日米首脳会談 日米同盟は「反中国軍事同盟」に深化

■日中平和友好条約45周年 自主外交でアジアの平和・共生へ

『日本の進路』編集長 山本 正治

 岸田首相は、国民の命と暮らしには知らんぷり、年頭から欧米を歴訪してバイデン米大統領と会談、日米同盟を「反中国軍事同盟」へと「深化」させることで合意した。

 南西諸島を中心に中国をにらんだ軍備強化が急テンポに進む。昨年のペロシ米下院議長訪台で高まった東アジアの緊張は「異次元」に移る。ウクライナに続いて、東アジアで戦争の危機が高まる。

 軍事大増税を含む耐え難い国民負担増、中国敵視はわが国経済にも大打撃となる。「抑止」とは裏腹に、戦争を引き寄せ南西諸島をはじめ日本全土が戦場と化する。「新しい戦前」だ。重大な歴史的転換だが国民には説明もなく、国会にも諮られない。

 今年は、日中平和友好条約45周年。岸田政権を打倒し、国民の命を守り、中国敵視から日中関係発展へ、アジアの平和・共生へ国の進路を転換させる闘いの年にしよう。

岸田政権の時代錯誤

 岸田政権は安保3文書に続いて、大軍拡の来年度政府予算案を決定。「防衛費」は6兆7880億円、昨年度当初予算より1兆4192億円増、新設の「防衛力強化資金」に3兆3806億円、合わせると10兆円を超える空前の規模に。他方、中小企業や農業関連予算、国民生活関連は実質削減。さらに軍拡大増税も基本方針。財界の求める原発再稼働、さらに新設にも踏み込んだ。

 誰が現実の国民の命と生活を脅かしているか、明白だ。

 その上で岸田首相は、最も重要な中国や韓国など近隣諸国は放置のまま欧米へ。ヨーロッパではG7の「反中国準同盟化」を狙って一連の会談を進めたが、同床異夢は明らか。世界経済の中心となった中国と敵対してまで、日米に付き合う国は西欧でも少ない。

 中国をはじめBRICS諸国、新興国、あるいはグローバルサウスと呼ばれる国々は、今や世界の中心に登場している。こうした趨勢きにG7で対抗できるなどと考える岸田政権は文字通り時代錯誤だ。G7広島サミットで政権浮揚を狙っているのだろうが見果てぬ夢に終わるだろう。

対中国の「日米軍事同盟」に深化

 岸田首相とバイデン大統領は、中国を「国際社会全体における最大の戦略的挑戦」と位置づけ、「同盟深化」を確認した。「中国敵視」を日米共同で確認したのは初めてのことだ。

 岸田首相はワシントンでの講演で、日米安保条約を締結した吉田茂やその後の岸信介、安倍晋三などの首相の名前を挙げて、今回を「歴史上最も重要な決定の一つであると確信」すると自賛した。そうではなく戦後日本外交にとって「最悪の決定」と言われることになるであろう。

 私も歴史を振り返っておこう。

 1951年、サンフランシスコ講和条約とともに吉田に始まる日米安保条約、安保体制だが、81年の鈴木善幸内閣のときに初めて共同声明に「日米同盟」との言葉が盛られた。しかし、鈴木首相は、「軍事的意味合いはない」と表明、閣内不一致で外相が辞任に追い込まれた。対米従属政治だったが、当時はそんな雰囲気だった。

 軍事的な関係を意味する「同盟」関係の表現が定着したのは2000年代になって小泉純一郎政権の時だった。自衛隊「イラク派兵」がその象徴だった。その後、安倍晋三首相は、集団的自衛権合憲と解釈変更し、安保法を定めた。それを踏まえた15年の日米2プラス2は、日米同盟の「強化」を謳(うた)ったが、それでも課題・対象は明確でなかった。「敵」はいなかった。

 今回、軍事協力がさまざまされたが、最大の特徴は、中国を名指しして「最大の戦略的挑戦」と規定したことだ。

 せんだって閣議決定された「安保3文書」と同じである。

 戦後わが国の安全保障政策は、従属的関係の日米安保体制に縛られていたが、それでも国連中心主義、仮想敵国をもたずアジア重視の全方位外交、防衛力は専守防衛などの原則が曲がりなりにも貫かれていた。それは過去の侵略戦争の反省に立ち、ないがしろにされてもきたが「平和主義」憲法の下に成り立ってきた。

 日米両政府は今回の首脳会談で、日米同盟の「対中国軍事同盟」への変質、深化を確認したのである。

 このままでは、日中関係は後戻りできない敵対関係になる。日中国交正常化から50年を経て、平和友好条約45周年の年明けになんということか。世界の平和と地域の安定を損ね、東アジアを際限なき軍拡競争に導く。閣議決定の取り消しと岸田政権の退陣を求める。

米の狙いは日中対立の共倒れ

 アメリカは単独では強大化する中国を抑え込むことはもはや不可能だ。彼らの戦略は「統合抑止」と称して、日本など同盟国の負担を前提にしている。

 アメリカの狙いは、台湾独立を扇動し、台湾と中国政府とを対立させ衝突させて「台湾有事」を引き起こすことだ。日本をそこにかませ日中両国間を対立させ、両国を消耗、共倒れさせることだ。

 戦争になっても米軍が日本を守るか疑念が広がる。アフガニスタンでも、ウクライナでも実証済みだ。岸田首相と反動的なわが国支配層も心配で、バイデン大統領に「核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛」をまたも約束してもらった。これでは核保有の中国と対立する日本は、永遠に自立できず、アメリカの「属国」にとどまる。それとも独自の核武装で破滅の道かに追い込まれる。

 中国敵視の末路はどちらにしろ民族的破滅だ。日中敵対、膨大な軍事費負担、そして戦争。国民はきっぱりと戦争の道を拒否する。

対中国戦の「時間稼ぎ」で国民が犠牲に

  日米2プラス2で、米国は駐沖海兵隊の一部の、「第12海兵沿岸連隊」への改編を確認した。連隊は、移動可能な対艦ミサイルを装備し、陸上自衛隊の宮古島や奄美大島(鹿児島県)、石垣島の部隊と一体的に運用される。民間用を含む空港・港湾の自衛隊・米軍の共同使用でも一致。米軍は、無人化した車両に短距離ミサイルを搭載し、兵士が離れた位置から操作する。在沖米軍トップの四軍調整官は、「味方の他部隊のために時間と空間を稼ぐことが重要だ」と強調したという。

 当然、反撃があるがミサイルを発射させた米兵はそこにはいない。しかし周辺住民はどうなる。わが国自衛隊員はどうなる。米軍の「時間稼ぎ」で、住民と自衛隊員が犠牲となる。

 犠牲は南西諸島だけではない。2プラス2では、米陸軍の小型揚陸艇部隊を横浜市中心部のノースドックに新たに編成する方針が示された。「南西諸島を含む所要の場所に迅速に部隊・物資を展開可能」とするためという。全国の自衛隊基地でも、司令部の地下化や、核爆発による電磁パルス攻撃への対策などが来年度予算で始まる。北海道千歳基地から最南端の与那国駐屯地まで全国の基地が対象である。「反撃」されるという前提の戦争計画だ。

読売新聞2022年12月31日より

 米国際戦略問題研究所(CSIS)が1月9日発表した「台湾有事」のシミュレーションで、米軍は在日米軍基地なしに戦争はできず、自衛隊の協力が不可欠なこと、それでも日米両軍に耐えられないほどの犠牲が出る。

 とくに無視できないことは、この大戦の第1会戦(First Battle)で、日本もアメリカも、台湾も、中国も軍は壊滅的な打撃(それぞれ万の戦死者、数百の戦闘機喪失、空母も何隻も喪失……)を被るが、これで終わらず会戦が続くと予測(その全体が「Next War」であり、米中の全面戦争、核戦争も排除されない)。

 しかも、どの当事国の民間人の被害には一切触れられていない。ウクライナでも、第2次世界大戦でも、わが国がアジア諸国に、また、沖縄地上戦や広島・長崎の原爆投下、「本土無差別爆撃」等々、現代の戦争では莫大(ばくだい)な一般人の犠牲が避けられない。

 それでも戦争しますか?

日中、日朝、日韓、日ロの近隣関係安定はわが国の生存に不可欠

 わが国は歴史の教訓を忘れてはならない。

 「過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省」した日中共同声明から50年。それを基礎とした日中平和友好条約から45年。

 わが国政府は、平和と経済発展の日中関係50年の成果をしっかりと確認すべきだ。そして安倍元首相が遺(のこ)した習近平国家主席の国賓来日招聘(しょうへい)を実現し、両国関係をいっそう強固に発展させるための外交をすべきだ。岸田首相は、「『建設的かつ安定的な関係』の構築を双方の努力で進めたい」とワシントンの講演でも述べた。言うだけでなく実行すべきだ。

 日中国交正常化50周年記念シンポジウムの講演で海江田万里衆議院議員も触れていたが、長い敵対の歴史をもつ独仏両国の関係を促進したエリゼ条約(1963年)に倣って、トップ同士は年に1回必ずとか、外相は年に3回とか、青年を今年は何万人、3年後には10万人とか具体的な関係構築をめざすべきだ。

 われわれも青年交流を中心に日中交流、東アジアの民間交流に汗を流そうではないか。それが東アジアの平和と繁栄の永遠の基礎となる。

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核の脅威も煽(あお)られている。アメリカに邪魔されて日朝間が敵対し緊張しているからだ。戦後78年もたつのに、いまだに国交がない。小泉純一郎政権時の日朝平壌宣言に基づいて、即刻、国交を実現してこそ、平和と安定を実現できる。

 しかし、韓国、朝鮮とわが国との間の根本問題は、日本が朝鮮侵略、植民地支配の犯罪性を認めず、したがって謝罪も、賠償も、反省もしていないことだ。こうした歴史への反省と責任の自覚なしには日本も、東アジアの平和と安定もあり得ない。

 明治政府以来のアジアに対する侵略を反省しない勢力が、わが国支配層の重要な一角を占めているからだ。わが国を占領支配したアメリカは、それを利用し、わが国を対中国、対ソ、対朝鮮の前線基地に仕立て上げた。その基本は今日も変わらない。

「台湾は中国の不可分の一部」は国際原則

米第7艦隊が「台湾問題」をつくり出した

 アメリカ政府は1978年12月、中国との国交回復に際し、「中華人民共和国が唯一の合法政府と承認。この範囲内で、合衆国の人民は、台湾の人民と文化、商業その他の非公式な関係を維持」と、共同コミュニケで確認した。

 少し歴史を振り返る必要がある。

 中国人民は49年、中国共産党の指導の下、自らを解放し中華人民共和国を成立させた。中国を追われた「中華民国」は台湾に逃げ落ち、台北市を臨時首都とした。50年1月、トルーマン大統領は台湾問題への不介入を声明した。しかし、朝鮮戦争勃発で台湾不介入を撤回し、台湾海峡の中立化を名目に第7艦隊を派遣した。53年、共和党アイゼンハワー政権は米華相互防衛条約を締結、米軍も駐留し始め、これ以降「中華民国」とアメリカは冷戦下における同盟国として関係を保ち続けた。

 中国人民(解放軍)の台湾解放、国家統一の事業は、アメリカ政府、第7艦隊によって阻止された。「台湾問題」の根源である。中国政府が、外国勢力の「台湾独立」介入を阻止するため武力行使もあり得ると言う正当な歴史的根拠である。

 その後アメリカは、独日などの経済発展で相対的に衰退し金・ドル交換停止に追い込まれ、介入したベトナム戦争の敗色も濃くなった。ソ連との冷戦に対処するためにも中国との妥協をめざした。かくして71年のニクソン・ショック、72年、ニクソン大統領は「白旗を掲げて」北京訪問、さらに78年に台湾と断交、米中国交正常化となったのだ。

 こうしてみるとアメリカの最近の一連の「台湾独立」策動は明白な国際公約違反で、中国が激怒するのは当然である。欧米や日本政府が言う、「力による現状変更」にほかならない。

 「台湾問題」は中国の内政問題である。この原則を守らなくては東アジアの平和と安定はあり得ない。

かつて台湾を盗取したわが国はとりわけ厳格さが求められる

 わが国はこのアメリカの対中政策に縛られてきた。田中角栄首相は、その隙を突いて果敢に日中国交正常化を実現した。そこでの約束はわが国が死守すべき原則であり、歴史を振り返るといささかの曖昧さも許されない。

 わが国明治政府は1895年、台湾を中国(清国)から奪い植民地化した。1945年の敗戦時にポツダム宣言を受諾し、カイロ宣言(「満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」)を受け入れた。日中国交正常化に際し、「中華人民共和国政府が、唯一の合法政府であることを承認」した。台湾について、中国政府の立場を「十分理解し、尊重し」、カイロ宣言の「立場を堅持する」ことを確認し、「中華民国政府」との関係を消滅させた。

 今日、台湾に独立を望む住民がいることは事実だ。同様なことは沖縄にもある。それは国連憲章でも認められた権利でもある。だが、わが国は、国交正常化時のこの中国政府との約束を遵守(じゅんしゅ)しなくてはならない。そうでなくてはロシア系住民の「共和国独立」を支持してウクライナに軍事侵略したロシアを非難できない。

 かつて「満州、台湾」などを中国から「盗取した」日本は、自らに厳格でなければならない。台湾独立に加担するような一切の行為を、政府与党はもちろん国民すべてが堅く慎まなくてはならない。

 わが国は、こうした歴史の全体を真摯(しんし)に反省し、日中国交正常化時の約束を遵守すること、さらには日朝国交実現だけがアジアで信頼を得る道である。

 だから、対米一辺倒の政権を吹き飛ばすことなしにわが国の平和と安定はない。日中平和友好条約45周年の今年、アジアの平和・共生の日本をめざす進路に切り替えるときだ。

国民は戦争に反対し日中関係の強化を望んでいる

 国民は、岸田政権の大軍拡、軍事大増税に明確に反対だ。

 読売新聞世論調査では昨年11月、防衛力強化「賛成」が68%だったが、「3文書」決定と首相訪米後の1月には43%に激減、反対が上回った。
 象徴的なのは、石垣市の12月議会での「ミサイル配備反対」の意見書採択だ。石垣市では10月、中国脅威が煽られる中で中国公船領海侵犯への排除要求の意見書が採択されていた。危機感の高まり、住民意識の変化がよく分かる(本誌**ページと前号参照)。

 こうした中で沖縄県玉城デニー知事は、敵基地攻撃ミサイルの配備について「断固反対する」と表明。県は4月から、地域の平和を自ら創造することをめざして、自治体外交の司令塔となる「地域外交室」を設ける。全国が呼応することが求められる。

 岸田政権、自公支持であればミサイルが避けてくれるわけではない。大企業、経済界は、最大の市場、投資先の中国との敵対・対峙(たいじ)には耐えられない。さすがの岸田政権も日米首脳会談で、半導体対中輸出規制問題では合意できなかった。わが国大企業、経済の死活がかかっているからだ。財界の認識は、「中国なしに世界経済は成り立たない」である。

 しかし米下院が、中国との「戦略的な競争」に関する特別委員会の創設を超党派で決めるなど対中強硬姿勢が一段と強まる。岸田政権が深刻なジレンマに直面するは必定。

 「対中国戦争反対」の一点で広範な国民各界各層の力を結集し、岸田政権を打ち倒し、自主的な外交で平和を創出するために奮闘しよう。