛隊の配備にはこれまで賛否の意見があったが、防衛省主催の住民説明会では、配備される誘導弾(ミサイル)は、他国領土を攻撃するものではなく迎撃用であくまでも専守防衛のための配備という説明であり、それを前提に議論が行われてきた。
 ここにきて突然、市民への説明がないまま、他国の領土を直接攻撃するミサイル配備の動きに、市民の間で動揺が広がっており、今まで以上の緊張感を作りだし危機を呼び込むのではないかと心配の声は尽きない。
 石垣市議会は、「平和発信の島」、「平和を希求する島」との決意のもと議会活動しており、自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力をもつ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない。
 前記の12式地対艦ミサイル(SSM)や米国より購入する計画のある巡航ミサイルトマホークなど、他国の領土を直接攻撃することが可能な長射程ミサイルの石垣島への配備計画等について、十分な説明のないまま進めることがないよう強く求める。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
 

 令和4年12月19日
 石垣市議会
 宛先 内閣総理大臣(ほか)