「日中衝突を煽ってはならない」木元 茂夫

 通年化する対中国の日米共同訓練 

急速に進む日米軍事一体化と多国間安保への道

木元 茂夫

 あまり注目されなかったのだが、昨年2月3日に「日英外務・防衛閣僚会合」が開かれた。その共同声明に次のようにある。
 「4大臣は、海洋安全保障における日英協力が引き続き優先事項であるとの前向きな進捗を再確認し、これを更に強化していくこと及び地域の安全保障を維持するためにリーダーシップを発揮していくことにコミットした。4大臣は、空母打撃群の東アジア訪問が日英防衛協力を新たな段階に引き上げる機会となるよう、協力していくことを確認した。4大臣はまた、この訪問が自由で開かれたインド太平洋に資するとの認識を共有した」


 「海上安全保障」という言葉は、2015年の日米新ガイドラインにも繰り返し使われている。中国海軍との対抗を意識した言葉である。具体的にはアメリカ海軍艦艇の台湾海峡通過、南シナ海における「航行の自由作戦」の実行である。その大半は、横須賀に配備されているイージス艦が担った。
 そして4月17日の日米首脳会談での共同声明である。1969年11月の日米共同声明以来52年ぶりに台湾条項が盛り込まれた。
 「訪問計画」とソフトな言い方をしているが、7月にスエズ運河を通過してやってきた空母クイーン・エリザベス(以下、QE)は、アデン湾でアメリカの原子力空母レーガンと合流し、海自の海賊対処部隊と共同訓練を実施した。横須賀を母港とする空母レーガンは、米軍のアフガニスタン撤退を後方から支援するためにアラビア海に派遣されていた。そして、7月から11月にかけて、南シナ海で、日本海で、東シナ海で、沖縄周辺で、多国間訓練を連続的に実施した。やってきたのは空母、駆逐艦、フリゲート艦が各1隻、3万5000トンを超える大型の補給艦が2隻、原子力潜水艦1隻、そして、アメリカ海軍のイージス駆逐艦1隻の計7隻からなる大艦隊である。そして空母の艦載機は、アメリカ海兵隊のF-35B戦闘機10機とイギリス海軍8機、計18機の合同部隊であった。
 共同訓練の主なものを挙げれば、「パシフィック・クラウン」と名付けられた日本、アメリカ、イギリス、オランダ4カ国の共同訓練が8月25日を皮切りに4回実施された。3回目、4回目にはカナダ海軍も参加した。この訓練は9月9日に終了したが、翌10日に、中国海軍の潜水艦が奄美大島東方の接続水域を潜没航行した。一連の共同訓練に対する対抗措置と見るべきではないか。
 8月28日、原子力空母カールビンソンが18年ぶりに横須賀に入港、横須賀を母港としない空母の入港としても12年ぶりのことであった。カールビンソンはQEと行動を共にするために派遣されてきたことがわかる。31日に出港した。
 QEは、8月30日から9月1日まで日本海で、韓国海軍との共同訓練を行った。強襲揚陸艦「独島」、イージス駆逐艦「柳成龍」などが参加した。この訓練に朝鮮(DPRK)外務省は「英国空母戦団の朝鮮半島域内進入計画は挑発」(韓国「中央日報」8月30日付)と強く反発した。31日には航空自衛隊のF15戦闘機、F2戦闘攻撃機合計19機が「日本海、東シナ海及び沖縄周辺空域」でB52戦略爆撃機1機と「編隊航法訓練及び要撃戦闘訓練」を実施している。また、海自の潜水艦とイギリス海軍の原子力潜水艦アスチュートとの共同訓練―対潜水艦戦訓練が9月14~15日に実施されている。場所は「日本周辺」としか明らかにされていない。この訓練2日目の9月15日に朝鮮が弾道ミサイルを発射したのは、朝鮮半島周辺での一連の軍事行動に対する反発と見るべきではないだろうか。
 横須賀寄港は9月4日、出港は8日であった。その1週間後の15日にアメリカのバイデン大統領は、新たな軍事協力の枠組みである「オーカス」(AUKUS)の結成を宣言し、米英がオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与することを約束した。
 英国外務省が2018年3月に発表した「政府のビジョンと外務省の役割」には、英国の外交戦略が赤裸々に語られている。「中東地域でもキープレイヤーであり続ける」、そして、「世界の成長の中心であるインド太平洋地域に新しく重点を置く、そこには英連邦の一部があり、それは世界中の国と国を結ぶ広大なネットワークとして、我々に巨大な利益をもたらしてくれるだろう」としている。EU離脱を前後して貿易額の減少に苦しむイギリスは、新たな市場を求めている。
 一連の訓練の中で最大のものは、10月2日から3日にかけて行われた「日米英豪にオランダ、カナダ、ニュージーランドを加えた共同訓練」である(写真下)。訓練海域は「沖縄南西」。つまりは宮古島や石垣島の周辺を加えた海域ということだ。場所を南シナ海に移して10月4日から9日にほぼ同規模の訓練が行われた。10月18日から22日にかけて中露合同艦隊10隻が、日本列島を一周する共同訓練を行った。日米英を中心とする艦隊行動は、中露の対抗措置を生んだ。
日米共同訓練レゾリュート・ドラゴン
 レゾリュート・ドラゴン(RD21、不屈の竜)の特徴は、4000人という海兵隊との共同訓練としては過去最大の動員規模である。海兵隊が2600人、陸自が1400人である。これは、連隊(約1000人)規模の訓練である。
 防衛省のホームページに掲載された陸自の報告は、「陸上自衛隊の領域横断作戦と米海兵隊のEABOを踏まえた連携向上を焦点とし、日米同盟による抑止力及び対処力を一層強化するための訓練として発展させています。今回のRD21では、まず、指揮機関訓練において日米が連携して計画及び命令を作成しました。また、日米対戦車ヘリコプターによる射撃訓練、MV-22オスプレイ等を使用した空中機動訓練、MV-22オスプレイからの物量投下をはじめとする兵站訓練、緊急患者空輸を含む衛生訓練等を実施しました。さらに、陸上自衛隊の地対艦誘導弾(SSM)部隊は地上機動により、米海兵隊のHIMARS部隊はC-130Jによる空中機動により八戸演習場に展開し、日米の共同調整所において共有した目標情報に基づき、日米の部隊が連携して対艦戦闘を含む火力戦闘訓練を実施し、日米間の連携要領の具体化を図りました」と整理している。
 EABOとは米海兵隊の新戦略「遠征前方基地作戦」を指す。「対艦戦闘」には横須賀のイージス艦ラルフ・ジョンソンが出動した。標的艦の役割を果たしたと思われる。実際にハイマースや地対艦ミサイルを撃ったわけではない。
 「対艦戦闘訓練」とは何か。宮古島と沖縄島の間の海域を、中国の軍艦が年に何度か通過する。QEの一連の共同訓練への対抗措置として、9月10日、中国海軍の潜水艦が奄美大島の接続水域を潜没航行した。こうした事態が起きた時に、攻撃をかけることを想定した訓練のことだ。本来、何故そういう事態が起きたのか、それを冷静に分析して外交交渉に臨むことが問われる。しかし、日米英の側はやりたい放題に訓練をやっていて、それに対抗措置をとってきたら、今度は対艦戦闘訓練だというのでは、軍事衝突になりかねない。
 すでに奄美大島には2019年3月に地対空、地対艦ミサイル部隊が配備され、宮古島には21年11月14日に地対空、地対艦ミサイルが強行搬入された。米海兵隊としては、宮古島などで訓練をしたいだろうが、島民の皆さんの抗議行動がこれを阻んでいる。
 陸自は「令和4年度におけるRD22につなげ、……日本防衛の実効性の更なる向上のため、次の共同訓練の準備は、既に開始されています」と宣言している。
オーストラリアとの地位協定の調印
 1月7日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同発表は、「中国による現在進行中の取組は、地域及び世界に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起するものであるとの懸念を表明した。閣僚は、地域における安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力することを決意した」と、中国を名指しで批判した。
 空母艦載機の離発着訓練と自衛隊のF-35Bなどの訓練施設が強引に進められようとしている馬毛島について、「馬毛島の施設について、予算案への建設費の計上による日本の決定を歓迎した」と、とうとう予算案にまで口を出した。「馬毛島における滑走路、駐機場に係る施設整備等」として計上されたのは3183億円という巨額である。
 「地域における安定を損なう行動を抑止」するための実践のつもりなのだろうか、1月17日から22日まで「沖縄南方」で日米共同訓練を実施。原子力空母2隻、強襲揚陸艦2隻、海自のヘリ空母「ひゅうが」が参加した。続いて2月4日から7日には東シナ海で実施。原子力空母1隻、強襲揚陸艦2隻、ドック型揚陸艦3隻が参加。揚陸艦5隻が搭載する海兵隊員は5000人近い人数になる。さらに、遠征用海上基地艦ミゲルキース(全長239メートルの大型艦でオスプレイやヘリの基地になる)も、日米共同訓練に初めて参加した。海自はイージス艦「こんごう」のみ。連続的な大艦隊の集結は「抑止」というよりは、挑発であろう。
 1月19日から3月4日までの日程で、グアム島アンダーセン空軍基地で日米豪の共同訓練が実施され、航空自衛隊は戦闘機、早期警戒管制機、空中給油・輸送機などを参加させた。
 岸田内閣はこうした軍事行動に自衛隊を参加させる一方、中国との対話はほとんどない。日本がこれほど外交の独自性を失った時期があっただろうか。
 1月6日には、オーストラリアと「円滑化協定」という名の地位協定を結んだ。イギリス、フランスとも締結に向けて交渉中と外務省は明らかにしている。
 第4条で「両締約国が相互に決定して部隊が実施する協力活動(以下「協力活動」という)であって接受国において実施されるものに関する事項について適用する」としている。「協力活動」には何の限定もなく、根拠となる法律の明示もない。第5条には「接受国は、派遣国からの事前の通報により、適当な場合には、外交上の経路を通じて、派遣国に対し、訪問部隊の船舶又は航空機による接受国の港又は飛行場へのアクセスの許可を迅速に与える」とあり、第14条には「派遣国は、接受国における協力活動のために輸入する武器、弾薬、爆発物及び危険物の種類、数量及び輸送日程を接受国に事前に通報する」と武器・弾薬の持ち込みまで規定している。この協定はどう見ても短期の訓練のためのものではなく、中長期の駐留を想定したものである。
 こうした協定が内閣の判断だけで締結されていく、安保政策における行政権力の肥大化は、とどまるところを知らない。